2020年11月〜2021年2月にかけて開催されている「高梁川志塾」。
SDGsビジョン編、教養編、スキル編の3つに分類された全41コマの講座を、23名の受講生と都度参加の聴講生が受講しています。
2021年1月23日(土)はスキル編として、岡山県浅口市の元地域おこし協力隊の沖村舞子(おきむら まいこ)さんが講演を行いました。
講義の内容をレポートします。
記載されている内容は、2021年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
高梁川志塾のデータ
名前 | 高梁川志塾 |
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期日 | 本講義の日時:2020年12月19日午前10時~午後12時10分 高梁川志塾プログラムの期間:2020年11月3日~2021年2月14日(修了式) |
場所 | 岡山県浅口市金光町大谷294-7 |
参加費用(税込) | 会場受講:1,500円 オンライン受講・アーカイブ受講:500円 |
ホームページ | 高梁川志塾 | 高梁川流域学校 |
高梁川志塾の概要
「高梁川志塾」は倉敷市委託事業として、一般社団法人高梁川流域学校が運営する、高梁川流域における歴史・文化・産業・フィールドワークなどを通し、地域づくりや、「持続可能」な地域を担う人材育成、行動につなげることを目指す塾です。
受講コースは、以下の2種類。
- 実習やプレゼンテーションを行う「SDGs探究コース」
- 座学として任意の講座を受講する「聴講生コース」
2020年11月3日(火)に開校式が開催され、2021年2月14日(日)の修了式まで、41コマの講義を開催します。
テーマは、以下の3種類です。
▼SDGsビジョン編
⾼梁川流域の2030年のビジョンと課題解決のための現状の取り組みを、実践者や専⾨家のレクチャーで深く理解し、アクションヘの気づきを得ることができる講座。
▼教養編
⾼梁川流域における歴史、⽂化、産業などを学び、活動の前提となる知識を得るための講座。
▼スキル編
プレゼンテーション、非営利団体の会計、データ分析(RESAS活用)、ITツールの利活用、ブログやSNSの活用など、探求学習のためのスキル・ノウハウを習得する講座。
より詳しい内容は、「⾼梁川志塾」の特設ページを⾒てください。
浅口市元地域おこし協力隊 沖村舞子さんの経歴
沖村さんの第一印象は「元気」でした。
いきいきと話す姿を見ていると、沖村さんのエネルギーが伝わってきます。
経歴を聞くと、ハツラツとした性格の理由がよく分かりました。
生まれは栃木県で、育ちは北海道。
高校生のときに、居住困難な狭床住宅などをリフォームするテレビ番組に出てきた建築模型を見て「私もこれを作りたい!」と思い、東京都八王子市にある建築の専門学校に進学します。
専門学校で学んだ後は、東京理科大学の夜間学部に編入。
昼は構造事務所でアルバイトして、夜は大学に通う生活を続けていました。
沖村さんはアルバイトがきっかけで、コンゴ民主共和国の首都キンシャサで小学校を作るプロジェクトに参加します。
日本の大学生が現地に赴き、建築関係の学生が校舎の建造を、教育関係の学生が授業の立案をするという内容でした。
校舎の建造には、現地の素材、現地の技術を活用。
構造事務所での仕事の経験があった沖村さんは、日本で釘やボルトなどの外国由来の技術が多く使われていることに疑問を覚えたそうです。
日本の伝統技術を勉強したくなった沖村さんは帰国後に大学を辞めて、農商工連携コーディネーターという地域資源を活用する人材の養成講座に参加します。
森林の間伐(かんばつ)や伝統工法の勉強、実習を通してさまざまな人と出会う機会を得ました。
次は養成講座で知り合ったかたから模型制作や製図などの仕事をもらい、フリーランスとして独立。
「mokoデザイン事務所」という名前で仕事を始めました。
ちなみに、事務所は東京都神楽坂にある四畳半の物件で、家賃は月4万円と激安だったそうです。
その後も友人の紹介で仕事がつながっていきました。
三重県伊賀市で古民家の改修、静岡県浜松市で日本家屋のレンタルスペース事業、神奈川県逗子市で古民家レストランの経営など。
23歳でフリーランスとして独立して以来、多くの人との出会い、経験を積むことで豊富な知識やスキルが身につきました。
フリーランスの仕事を通じて「経験値はめちゃめちゃ上がった」と講演中に強調しています。
一方で、自分の力で仕事を見つけて生きていくことは、楽しいだけではありません。
大変な思いをすることも多くあったそうです。
新しい土地で自分の居場所をつくりたいと感じた沖村さんは、地域おこし協力隊へ。
「星と海のまち」というキャッチフレーズが目に止まり、2016年に浅口市に移り住みました。
目まぐるしく展開する沖村さんの人生は聞いているだけでワクワクします。
興味を感じたことへ赴くままに挑戦していく沖村さんの生き方に、強く惹きつけられました。
地域おこし協力隊としての活動
沖村さんは地域おこし協力隊になってからも、さまざまな活動を続けてきました。
仕事の内容は多岐に渡り、空き家対策、防災マップづくり、高齢者の移動サービスの導入、講演会の司会など。
というのも、地域おこし協力隊の任期はわずか3年です。
その間に、自分の力で地域の活性化につながる事業を作らなくてはなりません。
着任当初から、多くの場所に顔を出して地域の人に顔を覚えてもらう努力をしました。
南京玉すだれを習得したことで敬老会に招かれることが増えて、年配のかたと交流する機会もたくさん得られたそうです。
地域おこし協力隊として活動しながら、2017年5月に一般社団法人moko’a(モコア)を設立。
「moko」はコンゴの言語であるリンガラ語で「1」を意味しており、「a」は浅口を表していると教えてくれました。
沖村さんは地域おこし協力隊の任期を終えたあとも、団体を通じて地域を支える活動を続けています。
「moko’a」が支援している活動のひとつとして、移動サービス「みどりん号」を紹介してもらいました。
高齢化が急速に進んでいる浅口市鴨方町みどりケ丘では、買い物や通院の移動手段が確保できなくなることに不安を感じている人が多くいたそうです。
そこで、みどりケ丘地区の住民を対象とした、住民主体の移動サービス「みどりん号」が生まれます。
地域住民の交流の拠点「いきいきプラザ」を開設し、ランチカフェや手芸教室などを住民が主体となって活動できる場所を作りました。
「いきいきプラザ」の活動で得られた収益は「みどりん号」の運行のために使われており、地域の人たちの力で事業を継続できる仕組みとなっています。
なぜ地域おこしが必要なのか
現代の日本は、人口減少社会といわれています。
でも、街を見渡したところで人口減少の影響を見て取ることはできません。
沖村さんは、人口減少社会の問題、地域おこしが必要な理由について統計データを使って説明してくれました。
1995年 | 2015年 | 2035年 (予測値) | |
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総人口 (A) | 38,595人 | 34,235人 | 27,607人 |
85歳以上 (B) | 932人 | 1,845人 | 3,564人 |
A/B | 41.4人 | 18.6人 | 7.7人 |
1995年の浅口市の人口は約38,000人で、2015年は約34,000人と20年間で約10%減少しています。
さらに人口減少は加速すると予想されており、2035年までの20年間では約20%減少して約27,000人に。
生活支援が必要となる85歳以上の高齢者は、1995年から2015年にかけて2倍に増えており約1,800人となりました。
2035年には、おおよそ1.9倍に増えて約3,600人と推定され、7.7人で85歳以上の高齢者を支えなくてはなりません。
しかも、地域の活動には退職した65歳から74歳の人が主に参加されているそうですが、月日が経つと支援を必要とする側に変わります。
支援をする人が減る一方で、支援を必要とする人が加速的に増えている状況なのです。
発生する課題 | |
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少子化 | 学校の統廃合、地域活力の低下 |
高齢化 | 買い物支援、高齢者の安否確認、認知症予防 |
人口減少 | 人と人のつながりの希薄化、商業施設の撤退、 空き家や耕作放棄地の増加 |
買い物の移動支援、認知症に伴って必要になる安否確認は誰かが必ずやらなくてはなりません。
また、人口減少による商業施設の撤退、空き家や耕作放棄地は増加します。
もちろん、税収は減るので自治体も対応することができない。
地域住民が自らコミュニティーを作り、支え合える環境を構築しなければならないのです。
空き家を活用した地域活性化
浅口市金光町は金光教本部の門前町として栄えた歴史があり、レトロな雰囲気の町並みを残しています。
しかし、人影が少ない街は閑散としており寂しい雰囲気。
沖村さんは地域を活性化しようと、以下のような浅口市金光町の空き家活用にも取り組んでいます。
- 空き家の実態調査
- 空き家の活用事例「スペース金正館」
空き家の実態調査
空き家の活用に取り掛かる前に「本当に空き家はあるのか?」という疑問を覚え、沖村さんは地域住民と協力して空き家の実態調査を始めました。
空き家は黄色、倒壊しそうな空き家は赤、空き地は青など、白地図にシールを貼ることで空き家の分布を可視化。
驚くほどたくさんの空き家が街にあったそうです。
また、地域に詳しい年配のかたと行動をともにして調査することで、空き家の所有者を物件ごとに確認しました。
誰に連絡をしたら貸してもらえるのか、あるいは売ってもらえるのかを分かるようにしておくことで、活用に向けての整理を進めています。
空き家の活用事例「スペース金正館」
空き家の活用事例として、「スペース金正館(きんせいかん)」を紹介してもらいました。
今回の高梁川志塾の講演会場となっている場所です。
「スペース金正館」は、数十年前までは住民が集まる食堂として営業していました。
取り壊す計画があったそうですが、沖村さんが活用したいと伝えたところ寄贈してもらえたそうです。
改修は地域住民を巻き込んで体験ワークショップという形式で開催。
宮大工、建築士、左官職人を招いて指導してもらいながら地域住民と一緒に改修しました。
改修後の運用方法についても、住民たちと考えたそうです。
活用事例を学ぶために、総社市の商店街や高梁市の吹屋まで足を運びました。
そして、取り壊される予定だった空き店舗は、レンタルスペースへと変身。
カフェ営業、ワークショップ、勉強会、コミュニティ活動など、地域住民が交流する施設として生まれ変わりました。
地域住民が集まるだけでなく、街の外からもイベントを開催する人が訪れるため、外部の人との交流の場所にもなっているそうです。
空き店舗の改修にあたって地域住民を巻き込んだ理由も話してくれました。
地域の人は、身近で当たり前の存在になった建物が新しく生まれ変わることを想像できません。
実際に空間ができるとイメージが湧き、アイディアが生まれやすくなります。
「スペース金正館」の改修では、店舗の照明が初めて点灯したときに大きな変化がありました。
明るくオシャレになった店内を見て、地域の人たちは大喜び。
積極的に活動に関わってくれる人が増えていきました。
言葉にするだけでは伝わらないことがたくさんあるので、実際に体験してもらうことが大切です。
地域の人たちと成功体験を積み重ねていくことが、街の活性化につながると話していました。
受講してみて思ったこと
沖村さんは海外での学校建造、日本各地での古民家活用、専門学校や大学での勉強、フリーランスとしての実務など、さまざまな経験をしてきたなかで、豊富な知識やスキルを身につけてきました。
地域おこし協力隊として、存分に能力を発揮している姿に憧れを覚えます。
特に今回の講座で印象的だったことが2つありました。
- ていねいなデータ整理、調査
- 主役は地域の人たち
ていねいなデータ整理、調査
ひとつは、データ整理や調査をていねいにやってることです。
人前に出るときは笑顔を忘れない沖村さんですが、人口減少という社会問題を理解するために資料の研究やセミナーへの参加など地道な努力も続けています。
人口統計データや空き家情報の可視化は、関係者に向けて課題を明確に説明し、事業を提案するための手段だと話していました。
また、プロジェクトを実施する前には、役所や地域住民に綿密なヒアリングを実施して課題を整理したのちに、具体的な計画を立てています。
沖村さんの明るい人柄は、地域の人を巻き込みながら活動できた大きな要素です。
さらに、データや調査事実に基づいて分かりやすく説明できる能力も、多くの人が沖村さんを信頼する理由だと感じました。
主役は地域の人たち
もうひとつは、主役は地域の人たちだという考えを徹底していることです。
地域社会の持続性を考えたら、地域おこし協力隊ではなく、地域住民が主体となって事業が進む必要があります。
地域おこし協力隊は裏方で、地域が盛り上がるきっかけを与えることが使命。
沖村さんが手がけた事業には地域の人が関われる仕掛けが多くあり、地域活性化のきっかけを作ろうとする意思が強く感じられました。
まさに沖村さんは、地域をおこす活動をしています。
おわりに
今回の講義では、地域社会が抱える問題や空き家再生などの地域おこしに関する具体的な知識を得ることができました。
なにより、一番の学びは興味の向くままに突き進んでいく沖村さんの生き方を聞けたことです。
生き方の多様性を学ぶことができた講義だったと感じています。
高梁川志塾のデータ
名前 | 高梁川志塾 |
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期日 | 本講義の日時:2020年12月19日午前10時~午後12時10分 高梁川志塾プログラムの期間:2020年11月3日~2021年2月14日(修了式) |
場所 | 岡山県浅口市金光町大谷294-7 |
参加費用(税込) | 会場受講:1,500円 オンライン受講・アーカイブ受講:500円 |
ホームページ | 高梁川志塾 | 高梁川流域学校 |