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夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」~ 臨場感あふれる無声映画を、後世につないでいきたい

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」~ 臨場感あふれる無声映画を、後世につないでいきたい

知っとこ / 2025.05.12

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」インタビュー

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」として活動する矢吹勝利(やぶき かつとし)さんと矢吹むつみさんに、話を聞きました。

活弁を観た感動を、児島のみんなにみせんといけん!みてほしい!

お二人と活弁の出会いを教えてください。

勝利(敬称略)

私たちは、2004年に世界一周のクルーズ船に乗船しました。
船には「水先案内人」と呼ばれる芸能や環境問題・政治などに携わる講師が代わる代わる乗船してきます。そのなかの一人に佐々木亜希子(ささき あきこ)さんという活弁士がいて、船内で活弁映画の上映会をしてくれたんです。

それが、私たちと活弁映画の出会いです。

むつみ(敬称略)

活弁士って、齢を重ねた「おひげのおじいさん」のような人がやっているイメージがありませんか?
でも、佐々木さんは30歳くらいの若い女性だったんです。まず、そのことにびっくりしました。

上映が始まった直後は「彼女が喋っている」と思いながら聞いていたんです。
でも、あっという間に映画に没入してしまいました。
「彼女が喋っている」なんてことは忘れてしまって、普通のもとから音声のある映画を鑑賞しているような感覚です。

だから、上映が終わって改めてスクリーンの傍らに座る佐々木さんを見て「今のは全部、彼女が一人で喋っていたんだ!」と実感したときに、感動がこみ上げてきました。

そして、「帰国したらこの感動を児島のみんなにみせんといけん!みてほしい!」と思ったんです。

勝利

帰国してから、2005年に児島で「活弁シネマライブ」というイベントを開催しました。このときは、私たちが活弁をしたのではなく、佐々木さんを児島に招待して活弁を披露してもらいました。

そこから、お二人が活弁士として活動するようになった“いきさつ”も、知りたいです

むつみ

イベントの開催を続けていると、岡山映画祭のかたから「自分たちの手で、活弁映画を上映してみませんか?」とお誘いをいただいたんです。船内で佐々木さんが主催するワークショップに参加しましたが、自分たちが人前で活弁をするとは考えてもいなかったのでびっくりしましたね。

でも、佐々木さんにも背中を押してもらって、私たちも活弁をすることにしたんです。

矢吹むつみさん

主催者から依頼を受けた映画は『豪傑地雷也』。
岡山出身の俳優さんが主演する映画です。活動写真の初期に岡山出身の俳優が活躍していたことを、岡山県の人に知ってほしいとの願いで依頼されました。

ただ、男性のチャンバラシーンが多くあるので、私一人だと男の人の力強い声を出し続けることができません。

そこで佐々木さんに「かっちゃん(勝利さんのこと)と二人で活弁をしても良いかしら?」と尋ねたところ「それは面白そう!」と賛成してもらって、自然と二人での夫婦活弁士「むっちゃんかっちゃん」がはじまりました。

地域に眠る無声映画を、活弁で蘇らせる

特に印象的だった作品はありますか

勝利

どの作品も自分たちでイチからセリフを考えるので思い入れがありますが、『性は善』という作品は特に印象に残っています。

この作品は、2018年に浅口市にある金光図書館で発見された無声映画です。1924年に元帝国キネマ撮影所長であり、金光教の信奉者である川口吉太郎氏によって制作された作品で1・2・5巻のみ発見されました。

当時は、布教活動のひとつにオリジナルの無声映画が使われていたんですね。

そこで、金光図書館の人たちが発見された三つのフィルムをみんなに見せたいと思って活弁士を探していたところ、私たちにたどり着いたようです。

むつみ

金光図書館のほうでも昔の資料などを頼りに脚本の骨組みは作っていたのですが、画面と合わせて喋りやすいようにアレンジしながら、私たちで新しい脚本を作りました。

ちょうど新型コロナウイルス感染拡大防止期間だったので、金光を会場に何度もミニライブをしたことを覚えています。

また、私たちがいなくても上映できるように活弁の音声と無声映画を同時に録画した作品を作ったりそれを岡山映画祭に出品したりもしましたよ。

その後、京都大学人文科学研究所からもお声がけいただいて、2023年には京都大学百周年時計台記念館にある百周年記念ホールでも、活弁を披露させていただきました。

京都大学百周年記念ホールで、楽士の野原直子さん(左)と矢吹夫妻が舞台挨拶をするようす(写真提供:矢吹夫妻)
京都大学百周年記念ホールで、楽士の野原直子さん(左)と矢吹夫妻が舞台挨拶をするようす(写真提供:矢吹夫妻)

勝利

地域の人たちに届けたいと思って始めた活動が、同じ備中の人たちに届いたという印象的なエピソードでしたね。

臨場感ある活弁を、後世につないでいきたい

大人だけでなく、子どもを対象としたワークショップも開催されていると聞きました

むつみ

児島にある小学校でも、活弁のワークショップをしました。

三年生の児童を対象にワークショップをして帰るときに、子どもたちから「さっきの活弁、映画のなかから声が出てきているように聞こえました」と言われたんです。

これは活弁士として一番うれしい言葉で、私自身はじめて佐々木さんの活弁映画を観たときに感じたことと同じ感想でした。
子どもは感じたことを本当にストレートに伝えてくれるので、私が伝えたいと思った感動が児島の子どもたちに伝わったと実感できたのは、本当にうれしかったです。

今の子どもたちって、色鮮やかなアニメーション映画を観て育っていますよね。でも、私たちが活弁映画に使うフィルムは白黒で、擦り切れてチラチラするものなんですよ。
それにもかかわらず、子どもたちの心を動かす。活弁は残す価値のあるものなのだと確信させてもらった一言でした。

お二人が思う、活弁の魅力を教えてください

むつみ

なによりも、舞台の臨場感が魅力です。

活弁は、活動写真が舞台にあって、楽士が音楽を奏で、活弁士がセリフや映画説明をしますよね。
そうすると、舞台俳優がその場にいないにもかかわらず、あたかもその場で演じているような臨場感が感じられるんです。

これは、生演奏と生の声が作り上げるもので、活弁映画特有の魅力だと思います。

『性は善』を上映した際のようす(写真提供:矢吹夫妻)
『性は善』を上映した際のようす(写真提供:矢吹夫妻)

勝利

生のライブだから、お客さんも参加できます。
いいシーンが出てくれば、拍手喝采(はくしゅかっさい)。いい語りをすれば、拍手喝采。いい音楽があれば、みんなで手をたたく……。

活動写真・活弁士・楽士・お客さんが、三位一体(さんみいったい)ならぬ四位一体になれるのが、活弁映画の魅力です。

お客さんの気持ちが高まれば、活弁士の語りや音楽にも伝わってきます。

つまり、聴衆が変わるたびに活弁映画自体も少しずつ変化がある。それが、醍醐味(だいごみ)ではないでしょうか。

今後の展望を教えてください

勝利

実は、活動映画にセリフを付けたのは、日本・韓国・タイのみなんです。
というのも、日本には古くから「語りの文化」がありました。たとえば、浄瑠璃や浪曲、落語などが代表例です。
つまり、物語のあるものに語りを入れて楽しむ文化が元々あったため、活弁映画が根付きやすかったのだと思います。

こうして続いてきた語りの文化のひとつである活弁を、これからも残していきたいという気持ちでやっています。
僕自身、映画が大好きなのでね。

みんなに喜んでもらえて、笑ってもらえることがうれしいなと思っています。

矢吹勝利さん

むつみ

活弁映画って、もう地方ではほとんど上映されていないんです。関西より西で活動しているのは、私たちを含めて数名しかいません。

地方にいると文化に触れられる機会がぐっと減ってしまいます。それでも、金光図書館のフィルムや私たちが最初に上映した作品のように、岡山の人にこそ知ってほしい作品もあります。そのような作品を私たちの暮らす、児島でつなぎ続けていきたいですね。

読者へメッセージをお願いします

勝利

やはり私たちも年を重ねてきたので、暗いところで脚本の文字を追ったり、最後まできちっと通る声を出し続けたりするのがやっとです。
2025年5月に第3回下津井映画倶楽部上映会で上映する映画『瞼の母』(片岡千恵蔵主演)のような長編映画には、今後そう挑戦できないかもしれません。

脚本

この記事を読んで、活弁の存在や私たちのことを知って若い世代の人たちに知って興味をもってもらえたら、ぜひ観に来ていただければと思います。

むつみ

これからは、自分たちが宣伝をしていく立場ではなく、次世代に活弁を残していく活動に重きを置いていきたいと考えています。

若い世代で魅力を感じて、やってみたという人がいれば、出し惜しみなくつないでいきますよ。

おわりに

取材の打ち合わせをしていると、矢吹夫妻から「活弁映画は観たことある?」と聞かれました。実はまだ観たことがないことを伝えると、2025年5月19日(月)に第3回下津井映画俱楽部上映会で上映予定の『瞼の母』(片岡千恵蔵主演)の練習風景を見学させてもらえることに。

ところどころ字幕がありますが、それ以外のパートは矢吹夫妻が考えた脚本。しかし、どれも最初からこの脚本通りに映画が撮影されたのではないかと思うほど自然な流れで、思わず見入ってしまいました。

倉敷をはじめとした高梁川流域にも、まだまだ無声映画が眠っているかもしれません。活弁という形で映画に息を吹き込んだり、活弁の文化を残していったりする活動が、この地で続いていくよう願わずにいられません。

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」のデータ

活弁の練習をする矢吹夫妻
名前夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」
住所岡山県倉敷市児島
電話番号
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高石真梨子

高石真梨子

東北→九州→近畿→関東を経て、2023年12月に倉敷市地域おこし協力隊になりました。

音の世界と音のない世界の狭間に住んでいる、手話と日本語のバイリンガルです。障がいの有無にかかわらず、倉敷を旅して倉敷に住み続けたくなるような情報を発信していきます。

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