手打ち麺と手延べ麺の違いを知っていますか。
手打ち麺は小麦粉をこねて平らにした生地を包丁で麺状に切っていきますが、手延べ麺は包丁を使わず、だんごの状態からひたすら麺を延ばして作られます。
そうすることで繊維(グルテン)が延び、つるりとした食感を生み出すのです。
岡山県浅口市鴨方町は江戸時代から手延べ麺の一大産地でした。
かつては麺を外で干す「かどぼし」という光景が、そこここに見られたといいます。
機械化が進み、なかなか見られなくなったかどぼしですが、河田賢一製麺工場では今でも行なわれています。
昔ながらの製法を続ける河田賢一製麺工場で、手延べ麺づくりを体験してきました。
記載されている内容は、2021年5月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
河田賢一製麺工場のデータ
名前 | 河田賢一製麺工場 |
---|---|
所在地 | 岡山県浅口市鴨方町小坂東750 |
電話番号 | 0865-44-4161 |
駐車場 | あり 2台 |
営業時間 | 予約受付(営業時間) 午前8時~午後6時 かどぼしの時間 午前10時~11時30分 |
定休日 | 土、日、不定休 手延べ麺づくり体験は月・水・金曜日。 |
利用料(税込) | 2,000円(税込) 1キログラムの素麺(20束)つき |
支払い方法 |
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予約の可否 | 可 1日に3人まで。 一週間前までに予約。天候によって「かどぼし」ができなくなる場合は、前日までに連絡あり。 |
トイレ | 洋式トイレ |
子育て | |
バリアフリー |
県道155号の大国橋交差点(高速道路の高架下)を北(画像右)へ進みます。
県道155号を阿部山・杉谷の方向(道なり右カーブ)へ進みます。
県道155号を阿部山の方向(北)へ進みます。道が狭いです。
道しるべの看板が左手に見えたら、右折します。
つきあたり「ほたるを守りましょう」の看板を左に進みます。ますます道が狭いです。
右手に河田賢一製麺工場が見えてきます。入口ののぼりが目印です。
鴨方の手延べ麺について
手延べ麺のまち 鴨方
岡山県南西部にある浅口市鴨方町は、手延べ麺のまちです。
2020年・2021年は新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止となりましたが、毎年6月末には「鴨方町手延べ麺まつり」が開催され、地元の麺業者が出店。多くの人でにぎわいます。
鴨方町のなかでも特に小坂東(こさかひがし)地区は、江戸時代から歴史が続く手延べ麺の一大産地です。
稲の裏作として小麦が栽培されていたため、手延べ麺づくりが農閑期(冬)の副業として定着しました。
小麦粉を挽く動力源として使う水車を稼働させるのにちょうどいい杉谷川(すぎたにがわ)があるのも、定着した要因でした。
かつては川沿いに40基もの水車が立ち並んでいたそうです。
湿度が低く、晴れの日が多いこの地域の気候は、手延べ麺づくりにぴったり。
外で麺を延ばし、太陽のもとで乾燥させることを「かどぼし」といいます。
かどぼしの風景は、冬の風物詩となり、小坂東のあちこちで見られたそうです。
手延べ麺づくりを伝承した播州(兵庫県南西部)出身の麺職人や、出荷に必要な木箱をつくる職人も行き交う、にぎやかな麺のまちでした。
2021年4月現在、鴨方町手延素麺生産者協議会には13事業者が加入。
それぞれに小麦粉の種類や配合比率を工夫し、こだわりの麺を作っています。
手延べ麺づくりは機械化が進み、全行程を屋内で行なうことが多くなりました。
そんななか、屋外でのかどぼしを続ける数少ない麺工場が河田賢一製麺工場です。
河田賢一製麺工場
河田賢一製麺工場は、車通りが少ない路地にひっそりとある小さな麺工場です。
四代目となる河田 紘志(かわた ひろし)さんのひいおじいさんが、1873年(明治6年)に家業として手延べ麺づくりをスタートしました。
河田さんは麺工場を継いで27年。それまでは製鉄所に勤め、機械のメンテナンスの仕事をしていました。
河田さんにとって、手延べ麺づくりは幼いころから身近で見てきた仕事。小・中学生時代には手伝いもしていました。
2021年4月現在、スタッフ7人と日々手延べ麺づくりを行なっています。なかには、70年近く働く大ベテランも!
「自然環境に恵まれ、小規模経営だからこそ、伝統的な製法を続けることができた」と河田さんは話します。
小麦の風味があり、つるりとした食感の手延べ麺は、全国のファンから注文が入るのです。
手延べ麺ができるまで
河田賢一製麺工場では、夜中2時から麺づくりがスタートします。
この地域では午前中に晴れることが多く、お昼12時頃までにかどぼしを終わらせるためです。
静まり返った真夜中に、その日の気温と湿度を確認。小麦粉への水・塩の分量を決めます。
気温や湿度が予報と変わることが多く、この配合がとても難しいのだとか。
水は井戸水を使っています。近くの遙照山(ようしょうざん)系の山々からの伏流水。自然の恵みの水です。
小麦粉・水・塩を機械でこね、大きなだんごを作ったら、6段階の工程で機械を使い、だんごから麺へとひたすら延ばしていきます。
最初は縄状の太さから。
熟成具合を見ながら続け、うどんほどの太さに仕上げていくのです。
延ばし、熟成を繰り返すことで、麺にしなやかさが生まれます。
0.5センチメートルほどの太さになったら、ようやく、かどぼしの工程へ。
機械がなかった頃はすべて手作業だったので、もっと時間と体力が必要だったのだとか。
手延べ麺ができる工程をまとめます。
工程 | 内容 |
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1.なかだて | 気温と湿度、天候を予想して水と塩を調合 |
2.こね | 小麦粉と水と塩を機械でこね、熟成 |
3.いたぎ | 機械で横約11センチメートル、縦約4センチメートルの板状に切り延ばし、直径約6センチメートルの丸状に細め、熟成 |
4.油がえし | 機械で直径約4センチメートルに細め、食用油をつけ、熟成 |
5.ほそめ | 機械で直径約2センチメートルに細め、熟成 |
6.こなし | 機械で直径約1センチメートルに細め、熟成 |
7.かけば | 機械で2本のくだに直径約0.5センチメートルとなった麺を8の字状に巻き付ける |
8.ねびつ | ねびつ(木製の箱)に入れて1時間半ほど熟成 |
9.こびき | ねびつから出した麺を機械で約60センチメートルに引き延ばす |
10.ねびつ | 再びねびつで1時間半ほど熟成 |
11.かどぼし | 屋外で太陽にさらしながら、順次細く、約2メートルに麺を延ばす |
12.乾燥 | 屋外から屋内に移動させ、およそ1日乾燥させる |
13.こわり | 切り台の上で19センチメートルに切断する |
14.たば | 1束50グラムに束ね、箱詰めする |
多くの工程があることがわかるでしょう。
特にかどぼしまでは、麺にコシを出すために、延ばして熟成させる工程を何度も繰り返していくのです。
乾燥まですべての工程を入れるとおよそ30時間かかります。
そのなかで、麺の成形の最終工程である「かどぼし」を体験しました。
手延べ麺づくり「かどぼし」体験
「かどぼし」体験について
河田賢一製麺工場では、基本的に月・水・金曜日の午前10時から11時30分までが「かどぼし」の時間です。その時間で手延べ麺づくりが体験できます。
1キログラムの素麺(20束)がお土産でついて、ひとり2,000円(税込)で体験が可能。
ただし、1日に3名までの受付となります。
1週間前までに予約をしましょう。天候によって「かどぼし」ができなくなる場合は、前日までに連絡があります。
小麦の香りが広がるかどぼし
河田賢一製麺工場では、素麺、ひやむぎ、うどんを作っています。
私が訪れたのは、一番細い素麺を作る日でした。
かどぼしでは長さ約60センチメートルの麺を、約2メートルまで延ばしていきます。
麺を延ばすために、機(はた)という道具を使用。
麺を巻いた棒を穴に差し込み、固定します。
一気に延ばさず、差し込む穴を変えながら徐々に延ばしていました。
延ばしていきながら、2本の竹箸を操り、ひっついた麺をわけていきます。
この日は私も含めて8人で行ないました。
麺を巻いた棒を機の穴に差し込む人、竹箸を操る人、いったん1.5メートルほどに仕上がったものを回収する人と、役割分担しチームワークで進めます。
時間がかかると、麺が乾きすぎてしまうので要注意。手際よく進めていかなくてはいけません。
1.5メートルほどに仕上がった麺は、のれんのようにぶら下げて一度熟成させたあと、一気に2メートルほどに引き延ばし、成形が完了です。
BGMは演歌。太陽のもと、白い糸のような麺がしなやかに広がっていきます。そして、あたり一面にふわっと小麦の香りが。
小麦粉と塩と水を練るだけでこんなに延び、いい香りがするのかと驚きました。
「太陽にさらすと白くなり、この香りがそのまま麺にのる」と河田さんは話します。
いざ、体験!
はじめの15分程度は見学をしながらやり方を教えてもらい、そのあと竹箸を使ってひっついた麺をわけていく作業を担当しました。
スタッフのかたたちはリズミカルに簡単そうに行なっていましたが、いざやってみると難しかったです。
竹箸を麺の間に滑り込ませるところが、まず大変。
コツを教えてもらいながら、数をこなしていくとだんだんとできるようになりました。
また、手を左右に広げてわけるには、思ったよりも力がいります。強い弾力を感じました。
麺がちぎれることを心配していましたが、一度もちぎれません。それくらい弾力があるのです。
手延べ麺づくりには、熟練の技が必要だということがわかりました。
スタッフのかたたちと息を合わせて麺を延ばしていくチームプレーが楽しかったです。
最後には「上手になったねえ」と誉めてもらえました!
麺を2メートルに延ばしたあと最終調整の箸入れも体験。軽く竹箸を通し、ひっついている麺があれば離していきます。
延ばし終えた麺は屋外に出し、まんべんなく太陽の光が当たるよう、影を見て向きを調整しているのだそう。
さまざまな工夫を間近で見ることができました。
かどぼしは、雨の日や湿度が高い日は屋外でできません。河田賢一製麺工場では、雨の日は屋内で一連の作業を行なっています。
また、4月~5月は温度と湿度の兼ね合いで麺が乾燥しやすく、難しいのだとか。7月~8月は逆に湿度の高さが課題になります。
「手延べ麺は生き物じゃ」という言葉を何度か聞きました。
配合する水加減で、ひっついた麺がパッとわかれたり、下まで延びすぎたり、手作業だからこそ麺の出来を実感できるといいます。
配合を決めている河田さんは「みんなが今日は難しい、やりやすいという言葉を聞いて、配合をもっとこうすればよかったと思う。毎日その繰り返しで、麺づくりには終わりがない」と話します。
おわりに
外で小麦の香りに包まれて行なう手延べ麺づくり。
作業自体はコツが必要で難しかったですが、気持ちよさそうに弾む麺を見ると、私の気持ちまで元気になりました。
また、だんごの状態から、包丁を使わずにひたすら延ばして細い素麺へ仕上げていく工程を知り、夏に気軽に食べられる素麺が、こんなに時間と手間をかけてていねいに作られていることに感動しました。
演歌をBGMに和気あいあいと手を進めるスタッフのかたたちと、「手延べ麺は生き物じゃ」という言葉が忘れられません。
貴重な昔ながらの手延べ麺づくりを体験してみませんか。
- 撮影:佐々木敏行
河田賢一製麺工場のデータ
名前 | 河田賢一製麺工場 |
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所在地 | 岡山県浅口市鴨方町小坂東750 |
電話番号 | 0865-44-4161 |
駐車場 | あり 2台 |
営業時間 | 予約受付(営業時間) 午前8時~午後6時 かどぼしの時間 午前10時~11時30分 |
定休日 | 土、日、不定休 手延べ麺づくり体験は月・水・金曜日。 |
利用料(税込) | 2,000円(税込) 1キログラムの素麺(20束)つき |
支払い方法 |
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予約の可否 | 可 1日に3人まで。 一週間前までに予約。天候によって「かどぼし」ができなくなる場合は、前日までに連絡あり。 |
トイレ | 洋式トイレ |
子育て | |
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