「とと道」という言葉を聞いたことがありますか。
笠岡市の金浦から、当時隆盛を誇った吹屋(高梁市)の銅山まで、約12時間かけて鮮魚(とと)を運んだ60kmにも渡る険しい山坂を越えて続いた道が「とと道」と呼ばれています。
筆者は昨年(2024年)から、やかげ聞き書き人の会に参加し、歴史・文化・生活・習慣などを地域のかたから伺って残す活動をしています。
インタビュー取材に応じてくれた、備中とと道トレイル推進協議会の事務局長 金子晴彦(かねこ はるひこ)さんも、やかげ聞き書き人の会で活動するメンバーの一人です。とと道を語る金子さんから、ほとばしるような熱量や情熱が伝わってきました。
金子さんとお話ししていくうちに、「とと道をもっと知りたい」「とと道を多くのかたに知ってもらいたい」と思うようになり、改めてお話を聞きました。
記載されている内容は、2025年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
備中とと道トレイル推進協議会とは
![備中とと道トレイル推進協議会のロゴマーク 画像提供:備中とと道トレイル推進協議会](https://cdn.kuratoco.com/wp-content/uploads/2025/01/af765c04023cce3ee999e17adb78b41b.jpg)
「備中とと道トレイル推進協議会」の活動は、とと道を各地区で独自に調べていた郷土史家が集まって、2017年からスタートしました。
その後、2020年にとと道の維持・活用のため、「備中とと道トレイル推進協議会」を設立します。
備中とと道トレイル協議会の、おもな活動は以下のとおりです。
- とと道ウォーク大会(12月~翌年5月頃)
- 道標の作成・設置
- シンポジウムなどでとと道を紹介(広報活動)
- 小中学校の児童・生徒にとと道を伝える出前授業
- 夏のあいだに草が生えてしまうため、とと道の草刈り(11月頃)
協議会結成後4年で活動の成果が認められ、「備中とと道」は2024年2月に国土交通省中国地方整備局が認定する「夢街道ルネサンス」、2024年3月に「日本ユネスコ協会連盟 プロジェクト未来遺産2023」に登録されました。
「備中とと道トレイル」とは
![美星町の徳山牧場前のとと道を歩く 写真提供:備中とと道トレイル推進協議会](https://cdn.kuratoco.com/wp-content/uploads/2025/01/f5d050b4e8dcb83386f4f136b86e2763.jpg)
この記事で紹介する「備中とと道トレイル」について説明します。
明治~昭和初期、吹屋(現在の高梁市)は銅とベンガラの生産で活気づいていました。とと道は、吹屋の夜の宴会で提供される瀬戸内海の鮮魚を届けるために使われた道です。魚を意味する「とと」を運んだことから、とと道と呼ばれていました。
とと道のルートは金浦(現在の笠岡市)から吹屋まで約60kmをほぼ一直線に北上します。道中にはあちこちに急坂や崖のそばを通る場所があったそうです。
午後9時、魚仲世(うおなかせ)と呼ばれる魚を運ぶ集団が、夕方までに金浦魚市場で競り落とされた鮮魚を竹籠に入れ天秤棒(てんびんぼう)の両端に吊して出発します。重量は約40kgもあったそうです。
そして、鮮魚が吹屋に到着するのは、金浦を出発して約12時間後の午前9時。5〜6人の魚仲世が駅伝のようにリレーして運んでいました。
時が流れ、輸送方法は人力から車や鉄道へ変わります。
人が歩く土の道であるとと道の多くは狭くて車が通れなかったため、時間の経過と共に森のなかへ消えてしまいました。
備中とと道トレイル推進協議会は、消えてしまったこの「とと道」を発掘・整備し、「備中とと道トレイル」として再開発し、広く周知する活動をおこなっているのです。
とと道ウォーク大会
「とと道ウォーク大会」は、とと道を知ってもらう広報活動としてはじまりました。12月~翌年5月頃までの間に4回ほど実施しています。
とと道ウォーク大会で一回に歩く距離は約20kmで、代表的なルートは次のとおりです。
- 笠岡~井原市美星町三山(みやま)
- 井原市美星町三山~高梁市成羽
- 高梁市成羽~高梁市吹屋
![あずきもち出口から神田峠へとを下るウォーカー 写真提供:備中とと道トレイル推進協議会](https://cdn.kuratoco.com/wp-content/uploads/2025/01/a40ec9f7cea7eb27efdbd004b3867b3f.jpg)
とと道ウォーク大会の大きな特徴は、10kmにも渡る舗装道路やとても入り込めない草木の密生した場所は、バスに乗ってパスすることです。短い時間ですがバスに乗れば、休憩できて疲れがとれ、元気に歩き続けられます。
備中とと道トレイル推進協議会では、バスに並走してもらいながら歩く方法を「ハイブリッドウォーク」と呼んでいるそうです。シニアにはピッタリの歩きかたです。
参加者から「途中から足が勝手に動きだして、自分もまだまだ歩けるかもしれないと思った」など、前向きな感想を言われることが多いのだとか。
「備中とと道トレイル推進協議会」事務局長の金子晴彦さんに、とと道についてお話を聞きました。