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くらしき未来K塾 〜「社会に開かれた教育課程」応援のために、すべての人が町の未来について考える場

くらしき未来K塾 〜「社会に開かれた教育課程」応援のために、すべての人が町の未来について考える場

知っとこ / 2022.04.29

子どもたちの教育は学校・教師が行う

このように考えるかたも多いと思いますが、教育には地域も深く関わっており、学校・教師は地域の協力を求めています。

しかし、地域住民として「教育」を見た場合、何か関わりたいけど何をしてよいか分からないかたは多いのではないでしょうか。

くらしき未来K塾は、「社会に開かれた教育課程」応援のために、教師だけではなくすべての人が町の未来を考える場として、教育や働き方、まちづくりなど、さまざまなテーマのセミナーを開催しています。

学校と地域の結節点としての役割を果たすために、くらしき未来K塾を主催してきた山下陽子(やました ようこ)さんに、「社会に開かれた教育課程」実現への思いについて聞いてきました。

山下さんが、くらしき未来K塾を開催するに至った背景と教育への想いを紹介します。

記載されている内容は、2022年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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くらしき未来K塾とは?

くらしき未来K塾の概要

大原本邸内観3

くらしき未来K塾とは、「社会に開かれた教育課程」応援のために、学校と地域を結ぶことを目的としたセミナーです。

2018年12月にくらしき未来教師塾として始まり、2019年12月より、くらしき未来K塾と名前を改めました。

2022年4月までに、倉敷、岡山を中心に活躍する企業経営者、大学教員、行政関係者によるセミナーを29回開催しています。

教育関係者にだけ開かれたセミナーではなく、一般のかたも対象にしており、学校教育と地域社会をつなぐ役割を果たしていることがくらしき未来K塾の特徴です。

くらしき未来K塾 主催者 山下陽子さんの経歴

山下陽子さん

くらしき未来K塾を主催しているのは、語らい座 大原本邸の館長 山下陽子さん。

1979年から38年間、岡山県の県立高校の教師を務めた岡山県を代表する学校教育の実践者です。

2011年に、真庭市の高等学校の統廃合を経験し、県立真庭高等学校および落合・久世高等学校の校長を務めました。

2012年から2017年は、県立倉敷南高校の校長として学校と地域をつなぐ実践型の教育プログラム「倉敷町衆(まちしゅう)プロジェクト」に取り組みます。

倉敷商工会議所や大原美術館と連携しながら、地域課題発見解決型の新しい教育プログラムを実践し、文部科学大臣表彰を受賞しました。

現在は、語らい座 大原本邸 館長として、くらしき未来K塾を立ち上げ、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて活動しています。

岡山県の教育改革を実践してきた山下さんに、くらしき未来K塾を始めた理由や続けてきたなかで感じた想いを聞いてきました。

山下陽子さんへインタビュー

山下陽子さん7

くらしき未来K塾のはじまり

くらしき未来K塾を始めた理由は?

山下(敬称略)

「社会に開かれた教育課程」を実践するために、教師のネットワーク力と言語化能力が必要だと痛感したことがきっかけです。

倉敷南高校では、キャリア教育の一環として、子どもたちを倉敷のまちづくり団体や企業で受け入れてもらい、現場で課題解決を考える「倉敷町衆プロジェクト」(以下、町プロ)を立ち上げ、体験型の学習を実践してきました。

町プロを通じて、子どもたちは受け入れ先での経験から多くの混沌とした思いや感情を持ち帰ってくるのですが、それをうまく言葉にすることはできません

どうだったと聞けば「楽しかった」と言う。

しかし「楽しかった」の向こうには多様な思いや感情があります。そのままにしておけば、夕飯を終えた頃には雲散霧消してしまうものです。

「どう楽しかったの?それはどういうこと?」

子どもたちの心に残った思いを整理して、自らの興味関心を意識させることで次のステップが見えてきます。学びに紐づけ、成長につなげることもできるのです。

そのためには、教師による言語化が何より大切でした。

さらに、言語化をサポートするためには、教師も地域社会について理解を深めることも重要になります。

子どもたちのフィールドワークを意味のあるものにするためには、教師の地域とのネットワーク構築と言語化能力が必須と考え、それを支援するための、地域と教師の結節点となる場所として「くらしき未来教師塾」を始めました

始めた当初はどのような課題があったのでしょうか?

山下

実際に始めてみたら、言語化能力も高く、すでに地域社会と多様な繋がりを持つクリエイティブな教師ばかりがきました。

スキルアップが必要な、本当に参加してほしい教師はきてくれません。

当初の目的が薄れたことに悩みも覚えましたが、改革を進めようとする教師たち同士をつなぐ役割もあると考えるようになりました。

学校というところは、新採用からベテランまで同じ仕事をしているという意味で極端な同質化社会で、保守的な側面もあります。

そういう中で、改革派の教師たちは、ともすれば孤立しがちです。

そういう教師たちを応援するために、地域社会とのネットワークを広げるとともに、教員たちが情報交換できる場所を構築することも重要だと思いました。

また、参加している地元企業やまちづくり団体のかたは、教師たちとの関わりのなかで、「こんなにすごい教師がいるんだ」と感じるようになります。

教師たちにとって、地域社会から認めてもらえる存在であることを自覚できる場所になっていたと思います。

大原本邸内観6

くらしき未来K塾という名前はどこから?

山下

教師塾として企画していても、本当に参加してほしい教師はきてくれないし、クリエイティブな教師が集まるのはうれしいのですが、参加者が固定されていました。

続けることについての悩みを、セミナー常連のある企業経営者にご相談したところ、「必要かどうかを参加者に投げかけて一緒に考えてもらったら」と言ってくれました。

そこで、話し合った結果、教師だけではなく、倉敷に住むすべての人が町の未来について考える場としての存続意義を確認し「くらしき未来K塾」に名前を改めたのです。

教師の「K」、企業の「K」、語らい座の「K」、もちろん倉敷の「K」

いろいろな意味を包含し、また想像の余地のある名前がおもしろいと思い、「K」という文字を使いました。

山下陽子さん6

くらしき未来K塾に至るまで

「倉敷町衆プロジェクト」を始めた理由は?

山下

県立倉敷南高校で、町プロを始めた当初の理由は、地域と関わる実践的な学習で得た体験から、現実の混沌、課題解決の難しさを体感し、社会を支える大人へのリスペクトやその中に活かされている自分、社会参画するための学びの重要性を感じてほしいと思ったからです。

そこで感じたことを、志望理由にまとめて、増加しつつあった大学の推薦AO入試につなげたいと考えました。

センター試験では要領良く問題を解ける生徒は高得点を取れますが、要領が良くない、たとえば、問題文が長くなると、深く読み込み過ぎて最後まで解答できない子どももいます。

そういう子でも十分な時間さえあれば、完璧に回答ができる場合があるのです。

そのように物事を深く掘り下げて考えるような子どもたちは特に、実践型の学習により地域・企業と学校を行き来する過程で、体験を整理しながら成長しました。

ペーパーテストで推し量れる能力は限られています。そういう多様な能力を伸ばし、進学保障にもつなげたいとの思いが町プロを始めたきっかけです。

大原本邸内観1

町プロを通じて、生徒にどんな変化があった?

山下

企業との関わり合いのなかで、子どもたちは叱られることもありますが、何のためにやっているのかがわかり始めると変化が起こります

ただの受験対策だとして授業に取り組んでいた子どもたちが、「学力をつけることは、社会で役立つツールになる」と捉えるようになり、勉強にも身が入るようになるのです。

実際に学習に関わるアンケートでも学習意欲の向上が見られ、学力伸長著しい子どもたちが増えました。

結果として町プロ1期生は、過去5年間で最も進学実績の伸びを見せた学年になったのです。

教師にも変化があった?

山下

倉敷南高校は進学校としてのミッションがありますから、良心的な教師ほど町プロに対して懐疑的な気持ちもありました。

私が倉敷南高校に赴任した年に、東京大学や京都大学などの難関大学が次々に推薦入試を始めました。

大学入試が体験をベースにした試験へと大きく変化していくことを感じ、地域での学びを入試に活かすチャンスだと思いました。

当初は懐疑的だった教師たちも、子どもたちの学業意欲が上がっていることを次第に実感するようになると、積極的に町プロに取り組んでくれるようになりました。

また、体験を持ち帰ってくる子どもたちを通じて地域と関わるようになった教師は、地域についても勉強するようになります。

子どもだけでなく、教師たちにとっての「総合的な学習の時間」として、ネットワーク力と言語化能力を培う機会となったのです。

子どもたちの成長を促し、教師の視野を広げた町プロは、最終的に文部科学大臣賞を受賞するに至りました。

山下陽子さん2

地域とのつながりを大切にする理由は?

山下

倉敷南高校に赴任する以前に勤めていた学校で、総合的な学習の時間に「仕事の達人講座」という地域の企業のかたに講演してもらう授業を企画していた経験があります。

それは、教師と地元企業のネットワークができることで、進路指導の幅が広がるなど、教師にとっても有意義な機会になっていました。

また、農業高校に赴任していたときの経験も大きく影響しています。

農業高校では、実習が多くあります。

牛の出産に立ち会うことも、また世話をしている子牛が思いがけない怪我で殺処分になるといった「生命」に関わる経験もします。

無事に大きくなっても、200日ほどで肥育農家に売られていく。

それは、スーパーの売り場に並ぶ精肉だけ見ていたのではわからない社会の循環です。そんな経験が子どもたちを精神的に成長させるのです。

普通科の生徒にも、現実の向こう側、社会の循環を知ること、体験が学びのモチベーションになるのではないかと考えました。

地域社会に関わることの重要性は、倉敷南高校に赴任する前に経験した、多様なキャリア教育を通じて感じるようになりました。

山下陽子さん4

くらしき未来K塾のこれから

今後はどのような場所にしていきたい?

山下

学校と地域の結節点として機能してきたという自負はあります。

ただ、これまでは、私がこの人こそ、と感じた講師とテーマでセミナーを開催してきたわけですが、もっと間口を広げて企画したい気持ちが強くなっています。

若い人にセミナーの企画を任せて、それに横串を通すような形もいいなと思っています。

もちろん、教師と地域がつながる場所は貴重な存在だと思うので、これまで通り、カタライザー(触媒)としての役割は大切にしていきたいと思います。

大原本邸内観5
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くらしき未来K塾に込められた想いを聞いて

筆者の場合、学校で勉強した知識が役立ったのは、高校を卒業してしばらく経ってからでした。

国語で培った文脈を理解する力は、資料に記載された情報や人の話を整理するために使いますし、数学で鍛えた論理的な思考力は、今、こうして文章を書いているときにも大いに役立っています。

学校教育の教科で教えられる個々の知識も、体系的な考え方も大切だと気がついたのは、大学での研究や仕事に取り組んだことがきっかけです。

筆者は課題にぶつかるたびに知識を総動員し、不足していれば知識を補いながら生きてきたので、倉敷町衆プロジェクトを通じて、学ぶ意欲が湧いてきた子どもたちの気持ちはよくわかります。

実践で役立ててこそ、学ぶ意味が理解できるのでしょう。

社会での体験を子どもたちに提供するためには、教師の力だけでは難しく、地域社会の人の協力が必要です。

学校と地域社会の結節点である くらしき未来K塾には、町全体を子どもたちの学びの場にする可能性があると感じました。

地域に関わるすべての大人たちが一緒になり、子どもたちを育んでいけるような教育が倉敷のまちで実現しつつあることをうれしく思ったのです。

くらしき未来K塾が、学校と地域社会の結節点としての役割を果たしながら、社会を豊かに変えてくれる場所になることを期待します。

くらしき未来K塾のデータ

大原本邸外観
名前くらしき未来K塾
期日月に1回開催。2時間程度。
場所岡山県倉敷市中央1丁目2-1
参加費用(税込)参加費の有無はセミナーによって異なる。
ホームページ語らい座 大原本邸
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ぱずう(後藤寛人)

ぱずう(後藤寛人)

87年生まれの埼玉育ち。倉敷に転勤でやってきて6年目。メーカーの研究員として働きつつ、週末はゴミ拾いボランティア団体の代表として活動しています。ひとりも知り合いもいなかった倉敷の街。ゴミ拾いを通じてたくさんの出会いがあり、倉敷の魅力を教えてもらいました。余所者から見える倉敷の景色を伝えていきたいです!

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