アーキテクチャ(建築物)と、ツーリズム(観光)から生まれたアーキツーリズムという言葉があります。
機能面だけでなく、町並みの風情や情緒を生みだす建築物そのものの魅力に注目して観光を楽しんでもらおうとつくられた言葉です。
観光地の特産物を楽しむように、建築物の特徴や造形美、建築家の思いを味わえるくらしきアーキツーリズム2022が倉敷美観地区で開催されています。
記載されている内容は、2022年11月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
くらしきアーキツーリズム2022とは
岡山県の代表的観光地である倉敷美観地区。
江戸時代からの伝統的な木造建築を残しつつ、西洋や近代の建築物と見事に調和した町並みが特徴です。
くらしきアーキツーリズム2022では、数々の建築物のなかから、倉敷市出身の建築家・浦辺鎮太郎(うらべ しずたろう)が手がけた5つの建築物を紹介します。
建築物の知識がなくても大丈夫。
観光に訪れた人が誰でも楽しめるよう工夫されています。
ひとつ目の工夫が、各所に設置されたたてものカード。
倉敷考古館、大原美術館 分館、倉敷国際ホテル、倉敷公民館、倉敷アイビースクエアそれぞれに、施設の由来や特徴などが掲載されたカードが2種類ずつ用意されています。
ふたつ目は、おもいでファイル。
各所で集めたたてものカードを収納できるほか、カードには載っていない情報や浦辺鎮太郎のこだわりがおさめられています。
くらしきアーキツーリズム2022は、令和4年10月1日から令和5年1月31までの日程で開催予定。
おもいでファイルは一冊500円(税込)、300部のみの販売です。
浦辺鎮太郎と大原總一郎のまちづくり
くらしきアーキツーリズム2022で注目する浦辺鎮太郎は、大学を卒業後、地元倉敷に戻り就職しました。
その際、就職先の社長であった大原總一郎(おおはら そういちろう)と出会います。
浦辺と大原が建築物にもとめたものとは
もともと、まちづくりとしての建築を実現させようとしていた浦辺と、倉敷の土地を、歴史を大切に守り育てる欧州の古都のようにしたいと構想していた大原。
両者の出会いが、倉敷のまちづくりを進めていくことになります。
建築物をただの入れ物ではなく、倉敷の文化、風土、コミュニティも内包できるものとして設計・建築することに重きが置かれました。
同時に、歴史を受け継いで調和させていくことで、新しくも古い倉敷らしい町並みがつくられてきたのです。
筆者は、建築物と聞いてハードルの高さを感じていました。
建築物という言葉から、無機質な素材や大きな重機を扱うようすが連想されて、自分の生活とは程遠く感じられていたからかもしれません。
アーキツーリズム=建築物を観光する視点を持ってみて、がらりとイメージが変わりました。
理由のひとつは、建築物がまちづくりの一部だと認識できたこと。
もう一つの理由は、建築家の存在を知り、今ある倉敷の町並みが当たり前のものではないと気がついたことです。
もしも、浦辺鎮太郎が建築家になっていなかったり、大原總一郎と出会っていなかったりすれば、倉敷の町並みは今とはまったく違うものになっていたかもしれません。
建築物も町並みも、まるごと楽しんでほしい
建築物を観光するという新しい観光スタイルについて、くらしきアーキツーリズム2022担当、浦辺設計の中川奈穂子(なかがわ なほこ)さんにお話を聞きました。
くらしきアーキツーリズム2022開催の経緯を教えてください。
中川(敬称略)
倉敷市観光課のかたから、倉敷市の建築物に注目したアーキツーリズムをやりたいとお話をいただいたのがきっかけです。
建築物に注目するために、ギャラリーのようにひとつの場所で開催するのではなく、実物を見ながらまちのなかを歩いてもらおうという話になりました。
ただめぐるだけのスタンプラリーにするのではなく、もっと観光に重きを置いて、もっと思い出に残るようにしたいとの思いから、たてものカードとおもいでファイルというあえて紙媒体の特典をつけた観光イベントにしています。
たてものカードとおもいでファイルについて教えてください。
中川
最近は、写真もスマートフォンで撮影してデジタルに保管しておくことが多いと思いますが、旅の思い出として手に取ってながめられるものがあったらいいよね、との話からたてものカードができました。
たてものカードには、5つの建築物それぞれの写真と説明が載っています。
ひとつの建築物に2種類ずつ用意しました。
カードの反対面には鳥瞰図絵師(ちょうかんえずし)・岡本直樹(おかもと なおき)さんの鳥瞰絵図を載せ、2枚のカードを並べると建築物周辺の町並みが見られるようになっています。
おもいでファイルは、集めたたてものカードを収納できるファイルをつけようという話からできたものです。
ファイルには、旅の途中つい手に取ってしまったチラシや入館チケットの半券なども入れられれば、より旅の思い出がよみがえると思い、たてものカードよりも多めにポケットをつけています。
旅の終わりに本棚にすっと立てておけて、取り出せば思い出がよみがえるものにしよう、誰かに思い出話をするときにも一緒に見られるといいのではないかなど、いろいろな思いを盛り込んでつくっています。
とても思い入れを感じます。おもいでファイルは手づくりと聞きました。
中川
そうなんです。
手に取ったサイズ感や見た目、手ざわりなど、このファイル自体を魅力的なものにしたくて。
この紙質とこのひもがいい、という希望を聞いてもらえる業者さんが見つからず、自分たちでつくることになりました。
ファイルの角をカットする作業から、いろいろな細かい部分を手作業で整えたんですが、最終的にはファイルへの印刷も手作業になりました。
場所を借りて、機材をつかって、300部印刷したんです。
おかげで倉敷市観光課のかたにも喜んでもらえたんですが、もし次回以降もできるとしたら、もう少し簡単にすると思います(笑)。
建築家の思いなどから建築物を見ることがなかったのですが、視点を変えるだけで魅力が増しました。もし、興味を持った建築物のことをもっと知りたいと思ったときにオススメのものがありますか。
中川
おもいでファイル内に紹介しているWebサイト倉敷まちあるきマップをつかってみてほしいと思います。
今回のイベントで取り上げる建築物は5つですが、美観地区周辺54か所の建築情報を見ることができます。
倉敷まちあるきマップの地図は、岡本直樹さんが描いた鳥瞰絵図です。位置情報をつかうことで、鳥瞰絵図内で現在地を確認しながら楽しめます。
最後に、アーキツーリズムのポイントを教えてください。
中川
たてものカードだけでも楽しめますし、おもいでファイルをそろえてもらうとカードにはない建築情報が見られます。
たとえば、浦辺が大事にしていた理念を建物ごとにキーワードで表している部分です。
キーワードに注目して、改めて建物を見てもらうことで、より楽しんでもらえると思います。
建物を味わってもらえたら、5つの建築物を見て回る移動中の町並み、倉敷の美しい風景もぜひ楽しんでほしいです。
おわりに
初めて倉敷美観地区を訪れたとき、なんて風情のある町並みなんだろうと思ったことを覚えています。
ただ、それ以上深くひも解こうと思ったことはありませんでした。
古い日本の木造建築と西洋建築が混在していることに、違和感もなかったように思います。
裏を返せば、それだけ美観地区が調和のとれた景観だといえます。
その調和が偶然にできたものではないことを、くらしきアーキツーリズム2022を通じて教えてもらいました。
建築物は人がつくりあげたものという当たり前の視点に立ち返れたような気がします。
目の前の景観がいかにたくさんの思いと時間を込めてつくられたものかが、ヒシヒシと感じられるようになりました。
同時に、見どころがわかるだけで、建築物の観光がこんなにおもしろくなるのかと驚いています。
観光で訪れる人だけでなく、近隣に住んでいる人にも、いつもは意識することの少ない建築物の魅力を味わってほしいと思います。
くらしきアーキツーリズム2022のデータ
名前 | くらしきアーキツーリズム2022 |
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期日 | 開催期間 : 2022年10月1日から2023年1月31日まで ■おもいでファイル販売場所(1冊500円(税込)、300部限定) ●倉敷館観光案内所 ●倉敷物語館 ●倉敷アイビースクエア ●倉敷国際ホテル ●大原美術館ミュージアムショップ(10月15日から) ■たてものカード配布場所(無料) ●倉敷考古館 ●大原美術館 分館 ●倉敷国際ホテル ●倉敷公民館 ●倉敷アイビースクエア |
場所 | 倉敷美観地区 |
参加費用(税込) | ・おもいでファイル 1冊500円(税込)、300部限定 ・たてものカードは無料 |
ホームページ | 倉敷観光WEB くらしきアーキツーリズム2022 |