館長インタビュー
館長の澤原一志(さわはら かずし)さんにインタビューしました。
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1953年(昭和28年)に美術館が開館した経緯を教えてください。
澤原(敬称略)
1953年は、成羽町ができて50周年を迎えた年でした。記念事業として何をするのが良いか、町長が町民に意見を募集したそうです。
そこで多く声が挙がったのが、地域の偉人である児島虎次郎の顕彰でした。町のみんなが、児島虎次郎を尊敬していたんですね。
当時は戦後で、まだ満足に食べることも難しかった時代です。
そのような貧しい時代に、町民のみんながお金を出しあって、この美術館ができました。
それはすごいですね。30年前に現在の場所に移ったのはなぜですか?
澤原
児島家からの寄贈によって収蔵品が増えたことがきっかけです。当初は、移転せずに建物を建て替える計画を立てていました。
しかし、安藤忠雄さんがこの場所をたいそう気に入り、ここに美術館を作りたいという強い希望があって、現在の場所に新築開館することになりました。
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安藤建築には、水を使った建物が多いんですね。
この場所に出会ったときに、安藤さんの頭のなかに、山を借景にした水の庭が浮かんだのではないでしょうか。
安藤さんは、貧しい幼少期を過ごし、高卒でボクサーになった人です。
ボクサーを諦めてからは寝る間を惜しんで建築を勉強し、独学で一級建築士の資格を取って、近年では東京大学の教授にもなりました。
厳しい環境に負けない、ハングリー精神の強いかたなんですね。彼のハングリー精神が美術館建築に影響しているのではないでしょうか。
長いアプローチは、安藤忠雄さんがもっともこだわった箇所でした。僕は、そのアプローチには人生で困難を乗り越えていく哲学が込められているんじゃないかと考えています。
鳥の声がしたりトンボが飛んでいたり。自然の息吹を感じながら歩く、このアプローチが好きなんです。
数々の企画展は、どのような基準で計画してきたのでしょうか?
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澤原
ひとりでも多くのかたに足を運んでもらい、知ってもらうことです。
遠方の人と話をすると、なかなか「高梁市成羽美術館」の名前を正しく読んでもらえません。
まずは、さまざまな人に来てもらえることを大切にしました。
特に来場者数の多かった企画展を教えてください。

澤原
特に多かったのは、高倉健さんの追悼特別展ですね。
出演映画全205本を館内に映しました。
ふだんもっとも美術館に足を運んでいないのが、中高年の男性なんです。彼らを美術館に呼ぶために考えた企画で、約1万2千人の来場がありました。
油絵好きなかた向けのジョルジュ・ルオーや、子どもさん向けのミッフィーなど、老若男女に向けて企画しています。
ただ、2025年からは今より「児島虎次郎の顕彰」という原点を大切にしたいと考えています。
児島虎次郎はどのような人だったのでしょうか?

澤原
「日本人としての油絵」を追い求めた画家です。
成羽町で生まれて1908年にヨーロッパへ渡りました。
パリがあまり肌に合わなかった彼は、光を巧みに取り入れるベルギー印象派の絵画を勉強しました。
美術収集家としても素晴らしい人です。
エル・グレコ、モネ、セザンヌ、ゴッホなどの優れた作品を集めています。
僕も中学生で大原美術館を訪れたとき、ホドラーやエル・グレコの作品に感銘を受けました。
彼が収集した作品をきっかけに美術の道を志した人も多いでしょうし、児島虎次郎が日本の西洋美術に与えた影響は大きいと思いますね。

虎次郎はエジプトや中国・朝鮮半島にも渡りました。
エジプトは人類の文明の原点であり人類の宝、中国・朝鮮半島は日本文化のルーツです。
当館では、ヨーロッパの焼き物や中国の埋葬品など、児島虎次郎が収集したエジプトやオリエントの古美術をいくつも所蔵しています。
1920年代のエジプトで集めたコレクションは非常に貴重なんですよ。
収集を中心とした渡航中でさえもたくさんの絵を描き、47歳で亡くなったときにはアトリエに約700点の作品を残しています。
真面目でストイックで、熱いエネルギーをもった人だったんです。
児島虎次郎を顕彰する意義はなんでしょうか?
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澤原
多くの人に児島虎次郎を知ってもらうのが1番です。
展示した虎次郎の模写を見て、「うちにある、捨てようと思っていた絵が元絵ではないか」と絵画を持参してくださったこともあります。
地域のかたから「うちにも虎次郎さんの絵がある」と寄贈していただいた作品が何点もあるんです。
出生地で展示し児島虎次郎の実績を知らせることが、市井(しせい:人家が集まっているところ)のかたがたの理解を深め、さらには文化財の保存につながると考えています。
都市部ではない、地方の美術館として心がけていることはありますか?

澤原
「来て良かった」と思っていただける美術館でありたいと思っています。
やはりアクセスは大変なので、わざわざ来ていただく感謝の気持ちを忘れないように。
親切な展示だけでなく、快適に鑑賞いただける応対をスタッフ全員が心がけています。日々努力を重ねているスタッフには、感謝が尽きません。
高梁市成羽美術館を訪れようかなと考えているかたに、メッセージをお願いします。
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澤原
山のきれいさや、川のせせらぎ。作品に勇気をもらったり、癒やされたり。
日常の生活でいろいろあっても、この場所でなにか心に触れるものがあればと願っています。
明確な目的をもたなくても、安藤さんの建物と展覧会、そして周りの自然を味わってください。岡山市から電車だと、約2時間のちょっとした旅です。電車の車窓から山々の紅葉や、川の鳥や亀が見えるかもしれません。
訪問プロセスも大事にしてリフレッシュして、小さな旅を楽しんでいただけたらと思っています。
おわりに
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自然との調和を感じられる、訪れるまでも着いてからも楽しい美術館。
児島虎次郎の絵は、明るく柔らかくしっとりとした日本らしさもあり、幸福感を覚える作品が多いなと感じて、筆者は大好きです。
画家として収集家として、日本の洋画に大きな影響を与えた児島虎次郎を、高梁市成羽美術館でより深く知れることでしょう。
これからの展示も楽しみです。
高梁市成羽美術館のデータ
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名前 | 高梁市成羽美術館 |
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所在地 | 岡山県高梁市成羽町下原1068−3 |
電話番号 | 0866-42-4455 |
駐車場 | あり 約90台(※隣接のたいこまるプラザと共用) |
開館時間 | 午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
休館日 | 月 月曜が祝祭日の場合は開館、翌火曜休館 |
入館料(税込) | 展覧会によって入館料が異なります。 |
支払い方法 |
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予約について | |
タバコ | 完全禁煙 |
トイレ | 洋式トイレ バリアフリートイレ |
子育て | オムツ替えシート ベビーカー貸出 |
バリアフリー | スロープ バリアフリートイレ エレベーター 車いす貸出 |
ホームページ | 高梁市成羽美術館 |