倉敷市には20近いグループホームで知的障がい者や精神障がい者が生活し、100施設以上の就労継続支援や就労移行支援に携わる事業所が存在します。
しかし、倉敷市内では、障がい者福祉に携わる人たちが法人や支援領域の枠をこえて実践事例を紹介し合う機会があまりありません。
そこで、障がいのある人たちが地域社会のなかで豊かな生活を送るための試みをおこなっているくらしき支援LABOが、互いの活動を共有する場として「くらしき支援LABOガチンコ研究集会」を企画。
倉敷市内だけでなく岡山県外からの参加者も含めて約100名が集い『地域で暮らす障がいのある方々の「豊かさ」の実現へ向けて』をテーマに、8つの分科会に分かれて白熱した議論を交わしました。
記載されている内容は、2025年12月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
「くらしき支援LABO」とは
公的な社会福祉制度により最低限度の生活を送ることはできますが、障がいのある人たちが地域社会との関わりを持つための生活の選択肢を増やすためには、既存の制度のみでは補えません。
こうした現状を変えるために、くらしき支援LABOでは、障がいの有無にかかわらず参加できるかたちで、婚活セミナーやカフェバーでの音楽イベント、装花(花を飾るパフォーマンス)イベントなどを開催しています。
くらしき支援LABOガチンコ研究集会とは
くらしき支援LABOガチンコ研究集会は、2025年11月9日(日)倉敷市民会館を会場に開催されました。
当日はスタッフや発表者を含めて約100名の参加者が集まり、八つの分科会に分かれて議論を交わしました。
詳しい情報は、以下の画像を確認してください。


当日のようす
11月9日(日)の天気は小雨でしたが、会場にはスーツケースを引きながら歩いている人もいました。私が直接お話した人たちも、九州や近畿、東海地方からわざわざこのために倉敷へやってきた支援者が何人もおり、このイベントの注目度の高さがうかがえます。
オープニングでは、くらしき支援LABO設立当時から運営を担う2人が登壇しました。

- 佐藤将一(さとう まさかず)さん
障がい者支援の当事者 - 安藤希代子(あんどう きよこ)さん
障がいのある子を持つ保護者の当事者
『地域で暮らす障がいのある方々の「豊かさ」の実現に向けて』をテーマに、くらしき支援LABOの活動目的や内容、どのような仕組みで運営しているのかなどについてお話がありました。
また、くらしき支援LABOは当初助成金事業としてスタートしましたが、現在は自分たちの力で運営しています。会場には寄付箱を用意しており、賛同する活動への寄付の協力も呼びかけていました。

くらしき支援LABOは、企画ごとに運営メンバーが変化することが特徴の団体です。寄付箱が数多くあるのも「自分が心から賛同したいイベントへの寄付をしてもらうのが、気持ち良いシステム」だからなのだそうです。
学び・議論・交流……それぞれの目的に合った八つの分科会
オープニングが終了すると、参加者は興味関心のある八つのテーマ(午前・午後合わせて)に分かれました。
分科会は途中での入退室が自由だったので、私はすべての分科会を少しずつのぞいてきました。
就労支援の未来

分科会1の午前の部は「就労支援の未来−制度・現場・社会をつなぐために」というテーマで、話題提供者は以下2名です。
- 佐藤将一さん
NPO法人 彩(岡山県倉敷市) - 宮本孝之(みやもと たかゆき)さん
合同会社Dweild(愛知県)
支援者の立場から、障がい者にとって労働はただ賃金が入ってくれば良いのか、障がいのある当事者のやりがいをともに考えて実現できる支援が必要なのではないか……という話題が提供されました。
ディスカッションに入って最初に声を上げたのは、障がいのある子どもを持つ保護者です。当事者の生の声に場がさらに引き締まり、倉敷市内のさまざまな事業所がそれぞれの知識を持ち寄って、障がいのある当事者やその家族にとって必要な就労支援のありかたを考えていく必要性があることを、確認しました。
支援LABOコミュニティの再現性

分科会1の午後の部は「支援LABOコミュニティの再現性−地域福祉を動かす“越境型コミュニティ”の再現性を探る」というテーマで、話題提供者は以下のかたです。
- 佐藤将一さん
NPO法人 彩(岡山県倉敷市)
2021年の設立当初から、障がいがあってもイベントに参加したり恋愛をしたりして、暮らしの選択肢の幅が広がるべきだと考え、支援LABOではさまざまな企画を運営してきました。
その歴史を振り返りながら、「国の支援制度でサポートしきれていない部分を、くらしき支援LABOで支えていきたい」という設立当初の思いが企画に反映されていることを、支援者や障がいのある当事者だけでなく行政職員もともに共有できた意義のある時間となりました。
AIと福祉

分科会2午前のテーマは「AIと福祉−支援を豊かにするテクノロジー活用」でした。話題提供者は、以下のかたです。
- 小川淑生(おがわ としき)さん
AI助手を活用して支援員と利用者のコミュニケーションを深める実践事例を持つ株式会社Jin(大阪府) - 高見恭平(たかみ きょうへい)さん
倉敷市茶屋町地域生活支援センター(岡山県倉敷市)
私自身、前職が特別支援学校の教員だったので、人を相手とする感情労働とAIは一見遠い存在なのではと思っていました。参加者も、同じような気持ちで参加した人が多かったように見受けられます。
そのため、この分科会では実際にどのような場面でどのようなAIツールを用いているのか、実践事例とともに初心者にもわかりやすいレクチャーが繰り広げられました。

なかでも私は「人間は、AIの上司だという気持ちで活用している」という高見さんの言葉が印象に残っています。
人を相手にする感情労働は「AIではない生身の人間だからこそできる」ことがアイデンティティのひとつです。だからこそAIに任せられる事務仕事は任せることで、人は相談業務に集中できるのではないかという視点は、大変新鮮でした。
2年後に予定されている次回の研究集会までに、新たな知見が数多く溜まりそうなテーマではないでしょう。
相談支援の収益性

分科会2の午後は「相談支援の収益性−支援を続けるためのリアルな経営戦略」をテーマに、以下のかたが話題提供をしました。
- 鈴木真由(すずき まさよし)さん
相談支援事業所GIFT(京都府) - 高見恭平さん
倉敷市茶屋町地域生活支援センター(岡山県倉敷市)
鈴木さんは、相談支援事業所をはじめて約10年経ちます。
一方で、高見さんは今年度事業をスタートしたばかりです。鈴木さんが10年も事業を続けられた背景にあるさまざまな工夫を教えてもらい、高見さんが鈴木さんに相談するようなかたちでやり取りが進みました。
普段はなかなか聞きにくい「お金」の話も、分科会のテーマとして設定されていると参加者も聞きやすくなったようで、お金の増やしかたなど具体的な話題も展開されたのは大きな収穫だったことでしょう。
余暇支援

分科会3の午前は「余暇支援−生きる時間を支えるということ」をテーマに、以下のかたが話題を提供しました。
- 駒川達郎(こまがわ たつろう)さん
就労移行支援事業所irodori(岡山県倉敷市) - 吉信太貴(よしのぶ だいき)さん
就労移行支援事業所irodori(岡山県倉敷市) - 小嶋敬(こじま たかし)さん
日中一時支援事業chill(岡山県倉敷市)
話題提供者のなかには引きこもり経験のある支援者もおり、当事者としての想いと支援者としての想い、双方の立場からの経験談に会場が聞き入ります。
参加者のなかにも支援者が多く、「自分の事業所にいるこういう人と余暇を過ごしてくれる人とつながりたい」など、具体的なニーズを持って参加している人が多い分科会でした。
と同時に、支援者の「してあげたい」ではなくまずは当事者の「〇〇したい」気持ちを引き出すことの重要性についても熱い議論が繰り広げられました。
障がいと性

分科会3の午後は「障がい者と性−意思決定と“覚悟”を支える支援とは」をテーマに、大阪の輝き製作所で活動する小西理惠(こにし りえ)さんが進行を務め、以下のかたが話題を提供しました。
- 柴山圭子(しばやま けいこ)さん
グループホームあーくの家(岡山県倉敷市)
柴山さんからは、女性グループホームで実際に経験した利用者の妊娠・出産について、所属団体の利用者が妊娠・出産する場合どのように支援していくかを議論します。

「自分はどうするか」ではなく「当事者がどうしたいと思っているのか」「当事者の意思を尊重するために、支援者にできることはなんだろう」といった視点での支援が求められることが確認されました。
児童期と成人期の分離

オープニングがおこなわれた2階主会場では、「児童期と成人期の分断−子どもの「自己理解」と成長を支える支援のあり方」をテーマに午前から午後までじっくりと話題提供および議論が繰り広げられました。
話題提供者は、以下のかたです。
- 上野美晴(うえの みはる)さん
株式会社フォースタープラス(大阪府) - 大野麻琴(おおの まこと)さん
一般社団法人未来図(岡山県倉敷市) - 黒川晃良(くろかわ あきら)さん
株式会社子育てサポートかがやきっず(岡山県倉敷市) - 安藤希代子さん
認定NPO法人ペアレント・サポート すてっぷ(岡山県倉敷市)
幼児期から成人期までの「自己理解の継続性」をキーワードに放課後等デイサービス・教育現場・支援機関・保護者支援、それぞれの立場から現場の課題と工夫を共有しました。
参加者もさまざまな立場の人たちが参加し、保護者から本音の「しんどさ」が口にされた場面では全員が真剣に聞き入る場面もありました。

児童期と成人期の溝を埋める答えは出ませんでしたが、溝に対する想いの深さは各々に抱えていて、それを共有できたことが大きな収穫です。
普段は支援者と支援サービスの利用者家族、行政と自分たちの立場で付き合わざるを得ないことも多いですが、立場関係なく全員がイチ参加者として本音を語り合える機会は大変貴重な時間となったことでしょう。
闇部屋
こちらは、一息つきたくなったおもに支援者に向けたフリートークのお部屋です。
今回のイベントには県外からの参加者も数多くいたので、情報交換の場として重宝されていました。

倉敷の福祉イベントならではのお土産盛りだくさんな物販コーナー

分科会の参加には参加費が必要ですが、入り口から入ってすぐの1階では入場無料の物販コーナーがオープンしていました。
倉敷市内を中心に、遠くは関西からも福祉事業所や障がいのある子どもを持つ保護者が作ったスイーツや雑貨が数多く並びます。


特にお昼休憩は分科会参加者も来店して、イベントへ来た記念にと買い物する人で盛り上がりました。
おわりに
プログラムを終えてクロージング会場に戻ってきた参加者の表情は非常に晴々としていました。

クロージングでは各分科会の進行役が、それぞれの会場で感じたことを述べます。
どの分科会も明確に「コレ」という答えは出ませんでしたが、一つのテーマについてさまざまな立場の人たちが想いを述べ、それぞれの立場で課題感を持ってそのテーマに向き合おうとしていることを確認するきっかけとなった一日となりました。
支援者、障がい児・者の家族、障がいのある当事者はそれぞれの日常へと戻っていきます。そのなかでこの日感じた「仲間の存在」や「それぞれが同じ課題感について想いを持っていること」を知っていることは、心の拠り所になるはずです。

今回は、支援LABOのメンバーが中心となって話題提供しましたが、また2年後の研究集会では今回なにかしら感じて現場に戻った人のなかからの話題提供も出てくるのではないでしょうか。
倉敷の障がい者福祉のこれからが楽しみになる、大変意義のあるイベントでした。
くらしき支援LABOガチンコ研究集会のデータ

| 名前 | くらしき支援LABOガチンコ研究集会 |
|---|---|
| 開催日 | 2025年11月7日(日)午前10時〜午後4時 |
| 場所 | 岡山県倉敷市本町17-1 |
| 参加費用(税込) | 1,900円 |
| ホームページ | くらしき支援LABO (ガチンコ)研究集会 公式 Facebookページ |
















































