倉敷の民芸品のひとつである、「倉敷ガラス」を調べているうちに魅了されてしまった、金光学園高等学校2年生の渡邉文奈(わたなべ ふみな)です。
金光学園高等学校には、探究学習という自分の知りたいものを研究できる授業があり、地域学の分野で「倉敷ガラス」の研究とPR活動を4人チームで行なっています。
この記事では、探究活動を通じて民芸品に魅せられてしまった、代表の渡邉が「倉敷ガラス」について紹介します!
この記事は金光学園高等学校 特別進学クラス文系 日本遺産チームによる寄稿記事です。一般社団法人はれとこ編集部が再編集し、公開しています。
記載されている内容は、2021年3月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
「倉敷ガラス」とは
「倉敷ガラス」を知っていますか?
倉敷市発祥の民芸品で日本遺産でもある「倉敷ガラス」は、創始者・小谷眞三(こだに しんぞう)さんと、息子の栄次(えいじ)さんだけが作る、吹きガラス製品の総称です。
緩やかな「捻(ひね)りモール模様」と「小谷ブルー」が特徴。
捻りモール
たゆたう波を感じさせるストライプ模様
小谷ブルー
緑と青が淡く交わったような色で、「倉敷ガラス」ならではの特別な色(小谷さんがそう言い始めたのではない)
そして「倉敷ガラス」は、生活のなかで使われることによって洗練されていく美しさ「用の美」を追求した吹きガラス製品でもあり、50年にも渡って多くの人に愛されています。
私と「倉敷ガラス」
私が「倉敷ガラス」に初めて出会ったのは、幼い頃でした。
家で「倉敷ガラス」と知らずに何気なく使っていたんです。
大切に使っていたのか、親によく「割ったらいけんよ」と言われていたことが印象に残っています。
そして、私が「倉敷ガラス」を知ったきっかけは、私の兄が吹きガラス職人になったからです。
兄はもともと靴のデザイナーになりたいようでした。
「なんで吹きガラス始めたん?」と聞いてみると、「いっつも使っとったガラス(倉敷ガラス)いいと思ったけー」と答えます。
「倉敷ガラス」に兄の志望を変える魅力があるのかと驚き、私も興味を持ち始めました。
そんな頃に、探究授業で何か研究する機会を得られたので、「倉敷ガラス」を研究してみることにしたんです。
探究活動の流れ
私たちの探究活動は以下のような流れで行いました。
- 「倉敷ガラス」について詳しく調べる
- 小谷栄次さんの工房を訪ねる
- プロモーション活動
それぞれの工程で行なった活動について紹介します。
「倉敷ガラス」について詳しく調べる
まず、「倉敷ガラス」について詳しく調べてみることにしました。
「倉敷ガラス」ってなんだろう
「倉敷ガラス」には機械生産のものにはない独特の魅力と、生活道具としての機能性を持ち合わせ、作家の作品ではなく「生活のための道具」としての実用品という特徴があります。
民芸品である「倉敷ガラス」は、倉敷市美観地区の中央に位置する「倉敷民藝館」の初代館長・ 外村吉之介(とのむら きちのすけ)が説いた「健康で、無駄がなく、真面目で、威張らない」という民芸の精神を体現するものです。
民芸とは、「民藝運動の父」と呼ばれる柳宗悦(やなぎ むねよし)によって作られた言葉。
柳宗悦を中心とする民藝運動の人たちにより、暮らしのなかで使うさまざまな日用雑器の美しさが見いだされ、それまでにない新しい美の基準が確立された。
「用」を追求し自然と生まれた簡素な「美」をたたえる「倉敷ガラス」は、50年にもわたって多くの人に愛されています。
「倉敷ガラス」誕生のきっかけ
「倉敷ガラス」の創始者・小谷眞三さんは、もともとクリスマスツリーのオーナメントを作っていました。
眞三さんのもとに倉敷民藝館の初代館長 外村吉之介(とのむら きちのすけ)が訪れ、メキシコのガラスを持ちながら「こんなの作って」と頼んだのが「倉敷ガラス」誕生のきっかけです。
小谷ブルー
「倉敷ガラス」には、ブランドカラー「小谷ブルー」と呼ばれているものがあります。
小谷ブルーとは、緑と青が淡く交ざったような色で、「倉敷ガラス」ならではの特別な色。
当時の眞三さんが、安く買った青色のガラスとサントリーのモスグリーンのウイスキー瓶を砕いて交ぜて作ってみたそうです。
現在は「あさぎ」という名前の青色のガラスに緑色のガラスをかけあわせ、小谷ブルーは作られます。
小谷栄次さんの工房を訪ねる
小谷さんの「倉敷ガラス」制作のようすを実際に見たいと思い、2020年7月に小谷栄次さんの工房を見学しました。
真夏である上、1,000度を超える溶解炉の熱で、工房内はうだるような暑さ。
小谷さんは額に汗を浮かべ、真剣なまなざしで吹きさおにガラスを取ります。
「一発目、まず作ります」と、小谷さん。
吹きさおを吹いて小さい玉を作ります。
「何を作るかは、この(玉の)形や大きさを見て決まります」
「倉敷ガラス」の特徴である、緩やかな捻り縞模様をつけているときの集中も息を呑むほどでした。
他にも、花瓶にガラスを垂らして模様をつけたり、さおを回して平皿を作ったり。
その工程は、まるで花が咲くかのようで、私は暑さを忘れるくらい見入っていました。
見学をするまでは、遠く漠然とすごいものなんだなと思っていた「倉敷ガラス」。
小谷さんの制作風景や、思いを実際に聞くことで「倉敷ガラス」に対する私のイメージは変わりました。
より魅力的で私たちの生活に身近なものだと、感じられたからです。
そして、私が小さい頃から使っていた日常の物がこんな風に作られているのだと改めてわかり、感動しました。
そこで若い人にも、地元のものや民芸品、日本遺産の良さを再認識してほしいという思いが強くなります。
プロモーション活動
「倉敷ガラス」を通して、地元のものや民芸品、日本遺産の良さを知ってもらうにはどうすればいいか?
まず、キャッチコピー「くらしにプラス くらしきガラス」と、ロゴを作ってみました。
「倉敷ガラス」の「倉」という漢字と「倉敷ガラス」製品特有の「小谷ブルー」という青色と縞模様を表したロゴです。
キャッチコピー「くらしにプラス くらしきガラス」は、暮らしにひとつ「倉敷ガラス」を取り入れることで、工芸品の実用美や温かさを感じることができるという意味を込めています。
そして、私がとくに「倉敷ガラス」を知ってほしいのは10代、20代の私と同じくらいの世代です。
若い世代へのPR活動として役立つのは、拡散しやすい動画だと考え、3種類の動画を作ろうと思いつきました。
- 30秒のCM
- 作品づくりと小谷栄次さんの生の声を記録するデジタルアーカイブ動画
- 「倉敷ガラス」と私たちの活動をまとめた3分の動画
まず、30秒のCMを作り、初めて動画編集を経験し映像作品を作る難しさを学びました。
次に「倉敷ガラス」について誕生から、倉敷民藝館とのつながり、作品の行程など詳細に知れるデジタルアーカイブ動画を制作。
最後に、私たちの活動から知ることができる、「倉敷ガラス」についての3分の動画を制作しました。
英語圏のかたがたにも見てもらえるよう「くらしにプラス くらしきガラス」の英語版、「CHOOSE IT YOURSELF CHANGE YOUR LIFE」を考え、ナレーションすべてに英語と中国語の字幕を付けています。
この動画は、私の1年間の活動を詰め込んだ集大成です。
動画はイオンモール岡山の1階にある、Mirai Squareの大画面にも映し出されました。
動画の中に流れる縞模様のついた白いシルエットは、縞模様が有名な「倉敷ガラス」作品を表し、これを元にポストカードも制作。
「倉敷ガラス」についての動画や、グッズもこれからもっと製作していこうと思います。
販売、展示、放送させてくださる場所を探しているので、興味のあるかたは声をかけていただければうれしいです。
最新の活動状況は、SNSで発信していきます。
- YouTubeチャンネル
まとめ
民芸品「倉敷ガラス」の探究活動は、私の高校生活で一番楽しく印象深いものになりました。
日々の生活で何気なく使っていた「倉敷ガラス」って何?という小さな疑問から、たくさんの視点が生まれたからです。
1つ目は、民芸品の日用使いを追求した美しさや、倉敷の歴史的背景を投影した伝統の流れです。
私はここから、地元のものや工芸品、日本遺産の大切さと、次の時代へ伝えていく必要性を感じPR活動を始めました。
2つ目は、PRするための有効な手段を考え、作成することの重要さです。
「倉敷ガラス」のような伝統文化をデジタル化して残し、それを発信、拡散していく活動をした経験は、SNSが当たり前になっていくこれからに、重要な手段だと改めて気づくことができました。
最後は、活動を通じて私自身の将来の夢が定まったことです。
さまざまな職種、考え、アイデアを持ったかたがたとたくさんお話しする機会を得て、普通の高校生ならできないような体験にも取り組むことができました。
そしてこれから先もこの活動を引き続き行い、私のように地元のものや工芸品、日本遺産の大切さを再確認してくれるかたが増えてほしいと思うようになったんです。
この紹介をきっかけに、「倉敷ガラス」の魅力を知ってもらい、「倉敷ガラス」を始めとする他の民芸品にも興味を持っていただけたらと思っています。
そして「倉敷ガラス」を生んだまちである倉敷に来て、「倉敷ガラス」を日々の生活にプラスしてみてはどうでしょうか?