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高梁川志塾「地域おこし協力隊 実践事例『日本の木を使うべき理由』」 〜 木工職人から学ぶ森の守り方

高梁川志塾「地域おこし協力隊 実践事例『日本の木を使うべき理由』」 〜 木工職人から学ぶ森の守り方

知っとこ / 2021.01.15

2020年11月〜2021年2月にかけて開催されている「高梁川志塾」。

SDGsビジョン編、教養編、スキル編の3つに分類された全41コマの講座を、23名の受講生と都度参加の聴講生が受講しています。

2020年12月19日(土)は、スキル編として、岡山県新見市にある「HANAGI 杜の工房」で木工職人として活躍する佐伯佳和さんが講演を行いました。

講義の内容をレポートします。

記載されている内容は、2021年1月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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高梁川志塾の概要

高梁川志塾
画像提供:高梁川流域学校

「高梁川志塾」は倉敷市委託事業として、一般社団法人高梁川流域学校が運営する、高梁川流域における歴史・文化・産業・フィールドワークなどを通し、地域づくりや、「持続可能」な地域を担う人材育成、行動につなげることを目指す塾です。

受講コースは、以下の2種類。

・実習やプレゼンテーションを行う「SDGs探究コース」

・座学として任意の講座を受講する「聴講生コース」

2020年11月3日(火)に開校式が開催され、2021年2月14日(日)の修了式まで、41コマの講義を開催します。

テーマは、以下の3種類です。

▼SDGsビジョン編

⾼梁川流域の2030年のビジョンと課題解決のための現状の取り組みを、実践者や専⾨家のレクチャーで深く理解し、アクションヘの気づきを得ることができる講座。

▼教養編

⾼梁川流域における歴史、⽂化、産業などを学び、活動の前提となる知識を得るための講座。

▼スキル編

プレゼンテーション、非営利団体の会計、データ分析(RESAS活用)、ITツールの利活用、ブログやSNSの活用など、探求学習のためのスキル・ノウハウを習得する講座。

より詳しい内容は、「⾼梁川志塾」の特設ページを⾒てください。

木工職人 佐伯佳和さんの経歴

会場の様子

講師の佐伯佳和さんは、愛媛県今治市出身。

幼い頃は自然に囲まれた環境で育ったそうです。

岡山県には、大学に進学するタイミングで来ました。

法学部に籍を置き学業に励んでいましたが、大学生活にうまく馴染むことができず、自分の居場所を見失っていたそうです。

講義のなかでは「学生時代、自分は価値のない人間だと思っていた」と言葉にしていました。

しかし落ち込んだ生活のなかでも、佐伯さんは自分が活躍できる場所を見つけることができたそうです。

きっかけは林業ボランティア。

伝統工芸である木工製品の後継者が少ないことを知ったそうです。

自然とともに過ごしてきた小さい頃の経験があり、ものづくりが好きだった佐伯さんは木工職人を目指そうと思い立ちました。

大学卒業後は木工職人として修業するだけでなく、さまざまな経験をしたほうがよいと考え、新見市の地域おこし協力隊へ。

木材工房で働きながら林業について学びました。

地域おこし協力隊の活動紹介スライド

新見市地域おこし協力隊を卒業、そして木材工房を2019年に退職し、2020年にはオーダーメイドの木工家具を製作する「HANAG I 杜の工房」を立ち上げ、木工職人として活躍しています。

佐伯さんが製作した木工家具は、カフェやコワーキングスペースで使われているものもあります。

今回の講演会場となっている倉敷市にあるコワーキングスペース「分福」にも、佐伯さんが手掛けた机が置かれていました。

佐伯さんが制作したテーブル
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手入れがされていない日本の森があぶない

日本の国土に占める森林の割合は約70パーセント。

何もしなくても木々が生茂る気候は世界的にも珍しく、緑豊かな国といえます。

そんな日本の森林が「危機的な状況にある」と佐伯さんは話してくれました。

戦時中、多くの建物が焼失。

家を建て直す需要が高まりました。

そのため大量の木々が建材として使用され、山から木が減少。

木の数が減少した山の土壌は保水力を失い、洪水が起こりやすくなります。

そこで国は木を植えることを支援し、全国的に杉や檜(ひのき)が植えられました。

しかしながら人工の森で覆われた山は、手入れをしないと土砂崩れが発生しやすくなるそうです。

間伐が必要な森についての説明

手が行き届いていない森は、光が地面まで到達せずに薄暗い。

一方で手入れが行き届いた森は、地面まで光が差し込むため明るいそうです。

そのため足元にも植物が生い茂っており、生物も多様。

豊かな土壌は保水力も高く、土砂崩れや洪水など自然災害の抑制機能も高いといわれています。

良い森を増やすためには、間伐(かんばつ)により木の数を適切に管理しなくてはなりません。

しかし、現在は林業に関わる人が減少し、手が行き届いていない薄暗い森が多くあるのが実態。

佐伯さんが住んでいる新見市にも、薄暗い森は多くあるそうです。

良い森を増やすために私たちができること

高梁川流域の木を使うといいことの説明

林業に関わっていない人が、日本の森のためにできることを佐伯さんは教えてくれました。

それは地元の木を使うことです。

例えば、地元の木を利用した家具を購入するとしましょう。

すると「木を切る人→木を加工する人→家具を作る人→家具を使う人」へ、ものの流れが生まれ、お金と仕事も循環します。

地域経済が活発になることで、林業に関わる人の生活や仕事の手助けになると話してくれました。

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良い森を増やすために地元の木材を使おう

では、地元の木を使うためにはどうすれば良いのか?

地元の森林で採れた木材を利用する具体的な方法を2点、佐伯さんは説明してくれました。

  • 製材所へいく
  • オーダーメイドの家具屋に行く
会場(別室)の様子

製材所にいく

製材所とは、伐倒した木を板状や棒状に加工して、家具や建物を作るための素材にする場所です。

DIYで利用する木材が欲しいときは、製材所に行くと地元の木材が手に入ります。

ホームセンターにならんでいる木材には、地元のものはほとんど置かれていません。

また、製材所にある木材はホームセンターにあるものよりも品質がよいと教えてくれました。

一般の人が製材所へ行くことは抵抗を感じるかもしれませんが、勇気を出して行ってみると販売してくれます。

地元の木材を購入する方法を知らない人が多いので、講演を聞いて気になった人は、ぜひ製材所に足を運んでほしいと語ってくれました。

オーダーメイドの家具屋に行く

「リビングにこういった大きさの、こんなイメージの机が欲しい」

「ちょうどこのすきまに入る棚が欲しい」

そんなときは、地元の家具屋さんに行くと地元の木材から家具を作ってくれます

例えば、「倉敷木材」の家具のショールームに足を運んでみましょう。

地元の木材を使った家具が多く展示されています。

さらに要望を伝えると、天然木でサイズ・イメージ通りの家具を作ってくれるそうです。

値段は少し高くなりますが、天然木は修理しやすく数十年も使いつづけることが可能。

長く利用することで、最終的にはコストパフォーマンスが良くなることも。

好みのデザインで、長く使えて、地域の森を守ることにもつながるオーダーメイド家具は、魅力に溢れています。

木材と工業製品の長所・短所

木材の長所と短所、工業製品として製造される素材の長所と短所について、佐伯さんの考えを話してくれました。

メリットデメリット
工業製品として造られる素材

・早く、安く、たくさん作りやすい

・いろいろな形やいろいろなものが作れる

・二酸化炭素の排出の量が多い

・プラスチックは自然に帰らない

木材

・使うまでに排出される二酸化炭素は少ない

・土に帰る(ゴミになりにくい)

・過ごしやすさを感じる

・早く、たくさん作りにくい

・乾燥により反ったり、ねじれたりする

今回の講義では、プラスチック、コンクリート、鉄、アルミを工業製品の例として示されています。

工業製品にもメリットがあり、もちろん私たちの生活を支える欠かせない素材です。

一方で、木材も製造過程で生まれる二酸化炭素の排出量が少なく、土に帰るという素晴らしい特徴があります。

木材は持続可能な素晴らしい素材。

木材の持つ魅力が見直されて、もっと利用されてほしいと佐伯さんは話していました。

木工職人 佐伯さん(左)と司会の高梁川流域学校 代表理事 坂ノ上博史さん(右)
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おわりに

今回の講演では、木工職人として活躍される佐伯佳和さんから日本の森が抱える問題について分かりやすく説明してもらいました。

筆者にとって特に印象的だった内容は、佐伯さんが森を守るために個人ができる行動を具体的に示していたことです。

「地元の木材が利用されている商品を使う。そうすることで、林業に関わる人たちを助けることにつながり、森の手入れが行き届くようになる」と経済の循環を具体的に話してくれました。

SDGsの言葉をよく見かけるようになり、「17つの目標」、「誰一人、取り残さない」というコンセプトは把握しています。

しかし、持続可能な社会に向けて個人ができる具体的なアクションが分からず、筆者はもやもやとした気持ちがありました。

佐伯さんのように、具体的な行動を多くの人に向けて提言できる人こそ、SDGsを実践している人だと感じました。

日本の森が抱える問題について理解を深めるとともに、個人が行動するきっかけとして、この記事が役立てばうれしく思います。

高梁川志塾のデータ

名前高梁川志塾
期日本講義の日時:2020年12月19日午前10時~午後12時10分
高梁川志塾プログラムの期間:2020年11月3日~2021年2月14日(修了式)
場所岡山県倉敷市中央2丁目13−3 住吉町の家 分福
参加費用(税込)会場受講:1,500円
オンライン受講・アーカイブ受講:500円
ホームページ高梁川志塾 | 高梁川流域学校
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ぱずう(後藤寛人)

ぱずう(後藤寛人)

87年生まれの埼玉育ち。倉敷に転勤でやってきて6年目。メーカーの研究員として働きつつ、週末はゴミ拾いボランティア団体の代表として活動しています。ひとりも知り合いもいなかった倉敷の街。ゴミ拾いを通じてたくさんの出会いがあり、倉敷の魅力を教えてもらいました。余所者から見える倉敷の景色を伝えていきたいです!

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