2018年(平成30年)7月に発生した「平成30年7月豪雨」では、西日本を中心に大きな被害をもたらしました。
とくに倉敷市真備地区や小田郡矢掛町などの小田川流域では、大規模な浸水や土砂災害などが発生。
甚大な被害となりました。
そんな被災地・真備や矢掛に多くの顧客を抱え、被災直後より復旧活動に尽力した工務店があります。
それが矢掛町東川面の「綱吉商店(つなよし しょうてん、旧称:鳥越工務店)」。
矢掛の地で60年以上営業している、地域密着の工務店です。
平成30年7月豪雨から5年が経過した2023年(令和5年)7月、綱吉商店へインタビューをして当時の状況を聞くとともに、復興の歩みや現在の仕事の状況などを聞きました。
記載されている内容は、2023年9月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
有限会社 綱吉商店のデータ
団体名 | 有限会社 綱吉商店 |
---|---|
業種 | 建築業(注文住宅、増改築、リフォーム、外構工事等) |
代表者名 | 采女 佳史(うねめ よしふみ) |
設立年 | 1981年1月:有限会社 鳥越工務店として設立(1962年10月 創業)、2021年6月:有限会社 綱吉商店へ改称 |
住所 | 岡山県小田郡矢掛町東川面1107-5 |
電話番号 | 0866-83-1371 |
営業時間 | 午前8時〜午後5時 |
休業日 | 土、日、祝日 |
ホームページ | 有限会社 綱吉商店 |
綱吉商店は矢掛町にある地域に根付いた老舗工務店
綱吉商店は、矢掛町東川面にある工務店・建築会社です。
顧客の要望に幅広く応えながら、注文住宅から増改築、リフォームなどまで手がけています。
おもな顧客は、小田川流域を中心とした矢掛・真備地区などのエリアに多いです。
綱吉商店は1962年(昭和37年)に鳥越工務店として創業し、1981年(昭和56年)に有限会社として法人化。
2021年(令和3年)に現名称へ改称しました。
綱吉商店は創業から60年以上にわたり、矢掛・真備など地元住民の住まいづくりの手伝いをしてきた老舗企業なのです。
そして綱吉商店が多くの顧客を抱える矢掛・真備などの小田川流域は、2018年(平成30年)7月に発生した「平成30年7月豪雨」で大きな被害を受けました。
綱吉商店は被災直後より、ボランティアとして復旧作業を支援。
さらには被災住宅のリフォーム案件を多く手がけるなど、地域の復興を支えてきました。
綱吉商店は、地域とともに歩む工務店なのです。
綱吉商店の代表・采女佳史さんへインタビュー
有限会社 綱吉商店の代表取締役・采女佳史(うねめ よしふみ)さんは学校卒業後、大工の道へ。
その後、祖父が創業した有限会社 鳥越工務店へ入社します。
2021年6月に三代目の代表取締役に就任するとともに、会社名を綱吉商店へと改称しました。
平成30年7月豪雨災害から5年が経過した2023年(令和5年)7月。
采女さんに、被災時・直後のようす、地元工務店から見た復興の道のり、現在の状況などについて話を聞きました。
平成30年7月豪雨で周辺地域が浸水。お客からの避難要請も
平成30年7月豪雨が発生したときの状況を知りたい。
采女(敬称略)
平成30年7月豪雨のとき、弊社の周辺でも河川の氾濫や内水氾濫、土砂災害などが発生しました。
幸い弊社は被災を免れましたが、弊社のお客様に被災したかたがいたんです。
あるご年配のお客様から私の携帯電話に、助けてほしいと救援要請がありました。
急いで駆けつけましたが、すでに家の周りはかなり浸水しており、近づけません。
無理に近づくと救援者が流されてしまうほどで、二次災害の心配がある状態でした。
そこで自宅の二階へ避難をして、冷静になって救助を待つように伝えました。
その後、お客様は無事に救助されたので、ホッと胸をなで下ろしたのを覚えていますね。
被災直後から片付けの作業に参加
発生後の状況は。
采女
流されてきた泥や土、ゴミなどが散乱して、もとの風景がわからないほどでした。
私は被災直後から、ボランティアとして片付け作業を手伝うことにしたんです。
そのため平日昼は工務店としての仕事をし、平日の夕方や週末などは、被災地の片付けのボランティア作業をおこなうという日々になりました。
矢掛町では比較的早期に、応急処置的作業のための助成金制度などができたため、復旧作業も早かったです。
真備町は被災範囲も広かったこともあり、時間がかかりました。
災害ボランディア活動のおもな作業は、家屋の片付け、部分解体、消毒まで。
あとは、技術が必要な災害ボランティア活動に関する手引きの作成などにも協力をしましたね。
ボランティア活動はどれくらいの期間おこなったのか。
采女
とにかく大変だったので期間に関することはうろ覚えですが、7〜8か月くらいでしたでしょうか。
翌2019年(平成31年)の春先くらいだったような気がします。
自分の中では「解体は無料のボランティア、修繕・リフォームは有料の仕事で」という線引きをしていました。
私の仕事は、工務店だからです。
ですから、災害ボランティア活動が一段落した2019年の春以降は、被災住宅の修繕やリフォームなどの本業に軸足を移していきました。
慎重な作業が求められた復旧作業
ボランティア活動で大変だったことは。
采女
復旧作業は、ただ早く行えばいいというだけではありません。
修復作業時に生かせるものは利用することで、居住者のかたの負担を軽減できます。
ですので生かせるか生かせないかの判別をしながら、家屋の復旧作業を進めていく必要がありました。
また電気関係で、漏電による二次災害の注意も必要です。
漏電注意箇所が土砂などで隠れていたりするので、慎重な作業が必要でした。
ほかにも熱中症や、感染病など注意すべきことが多かったですね。
ただスピーディーに作業すればいいわけではなかったので、大変でした。
それとは別に意識をしたのは、被災者のかたとの話をするときの言葉の選びかたです。
被災者のかたは突然の災害で住宅を奪われてしまっており、何気ない言葉ひとつでショックを受けます。
ふだんなら何の意味もない言葉を、被災者のかたの前でフッと話しただけで、傷つかれたこともありました。
ですから被災者のかたと話をするときは、かなり気をつけて言葉を選んでいたのを覚えています。
被災者を元気づけるために壁塗りチャリティー企画を実施
復旧作業のボランティアのなかで、印象に残ったことはある?
采女
ボランティア活動をしたお宅のなかで、あるおばあさんと仲良くなりました。
そのおばあさんは、被災のショックで少し内向的な状態になっていたんです。
そこで心のケアの意味も含め、チャリティー企画を実施しました。
内容は、おばあさんの家の壁をみんなで塗ろうというもの。
多くのかたが企画に参加され、おばあさんともたくさん話をしました。
もちろん素人ですからできあがりはプロにはおよびませんが、そのぶんおばあさんが楽しく過ごせ、終わったときにはとても明るくなったんです。
だから、実施して良かったなと思います。
「綱吉商店」への改称と名前の由来
その後、2021年(令和3年)6月に会社の代表取締役に就任した。
采女
はい。私で三代目となります。
私が代表に就任すると同時に、会社名を従来の有限会社 鳥越工務店から、有限会社 綱吉商店へ改称しました。
名前の由来は、さきほどのチャリティー企画を実施した被災者のおばあさんなんです。
壁塗りのチャリティー企画に大変満足をしていただき、そのお礼として徳川家康の遺訓が書かれた額をいただきました。
そこで、徳川家に関することから名前をいただくことにしたんです。
また私が真備のボランティア活動をしていたとき、私の愛称が「ツナ」でした。
毎朝、コンビニエンスストアでごはんを買っていたのですが、ツナマヨのおにぎりを買っていくことが多かったんです。
それを見たボランティア仲間が、ツナマヨおにぎりから連想して勝手に「ツナ」と命名しました(笑)。
「徳川家」と「ツナ」が結びついて、江戸幕府五代将軍の徳川綱吉(とくがわ つなよし)が思いついたんです。
徳川綱吉といえば、「生類憐れみの令」。
よく「犬公方」と呼ばれ、あまりいいイメージがないといわれます。
しかし生類憐れみの令は、むしろ自然を大切にする現代においては合っているんじゃないかと思いますね。
なお具体的な「綱吉工務店」という会社名ではなく抽象的な「綱吉商店」としたのも、より広い業務をする可能性を考えてのことです。
昔は、あえて「商店」のような抽象的な命名の仕方をする例は多かったと聞きました。
会社のコンセプトは「人と人との物語をつくる」
綱吉商店の特徴やセールスポイントを教えてほしい。
采女
私は作業をするだけでなく、お客様と話をしたりふれあったりするのが好きなんです。
とくに代表取締役に就任してからは、現場作業だけでなく打合せなど裏方の仕事も増え、お客様と接する機会も増えました。
だから積極的に、お客様とコミュニケーションを取っています。
これは弊社の大きな特徴だと思いますね。
ですので弊社では、コンセプトを「人と人との物語をつくる」と定めました。
近年は一部をDIYでやりたいという依頼が増加傾向
2023年現在では、どんな仕事か多いのか。また、被災関連の仕事はまだあるか。
采女
2023年現在では、被災に関するお仕事はほぼありませんね。
真備や矢掛が復興に向けて歩み出し、通常運転に戻ってきつつあると感じています。
被災関連の仕事と入れ変わるように増えてきた仕事が、一部をDIYでおこなう仕事です。
「自分でやれることは自分でやりたい。だから自分でできない部分を綱吉商店へお願いしたい」という依頼が増えています。
「依頼者参加型」とでもいいましょうか。
DIYブームを経て、DIYというものが定着したことが原因なのかなと思いますね。
多くの工務店は、一部をお客様がDIYでおこなうような依頼はあまりやりたがりません。
しかし弊社では、お客様の要望は最大限かなえてあげたいという思いがありますので、ご依頼を受けるようにしています。
さきほど話したように、弊社では「物語をつくる」がコンセプトです。
たしかにDIYでおこなった部分は、プロがやるより品質は劣るかもしれません。
でも一番大事なのは、お客様自身が満足しているかどうかなのです。
DIYで作業した部分は、お客様自身の思い出となります。
私は、その思い出とともに過ごす住まいこそが「物語をつくる」ということだと思っているんです。
クオリティーという面ではプロより劣る代わりに、お客様自身の「物語のページ数」が少し増える感じですかね。
「依頼者参加型」の依頼の根底にあるのが、真備の被災されたおばあさん宅でおこなった壁塗りチャリティー企画。
壁塗りをしたのはみんな素人ですが、企画のあとにおばあさんがとても満足し、感謝されていました。
一部をDIYでおこないたいという「依頼者参加型」の依頼は、まさに被災の壁塗りチャリティー企画と同じではないでしょうか。
お客様ができないことをやることこそが本来の商売
今後の展望ややってみたいことがあれば、教えてほしい。
采女
一部をDIYでやりたいという依頼が増えていることを受け、DIYコンサルタントのようなことをやってみたいですね。
DIYのワークショップのようなイベントを開催してやりかたを教えてあげたり、YouTubeでDIYについての情報ややりかたを発信したりしたいですね。
リモートで教えてあげるのもアリだと思います。
「情報を教えてあげる」ということも、もうかなり浸透しているようなイメージがありますが、実際はまだまだ価値があると思います。
とにかく、いままでの工務店や建築業での「あたりまえ」以外のこと、いままでとは違ったことにも力を入れていきたいですね。
「一部をDIYでおこなって、できない部分を依頼する」という依頼も、断る同業者が多いですが「これが本来の商売だ」というのが私の考えです。
お客様ができないことをやってあげることこそが、本来の商売だからです。
あとは、建築以外の仕事もやってみたいですね。
たとえば、介護施設関係などです。
将来的に自分もお世話になるかもしれません。
そう考えると、私が理想とする介護施設を事業としてやってみたいですね。
災害に関する綱吉商店からのメッセージ
災害に関することで、伝えたいことはあるか。
采女
ふだんから、ハザードマップを確認してください。
そして自宅のある土地の特徴、どんな災害が予想されるかを知り、対策を考えることが重要です。
また被災したときに役に立つのが、公的な助成制度。
自分が住む自治体にはどんな制度があるのか、確認をしてください。
そして災害発生時、最終的にもっとも重要になるのは、人と人とのつながりです。
ふだんから地域のかた同士でのコミュニケーションを取っておくことが重要だと思います。
あと注意が必要なのは、被災後には悪質な事業者が現れることも多いことです。
すぐに判断せず、信頼あるかたと相談してから話を進めるように気をつけてください。
綱吉商店は地元とともに歩む、地域に根付いた工務店
矢掛の地で60年以上にわたり営業する、綱吉商店。
平成30年7月豪雨災害からの復旧を、地域とともに支えてきました。
「人と人との物語をつくる」というコンセプトのもと、現在増えている一部をDIYでおこなうという依頼にも柔軟に対応。
いまも地域の人の暮らしを支えています。
有限会社 綱吉商店のデータ
団体名 | 有限会社 綱吉商店 |
---|---|
業種 | 建築業(注文住宅、増改築、リフォーム、外構工事等) |
代表者名 | 采女 佳史(うねめ よしふみ) |
設立年 | 1981年1月:有限会社 鳥越工務店として設立(1962年10月 創業)、2021年6月:有限会社 綱吉商店へ改称 |
住所 | 岡山県小田郡矢掛町東川面1107-5 |
電話番号 | 0866-83-1371 |
営業時間 | 午前8時〜午後5時 |
休業日 | 土、日、祝日 |
ホームページ | 有限会社 綱吉商店 |