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コノヒトカン 〜 矛盾した社会を変える優しい缶詰

コノヒトカン 〜 矛盾した社会を変える優しい缶詰

知っとこ / 2023.02.07

家族で楽しむ夕食や仕事仲間との宴会にならぶ料理は、私たちの生活を豊かにしてくれる大切なもの。

しかし、多くの食材が食べられることなく、無駄に廃棄されていることも忘れてはなりません。

そして、日本においても経済的な理由から食材を手に入れることが困難な子どもたちがいます。

豊かな食生活の裏側には大量に廃棄される食材があり、また貧困による経済的な負担から食べ物に困っている子どもたちがいるという矛盾した状況が、日本でも起きているのです。

2つの大きな社会問題に対して、缶詰でアプローチしているのは、倉敷市のネイリスト 三好千尋(みよし ちひろ)さん。

飲食店やホテルで廃棄される食材を活用した缶詰「コノヒトカン」を、児童養護施設や子ども食堂に届けています。

ネイリストの三好さんが、なぜフードロスと貧困に缶詰で取り組もうと思ったのか、そして、どのような社会を目指しているのかを紹介します。

記載されている内容は、2023年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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コノヒトカンとは?

ホテルや飲食店で余った食材で作った缶詰「コノヒトカン」とは、どのようなものなのでしょうか?

「コノヒトカン」に込められた想いを紹介します。

サカナカン2

コノヒトカンの活動

一般社団法人コノヒトカンは、フードロスと貧困の2つの社会課題に缶詰でアプローチしています。

これまで、ホテルや飲食店で廃棄される食材を利用した缶詰「コノヒトカン」を、児童養護施設や子ども食堂などの貧困問題に取り組む施設へ提供してきました。

2020年5月に、代表 三好千尋さんが缶詰の製作をホテルや飲食店に呼びかけたことでプロジェクトがスタート。

岡山県の飲食業活性化団体 六式会の会長 藤田弘記(ふじた ひろき)さん、結婚式場THE MAGRITTE(ザ マグリット)の料理長 佐藤竜吾(さとう りゅうご)さんらを中心に、廃棄される高級食材を活用した缶詰「コノヒトカン」を開発しました。

岡山県で貧困問題に取り組む施設に「コノヒトカン」を届けるだけでなく、岡山県内の高校生らによるコノヒトカンの活用のためのアイディアコンテストなどのイベントも開催しています。

一般社団法人コノヒトカン 代表 三好 千尋さんの経歴

三好さん3

三好さんの出身地は長野県上田市。

長野県内の高校を卒業した後は、経済的に自立するために、東京の企業へ就職します。

当時もネイリストを目指そうと考えましたが、専門学校に通うための経済的な余裕はなく、生活することで精一杯の日々を過ごしていました。

結婚を機に岡山に移り住み、3人の子どもにも恵まれましたが、頼る人の少ない環境での育児には孤独もあったようです。

育児に追われながらも、岡山で人とのつながりを作りたいという想いから、夢であったネイリストの勉強を始めます。

その後、岡山での人との出会いを大切にしながら、ネイリストとして活躍してきました。

地域との関わりの大切さを実感している三好さんだからこそ、人とのつながりによる支援の輪が広がっていったのでしょう。

コノヒトカンのこれまでの取り組み

一般社団法人コノヒトカンでは、子どもの日とクリスマスに、児童養護施設や子ども食堂へ無償でコノヒトカンを提供しています。

2021年12月の初めての支援の際には、岡山県内の10箇所の児童養護施設へ提供しました。

2022年11月には、新たな取り組みとして「コノヒトカン1000缶プロジェクト」を企画。

岡山県内にある15の学校や活動団体に所属する高校生たちが、コノヒトカンの活用のアイディアを発表するコンテストを開催しました。

過疎地域に住む高齢者への配布海外の貧困状態にある子どもたちへの提供など、社会問題の解決に直結するアイディアを提案されるコンテストとなり、実際に高校生らのアイディアに基づく支援が始まっています。

コノヒトカンの中身

飲食店やホテルのシェフたちが手がけたコノヒトカンは、サカナカンニクカンの2種類。

サカナカンは六式会の会長 藤田さん、ニクカンはTHE MAGRITTEの料理長 佐藤さんが考案しました。

1缶の量は約160グラムで、3~4人前のご飯に合わせて食べられるようになっています。

ご飯だけでなくパスタに合わせるなど、さまざまな料理へ幅広く応用できる味付けになっているのもコノヒトカンの特徴です。

2023年1月には、児童養護施設の子どもたちによるコノヒトカンを利用したレシピコンテストを開催しました。

藤田 弘記さん
サカナカンをプロデュースした六式会会長 藤田 弘記さん
写真提供 : 一般社団法人コノヒトカン
佐藤 竜吾さん
ニクカンをプロデュースしたTHE MAGRITTEの料理長 佐藤 竜吾さん
写真提供 : 一般社団法人コノヒトカン

代表 三好 千尋さんにインタビュー

ネイリストの三好さんは、どのようなことがきっかけでコノヒトカンを製作したのでしょうか?

缶詰ができるまでの物語と、缶詰に込められた想いを三好さんに聞いてきました。

三好さん3

フードロスと貧困問題

コノヒトカンを開発することのきっかけになった出来事を教えてください。

三好(敬称略)

2020年4月、外出自粛の影響が本格的になったころ、売り上げが減少した飲食店を経営する友人たちと一緒に、ネイルサロンの駐車場でお弁当を販売するマルシェイベントを開催しました。

連日、たくさんの人がお弁当を買いにきてくれたことでイベントは大成功しましたが、売れ残ったお弁当もありました。

捨てられるお弁当を見ながら、大量に食材が廃棄されているフードロスという問題に気がついたんです。

マルシェイベントを通じて、初めて地域社会について真剣に考えたこともあり、社会問題に対する感度が高まっていたのだと思います。

日本人1人あたりに換算すると、お茶碗1杯分の食べ物が毎日捨てられている」という事実を知り、もっと多くの人にフードロス問題を広めたいという思いが湧き上がってきたんです。

なぜフードロスから貧困問題にアプローチしようと考えたのでしょうか?

三好

実は、最初は貧困問題ではなく、防災について取り組もうとしていました。

廃棄される食材を活用するために、飲食店やホテルのシェフたちと一緒に備蓄用の缶詰を開発したのですが、廃棄される食材とはいえ、高級食材を利用した缶詰は高価で、提供先を探すのに苦労したんです。

一度、缶詰は諦めかけたのですが、六式会会長の藤田弘記さんが、缶詰の活用方法をもう一度考え直そうと言ってくれました。

そこで、新型コロナウイルス感染症の影響で社会がどのように変化するのかを考えてみたんです。

所得が減る世帯が増えることで、日本の貧困問題も、もっと深刻になるだろうと想像しました。

そこで、フードロスと貧困という大きな2つの問題を結びつけ、コノヒトカンを食べ物に困っている人たちに届けようと思い立ったんです。

コノヒトカンの原点

お弁当販売の経緯について教えてください。

三好

2020年3月に、飲食店を経営している友人から「今週は、お客さんが1人も来ない日が2日もあったんだよね」と相談を受けました。

新型コロナウイルス感染症による社会の変化が現れ始めていたのでしょう。

2020年4月になると、いよいよ新型コロナウイルス感染症の影響が本格化してきて、飲食店の友人たちが大変な状況にあることを知りました。

飲食店の友人たちと一緒に話し合いをして、お弁当を販売することを提案したんです。

お弁当販売に関する特別な知識は持っていませんでしたが、ひとまず、私のネイルサロンの前の駐車場でテントを立てて、簡易的なマルシェイベントを始めました。

お弁当販売のマルシェイベントの反響はどうでしたか?

三好

プレスリリースなどの宣伝の方法も知らなかったので、新聞などのメディアに電話して、取材を依頼したんです。

外出自粛という状況もありお弁当の需要も高かったのでしょう。

多くの人がマルシェイベントに足を運んでくれて、最終的に16店舗の飲食店が参加してくれました。

ある飲食店では、マルシェイベントをきっかけに、お弁当販売が大成功。

さまざまなところでお弁当を販売するスタイルに変更したところ収益も増え、新型コロナウイルス感染症による社会の変化をビジネスのチャンスにした人もいました。

2020年4月にスタートしたマルシェイベントは6月末までの2ヶ月半、毎日続けて、連日、大盛況だったことが印象に残っています。

友人たちを助けたいという思いで始めたマルシェイベントが大成功し、思い描いたことは実現できると感じた出来事でもありました。

想いを実現するための行動

どのようにして飲食店やホテルのシェフとつながったのでしょうか?

三好

知人に紹介してもらった飲食店やホテルに電話をしたり、直接会いに行ったりして、余った食材を使った缶詰を作るという提案を続けました。

もちろん、突然の提案だったこともあり、断られたことは何度もあります。

最終的に、200件以上は連絡を取り、2か月以上は続けていました。

飲食店やホテルへの連絡を続けるなかで、六式会の会長 藤田さんや結婚式場 THE MAGRITTEの料理長 佐藤さんのように提案を受け入れてくれるような人たちに出会えたんです。

児童養護施設とどのようにつながったのでしょうか?

三好

缶詰で貧困問題にアプローチしようと思い立ってから、岡山市や倉敷市の社会福祉協議会に電話しました

突然の連絡に戸惑っていた人もいたので、話を聞いてもらえないこともたくさんあります。

何度も連絡を繰り返すなかで、コノヒトカンの想いを理解してくれる人が現れて、岡山県内の児童養護施設や子ども食堂との接点を作れました。

その後は、児童養護施設のかたと直接、連絡を取れるようになり、必要な支援についての相談をしています。

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缶詰に込められた思い

届け先として意識していることはありますか?

三好

コノヒトカンの寄付先として意識していることは、直接、人から人に届けられる場所という点です。

たとえば、児童養護施設や子ども食堂であればスタッフから子どもへ、言葉とともに渡せます

他にも、サンタに扮したボランティアスタッフが、貧困家庭の子どもたちにプレゼントを届けるチャリティーサンタの取り組みでも、コノヒトカンを一緒に届けてもらいました。

単に食料を提供するだけでなく、どういった想いが込められているのかを言葉にして子どもたちに渡すことで、愛情や優しさも伝わると思っています。

直接、支援を必要とする人と会って、気がついたことはありますか?

三好

新型コロナウイルス感染症が広まったとき、児童養護施設の卒業生たちが食料不足で困っていたそうです。

そこで、2021年12月に行った支援では、児童養護施設の子どもたちと一緒にコノヒトカンにクリスマスのラッピングを施し、卒業生たちへプレゼントしました。

困っている人たちに顔を合わせて話を聞いたからこそ、本当に必要とされる支援に気づけたのです。

食材を提供するだけでなく、支援のミスマッチに気がつき、児童養護施設が本当に必要としている支援に取り組めました。

サカナカン1

コノヒトカンのこれから

コノヒトカンは、社会にどのような変化を与えるでしょうか?

三好

コノヒトカンだけでは、フードロス問題、世界の貧困問題が解決できるとは思っていません

私たちが支援できる人たちは限られていて、どんなに頑張っても、世界中のすべての食材を活用することはできないし、すべての人に届けることは難しいでしょう。

岡山県内に限っても、無理かもしれません。

しかし、私たちが発信を続けることで、フードロスや貧困問題に気づく人は増えていくはずです。

無駄に捨てられる食材も、ご飯を食べることに困っている人も、実は身近にいます。

問題に気づくことで、目の前にある夕食を大切にしたいという気持ちも自然に湧いてくるでしょう。

優しい社会に変化していくきっかけを、コノヒトカンが作っていけると感じています。

これからどのような取り組みにしていきたいですか?

三好

コノヒトカンを支えてくれる人たちにスポットライトを当てる活動をしていきます。

ホテルや飲食店のシェフ、児童養護施設や子ども食堂のスタッフ、行政や学校関係など、たくさんの人たちの想いがあるからこそ、余った食材が支援を必要としている子どもたちに届いています。

どのような想いを持ってコノヒトカンに関わってくれているのかを発信することで、感謝を示したいんです。

そして、協力してくれる人たちを発信する活動を通じて、社会には優しい人たちがたくさんいることを子どもたちにも伝えたいと思います。

その取り組みの1つとして、インターネットラジオゆめのたね放送局で、私がパーソナリティを務めてゲストを紹介する番組を始めました。

コノヒトカンを支えてくれる人たちにスポットライトを当てることで、社会の暖かさを伝えていこうと考えています。

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おわりに

飲食店やホテル、児童養護施設や子ども食堂、行政や学校の関係者など、コノヒトカンが作る輪は広がり続けています。

思いついたアイディアをすぐに実行する行動力と、あふれる情熱を言葉にする素直さという三好さんの人柄が多くの人を惹きつけるのでしょう。

三好さんには、「困っている人がいれば助ける」という一貫した行動がありました。

新型コロナウイルス感染症により売り上げが減った飲食店に対しても、食べ物に困っている児童養護施設の子どもに対しても、できることを即座に実行しています。

そして、困っている人を助けようと走り続けていたら、社会を結びつける大きなプロジェクトにまで成長していました。

これからも三好さんは走り続け、たくさんの人を巻き込み、たくさんの人を笑顔にしていくでしょう。

フードロスと貧困という大きな課題に真っ向から挑む三好さんの姿勢に、私も勇気をもらいました。

コノヒトカンのデータ

名前コノヒトカン
期日主に、こどもの日、クリスマスに岡山県内の児童養護施設や子ども食堂に「コノヒトカン」を提供
場所岡山県倉敷市笹沖1240-3
参加費用(税込)無料
ホームページコノヒトカン
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ぱずう(後藤寛人)

ぱずう(後藤寛人)

87年生まれの埼玉育ち。倉敷に転勤でやってきて6年目。メーカーの研究員として働きつつ、週末はゴミ拾いボランティア団体の代表として活動しています。ひとりも知り合いもいなかった倉敷の街。ゴミ拾いを通じてたくさんの出会いがあり、倉敷の魅力を教えてもらいました。余所者から見える倉敷の景色を伝えていきたいです!

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