鷲羽山を訪れたことはありますか?
岡山県内や倉敷市内に住んでいる人であっても、行ったことがないというかたも多い鷲羽山・下津井地域。
鷲羽山展望台に登ると、一面に広がる瀬戸内海と、四国と本州をつなぐ瀬戸大橋が一望できます。
「下津井の魅力をもっと知ってもらいたい」と活動しているのが、下津井地域おこし協力隊の中臣さくら(なかとみ さくら)さんです。
なぜ移住の地として下津井を選んだのか、そしてどのような活動をしているのかが気になった筆者。
中臣さんに活動の話を聞きに行きました。
記載されている内容は、2024年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
人と接する経験に惹かれ、飲食業の道へ
中臣さくらさんは、大学を卒業するまでの22年間を、地元である大阪府で過ごしました。
就職先を決めるとき、一度は首都に住んでみたいなと思い、東京にあるお酒を中心に提供する飲食店チェーンに就職します。
「当時は気づいていませんでしたが、そのときから人と接することに魅力を感じていたのかもしれません」と語る中臣さん。
就職後は首都圏を中心に1年から1年半のスパンで店舗を異動し、仙台では新店舗の立ち上げにも関わったそうです。
しかし、「もともと死ぬまで東京にはいないだろうな」と思っていた中臣さんは、就職から5年半が過ぎ東京で店長を務めるようになったころ、新たなチャレンジに踏み出します。
新たなチャレンジの場「下津井」
中臣さんが次に目指した夢は、海の近くで飲食店を開くこと。
チャレンジできそうな移住先を探すことに。
決め手は下津井の「人」
「海の近くの地域」を探すなかでも、前職で東日本に住んだ経験から温暖な西日本のほうが自分に合っていることや、実家で暮らす両親と会う時間も大切にしたいことから、自然に「岡山県」へ絞られていったそうです。
岡山県のなかでも、行政が移住支援をしている地域を周りながら移住地を検討していた中臣さん。
下津井を選ぶ決め手となったのは、人との出会いだったそうです。
1人目はなんば建築工房の正田順也(まさだ じゅんや)さん。
オンラインの移住説明会を聞いていたとき、倉敷市の代表として登壇しており熱量を持って話をする姿が印象に残ったそうです。
2人目は下津井わかめを販売する吉又商店の余傳吉恵(よでん よしえ)さん。
下津井を訪れたとき、余傳さんに出会い、そこでも下津井に対する熱い思いを聞きます。
そのとき、余傳さんに正田さんの話をしたところ、その場で電話したあと正田さんが町案内をしてくれたそうです。
これらの出来事から「下津井の人の親切さ、温かさに触れたことで良いところだな」と感じた中臣さんは、下津井への移住を決意します。
地域おこし協力隊として
下津井の人に魅力を感じ、下津井に移住することを決めた中臣さん。
しかし、もともと「地域おこし協力隊」として移住すると決めていたわけではなかったそうです。
初めて訪れた鷲羽山。そこで感じた「もったいない」
移住を検討しているときに移住支援として利用した案内サービス。
中臣さんが最初に訪れた場所は「鷲羽山・東屋展望台」。瀬戸内海に浮かぶ瀬戸大橋を真正面から見られるスポットです。
そのとき、景色の良さに感動するのと同時に、見ている人がほとんどいない状況に「もったいない」と感じたそうです。
「下津井のために何かできないか」そう考えているとき、タイミング良く下津井地域の地域おこし協力隊募集を見つけ応募します。
そして、2022年(令和4年)4月に着任しました。
下津井では1人目の協力隊受け入れ。つながりから仕事が生まれる
中臣さんは地域おこし協力隊として、以下のような活動をおこなっています。
- 定例会議への出席
- 鷲羽山ビジターセンターでの月一回のワークショップ開催、SNSの活用のお手伝い
- 地域のお祭り、地域行事への参加
- 鷲羽山ビジターセンターでのコーヒーの提供
- 下津井酒場の開催
- FMくらしき「がんばりょうるで児島」パーソナリティー
- 移住支援
地域おこし協力隊の活動内容は自治体によって異なります。
自治体から具体的な活動内容が決められていることもあれば、何をするか地域おこし協力隊自身で一から考え、決めていく自治体もあるのだとか。
下津井は後者。中臣さんが1人目の受け入れだったこともあり、具体的に何をするのかを決めていくところが地域おこし協力隊着任後の最初の活動だったそうです。
ここでも中臣さんの活動の核となったのは、2つの想いだったそうです。
- 海の近くで飲食店を開きたい
- 鷲羽山の景色が知られていないのはもったいない
そこで鷲羽山ビジターセンターでコーヒーを不定期で提供する活動を始めることにします。
飲食店で勤務経験がある中臣さんですが、当時(2022年)コーヒーを淹れるのは未経験。
下津井にある喫茶店「時の回廊」のマスターからコーヒー豆を仕入れ、コーヒーを提供する活動を進めていくなかで生まれたつながりから、次の活動が生まれていきます。
児島のお店を紹介するマップ作成もその1つです。
時の回廊オーナーの黒下さんが、中臣さんを紹介したことで始まりました。
中臣さんが児島のお店に声をかけ、取材をします。
お店に足を運び、話を聞いてみると、お店を立ち上げた経緯などを聞けるだけでなく、そのなかで「私も移住者なんです」という声を多く聞いたとのこと。
着任時は「活動が何もなかったらどうしよう…」と心配していた中臣さんでしたが、人とのつながりから活動が広がっていき、最初の不安は一気に吹き飛んでいったそうです。
つながりを次につなげる
人とのつながりをもとに、さまざまな活動を続けている中臣さんは2024年4月で任期3年目(=最後の1年)に入ります。
最近の活動は「次につなげる」活動になっているようです。
人をつなぎ、下津井のおいしいものをつなぐ
活動を通してできた人のつながりは、中臣さんの活動だけでなく下津井の産業を支える他の人の活動にも広がっています。
下津井のわかめの写真をInstagramに投稿していたところ、岡山市で開催されている「せとうちファーマーズマーケット」に出店しませんかというDMが来たそうです。
基本的には農産物が出店されていることがほとんどであるこのイベントですが、
「もっと下津井の海産物を知ってほしい。地産地消をしてほしい」
という思いから、下津井の漁師さんたちが出店できるよう中臣さんがつなげました。
そこで出店をするようになったのが下津井の漁師「武豊丸(ぶほうまる)」の岡本さんです。
たこやひじきの漁をおもにおこなっている岡本さんは、一から売り先を探していました。
そこで、中臣さんがファーマーズマーケットなど、出店する場所につなげていき、そこから岡本さん自身で海産物を売りに行くところまでつながっていったとのこと。
中臣さんは、「自分が作ったつながりが、自分がいなければできないのではなく、自分が離れても続き、派生していくことが大切だと思っています」と語ります。
何かを届け、新たなものを生み出そうとするとき、新しい人や場とのつながりは必要不可欠なもの。
一方で、その仲介となる人がいないとつながれないようでは、本当の意味でのつながりができたとは言えませんよね。
地域おこし協力隊として、自分がいなくても自立したつながりを作っていけるように人や場をつなぐことを大切にしている中臣さんの考えが伝わってきました。
地域おこし協力隊のつながりから0から飲食店を立ち上げる
地域おこし協力隊は、「地域おこし協力隊ネットワーク」を中心としたOB・OGとの強いつながりがあります。
現在、中臣さんは倉敷美観地区にオープン予定のインバウンド向け施設内にできる「日本酒の呑み屋」を立ち上げる手伝いをしているそうです。
お酒の提供をする飲食店での勤務経験はあったものの、「そのときとはまったく違う」と中臣さんは話します。
前職では内装やメニューなど、お店のことはすべて決まっている状態から、従業員の教育をどうするか、などのことに焦点が当てられていました。
しかし、倉敷美観地区にオープン予定の飲食店は本当に0からの立ち上げ。
メンバーと一緒にメニューや内装はどのようにしたら良いか、何人でお店を運営するのかを話し合ったり、酒蔵を訪問したりして、これからやっていきたい「飲食店を持つ夢」に一歩ずつ近づいています。
観光客と地元の人がつながれる場所を―次の目標へ
これからの目標を教えてください。
中臣(敬称略)
実店舗を持って、お酒を通したコミュニケーションができる場を下津井に作りたいです。景色が良く、開放的な場所でお店を開きたくて、今物件を探しています。
現在繋がれる場として開催している「下津井酒場」は、不定期のイベント。
観光で訪れたかたや移住者と地元の人が常設でつながれる場がないので、そういった場所をつくりたいです。
たしかに、下津井に観光で訪れてもなかなか地元の人とつながる機会がないなと感じています。
中臣
そういった環境を作ることで、若い人、とくに20代の人が増えてほしいですね。
お店が増えれば移住者も増えるのではないかと思っていて。
まちづくりに正解はありませんが、住んでいる私自身が楽しみながら活動することがまずは大事だと考えています。
ぜひ、鷲羽山・下津井エリアに
最後に、メッセージをお願いします。
中臣
ぜひ、鷲羽山・下津井エリアに足を運んでほしいです。おいしい飲食店が増えてきているんですよ。
また、鷲羽山・下津井にとどまらず児島エリアも訪れていただきたいですね。ベティスミスや児島学生服資料館など、行ったら面白い場所がたくさんあります。
新たなつながりから生まれる新たな下津井の魅力
筆者自身は下津井で生活しているなかで、下津井・鷲羽山地域にどんどん素敵なお店が増え、魅力がSNSなどで多く発信されていくようになるのを実感していました。
そこには、ただお店が増えるだけではなく、人や場を新たにつなぎ、そしてチャレンジをしようとする中臣さんや地元や移住者の姿があったからこそなのだと、インタビューを通じて強く感じました。
昔ながらの変わらない魅力を残しながら新しく生まれ変わっていく下津井・鷲羽山地域のようすをぜひ訪れて実感してみませんか。
中臣さくらさんの活動情報は、Instagramをチェックしてください。