浅口市にある金光学園音楽部吹奏楽団が、2019年に創部100年を迎えました。
1919(大正8)年の創部から一世紀。
本来であれば、2020(令和2)年3月に創部100年記念演奏会を開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、中止することに。
以来、部活動や演奏活動に制約を受けながらも、機会を待ち続けた記念演奏会が、いよいよ開催のときを迎えました。
100年の歴史を、ひとと音楽で振り返った三時間。同校卒業生の筆者が紹介します。
記載されている内容は、2023年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
開演前 ~ 笑顔と会話に包まれる入場受付
演奏会当日。
開場よりも早い時間を目指して自宅を出た筆者でしたが、先に到着した友人から、すでに会場の周りが混雑していることを聞いて驚きました。
会場入口に到着すると、「満席につき、当日券の販売はありません」の張り紙が。
前日朝に、急遽追加でチケットを購入した筆者ですが、ちょうどそのころ完売していたそうです。
開催準備について聞いたときには、どのくらいの来場者になるかは未知でした。
チケットが完売と聞いて、思わずうれしくなった筆者です。
楽団の軌跡が光るロビー
受付周辺には、再会をなつかしんで会話が弾んでいる輪がたくさん見られました。
時折、輪から輪へひとが動いたり、別の人物のもとへ駆け寄っていくひとがいたり。
演奏会前のロビーというよりは、同窓会前のホテルロビーを思い起こします。
ロビーには、吹奏楽団のこれまでの活躍を記録したパネルが並べられていました。
モノクロの写真や、なかには縁が変色したり丸くなったりしている写真もあります。
パネルになったもの、演奏中のスライド映像になったものを合わせて約70枚の写真が使われたそうです。
「ロッカーに並べられたすべてのアルバムを取り出し、すべてのページをめくり、何千枚という写真を見ました。一枚を見るたびに、当時が思い起こされました。大変な作業でしたよ」
とは、前顧問の佐藤正俊(さとう まさとし)氏。
演奏の合間に語られたエピソードです。
わずか6名からはじまり、小学校や金光教青年部で演奏していたころ。
戦争を経ても失われず、より飛躍した演奏活動。
国内から飛び出し、海外で確かな演奏活動の記録を残したあと、新型コロナウイルス感染症の流行で再び迎えた苦難の時期。
それでもなお受け継がれた、金光学園音楽部吹奏楽団の記念すべき演奏会がはじまります。
第一部 Young Soul Stage
いよいよ、開演です。
事前の案内のとおり、会場の席はほぼうまっています。
演奏曲
演奏曲 | 内容 |
---|---|
オーメンズ・オブ・ラブ | 和泉宏隆 / 作曲 宮川成治 / 編曲 |
鎌倉殿の13人 | Evan Call / 作曲 郷間幹男 / 編曲 |
さくらのうた | 福田洋介 / 作曲 |
ジャンボリーミッキー | Marco Marinangeli / 作曲 郷間幹男 / 編曲 |
指揮は、顧問・園田泰之(そのだ やすゆき)氏、演奏は金光学園音楽部吹奏楽団です。
白いブレザーに身を包んだ総勢28名が着席。
堂々たる足取りで入場した園田氏が指揮台に立ち、会場が暗転するまで、団員から移ったような緊張と期待を感じながら、演奏開始を待ちました。
軽快なリズムと動きで笑顔を引き出す曲 ~ ジャンボリーミッキー
弾けるような掛け声が会場の空気を震わせます。
指揮棒の動きに応えて、溌溂(はつらつ)とした音色がまっすぐに会場全体にのびていったように感じました。
まるで一本の楽器で奏でているかのような部分があるかと思えば、ダイナミックな強弱で圧倒されそうになる部分もあります。
ステップを踏みながらの演奏は、吹奏楽団ならでは。
演奏会前のインタビューで園田氏は、「人数の少なさを感じたことはありません。今の人数で良いものを追求し、それができていると思っています」と話していました。
まさにそのとおりのステージ。
園田氏の指揮に応え、誠実に奏でられていく曲を聞いていて、指揮者と団員が二人三脚で、あるいは団員同士が支え合って、今日まで歩んできたようすが目に浮かぶようでした。
第一部最後の曲、「ジャンボリーミッキー」では、一層団員の動きが大きく、早くなります。
緊張した面持ちやにっこりと微笑んだ顔、次の演奏に思いを馳せているような表情が見えるでしょうか。
筆者は在学中に、同じ曲を同級生が演奏している場面を見たことがあります。
動きながらの演奏を見ては感服した思い出や、同級生が演奏している風景が思い出されて、清々しさのなかに、懐かしさを感じた一曲でした。
第二部 Legacy stage
第一部が終了すると、どんどんと舞台が組み替えられていきます。
並べられる椅子の数が、あっという間に増えました。
「金光ウインドアンサンブルと卒業生有志による吹奏楽団の人数は、実は把握できていません。まだ増えているようなんです」
再びインタビュー時の園田氏の言葉がよみがえります。
当時は確か、80名と聞いていたはずです。
パンフレットに挟んであった出演者の数をおもむろに数えて驚きました。
現役の楽団員をのぞいたその数は、100名に迫る数だったのです。
演奏曲
曲名 | 内容 | 指揮 |
---|---|---|
ファンファーレ「蒼天の光」 | 田村修平 / 作曲 | 園田泰之・顧問 |
シルクロード | 喜多郎 / 作曲 藤田玄播 / 編曲 | 佐藤正俊・前顧問 |
大正昭和歌謡メドレー | 山下国俊 / 編曲 | 佐藤正俊 |
行進曲「若い魂」 | 石田昌勝 / 作曲 | 吉富功修(よしとみ かつのぶ)・元顧問 |
イタリアン・フェスティバル | Glenn Osser / 編曲 | 吉富功修 |
イン・メモリアム・マーチ | 藤田玄播 / 作曲 | 石井辰彦(いしい たつひこ) ・金光ウインドアンサンブル |
「窓際のトットちゃん」より | 小森昭宏 / 作曲 佐藤正俊 / 編曲 | 佐藤正俊 |
フェスティバル・プレリュード | Alfred Reed / 作曲 | 佐藤正俊 |
指揮は、歴代顧問らが、それぞれ当時の思い出の曲を担当。
演奏は、金光ウインドアンサンブルと卒業生有志による創部100年記念吹奏楽団です。
顧問の園田氏は、指揮後に演奏に加わり、指揮者から演奏者への変身を披露しました。
第二部の幕開けに、金光学園中学・高等学校長・金光道晴(こんこうみちはる)氏が挨拶をし、前校長・佐藤元信(さとうもとのぶ)氏や、元顧問の吉富功修氏らが、当時のエピソードを語り継ぎながら第二部が進みます。
誇らしげで、晴れやかな演奏 ~ ファンファーレ「蒼天の光」
第二部開始。
舞台上に並ぶ一人ひとりから存在感があふれ出しているようです。
年齢も、歩んできた道も違うひとびとがこの日のために集まり、演奏のため目の前の舞台上で控えています。
最初の曲は、ファンファーレ「蒼天の光」。
金光学園音楽部吹奏楽団創部100周年の記念に、岡山県出身の作曲家・田村修平(たむら しゅうへい)氏に委嘱され作られた曲です。
「ファンファーレであることは決まっていて、曲名をどうするかと考えたとき、やはり岡山の晴れた空が思い浮かびました」
演奏後の舞台にあがった田村氏が明かした、「蒼天の光」命名のエピソードです。
創部100年記念吹奏楽団の演奏は、ファンファーレの弾むようなテンポのなかに重みのある足跡が見えながらも、晴れがましくて仕方ないような、明るいものが感じられました。
「今日はくもりですが、きっと会場の上だけ雲間が切れて、青空が見えていると思います」
と田村氏が語ったように、確かに雲を突き抜けて晴れ間が見えているに違いないと思えるようなファンファーレでした。
映像のない映画を見ているような迫力 ~ 「窓際のトットちゃん」より
圧巻だったのが、音楽物語「窓際のトットちゃん」のダイジェストでした。
演奏会も半ばを過ぎ、終盤に向かおうとする時間帯。
筆者は子どもと一緒に鑑賞していたのですが、集中力が切れそうだなと思っていたところでした。
指揮をつとめる佐藤正俊氏が、選曲の由来を語りながらサプライズを披露します。
なんと、「窓際のトットちゃん」の作者黒柳徹子(くろやなぎ てつこ)さんからのビデオメッセージが流れたのです。
ロビーで見つけた一枚のパネルでは、黒柳徹子さんと一緒に写真に収まる団員の姿がありました。
「窓際のトットちゃん」を吹奏楽団で演奏するに至るまでの作曲家・小森昭宏(こもり あきひろ)氏とのエピソードや、黒柳徹子さんと共演に至るまでのエピソードが、佐藤氏から語られます。
知らなかったことばかりで、本当に驚きの連続でした。
あらためて、演奏への期待が高まります。
「ま~ど~ぎ~わの~トットちゃん」と口ずさみたくなるテーマ曲と、やわらかく、優しい口調のナレーションで音楽物語が始まりました。
トットちゃんが、小学校を退学になるくだりでは、チンドン屋さんが場をにぎやかす場面があります。
法被(はっぴ)姿とお決まりの金の音。
ナレーターの田島さんが「チンドン屋さ~ん!」と呼びかける朗らかな声が会場を一気に物語の世界へ引き込んでいきます。
トモエ学園に転入し、トットちゃんが楽しく過ごせたのもつかの間。
教室替わりにしていた電車の車両が空襲で燃えてしまいます。
楽団のパーカッションが轟(とどろ)き、照明が明滅し、音楽とともに動く楽器がきらめきます。
田島さんの声が緊張感をはらんで低く、情景を描いていくようすは、映像のない映画を見ているようでした。
演奏会前のインタビューで、「100周年記念演奏会に参加するために、久しぶりに楽器にさわる卒業生有志も少なくない」と聞いたことを思い出します。
月並みですが、とてもそんなふうには思えません。
音が自由自在にふくらみ、うごめくようでした。
かと思うと場面が変わり、ふっと軽く、心を優しくなでてくれる風のように音も一緒に変化します。
筆者の子どもは、音が轟いた場面に「怖かった」と感想をもらしていました。
感情を動かされるのも無理はないと思えるほど、真に迫る演奏で、終始圧倒された第二部でした。
第三部 Festival Stage
ついに最終章。
創部100年記念吹奏楽団のなかに、金光学園音楽部吹奏楽団の団員が並び、第三部がはじまります。
記念演奏会のために集まった総勢128名の面々。最高齢は、70代だそうです。
あらためて、100年という時間の長さと重みを感じます。
演奏曲
曲名 | 内容 |
---|---|
ジャパニーズグラフィティIV ~ 弾厚作作品集 ~ | 弾厚作 / 作曲 磯崎敦博 / 編曲 |
SORAN | 伊藤多喜雄 / 作曲 佐藤正俊 / 編曲 |
指揮は佐藤正俊氏、演奏は創部100年記念吹奏楽団と金光学園音楽部吹奏楽団です。
ジャパニーズグラフィティでは、加山雄三さんの名曲メドレーが演奏されました。
朗々と奏でられるメロディが、まるで歌声のように聞こえて、加山雄三さんの姿が一瞬脳裏に浮かんだ筆者です。
盛大で躍動感に満ちたフィナーレ ~ SORAN
演奏会最後の曲は、SORAN。
「や~れんそ~らん、そ~らんそ~らん」や「どっこいしょ~どっこいしょっ」という囃(はや)し言葉でなじみ深いソーラン節を、佐藤氏が編曲したものです。
曲目を最後まで見ていなかった筆者は、突然はじまった和太鼓のパフォーマンスに驚くと同時に、佐藤氏の法被姿を見て、思わずわくわくしてしまいました。
あとから調べてわかったことですが、曲の前半は「アフリカン・シンフォニー」という吹奏楽界では有名な曲が使われているそう。
金光学園音楽部吹奏楽団ならではのSORANです。
アフリカン・シンフォニーが流れるなか、不意に鮮やかな羽織を翻(ひるがえ)して踊り手たちが入場すると、ソーラン節がはじまりました。
底抜けに明るいメロディに、佐藤氏の調子の良い囃し言葉が重なります。
入場した踊り手たちが、体じゅうを使って力のかぎり、荒々しい漁のようすを表現します。
時間にして5分以上はあったでしょうか。足腰を深く落とし、何度も網引きのようすを再現する振り付けが続きます。
途中、佐藤氏から「ほい、がんばれ」と声がかかる場面があり、不意に楽団のあたたかみを感じたのでした。
おわりに
創部100年記念演奏会が終わりました。
100年。演奏会を通じて、あらためて、それぞれの時代に生きたひとびとの存在を感じました。
創部当時の6名のなかに、楽団が100年続くと思ったひとはいなかっただろうと思います。
最初から100年を目指したわけではなく、それぞれの時代を生きたひとが、大切につむいだことが「今」につながりました。
ひとからひとへ受け継がれた音楽が、厚みを増し、層のように積み重ねられて、今の金光学園音楽部吹奏楽団を形づくっていると感じ、ひとと音楽がつくった歴史を堪能したひとときでした。
金光学園音楽部吹奏楽団100周年記念演奏会のデータ
名前 | 金光学園音楽部吹奏楽団100周年記念演奏会 |
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期日 | 2023(令和5)年3月26日(日) 午後2時から 倉敷芸文館 入場料 1,000円 |
場所 | 倉敷芸文館 |
参加費用(税込) | |
ホームページ | 金光学園音楽部吹奏楽団 |