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高梁川流域学校 〜 「備中ならでは」の自然・風土・文化や産業を五感で学び、流域の未来に希望を持てるように

高梁川流域学校 〜 「備中ならでは」の自然・風土・文化や産業を五感で学び、流域の未来に希望を持てるように

知っとこ / 2020.08.06

高梁川流域学校の代表理事・坂ノ上 博史さんへインタビュー

高梁川流域学校:坂ノ上 博史 代表理事

高梁川流域の地域が連携し、地域を学ぶ活動をしている高梁川流域学校。

高梁川流域学校の代表理事・坂ノ上 博史(さかのうえ ひろし)さんへ、高梁川流域学校が生まれた経緯、特徴、今後の抱負などについて話を聞きました。

起源はライン川流域を参考にした高梁川流域の連携構想

高梁川流域学校:高梁川マップ
写真提供:高梁川流域学校
高梁川流域学校が生まれたきっかけは?

坂ノ上 (敬称略)
きっかけは、1954年(昭和29年)にまでさかのぼります。

1937年(昭和12年)、のちに大原美術館の理事長や、倉敷紡績(クラボウ)・倉敷絹織(クラレ)の社長となる実業家・大原 総一郎(おおはら そういちろう)が新婚旅行に出かけました。

ヨーロッパを中心に回ったのですが、そのなかでドイツのライン川流域で、流域の各地域がそれぞれの特色を持ちながら河川を中心に互いに連携していることに大原は感銘を受けたといいます。

これをヒントに大原は地元の高梁川をライン川に見立て高梁川流域の市町村が連携していく必要性を提唱しました。

そして1954年に誕生したのが「高梁川流域連盟」です。

自治体の枠組みを超えて、高梁川をもとにした連携をする団体として、岡山県内の高梁川流域の自治体が参加しました。

市町村合併で参加市町村に変化はありますが、現在も高梁川流域連盟は存在しています。

高梁川流域学校:高梁川流域連盟ロゴ

画像提供:高梁川流域連盟

高梁川流域連盟と高梁川流域学校は違う?

坂ノ上
高梁川流域連盟と高梁川流域学校は、別の団体・組織です。

高梁川流域学校が誕生したのは、2015年(平成27年)。

この数年前に日本の人口増加のピークが過ぎ、国が東京一極集中の是正や地方分権を考えるようになりました。

これを受けて、2015年に総務省が中心になって「中枢都市圏構想」が生まれます。

高梁川流域は、全国でもトップクラスの早さで中枢都市圏構想の認定を受けました

これは、1954年からすでに高梁川流域で連携をしてきた歴史があるからです。

そしてこの中枢都市圏構想の動きのなか、高梁川流域でも民間で「地域教育」をしている団体などが連携するための取り組みとして誕生したのが、高梁川流域学校でした。

実は、地域教育の連携も2003年(平成15年)からおこなっていたんです。
その活動があったから、高梁川流域学校が生まれました。

備中国は国域と高梁川流域がほぼ一致する全国でもめずらしい地域

高梁川流域学校:高梁川(総社市秦付近)
高梁川(総社市秦(はだ)付近)
全国には大小さまざまな川があるが、特に高梁川流域でこのような取組が進んできた背景は?

坂ノ上

これは、備中国と高梁川の関係性によるところがあるかもしれません。

備中国の範囲と高梁川流域はほぼ一致するんですよ。

もちろん、細かくいえば備中国内には別の流域が一部ありますし、高梁川の流域は備後国までおよんでいるんです。

ですが、大河川の流域の大部分によって一国が形成されているのは、全国的にもとてもめずらしいと聞いています。

旭川や吉井川だと、下流は備前国で、上流は美作(みまさか)国です。
備後国を見ると、南部は芦田川流域ですが、北部は江の川(ごうのかわ)流域。

昔、河川は水運を使った交通機関としても機能していました。

備中の場合、一国の大部分が同じ河川の流域だったので、高梁川の水運を通じて、国全体がひとつのまとまった文化圏なんです。

いっぽうでは江戸時代になると、高梁川流域には藩や旗本領・天領など、領地が非常にたくさんありました。

江戸時代の高梁川流域は、違った背景を持った地域が、ゆるやかにつながりあっていたんです。
ほぼ岡山藩領で占められていた備前国とは、違った特徴でした。

こうした地理的・歴史的背景があるので、高梁川流域での連携が生まれやすかったかもしれませんね。

地域のことを五感を使って体験学習する

高梁川流域学校:備中志塾で伝統的なハレの食事を実食
備中志塾で伝統的なハレの食事と作法を体験 (写真提供:高梁川流域学校 (備中志塾))
具体的にはどのように学んでいくのか。

坂ノ上
学校だからといって、小中学校や高校のような机に座って先生の話を聞くということではないんですよ。

私たちは「五感を使って学ぶ」と表現することも多いんですが、体験学習を中心にして学んでいきます。

高梁川流域学校には「自然を楽しみ、多様性を知る」「節季を感じ、旬を味わう」「先人に学び、匠に習う」「未来を創る仕事を興す」「風土を学び、次世代に繋ぐ」という五つの学びのキーワードがあるんです。

たとえば、地域に古くから伝わる食文化の特徴を聞いたうえで実際に食べてみたり、地域の人にインタビュー取材をおこなって記事を書いて本にしてみたり、みんなで楽しく作業しながら造形を学んだり…。

流域にある自然や歴史・文化・産業などを「地域教育」の教材としています。
だから、学ぶ素材や学びかたは無限大ですね。

高梁川流域に住んで、その後離れてもまたこの地域に戻ってきたいと思えるように

高梁川流域学校:坂ノ上 博史 代表理事
坂ノ上代表理事は、発足時から運営に関わっていると聞いたが、高梁川流域学校にどのような思いがある?

坂ノ上
高梁川流域に住む人が、学びを通じて高梁川流域という地域を好きになるようになってほしいですね。

転勤族の子供だった人たちは、親が転勤になれば実家も移動してしまいます。

だから、大人になって高梁川流域に帰ってくるかどうかわからないですよね。

私はそんなふうに、高梁川流域に住んだあとこの地域を離れても、またこの地域に戻ってきたいと思ってもらえるようになってほしいんです。

そのために、高梁川流域学校を通じてこの地域を知り、地域を好きになってほしいと思います。

高梁川流域学校:学生インターンシップのようす
写真提供:高梁川流域学校
坂ノ上理事も地元が好きだった?

坂ノ上
いいえ。地元を出たいと思っていましたし、実際に出ていた時期もありました。

ただ、高梁川流域での連携の話を聞いたとき、考えが変わってきたんです。

ひとつの自治体だけで考えたら、資源や人脈も、どうしても限られたものになりますよね。

でも高梁川流域というエリアでとらえれば、地理的な観点では中国山地から瀬戸内海、水島コンビナートまでつながって、森・里・川・海・街のすべてが含まれてきます。

また歴史的な観点でも古代吉備国から、中世の新見庄、近世の高梁、近現代の倉敷まで。

産業の面でも1次・2次・3次と多岐にわたって、つながりや新しい可能性が広がってくるように思います。

そのように、会いに行ける距離感顔の見えるつながりをもって、暮らしやすく、そしてさまざまなチャレンジができる地域になると思うんです。

岡山県とか中国地方、瀬戸内海沿岸とかの範囲でもいいんですが、高梁川流域だと文化が共通していて距離感も遠すぎず、ちょうどいいんですよね。

同じ水を飲んでいる仲間のつながり」と表現する先輩もいます。

中高生や大学生などで、いったん地域の外に出たり、あるいは、首都圏や他の地域からでも新しいチャレンジがしたいと思ったときにも、「『高梁川流域』のつながりがあるじゃないか」と思ってもらえるような地域になるように取り組んでいきたいですね。

高梁川流域内のおもしろい人たちにドンドン会っていきたい

高梁川流域学校:聞き書きのようす
写真提供:高梁川流域学校
今後の抱負や目標、やってみたいことなどは?

坂ノ上
私は数ヶ月前(2020年6月)に代表理事になったばかりなんですが、まずやりたいことは、情報発信です。

いままでも情報発信はしていましたが、それぞれの活動ごとの発信でした。

これからは高梁川流域学校全体としての発信をしたいですね。
もっと工夫したり方法を変えたりしながら、情報発信に力を入れていきたいです。

まず、高梁川流域学校というおもしろいことをしているところがあるってのを、多くの人に知ってもらわないといけませんから。

あとは、高梁川流域内のたくさんの人と会っていきたいです。

まだまだ流域内におもしろい活動をされているかたがたくさんいます。
「流域」といっているからには、そのような人とできる限りたくさん会いたいですね。

そして、それを何かしらの形で発信し可視化していければいいと思います。

とはいっても、やはり新型コロナウイルス感染症のことも心配です。

そこで、オンラインでの交流やインターネットでの情報発信など、今後は積極的に取り入れていきたいと考えています。

会いに行ける程よい距離感と、デジタルのコミュニケーションのメリットと、どちらも生かした取り組みにしていきたいです。

三つめは、学校教育でできないことをやって、学校教育を補完していければいいかなと。

たとえば、学校は基本的に同世代の繋がりですよね。
年齢が違う人といっても、前後数歳くらい。

大人といえば、先生くらいですよね。

でも、社会に出たとたんにさまざまな年代の人、いろいろなバックボーンの人と出会うわけです。
いきなり学生時代と違う環境に放り出されると、適応するのが大変だと思います

いっぽう高梁川流域学校は、いろいろな世代や経験の人が参加しています。

ですから学生時代に高梁川流域学校へ参加することで、いろいろな人たちを触れ合える経験ができる場所にしたいですね。

学生時代から多くの人や世代と触れ合う経験をしていれば、社会に出てもスムーズにやっていけるのではないでしょうか。

そんな形で学校教育の補完ができればいいなと思います。

おわりに

高梁川流域学校:坂ノ上 博史 代表理事

「地域活性化」「地方分権」「地域主権」など、今後は地方のあり方も変わってくるといわれています。

しかし、それぞれの土地に住む人が、その土地に愛を持っていなければ実現はできないのかもしれません。

そのためには、自分の住む地域を知ることが大事です。

高梁川流域は早くに連携中枢都市圏に指定されました。

高梁川流域学校では郷土の自然や文化などを教材として、ただ単に学ぶだけでなく、体験することで学んでいき、地域を好きになる活動をしています。

楽しみながら地域を好きになり、いつの間にか地域のことを知っているというのは、とてもおもしろい試みではないでしょうか。

歴史があり、奥深い文化のある高梁川流域について、楽しく遊びながら学んでいきませんか。

一般社団法人 高梁川流域学校のデータ

高梁川流域学校:関連書籍
団体名一般社団法人 高梁川流域学校
業種非営利団体
代表者名坂ノ上 博史 (代表理事)
設立年2015年(平成27年)
住所事務局所在地:岡山県倉敷市中央2丁目13-3 (住吉町の家 分福 内)
電話番号086-527-6248
営業時間午前10時〜午後6時
休業日土、日、祝日
ホームページ高梁川流域学校
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アサノ ・ヨウスケ

フリーランスの取材・インタビューライター、フォトライター。地域の文化・地理・歴史・食べ物などに精通。企業の社員インタビューや事例紹介、採用コンテンツも。地域情報サイトも運営。
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