代々の家業に新しい風を 〜 三代目園主 難波頌治さんインタビュー

なんば農園 三代目園主の難波頌治(なんば しょうじ)さんに、家業を引き継いだ経緯から今までのあゆみ、これから挑戦していきたいことについてインタビューしました。
家業を引き継いだ経緯について教えてください
難波(敬称略)
銀行員時代に、業務を通じて融資先の経営者と仕事(営業やコンサルティング)をしていくなかで、経営者に対して漠然とした憧れを抱くようになりました。
いつか起業して自分で商売をしたいなと思っていたところ、ふと頭に浮かんだのが実家で作っている桃でした。
その後、試験的に桃のネット販売を始めたら想像よりも大きい反響をいただき、これなら商売としてやっていけると感じ、思い切って脱サラしました。
元々家業を継いでいくつもりはありましたか
難波
小さい頃、農園の手伝いはよくしていたんですけど、元々継ぐことは考えていなかったです。父親も会社員の傍ら、兼業で桃農家をやっていたので、専業でするほどの規模ではないと思っていました。
栽培するうえでのこだわりについて教えてください
難波
桃に関していえば、糖度(甘さ)にこだわった栽培をしています。

たとえば水やりについても、当農園ではあえて水やりを控えることで味を凝縮させるようにしています。
しかし、水やりを控えると小玉になってしまうのが難点です。
小玉の桃は、農協に出荷すると値段が下がってしまうこと、見た目や形や大きさよりも味で勝負するためにも当園では直販をしています。
また、直販をしているとお客さんの声を直接聞けるのもメリットです。

肥料に関しては、有機質堆肥系を中心に、最近では環境への配慮と肥料代の節約を考慮して、家庭で出る生ごみを堆肥化して利用することにも取り組んでいます。
また、化学肥料も使用するものの、当農園で使用する量は農協の定める基準量に比べてかなり少ないです。
農薬についても、体に優しく安心して食べていただけるように配慮して減農薬(農協の定める基準値の半分以下)で栽培しています。
その理由のひとつとして、畑自体が斜面にある段々畑なので、農薬や除草剤を散布するのが物理的に難しいためです。
レモンについても桃と同様の栽培方法で、味にこだわった栽培をしています。
一押しの商品について教えてください
難波
やはり桃が旬の季節(夏)には、獲れたてのフレッシュな桃を楽しんでいただきたいです。

そのなかでも、7月下旬に出荷される最高級品種の清水白桃は当園の自信作なので、ぜひ多くのかたに味わっていただきたいですね。

あと、6次産業化のひとつとして作っている白桃のあまざけですね。あまざけはスポーツドリンク同様に飲む点滴といわれていて、暑い季節にとても人気があります。
甘さ控えめでとても飲みやすい、すっきりした味わいのあまざけなので、夏に旬を迎える桃と一緒に楽しんでいただきたいですね。
また、2025年3月4日(火)に放送の日本テレビ系情報番組「ヒルナンデス!」にて白桃のあまざけが紹介され、ありがたいことに爆発的な反響がありました。在庫も残り少なくなってきていますが、多くのかたに味わっていただければと思います。
果樹栽培をするうえで大変なことは
難波
桃の収穫は暑い夏の時季におこなうので、毎年暑さとの戦いですね。

どのくらい過酷かというと、シーズンの前後で体重が5~6キロぐらい痩せるほど。そういう過酷な状況で、当園に限らずすべての桃農家は頑張っています。
私は元々野球をやっていたので暑さには自信がありますが、最近の猛暑は尋常(じんじょう)でないので、その暑さに慣れて耐え抜くことはとても忍耐が必要です。
あと、果樹栽培に限らすどの作物にも共通しているのは、頑張ったからといっていいものができるわけではないということですね。その年の天気や天候によって果樹の出来も変わってきますので。
それでも、お客さんから「おいしかった」と喜んでもらえるとすごくうれしいです。その一言で今までの苦労が全部吹っ飛びますよね。
商品開発に際してヒントにしていることは
難波
加工品の商品開発について、はじめは正直難しかったです。

なんとなく飲み物系の商品を作ろうと思っていたのですけど、どんな飲み物を作れば良いのかを考えるのが難しかったですね。
たとえば白桃のあまざけを作り始めたのも、妊娠中にあまざけが飲みたいといった妻の一言がきっかけでした。桃が入ったあまざけとか面白いなって。
そういう何気ない日常に思わぬヒントが転がっているので、そういったものを大事にしながらお客さんのニーズに合った商品を開発できればと思っています。
今後挑戦していきたいことは、ありますか
難波
近年、さまざまな理由で離農していく桃農家さんも多いので、ふるさとの桃畑を守るという意味でも、少しずつ耕作放棄地を引き受けながら桃の栽培面積を増やしていこうと思っています。

また、レモンをはじめとした柑橘(かんきつ)類は、まだまだ将来性があると思っています。
レモン以外にもみかん、香酸柑橘(こうさんかんきつ)と呼ばれるゆずやすだちを新たに栽培しています。
ゆずに関しては今年初めてシロップを作り、ゆずスカッシュにしてマルシェに出品したところ、良い反響をいただきました。
すだちも同様に、果汁からシロップを作り、すだちスカッシュにしてマルシェに出品することを考えています。
柑橘類は桃に比べて管理もしやすく、収穫期間も長いこともあり、これからの柱のひとつにしていきたいです。

レモンは広島、すだちは徳島、ゆずは高知と近県に主要な産地があるなかで、当園では桃栽培で得たノウハウを応用し、プライドを持ってより品質の良い果樹を作っていきたいと思っています。
おわりに
難波さんのお話を聞いていると、偶然のような必然で今のお仕事にありついているように感じました。
その原点となっているのは、離農していく桃畑を引き継ぎ、ふるさとの風景を守りたいという強い思い。
そして、桃以外にもレモンをはじめとする柑橘類栽培へのチャレンジ、6次産業化をねらった商品開発、どのエピソードも取ってもそこにはさまざまなドラマがありました。

特に「頑張ったからといっていいものができるわけではない」という言葉からは、常に挑戦していく必要があると感じました。
また、なんば農園ではそれらの挑戦を継続していくためにクラウドファンディングにも積極的に挑戦しています。
革靴を長靴に履き替え、銀行員時代の経験を生かした経営の視点を持ち、若手生産者ならではの柔軟な発想による次なる一手を、これからも楽しみにしています。
生産者が生産(1次産業)だけでなく、加工(2次産業)や販売(3次産業)までを一体的におこなうこと。地域資源を活用し新たな付加価値を生み出す取り組み。1次産業×2次産業×3次産業=6次産業、とかけあわせた言葉