2020年に、開館90周年を迎えた大原美術館。
しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、136日間もの長期臨時休館を余儀なくされました。
2020年12月現在も、密を避けるため入館者数を制限しています。
入館者の激減にともない、財政的に苦しい状況にあるのです。
大原美術館は、2020年12月25日の午後11時まで、運営経費を募るクラウドファンディングを行なっています。
大原美術館は、今どのような状況なのでしょうか?
美術館で働くスタッフに、周囲の反応や想いを聞きました。
記載されている内容は、2020年12月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
大原美術館のデータ
名前 | 大原美術館 |
---|---|
所在地 | 岡山県倉敷市中央1-1-15 |
電話番号 | 086-422-0005 |
駐車場 | なし |
開館時間 | 【12月~2月】 午前9時〜午後3時(最終入館:午後2時30分) 【3月~11月】 午前9時〜午後5時(最終入館:午後4時30分) |
休館日 | 月 祝日、振替休日と重なった場合は開館 冬期休館あり |
入館料(税込) | 【一般】 大人:2,000円 高校・中学・小学生(18歳未満のかた):500円 |
支払い方法 |
|
予約について | 可 個人であれば予約不要(入場整理券の予約不可) |
タバコ | 禁煙(指定エリアのみ喫煙可能) |
トイレ | 洋式トイレ 和式トイレ バリアフリートイレ |
子育て | 授乳室 オムツ替えシート ベビーカー貸出 授乳室は工芸館にあり オムツ替えシートは本館2階および工芸館にあり |
バリアフリー | スロープ バリアフリートイレ エレベーター 車いす貸出 |
ホームページ | 大原美術館公式HP |
90周年を迎えた大原美術館
大原美術館は1930年(昭和5年)に設立された、日本で最初の西洋美術中心の私立美術館です。
海外の作品を直接見ることが難しかった時代に、「優れた本物の作品を日本でも見られるように」と誕生しました。
エル・グレコ、モネ、ゴーギャン、マティス、ピカソなどの近代西洋絵画から、現代アートに至るまで、幅広い作品を収蔵しています。
大原美術館の現状と、クラウドファンディング
大原美術館の運営経費の大半(約8割)は、入館料でまかなわれています。
大原美術館が作品公開を維持するのに必要な年間入館者数は、約30万人でギリギリだそうです。
しかし2020年の入館者見込み数は、休館と入場者制限の影響が大きく、約5万人。
昨年からおよそ85%も減ってしまう見込みで、このままでは一般公開や作品の維持がままなりません。
そこで、まずは作品のための適切な保存環境を維持し続け、かつ「開館を続ける」ことを目指し、クラウドファンディングに踏みきりました。
クラウドファンディングサイト「READYFOR」で、2020年12月25日の午後11時まで実施しています。
第1目標金額の1,000万円は、なんと、クラウドファンディング開始後、5日と8時間で達成しました!
しかし1,000万円という最初の目標は、「直近の運営資金として急場しのぎできる」金額だそう。
現在、次の目標として3,000万円を掲げているのです。
支援のリターンにはいくつかのコースがあり、VR鑑賞体験ができるコースも用意されています。
詳しくは、クラウドファンディングのページを見てください。
スタッフインタビュー
大原美術館で働く3人にインタビューしました。
広報担当の佐々木梢(ささき こづえ)さん
佐々木
クラウドファンディングのコメントが、本当にありがたくて。
開始当初は毎日ヘトヘトだったのですが、寝る前にコメント欄を読んで、喜びに浸りながら眠っていました。
美術館のバックヤードにも、コメントを掲示しているんです。
現場の職員たちも、コメントを読んで感動すると言っていますね。
佐々木
新聞やテレビでもニュースになって、「そんなにも大変な状況だったのか」って思ってくださったみたいです。
お近くにお住まいのおじいちゃんが、「わしは美術には興味がない。でも大原美術館がなくなったら、なんとなく嫌なんじゃ」とお金を握りしめて来てくださったこともありました。
そんなふうに「日常の当たり前にあるもの」として大切にしていただいていたことを、私たちが教えていただくきっかけにもなりましたね。
佐々木
そのとおりです。
美術館が担っているのは、「作品を見せる」ことだけではありません。
新しい作品も紹介しないといけませんし、作品を保存し管理するのも大切なことです。
目に見えていない部分にも、人件費や電気代を含めたランニングコストがかかっています。
たとえば収蔵庫はお客様の目には触れませんが、展示している点数以上に作品が保管されていて、なくてはならないものです。
作品を守っていくことは、未来に対する責任なので。
作品の修復にもまた費用がかかります。
作品を見ていただくために守ってるんですけど、来館していただかないと、守り続けること自体も厳しくなってくる。
このふたつは、切り離せません。
当面のゴールとして目標金額を掲げていますが、「あればあるだけ助かります」というのが正直なところです。
佐々木
開始前は、「支援してくださるのは、大原美術館に来たことがあるかただろう」と思っていました。
しかし、「一度も行ったことがないけれど、いつか行く日のために開いていてくださらないと困ります」っておっしゃるかたも、結構いらっしゃって。
「いつか行きたい」と応援していただけるって、すごいことじゃないですか。
幼稚園や小学校からも支援いただいていて、先生が主導したのではなく、子供たちが自発的に動いてくださったそうです。
ある小学校は、ボランティアでアルミ缶を集めて、お金に変えて支援してくださいました。
「これからも安心して作品を見せてほしいです」と言ってくださって、ありがたいですね。
設備管理グループの大橋倫也(おおはし ともや)さん
大橋
美術館の鍵の開け締めを含む、設備の管理です。
照明が切れていないか、空調に異常はないかなどをチェックし、必要に応じてメンテナンスをしています。
再開館後は、入口で整理券を渡すなどの仕事が増えたので、その手伝いもしています。
大橋
独立採算で運営しているので、お客様が来てくださらないと厳しいのはわかっていました。
何か月も休館していて、再開館しても入館人数制限があるためお断りすることも多かったので、お客様が減っていると切実に実感していて。
なので、“やはり”そこまで厳しい状況になってきたか、と。
大原美術館にとって、クラウドファンディングは「奥の手を切った」ようなものだと思います。
「1,000万円を達成したのだから、もう大丈夫だろう」と思われてしまうかもしれませんが、そうではありません。
大橋
理事長も最近言っていたのですが、「みんなの美術館」でありたいです。
みんな気兼ねなく、ちょっと喫茶店に行くくらいの気持ちで来ていただけるような。
気持ち的にも「お高い」イメージを持たれてしまうところがあると思うんですけど、「どうぞみなさん気楽に来てください」という気持ちです。
気軽に来ていただける美術館になっていけたら、と思います。
大橋
壁をどう崩していけるかですね、難しいんですけど。
幼いころから美術に親しんでもらうような活動もしているので、少しずつでも、もっと身近に感じてもらえるようになったらと思います。
パート職員の森亮子(もり りょうこ)さん
森
主に、展示室の監視業務と、入館券の販売をしています。
休館前は、子供たちが作品を見るときの案内もしていました。
森
まずは驚きました。
休館が続いていましたが、はじめはなんとなく、「再開したら元に戻る」って感覚があったんです。
ですが、まったく元どおりではありませんでした。
森
「お客様が入っての美術館だな」とすごく感じています。
閉館中に館内に入ったら、勝手な個人的な感覚ですけど、絵がカサカサして乾燥しているように見えました。
そして再開館してお客様が入ってきたら、絵が潤っているというか生き生きしているように感じたんですよ。
絵は変わっていないはずなんですけどね。
お客様の反応は、言葉だけではありません。
たとえば最近来られたあるお客様は、何もおっしゃらなかったんですけど、美術館全体を見回して、目がキラキラしていたんですよ。少女漫画みたいに。
美術館・展示+お客様の反応で、美術館が成り立っているんだなと感じました。
森
作品のなかで働けますし、お客様の感想が聞けることがいいですね。
「立派だ、素晴らしい」っておっしゃるかたばかりじゃなくて、「これなら自分でも描けるぞ」とか「ずっと見ていたら気が狂いそうだ」とか。
みんな同じではないところが、楽しいです。
森
クラウドファンディングって、お金に応援の心を乗せるものだと思うんです。
1週間足らずで目標を達成できたことも本当に感謝と驚きでいっぱいなんですけれど、コメントの温かさにも助けられました。
応援メッセージのなかには、「子供のころ行きました」とか「60年前に行きました」とか「亡き夫と訪れました」ってコメントもあって。
それぞれの人に、大原美術館とともに振り返る時間があるんだなと感じました。
これまで、当たり前のように感じていたんですよ。
お客様が来て入館料が入ってきて、それで美術館を開館でき、企画展をしたり作家さんを招いたり。
全然当たり前じゃなかったことに、気がつきましたね。
「未来につないでください」という応援メッセージもありました。
今作品を見られることに喜びを感じると同時に、このバトンを次につなげるために、もしかしたら私たちは美術館で働いているのかなって。
大原美術館で絵を見られること、このバトンをつなげていきたいです。
私の力は小さいんですけど、でもクラウドファンディングでたくさんのかたが応援くださったことで、「ひとりひとりの力が大きな力になるんだ」っていうことは分かったので。
ひとつひとつやっていきます。
大原美術館とその他の美術館の運営
少し、お金の話をします。
一般的に美術館の運営はとても困難だ、といわれます。
他の美術館の数字を見てみましょう。
たとえば某企業傘下の美術館は、収益の92%を親会社の株式配当でまかなっているそうです。
そして、入館料や図録の販売などを合わせた事業収益の2倍以上もの金額が美術館運営にかかっています。
また、独立行政法人国立美術館が運営する6施設では、収入総額のうち入館料などの展示事業等収入が占める割合は12.4%。
企業傘下の美術館や行政が運営する美術館は、企業からのお金や補助金など、主に入館料以外の収益で成り立っているそうです。
(参考:美術館経営とファイナンス 西田陽介)
しかし大原美術館は、独立採算の私立美術館で、運営経費の大半(約8割)を入館料が担っています。
美術館のなかでも、維持が困難といえるのではないでしょうか。
筆者が何度か大原美術館を取材するなかで、コスト削減のためにさまざまな工夫を凝らしているのも見てきました。
厳しい環境においても、大原美術館は「アートとアーティストのため、あらゆる鑑賞者のため、地域のため」などの使命感を持って、作品を公開してきたのです。
作品との出会いの場を守るために
筆者は、美術は人生を豊かにすると信じています。
美しさに酔いしれたり、技工に驚愕したり、励みになったり、衝撃を受けたり。
価値観を揺さぶられることも、鑑賞から何年も経った後に心を助けてくれることも、しばしばあります。
作品との出会いの場が、今後も続いていきますように。
クラウドファンディングページの応援コメント欄には、全国から熱いメッセージが続々と寄せられています。
ぜひ、読んでみてくださいね。
大原美術館のデータ
名前 | 大原美術館 |
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所在地 | 岡山県倉敷市中央1-1-15 |
電話番号 | 086-422-0005 |
駐車場 | なし |
開館時間 | 【12月~2月】 午前9時〜午後3時(最終入館:午後2時30分) 【3月~11月】 午前9時〜午後5時(最終入館:午後4時30分) |
休館日 | 月 祝日、振替休日と重なった場合は開館 冬期休館あり |
入館料(税込) | 【一般】 大人:2,000円 高校・中学・小学生(18歳未満のかた):500円 |
支払い方法 |
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予約について | 可 個人であれば予約不要(入場整理券の予約不可) |
タバコ | 禁煙(指定エリアのみ喫煙可能) |
トイレ | 洋式トイレ 和式トイレ バリアフリートイレ |
子育て | 授乳室 オムツ替えシート ベビーカー貸出 授乳室は工芸館にあり オムツ替えシートは本館2階および工芸館にあり |
バリアフリー | スロープ バリアフリートイレ エレベーター 車いす貸出 |
ホームページ | 大原美術館公式HP |