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【休館中】大原美術館 分館 ~ 創造への挑戦を支援する、今を歩む美術館

【休館中】大原美術館 分館 ~ 創造への挑戦を支援する、今を歩む美術館

観とこ / 2023.04.06

大原美術館にどんなイメージがありますか?

日本で最初の西洋美術中心の私立美術館であることから、モネ、エル・グレコ、ゴーギャン、ピカソといった西洋絵画の印象が強いかもしれません。

しかし、大原美術館の魅力はそれだけではないんです!

大原美術館 分館では、近代日本の洋画や現代アートなどが展示されています。そのコレクションは多様で、大原美術館が受け継いできたアートへの思いが現れているのです。

大原美術館 分館は新型コロナウイルス感染症拡大対策のため休館となり、その後も大規模修繕のため長期休館予定です。

一部作品は本館で鑑賞できますが、本記事で開館時の雰囲気と分館の魅力を感じてみてください。

大原美術館内は通常、撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただいています。

記載されている内容は、2023年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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大原美術館 分館とは

大原美術館 分館

1930年(昭和5年)に設立された大原美術館は、戦後に拡張し、現在は本館、分館、工芸・東洋館にわかれています。

分館は、倉敷出身の建築家「浦辺鎮太郎」が設計を行い、1961年(昭和36年)に増設されました。現在は、近代日本の洋画や、現代アートなどが展示されています。

2003年には「DOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選ばれました。

大原美術館 分館の成り立ち

大原美術館 分館

日本で本物の西洋絵画をほとんど見ることができなかった明治~大正期、事業家・大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)の支援のもとで、画家・児島虎次郎(こじま とらじろう)は日本の芸術界のために絵画を買い集めました。

このときの作品を公開するために開館したのが、大原美術館です。

大原美術館 分館は、大原孫三郎の息子である大原總一郎(そういちろう)の時代に建てられました。

当事、大原美術館はお客さんが多いわけではなかったそうです。しかし總一郎は「美術館は倉庫のようによどんだ単なる陳列場であるのではなく、常に生きて成長しなければならない」と考え、熱心に収蔵作品を拡張しました

西洋の絵画と同時に、近代の日本人作家の作品も収集。

有名作家のものが多く収蔵されていますが、「有名だから」という理由で選んだわけではありません。總一郎と彼が信頼する人により、「大原美術館として残すべき」と判断された作品が買い集められました。

近代日本の絵画を展示する場所として1961年(昭和36年)に増設したのが、現在の分館です。

地下展示室は、總一郎が亡くなったあとに増設されました。

現在は、近現代の作品を中心に展示しています。

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大原美術館 分館の構造

大原美術館 分館

取材を行なった2019年4月当時、大まかに部屋ごとに時代が分かれていました。

  • 庭:彫刻作品
  • 分館東側の展示室:近代の日本人作家の作品
  • 分館西側の展示室:主に戦後の日本人作家の作品
  • 分館地下1階展示室:さらに最近の作品

庭には、ロダン、ムーア、イサム・ノグチなどの彫刻が並び、出迎えてくれているかのよう。

近代日本人作家の作品のある分館東側の展示室では、関根正二(せきね しょうじ)、安井曽太郎(やすい そうたろう)、青木繁(あおき しげる)など、「日本近代洋画の重鎮」と呼ばれる人たちの絵画や彫刻が見られます。

どこか共通した空気を感じられ、この時代の日本人作家の特徴が現れています。一方で作家の個性も発揮されていて、たとえば顔の輪郭線の描き方を見ても多様です。

個人的な印象としては、「湿度が高そうに見える作品が多い」と感じました。

大原美術館 分館

分館西側の展示室では、戦後の現代美術を代表するような作品を見ることができます。

抽象度が上がり、「これは何なのだろう?」と思うような不思議なものが多く、わくわくしました。

地下展示室には、より現代の作品が。廃材を組み立てて作ったバイク、木と灰でできた大きなオブジェなど、立体作品も目を引きます。

取材時は貸出中でしたが、最近までは蜷川実花(にながわ みか)さんの写真作品が並んでいたそうですよ。

大原美術館 分館の特徴 作家支援

大原美術館 分館

大原美術館は、新しい創造活動への挑戦を支援・推進する使命があると考え、さまざまな作家支援活動を行なっています

支援活動と密接な作品が見られるのも、分館の特徴です。

創立者の孫三郎は、才能ある作家の活動を支援して、虎次郎とともに日本芸術界の発展のために絵画を収集し、總一郎はその思いを引き継いで美術館を成長させました。

そして現在も、「今を歩む美術館」としての使命感と社会に寄与する志が、脈々と受け継がれていることを感じられます。

大原美術館が行なっている作家支援活動を簡単に紹介しましょう。

ARKO(Artist in Residence Kurashiki, Ohara)

「ARKO(Artist in Residence Kurashiki, Ohara)」は、大原美術館が2005年から実施しているアーティスト・イン・レジデンス・プログラムです。

「アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」とは、アーティストが異なる文化環境に一定期間滞在し、創作活動を行なうための支援活動のこと。

「ARKO」では、作品制作費と滞在期間中の住居や生活費を保証することで、若手作家が制作に集中できる環境をつくっているのです。

3か月間、児島虎次郎設計による広大なアトリエを使って作品を制作し、制作後は大原美術館での展示を行います。

AM倉敷(Artist Meets Kurashiki)

「AM倉敷(Artist Meets Kurashiki)」はアーティストが倉敷との出会いを通じた作品を制作し、その公開を行う事業です。2007年より実施しています。

たとえば2016年には、NHKの番組「びじゅチューン!」の作詞・作曲・歌・アニメーションを1人で手掛ける井上涼(いのうえ りょう)さんによる、大原美術館を題材にした動画が公開されました。

作家支援であり、地域貢献でもある事業です。

VOCA(Vision of Contemporary Art)展 大原美術館賞

「VOCA展」は1994年から続く平面作品を対象とした展覧会で、若手アーティストにとっての登竜門です。

2005年より大原美術館賞1名を独自に選出し、受賞作を購入しています。

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大原美術館 分館の見どころ 作品

個人的に特に気になった作品を紹介します。

著作権の関係上、一部作品は写真が掲載できません。ご了承ください。

岸田劉生(きしだ りゅうせい) 「童女舞姿」(通称:麗子像)

大原美術館 分館

分館で、最も有名な絵画ではないでしょうか。当事10歳の娘・麗子さんを描いた作品です。

岸田劉生は麗子さんをモチーフにした作品をいくつも残していて、それらは「麗子像」と呼ばれています。

少し怖いと感じてしまう顔が、インパクト大!

生々しくてしつこくグロテスクな、「デロリ」とした味わいを求めたそうです。

ちなみに麗子さんの写真を見るとかわいい女の子で、絵とそっくりとはいえません。伝えたい美意識の現れなのですね。

熊谷守一(くまがい もりかず) 「陽の死んだ日」

息子が亡くなったときに筆をとって描いた作品です。

絵筆の荒々しさに、辛さと悲しさと愛おしさがほとばしっているようで、観ていて胸が苦しくなりました。

草間彌生(くさま やよい) 「無題 (No.RED.Z.A.)」

水玉の「南瓜」で有名な草間彌生さんの、若いころの油絵です。

真っ赤な網目模様がびっしりと描かれています。

「なんだか怖いけれど気になる、引き込まれる」、そんなふうに感じました。

青木野枝(あおき のえ) 「ふりそそぐもの/倉敷」

青木野枝 ふりそそぐもの/倉敷

地下へ降りる階段の窓から見えるのは、鉄を溶接した彫刻作品。

鉄のイメージと裏腹に、軽やかさを感じさせる作風が特徴です。

2013年に「有隣荘」の屋内で展示された作品を、分館の展示空間に合う形に作り変え、設置されました。

「分館が開館したときからそこにあったのでは」と錯覚してしまうほど、空間と見事に融合しています。

川久保ジョイ(かわくぼ じょい) 「千の太陽の光が 一時に天空に輝きを放ったならば」

「VOCA展2015」大原美術館賞受賞作品。

オレンジのグラデーションがきれいな、縦3メートル×横2.4メートルの大きな作品です。

実は銀塩フィルムを福島県内の避難区域などの地中に埋め、数か月後に取り出し、現像した写真作品だそう。

松井えり菜(まつい えりな) 「ウパの垂涎(すいえん)」

「AM倉敷(Artist Meets Kurashiki)」の展示作品です。

松井えり菜さんは、倉敷市出身のアーティスト。実は筆者にとっては1学年上の高校の先輩なんです。

モネの『睡蓮』をモチーフに、睡蓮の池から自身の作品に何度も登場しているウーパールーパーが顔を出しています。

松井えり菜さんのウーパールーパー 本人の講演会に飾られていたかぶりもの (2010年撮影)
松井えり菜さんのウーパールーパー 本人の講演会に飾られていたかぶりもの (2010年撮影)

「もし睡蓮の池が、ウーパールーパーのよだれだったら!?」なんて想像すると、面白い!

松井さんの自由な発想にも、それを受け入れる大原美術館の懐の深さにも感動しました。

おわりに

大原美術館 分館

近代から現代の多様な作品を見ることができる、大原美術館 分館。

その根底には、創立者・孫三郎の時代から受け継いでいる、人とアートが出会う場をつくり、アートを生み出す人々を支援しようという思いがあります。

面白いもの、悲しいもの、不思議なもの。作家は何を見て、何を感じて、どんな思いで制作したのだろう――。

アートに出会う楽しさを感じられる、さまざまな作品が展示されています。

筆者が分館を初めて訪れたのは、大原美術館を3回目に訪れたときでした。それまでは本館しか見ていなかったんですね。

そして、「分館、すごく良い! これまでなんてもったいないことをしていたのだろう!」と激しく後悔したことを、はっきりと覚えています。

大原美術館 分館

ぜひ、本館、工芸・東洋館、ミュージアムショップと合わせて訪れてみてください。

創立から現在まで、常に作家と鑑賞者に寄り添って活動している大原美術館の思いを感じることでしょう。

取材協力

大原美術館のデータ

大原美術館 分館
名前大原美術館
所在地岡山県倉敷市中央1-1-15
電話番号086-422-0005
駐車場なし
開館時間【12月~2月】
午前9時〜午後3時(最終入館:午後2時30分)

【3月~11月】
午前9時〜午後5時(最終入館:午後4時30分)
休館日
祝日、振替休日と重なった場合は開館
入館料(税込)【一般】
大人:2,000円
高校・中学・小学生:500円
支払い方法
  • 現金
  • クレジットカード
  • Suicaなど交通系ICカード・iD・QUICPay・nanaco・PayPay
予約について
個人であれば予約不要(入場整理券の予約不可)
タバコ
トイレ

子育て


授乳室は工芸館にあり
オムツ替えシートは本館2階および工芸館にあり
バリアフリー


ホームページ大原美術館公式HP
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吉野なこ

吉野なこ

写真と旅を愛する、倉敷そだちのデザイナー。
倉敷のときめくものや素敵なところをお届けします!

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大原美術館 分館

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