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GRAPE SHIP ~ 次世代に希望をつなげるマスカット・オブ・アレキサンドリアのナチュラルワイン造り

GRAPE SHIP ~ 次世代に希望をつなげるマスカット・オブ・アレキサンドリアのナチュラルワイン造り

知っとこ / 2024.12.12

マスカット・オブ・アレキサンドリアで仕込む意味

倉敷市船穂地区でブドウを栽培し、ワインを造るGRAPE SHIP。代表取締役の松井一智(まつい かずのり)さんに話を聞きました。

需要がマスカット・オブ・アレキサンドリアからシャインマスカットに移行しているなか、作り続けているこだわりを教えてください。

松井(敬称略)

新規就農の募集がマスカット・オブ・アレキサンドリアに定められていたので、それを扱いました。僕がブドウ栽培をしているうちに、シャインマスカットブームが起こります。シャインマスカットが人気になり、ブドウ全体が好景気になるんですね。

一方で、どんどんマスカット・オブ・アレキサンドリアの生産者が減少して、たぶん今は船穂地区で10人くらいしか作っていないです。

シャインマスカットでもワインは造れます。日本全国で作られている品種ですからね。

でも、130年も岡山県で作られているマスカット・オブ・アレキサンドリアの歴史が途絶えるのは寂しい、と思って作り続けています。

白ブドウの総称をマスカットって言うじゃないですか。それくらい日本人になじみのある味と香りなんですね。マスカットっていう言葉ができるぐらい普及したのは、実は岡山県民の努力であると僕は思っています。それがシャインマスカットに変わってしまうのは寂しいので、食用も辞めずに手掛けています。後世に残せれば良いですね。

松井さん_GRAPE SHIP

マスカット・オブ・アレキサンドリアにこだわっている他の理由は、造りたいワインに必要だから。僕が20代のときに、大岡さんが作っていたナチュラルワインで初めて飲んだのがマスカット・ハンブルグ(マスカット・オブ・アレキサンドリアと黒品種のブラックハンブルグの交配種)という品種のワインでした。

このワインに出会った感動を周りの人に伝えたくて、そして自分でも飲みたくて。マスカット・オブ・アレキサンドリアと黒の品種を混ぜてロゼワイン「朱」を作りました。

朱
朱(2019年に撮影)

リスクのないワイン造りを広めたい

ワイン造りのメリットは何ですか?

松井

一世帯当たりの耕作面積って非常に狭いんですね。なので、面積の狭いところでは高品質・高単価で利益を上げる必要があります。

最近、農業者が減ってきているなかで、ひとり当たりの耕作面積を増やさなければならない。でも価格帯は変えないためには、加工するのがもっとも良い手法だと思います。そのなかでもワインっていう選択は上を目指せます。うちはそこまで利益を上げる気がないですけどね。

ひとり当たりの生産面積が増えれば、耕作放棄地の解消にもつながります。高品質なブドウ作りを辞めずに、加工をプラスすれば収入が増えて、労働時間の分散にもなる。僕が実践しているやりかたを、この地域に来てくれている若い人が真似てくれれば、なんとなく生計が見えてくると思います。

ブドウ_GRAPE SHIP

ナチュラルワイン造りって基本リスクしかないので。ナチュラルワインには有機栽培のブドウが必要です。でもワイン造り以前に、ブドウを有機栽培することがリスクなんですよ。有機栽培を名乗るには認証の取得が必要で、それを取る自体がばかげているらしくて。岡山県内で認証を取ったのは僕だけです。他の県で認証を取られているかたがいるなかで、「誰も取らないんだったら自分が取ろう」と思って取得しました。

ワインに酸化防止剤などの添加物を入れないので、安定しないのもリスクです。

ナチュラルワインは味のムラもあるし、安定もしないので、人工的に作るほうが安定した数値を出せるんですけどね。でも毎年味のムラがあって、それがそのまま年の味でいいんじゃないかと思っています。

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岡山ならではのGRAPE SHIPのナチュラルワインの楽しみかた

出荷シーズンは、地元の飲食店も心待ちにしている印象があります。

松井

足りないって言ってくれる環境がありがたいですね。

基本的に、GRAPE SHIPのワインは地元で消費されています。輸送自体がナチュラルでないと思っているので、なるべく地元で消費されるべきと考えています。

岡山ならではのGRAPE SHIPのナチュラルワインの楽しみかたはありますか?

松井

地域の食材や加工品で合わせてもらいたいですね。地元の食材で、地元で採れたものを、地元の人が消費する。

先日、あるマーケットで倉敷市茶屋町の魚春(うおはる)さんと一緒に仕事をしました。魚春さんがすべて高梁川流域の魚でワインに合わせてくれて。漁師がお金にならないからとリリース(釣った魚を殺さず、水に戻すこと)するような魚もちゃんと加工して、そういうものもおいしく食べられると示してくれました。そのような魚料理に、主催者がリクエストしてくれたナチュラルワインを持って行って、一緒にイベントをさせてもらいました。

とてもありがたかったし、地元のものとワインを合わせてもらえるのがうれしかったですね。県外の人はもちろん、地元の人もそうやって味わってもらいたいです。

魚春の外観
魚春の外観

魚春さんが目を向けられていない魚を大切にするように、僕もブドウ農家のありかたや考えかた、足元を見て、地域に消費されるものを作ります。自分たちが岡山はいいところだよと思える環境を築きたいですね。

挑戦し続ける松井さん

今、挑戦していることはありますか?

松井

桃のナチュラルワイン造りですね。来年(2025年)の夏に出そうと思っています。近所に有機栽培で桃を栽培している農家さんがいまして。有機栽培するっていうことは、きっとロスも多いと思うんです。もしそれを廃棄するなら分けてほしいとお願いしました。

醸造所の外観
醸造所の外観

すでに有機栽培ではない、ふつうの桃ですけど、ワインにするテストはすませています。有機栽培の桃がほしいなと思っていたところに縁があって、手に入ることになって。

テストでは、白鳳と清水白桃と分けて醸造したら、品種特製が全然違って。びっくりしました。桃らしい香りがするのは白鳳でした。白鳳はシルキーな桃で、それをワインで飲むと、さらっと流れるように香りが入って本当に桃を食べているような香りがします。糖度が低いので、辛口です。清水白桃は味が良いですね。

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おわりに

筆者がGRAPE SHIPの存在を知ったのは倉敷市内の飲食店。倉敷市でクォリティーの高いナチュラルワインが造られているんだと店の人がうれしそうに教えてくれたのを覚えています。

こだわって造っているため生産量は多くありません。たまたま残りわずかだけれど提供できる店に行けて、朱を飲みました。ほど良いマスカットの芳醇な香りがするのに、飲み口は軽めのドライ。マスカット・オブ・アレキサンドリアで造るワインは甘くて、食前酒のイメージがありましたが、食事に合わせたくなる味に驚きました。マスカット・オブ・アレキサンドリアの新しい境地に出会った瞬間でした。

松井さんが造るナチュラルワインはただおいしいだけではありません。取材を通して、岡山のブドウの文化を守り、耕作放棄地の解消につながることを知りました。

子どもたちへ農業のありかたや地域の宝を知る機会を食育活動をとおして提供しているのにも、感動しました。

GRAPE SHIPのナチュラルワインを起点に、新たな食文化が育つような気がします。今後も松井さんの活躍から目が離せません。

GRAPE SHIPのデータ

外観_GRAPE SHIP
名前GRAPE SHIP
住所岡山県倉敷市船穂町船穂7153-1
電話番号非公開
ホームページGRAPE SHIP
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倉敷そだち

倉敷そだち

倉敷市在住。倉敷市でのびのびそだちました。食べることが大好き食いしん坊。家ではじっとしていられず、美味しいものを探しにふらっと出かけています。
「倉敷が好き」「倉敷に行こうかな」と思うひとを増やすことが自分の使命と思っています。

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アイキャッチ_GRAPE SHIP

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