多種多様な麺料理があふれている日本。
たとえばラーメンだけでも、スープや具、麺は店ごとに違って麺料理の奥深さを感じますよね。
店ならではのひと皿を提供する店のかたがた。
作り手においては、スープ作りや麺作り、どこに力を入れるかで作業効率がずいぶんと変わるでしょう。
そんな麺料理の世界を支える企業「冨士麵ず工房」が岡山市にあります。
76年製麺業を営む冨士麵ず工房から、2023年6月に新商品の十二麺体(じゅうにめんたい)とハタヤリンが誕生。
新商品発表会と三代目社長就任挨拶が開かれたので出席しました。
記載されている内容は、2023年5月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
冨士麵ず工房について
1947年創業の冨士麵ず工房。
創業者は三代目社長の祖父にあたります。
戦後の食べ物が不足していた時代に「近所のひとに温かくておいしいものを食べさせてあげたい」と思っていたそう。
転機は、戦友が中国から帰国したときでした。
創業者は戦友から中華麺の技術を学んだのち、ラーメンの提供をするように。
やがて中華麺が評判となり、生中華麺製造卸業をスタートさせました。
現在は中華麺のほか、パスタや蕎麦も手掛けています。
冨士麵ず工房の特徴は、オーダーメイドの麺を作り、卸すこと。
店が求める麺を作るのは手間とコストがかかるはずで、強い情熱と想いがないとできません。
その情熱と想いは、あとで紹介しますね。
倉敷市内の取扱店
冨士麵ず工房の納入先は数多く、岡山県はもちろん、県外でも扱われています。
倉敷市内の取引先を二つ紹介しましょう。
一つは、倉敷美観地区の東町にある「くらしき 窯と南イタリア料理 はしまや」です。
古民家を改装した建物で、岡山県の魚介や野菜なども使った南イタリア料理を提供。
イタリア料理といえば…そう、冨士麵ず工房のパスタ麺を使っています。
もう一店舗は、「お好み焼き 蝦蟇」です。
倉敷市加須山にある、お好み焼き屋で一品料理も充実。
お好み焼き 蝦蟇では、焼きそばやお好み焼きのそばのトッピングで味わえます。
三代目社長就任式
長年製麺業を営んでいる冨士麵ず工房は、2022年4月に役員が変更に。
二代目社長の波夛伸司(はた しんじ)さんは会長に、三代目社長には波夛悠也(はた ゆうや)さんが就任。
2023年5月14日に、会長・社長就任会見と新商品の試食発表会が開かれました。
波夛伸司会長
1975年に有限会社冨士麺業に入社し、1984年に二代目社長に就任した波夛伸司さん。
社長を約40年務めたのち、若い発想のもと、パスタなども手掛ける三代目に代を譲る決断をしたそうです。
波夛悠也社長
波夛悠也さんは、大学時代は東京で過ごしました。
ラーメンが好きという純粋な気持ちで、食べ歩きをしており、そのときの体験が今の礎(いしずえ)になっているそうです。
大学卒業後は地元に戻り、冨士麵ず工房に入社。
当時、扱っていた麺は5種類ほど。
働くうちに、「お客様の要望に応えたい気持ち」で、さまざまな麺を開発。
現在では、約100種類にまで増えました。
さらに「自分が食べたいパスタを作りたい」という想いからパスタ麺も手掛けるように。
「会話が弾んだり、記憶に留まったりする『おいしい』を、飲食店や家庭に届けるのが私たちのミッション」と話す波夛悠也さん。
座右の銘は不易流行(意味:いつまでも変わらない本質的なものを大事にしつつ、新しい変化も取り入れること)。
流行を追うのではなく、食のおいしさの本質を求めて日々仕事に向き合っています。
試食発表会
試食発表会では、三人の料理人による新商品の麺を用いた料理を試食。
新しく誕生したのは、中華麺とパスタ麺のハイブリッド麺。
さまざまな麺を手掛ける冨士麵ず工房だからできる技です。
会場内のキッチンから作りたての3品が順に運ばれてきました。
十二麺体
麺酒一照庵(めんさけ いっしょうあん)の創業者 大野浩史(おおの ひろし)さんが扱うのは十二麺体。
冨士麵ず工房のパスタブランド「ハタフレスカ」の開発段階で生まれたハイブリッド中華麺です。
特徴は「不均質」を表現するために、断面が十字になっていること。
もちっとしている部分・柔らかい部分の、ランダムな食感を楽しんでもらうために、この形状にたどり着いたそうです。
十二麺体をすすると、今まで食べたことのない麺で頭が少し混乱しました。
もっちりとした食感は、中華麺よりパスタに近い気がします。
スープがよく絡み、口のなかで踊るようにと考えられているのは中華麺寄りの発想。
パスタとラーメンを同時に食べている感覚のなか、はまぐりの出汁が効いたシンプルなスープが「これはラーメンだ」と教えてくれている気がします。
十二麺体は、食感の不ぞろいを出すために、作る段階で粉っぽさがあるところと水分量が多いところを混在させています。
その不ぞろいが「なんかおいしい」と記憶のどこかに留まって、蘇るようにと思って作られているそうです。
「なんかおいしい」どころか記憶に強く刻まれるほど、生まれて初めて出会った新感覚の麺でした。
ハタヤリン
もう一つの新商品、ハタヤリンを扱うのは東京に店舗を構える株式会社NoCode(ノーコード)の米澤文雄(よねざわ ふみお)さん。
1.66mmの細い生パスタで、材料に徳島産のあわ育ち鶏の卵黄と北海道産の小麦粉きたほなみを用いています。
中華麺の技法により、柔らかくない、日本人が好む歯切れと食感を表現。
見た目はパスタのようなひと皿が運ばれてきました。
ソースに中東風のスパイスを用いているため、エスニックな香りがします。
ひと口ぱくりと食べると、またも頭が混乱。
もちっとした食感はなく、歯切れの良い麺のため中華麺よりのパスタのようです。
まぜ麺のような感覚もあるため、中東風のスパイスがぴったりでした。
マルタリアーティ
ハタヤリンと同じ原材料のパスタ、マルタリアーティを使った料理も試食。
マルタリアーティはシート状で作り、あえてランダムに切った麺です。
調理したのは東京に店舗を構える株式会社Signal(シグナル)の奥野義幸(おくの よしゆき)さん。
西イタリア リビレア地方のバジルソースを和えたパスタが運ばれてきました。
平べったい麺で、ハタヤリンに比べ弾力がありますが、こちらもモチモチした食感はありません。
なめらかな舌触りはハタヤリンにはないため、同じ材料で作られているとは思えないほど。
麺の世界の奥深さを感じました。
冨士麵ず工房に対する料理人の想い
試食のあとは、波夛悠也さんと三人の料理人とのクロストーク。
三人とも自身の店で冨士麵ず工房の麺を使った料理を提供しています。
なぜ数多くある製麺業のうち、冨士麵ず工房の麺を扱うのか、理由を聞くことができました。
大野(敬称略)
2018年の創業以来、冨士麵ず工房さんの麺を使っています。
汎用性が高くてどんなスープにも合うのが気に入っている点です。
十二麺体を試食したときは、良い意味で「???」だったんですよ。
食感、形状、口のなかでの踊りかたを言葉に出す、形容するものがなくて。
新しい、おもしろい麺だ!とダイレクトに心に響きました。
多加水麺でクリアな味なので、淡いスープのクラム(はまぐりのスープ)が合うと思い、試食会ではクラムに合わせました。
奥野(敬称略)
イタリアンのシェフで、本場イタリアでも調理をしていました。
本場では、麺は自家製が重要視されています。
本場の経験から、当初は麺を外注してパスタを作るのは邪道と思っていて、自分で練って作らないと、という想いがありました。
冨士麵ず工房さんと出会ったのは、とあるイベントで。
麺を食べさせていただいたんです。
イタリアではマンマがパスタ麺を作ったら、手で切るのでサイズが整っていなくてバラバラ。
その不ぞろいから出てくるおいしさってあるんですよ。
麺作りにおいて不ぞろいを大事にしている冨士麵ず工房さんの麺を食べたときに、「いける!おいしい!」と思いました。
試食するうちに自分でも扱いたいと思ったんです。
僕が一番大切にしているのはつながり・出会いで、イベントで出会ったのがきっかけですね。
他には、ミリ単位の調整や米粉を使いたいと言ったら柔軟に対応してくださる。
毎回要望を叶えてくれるんですよ。
マルタリアーティは手でちぎることでさらにソースと絡みやすくなります。
麺の扱いかたを変えてもいいと思ってくださる製麺業って少ないんです。
いろいろなことにもチャレンジしてくださいますし。
そうなると次も頼みたいと思うんです。
米澤(敬称略)
僕も奥野さんと同じで、パスタの麺は自分で作ろうかなと思っていたんです。
でも時間もかかりますし、どうしようかなと思っていたときに、奥野さんから冨士麵ず工房さんを紹介してもらいました。
僕の店はお客様に同業者が多くて、「どこのパスタなの?」と聞かれることが多いんです。
すると「紹介して」と言われて。
何度か冨士麵ず工房さんとお客様をおつなぎしました。
手作り麺が最高という考えもありますが、ビジネス的に時間と労力も考えないといけません。
冨士麵ず工房さんはクオリティを担保してくださっているので、使う側として安心できます。
僕が冨士麵ず工房さんと取り引きさせていただいているのは、ご縁や人柄、クオリティが大きいですよね。
波夛さんは「麺はどうでした?」と聞いて、リクエストに応えてくださいます。
僕のお店は小さいのに対応してくださるんですよ。
おわりに
実際に冨士麵ず工房の麺を扱う料理人の話を聞き、店の規模にかかわらず柔軟に要望を叶える点に深く感動しました。
店のために、そして食べるひとの「おいしい」のために強い情熱と想いがないとできることではありません。
このやさしく細かい対応が、事業が三代も続く理由なのではと気づかされました。
試食会で食べたハイブリッド麺はまさに今までにない、新食感の麺で驚きの連続。
十二麺体とハタヤリンは6月1日よりオンラインで販売され、飲食店でなくても一般のひとも買えるように。
新たな麺を生み続ける冨士麵ず工房。
今後も目が離せませんね。
冨士麵ず工房のデータ
団体名 | 冨士麵ず工房 |
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業種 | 製麺業 |
代表者名 | 波夛悠也 |
設立年 | 昭和22年(1947年)2月 |
住所 | 岡山市北区下伊福本町1-41 |
電話番号 | 086-254-4448 |
営業時間 | |
休業日 | |
ホームページ | 株式会社冨士麵ず工房 |