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松尾さん、平野さんへのインタビュー
古代吉備文化財センターで、備中国分尼寺跡ほか保存活用総合調査を担当している松尾佳子(まつお よしこ)さんと平野友梨(ひらの ゆうり)さんに話を聞きました。
「史跡備中国分尼寺跡ほか保存活用総合調査」初年度の成果
初年度の総合調査成果を紹介します。
発掘調査の成果と現地説明会
2023年度の発掘調査でわかったことを紹介してください。
松尾(敬称略)
備中国分尼寺跡については、これまで寺域内の発掘調査がおこなわれていません。
それでも、赤色立体図や現地の地形などから、伽藍配置(がらんはいち)と呼ばれる建物の配置が、おおよそわかっています。
今年度(2023年度)の調査はそうした建物のなかから、南門、中門、講堂の基壇の位置や規模、構造を正確に把握することが目的でした。
中門は掘立柱(ほったてばしら)構造であることがわかったのですが、これは全国的にも珍しいと思っています。南門や講堂では、新たに建立当時の礎石を確認でき、位置や規模をほぼ特定できました。
現地説明会はいかがでしたか。
現地説明会には120人、その翌週1週間継続した現地公開には200人が参加いただきました。みなさんの関心の高さが伝わってきました。
パンフレットとYouTube
魅力発信のために2024年1月に刊行したパンフレット「吉備路の歴史遺産2」は平野さんの力作とか。
平野
考古学を知らない人でも楽しんでもらえるものにしたいと思い、キャッチーな絵やコメントを意識しながら、頑張って作りました。
同時に、ある程度専門的なことも知ってもらえるような情報を織り込んだつもりです。
紹介したハイキングコースでは、自分で歩いて感じたことも補足しました。
2020年度から毎年実施している吉備路ウォークなどでも使ってほしいです。
YouTubeも配信しているとか。
平野
お寺の遺跡では、瓦(かわら)が重要な遺物です。古代の瓦がどのように作られたのかを再現した動画をアップしています。
短編で見やすくしていますので、古代吉備文化財センターのYouTubeチャンネルをご覧ください。
講座
2024年3月の考古学講座で、松尾さんは瓦をテーマに話をしていました。
松尾
奈良時代は天皇中心の律令国家の時代とされます。しかし、最近の研究で地域ごとの多様性が明らかになってきました。
旧60余国のすべてに築造が命じられた国分尼寺の研究は、国と地域の関係にせまるテーマとなります。
瓦の文様や製作技法の研究もそのひとつなのです。
資料の整理など
収集した遺物の調査状況を教えてください。
松尾
1971年の発掘調査で、備中国分寺跡から多くの遺物が出土しました。ほとんどが瓦で、その量はなんと4tです。
学術的には、国分寺と国分尼寺の建立タイミングというのが話題になります。一般的には国分寺が先に建てられたと考えられているのです。
今回の発掘調査で、備中国分尼寺跡からも4tほどの遺物が出土しました。
これらを比較調査することで、両寺の建立タイミングが解明できるかもしれません。
魅力発信事業の今後
2024年度以降の計画をお聞かせください。
松尾
まず、2024年度は金堂などの発掘調査を続けることになると思います。
保存活用計画は、調査の進捗を待って作成していくことになります。
発信したい吉備路の魅力
あらためて吉備路の魅力を紹介ください。
松尾
一般的には、埋蔵文化財はその名前のとおり埋蔵している(いた)ものですから、見えるものが少ないのです。
しかし、吉備路の歴史遺産はすべて目で見られます。
活用を含めた全体の計画についてはこれからですが、私は、吉備路に何か新しいものが必要だとは思いません。
ただ、散歩道を回遊する人たちが、「ここはこうだった」「ここにはこういうお寺があった」そのようなことがわかる工夫はしたいですね。
私たちが遺跡の価値づけを頑張って、それを地域のみなさんに知ってもらって保存していく。そのようになれば良いなと思っています。
今後の夢と目標
最後におふたりの今後の夢や目標を聞かせてください。
平野
昨年(2023年)の発掘調査が私の最初の現場となりました。
多くのかたに「楽しんでもらえるとうれしい」ということを肌感覚として味わいましたし、自分の努力が形になる楽しさも知りました。
保存活動をしていくなかで、魅力を知ってもらうことはとても大切だと思います。イラスト作成などの特技も生かしながら、ときには学術的な内容も踏まえた上で、ていねいに説明していくことを心掛けたいと思います。
松尾
随分前ですが、大学での卒業論文は瓦がテーマでした。
就職後は古代の瓦が出土する遺跡を掘ったことがなく、20年ほど前にも、尼寺についての企画書を出したことがあります。
今回、備中国分尼寺跡の調査が決まって、その担当を拝命したときに受け取った資料のなかに、20年前の私の企画書が入っていたのです。
驚いたと同時に、身の引き締まる思いです。
備中国分尼寺跡の調査と活用。大変な重責ですが、最後までやり遂げたいと思っています。
おわりに
2024年度で5年目を迎える「吉備路の歴史遺産」魅力発信事業において、保存活用のための総合調査が進んでいます。
魅力発信事業は、総合調査の先に史跡の整備事業が続き、本格的な活用事業へと向かう長期間の事業です。
歴史遺産の価値保存に協力するとともに、新たな魅力の発見に期待したいと思います。
岡山県古代吉備文化財センターのデータ
団体名 | 岡山県古代吉備文化財センター |
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業種 | 岡山県教育委員会 |
代表者名 | 奥山修司 |
設立年 | 1984(昭和59)年 |
住所 | 岡山市北区西花尻1325-3 |
電話番号 | 086-293-3211 |
営業時間 | 午前9時~午後5時 展示室は土日祝も開館 無料 |
休業日 | なし |
ホームページ | 岡山県古代吉備文化財センター |