就労継続支援B型事業所「ひょん」~「なんでそんなん?」が価値に変わる。利用者も地域もゴチャ混ぜで一緒に輝く古民家

日本の社会福祉は、高齢化や障がい者支援のニーズが高まる一方で、人手不足や財源が大きな課題になっています。障がい者福祉の分野でも、就労支援や日常生活のサポート、地域活動への参加など取り組みは広がっていますが、誰もが安心して自分らしく過ごせる場所はまだ十分に整っているとはいえません。

「自分らしく生きたい」「誰かの役に立ちたい」

このような願いは、障がいの有無にかかわらず持っています。しかし、障がい者は働く場や居場所が限られ、不安や孤独を抱える人も少なくありません。

こうした「なんでそんなん!?」と、言いたくなるような課題に向き合ってきたのが、岡山県都窪郡早島町を拠点とする「株式会社ぬか」です。

代表の中野厚志(なかの あつし)さんは、障がい者の個性を「困りごと」ではなく「面白さ」として受け止め、新しい価値に変えていく取り組みを続けています。

写真左が中野厚志さん(なかの あつし)
写真左が中野厚志(なかの あつし)さん

記載されている内容は、2025年10月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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株式会社ぬかとは

ロゴ

株式会社ぬか(以下、「ぬか」と記載)は、福祉とアートを融合させたユニークな福祉事業者です。社名は漬物の“ぬか床”から名付けられ、「視点を少し変えると新しい価値が生まれる」という思いが込められています。

「ぬか」は2025年現在、以下四つの事業をおこなっています。

  1. 生活介護事業所ぬかつくるとこ(2013年設立)
    成人が日中を過ごす場。自分や仲間と向き合いながら、挑戦も失敗も含めて受け止められる時間を大切にしています。
  2. アトリエぬかごっこ(2018年設立)
    小学生から高校生までを対象とした放課後等デイサービス。工作を通じて遊びを考えたり、会話を楽しんだり、ときには「何もしない」時間も大切にする、自由な表現の場です。
  3. 相談支援事業所ちぬ(2023年設立)
    福祉サービスを利用するための相談窓口。海の「ちぬ(チヌ=黒鯛)」のように、人と人、そして地域と人とをつなげていく役割を担っています。
  4. 就労継続支援B型事業所ひょん(2024年設立)
    働くことや創作活動を通じて地域とつながる場。思いがけない出会いや偶然の出来事を「ひょんなこと」として楽しみながら、新たなつながりを広げています。

「なんでそんなん?」から生まれる新たな価値

ひょんの一周年記念
ひょんの一周年記念

福祉の現場では、利用者の独特なこだわりやくせが「困りごと」として扱われることが少なくありません。

ですが中野さんは、利用者を「ぬかびと」と呼び、「なんでそんなん?」と問いかける姿勢で向き合います。その視点から、思いがけない面白さや新たな価値が生まれるのです。

ぬかびと
施設を利用するかたがたのこと。
単なる「利用者さん」ではなく、その人らしさや個性を尊重する意味が込められています。ちょっとした“くせ”や“こだわり”も、その人らしさとして受け止めるのがぬか」のスタイルです。

「困りごとを直すのではなく、その人らしさとして一緒に楽しむ。そこから福祉の新しい形が広がると思うんです」と中野さんは語ります。

「ひょんなことから」生まれた「ひょん」

「ぬか」がおこなう事業のうち、この記事では、2024年に倉敷市で始まった就労継続支援B型事業所「ひょん」を中心に紹介します。

「ひょん」は、古民家の温もりとユニークな発想が合わさった場所です。利用者が自分らしく働き、地域とつながりながら新しい価値を生み出しています。

就労継続支援B型事業所:ひょん
就労継続支援B型事業所:ひょん
就労継続支援B型事業所:ひょん

建物との偶然の出会い

「ひょん」の事業所は倉敷市西阿知にあります。

遍照院の道路の向こう側:ひょん

遍照院の道路の向かい側にある住宅街に足を踏み入れると、昔ながらの一軒家が並ぶなかに、控えめな看板が目に入ります。

古民家の裏側:ひょんの看板
古民家の裏側:ひょんの看板

この建物との出会いは、まさに偶然だったそうです。もともと予定していた場所が使えなくなり、探し直して見つけたのがこの古民家。

なんでそんなん博物館
なんでそんなん博物館
古民家の表側:なんでそんなん博物館の看板
古民家の表側:なんでそんなん博物館の看板

調べてみると、戦後に岡山で社会活動を広げた永瀬隆(ながせ たかし)さんが拠点としていた建物だとわかり、中野さんは「ご縁を感じ、使命感を持って受け継いだ」と語ります。

その思いは、福祉と表現、地域をつなぐ活動へと自然につながり、今も広がりを見せています。

「ひょん」を形づくる四つのコーナー

「ひょん」では、利用者(一般企業での就労が困難な、障がいや難病のあるかた)が無理なく楽しく働けるように活動を展開しており、内部には大きく4種類のコーナーがあります。

販売品の購入や食事の利用は現金やクレジットなどのキャッシュレスでの支払いが可能です。

  • 販売コーナー
  • 食事コーナー
  • 展示室
  • なんでそんなん博物館

販売コーナー

販売コーナーには、「ぬかびと」の手作り作品を中心に、調味料や食品、本などが並んでいます。どれも一人ひとりの個性や、その人らしさが感じられる品ばかりです。

玄関
玄関
手作りTシャツ:そのうち
手作りTシャツ:そのうち

食事コーナー

食事コーナーは体にやさしい“発酵”をテーマにした「ひょんのわっぱ弁当」や、季節ごとの飲み物や甘いスイーツを楽しめる憩いの場です。

季節ごとにメニューが変わります。
ひょんのわっぱ弁当
ひょんのわっぱ弁当
季節ごとにメニューが変わります。
季節ごとにメニューが変わります。
イチゴかき氷(画像提供:株式会社ぬか)
イチゴかき氷(画像提供:株式会社ぬか)
レモンソーダ(画像提供:株式会社ぬか)
レモンソーダ(画像提供:株式会社ぬか)
スウィーツ(画像提供:株式会社ぬか)
スウィーツ(画像提供:株式会社ぬか)

展示室

展示室には以下のようなものがあります。

  • 展示品コーナー
    全国の協力団体から提供された作品をテーマごとに展示・販売。
  • 工作コーナー
    利用者が自由に創作を楽しめる空間。心に寄り添うひとときを過ごせます。
画像提供:株式会社ぬか
画像提供:株式会社ぬか
どろ服コーナー
画像提供:株式会社ぬか
画像提供:株式会社ぬか

展示室の奥には、利用者が自由にものづくりを楽しめる工作コーナーの作業場があります。

取材時はインターンシップの大学1年生が、利用者と一緒に新聞紙をちぎってさまざまな形を作りながら、思いきり遊んだり、「好きなこと」を楽しんだりしていました。

利用者の作業のようすを、一般のかたにも気軽に見てもらえるように開かれています。ここでは、商品の一つとして「なんちゃってハリコ」の制作もおこなっていて、訪れた人がものづくりの現場を間近で楽しむことができます。

本棚には自由に読める本が並んでいて、ちょっとひと息つきたいかたにもぴったりです。お子さん連れのかたには、おもちゃも用意されているので、子どもたちの自由な発想や笑い声があふれる、あたたかい雰囲気の場所にもなっています。

インターンシップに参加している大学生と、施設を利用している人たち
インターンシップに参加している大学生と、施設を利用している人たち
工作品(画像提供:株式会社ぬか)
工作品(画像提供:株式会社ぬか)
工作品(画像提供:株式会社ぬか)
工作品(画像提供:株式会社ぬか)

なんでそんなん博物館

さらに母屋の一角には「なんでそんなん博物館」と名付けられた展示室があり、ユーモアと不思議さに満ちた作品や言葉が並びます。

なんでそんなん博物館
なんでそんなん博物館

「なんでそんなん博物館」では定期的にユニークで不思議な作品を展示しています。「これはなんだろう?」と考えながら楽しめる、まさに面白さが詰まった場所です。

たとえば、以下のようなタイトルの作品は、シンプルでありながら意味深く、訪れる人に「これはなんだろう?」と考えさせてくれます。

  • ノリで迷走-再告訴
  • 大人はわかってない
  • 二万まで無課金
企画展
展示品
なんでそんなん博物館

中野さんが関わる福祉事業や、それを「面白さ」として受け止め、新しい価値に変えていく取り組みについて、詳しくお話を聞きました。

株式会社ぬかー就労継続支援B型事業所ひょんのデータ

ひょんの皆さん
名前株式会社ぬかー就労継続支援B型事業所ひょん
住所岡山県倉敷市西阿知町528
電話番号086-697-6609
駐車場あり
営業時間月〜金 / 毎月第1土曜日
午前10時30分〜午後4時
定休日土、日、不定休
毎月第1月曜日
支払い方法
  • 現金
  • クレジットカード
  • Suicaなど交通系ICカード・iD・PayPay・楽天ペイ・d払い
ホームページひょん

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きんわん
中国→ユーゴスラヴィア→日本を経て、2001年から岡山県に在住。2024年10月、高梁川流域ライター塾修了。 長年にわたり異文化交流事業に携わってきました。これからも高梁川流域ライター塾の修了生として、日中文化への理解を深めながら、外国人の視点で倉敷の魅力を発信し、海外からの観光客や移住希望者に向けた情報を届けていきます。

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