目次
海外での技術支援活動を通じて
となりの工房では、2015年から海外での技術支援活動にも取り組んでいます。
きっかけは、同業者から「タイでの活動を手伝ってみないか」と声をかけられたことでした。
一人ひとりの体に合った車いすを届けるために
海外での技術支援活動の中心はタイで、その後ラオスやカンボジアへと広がっていきました。
これらの地域では、世界各地から寄付された車いすがそのまま渡され、子どもの体に合わないまま使われてしまうケースが多いそうです。合わない車いすは姿勢の崩れや痛みなどにつながってしまいます。
そこで沖さんたちがおこなっているのは、寄付された車いすを子どもの体に合わせて調整する「フィッティング」の技術を現地スタッフに伝えることです。さらに、車いすそのものが手元にない場合に備え、現地で入手できる素材を使って座位保持ができる「段ボール製のいす」の作りかたなども伝えています。
こうした取り組みはやがて、ラオスの子ども病院など、現地で支援に携わる人々とのつながりにも広がっていきました。子どもたちが「寝たきりから起きる」ための環境づくりを現地で一緒に考える。そんな活動が続けられています。

適正な車いすを入手することは人権である
海外での活動について話を聞くなかで印象的だったのが、日本と海外での「車いすの位置づけ」の違いです。
日本では車いすの支給は、福祉政策の一部として扱われますが、海外のガイドラインでは、「人権」に関わるものとして位置づけられているとのこと。
「適正な車いすを入手することは人権である」
沖さんは、その言葉が強く心に残ったといいます。
「だから私はこの仕事をしているんだ、と腹に落ちた瞬間でした」と沖さん。
障がいのある子どもたちが自分に合った道具を手にすることは、特別な支援ではなく生きるために必要な権利という考えかた。それは、となりの工房が大切にしてきた「一人ひとりの人生に寄り添う」という姿勢とも深くつながっていました。
そして、沖さんたちがおこなっている支援の目的は「自立」であり、その国のなかで支援の仕組みが回っていくこと。必要なのは、現地の人が自分たちの手で、一人一人に合うものを作り、調整し、支えていけるようになることです。
現地には「自分たちの力で支えていこう」という前向きな意志があり、その姿勢が協働の大きな原動力になっているそうです。「もし、ただ寄付や与えられることを望むだけなら、ここまで一緒に取り組むことはできなかったと思います」と沖さんは話します。
その子の将来を自分が見る覚悟で
沖さんは、現地の子ども病院の資料に記されていた「すべての子どもをわが子のように見る」という理念に触れ、自分の考えかたとの共通点を感じたといいます。
その姿勢は、かつて師匠から教わった「車いすだけの問題じゃない」「全人格を受け入れ、その子の将来を自分が見る覚悟で関わること」という言葉とも重なっていました。
車いすを作って渡せば終わりではなく、その先の生活まで含めて考えること。
沖さんが長く大切にしてきた仕事の土台にあるその価値観が、海外での支援活動にも自然とつながっている。その気づきを、どこか手応えを感じているようすで教えてくれました。

車いすユーザーについて知ってほしいこと
「倉敷とことこさんの取材だからこそ、ぜひ聞いてもらえたらと思って」と、沖さんは防災の話を切り出してくれました。
豪雨災害が浮き彫りにした避難の課題
考えるきっかけとなったのは、平成30年7月豪雨で実際に起きた出来事です。
当時、医療的ケアが必要なユーザーのなかには、避難先の受け入れが難しく、自宅避難を余儀なくされた家庭がありました。一般の避難所では電源の確保が難しかったり、段差が多かったりと、落ち着いて過ごせる環境が整っていないことが多く、重度の障がいがあるかたにとっては、避難そのものが大きな負担になります。
「明らかに“避難困難者”なんですよね」と沖さんは言います。
地域のなかで「この家には支援学校に通うお子さんがいる」といった情報が共有されていれば、いざというときに“声をかける・荷物を持つ・車いすを運ぶ”といった助けにつながる可能性がある、とも話していました。
保護者のなかには「いざとなったら家にいるしかない」と、最初から避難をあきらめてしまうかたもいるのだそうです。医療機器や必要な道具を抱えて外に出るのは、日常の通院でさえ負担が大きいもの。まして災害時となると、準備にかかる時間や移動の難しさから、避難を選択できない現実があります。
「助けられるのは、やっぱり地域なんです」と沖さん。豪雨災害で取り残されてしまった人たちを思うと、その重要性を強く感じるといいます。
支援が必要な家庭に「あきらめないで避難しよう。絶対助けてくれる人がいるから」と思ってもらうためにも、地域レベルでの理解と支え合いが不可欠だと感じたできごとだったそうです。
こうした思いは、現在の取り組みにもつながっています。災害時に何が起きるのか、何が不安なのか、どうすれば避難できる選択肢をつくれるのか。ユーザーや支援者、行政とともに考える機会を少しずつ積み重ねてきました。
その延長線上にあり、取り組みのひとつとなっているのが、福祉機器の紹介イベントです。
イベント開催「こどもたちの福祉機器FESTIVAL〜『できる』がひろがる、ふくしのミライ〜」

となりの工房も参加する「おかやま子ども福祉機器ネットワーク」では、2年ぶりとなる福祉機器の紹介イベントを2026年2月8日にくらしき健康福祉プラザで開催します。
小児医療と福祉機器の専門家が連携し、医療的ケアや発達支援が必要な子どもたちの生活の質(QOL)の向上を目指して、福祉機器に関する情報発信や啓発活動を行うイベントです
チラシより引用
今回の展示では、新たに「防災」をテーマとしたコーナーが設けられる予定です。
平成30年7月豪雨の経験を経て、県内の当事者や支援者が中心となり、避難の課題を共有する取り組みが続けられてきました。
医療機器の電源確保、水害・停電への備え、マンションでエレベーターが使えなくなる場合の移動手段など、一人ひとりの不安は異なります。
「誰一人取り残さない避難計画」を作るために、個別避難計画の整理、必要な持ち出し品の検討、ポータブル電源の情報収集など、当事者・支援者・行政が協働して準備を進めています。
今回の展示では、こうした取り組みを紹介しながら、安心して避難するための第一歩を地域全体で考える場が作られるそうです。
最新情報はInstagramやWebサイトを確認してください。

取材後記 〜誰か一人にでも届くきっかけになることを願って〜
冒頭にも書いたように、私は別の仕事でとなりの工房を取材したことがあり、そのご縁から今回あらためて取材することになりました。
初めて取材をお願いしたのは6月。
沖さんからは「7〜8月は海外での技術支援や展示会が続くので、その後でよければぜひ」とあたたかいお返事をいただきました。
実際にお話を聞くなかで、2026年2月にイベント(展示会)が予定されていることを知りました。しかも、それが「倉敷」で初めて開催とのこと。「この取材が、誰かの役に立つといいな」とぼんやり思っていたことが、思いがけず“必要とされているタイミング”に重なったようで、心のどこかで一方的に運命めいたものを感じました。
たまたまといえばそれまでですが、いくつかの偶然が重なり、このタイミングに導かれたのは必然だったのかもしれない。そんなふうにも思いながら、この記事が必要とする誰か一人にでも届くきっかけになることを願っています。
となりの工房のデータ

| 団体名 | となりの工房 |
|---|---|
| 業種 | オーダーメード車いす、座位保持装置など、障害児・障害者・高齢者のための福祉機器を製造、販売。 |
| 代表者名 | 沖ちなみ |
| 設立年 | 1992年 |
| 住所 | 岡山県井原市美星町黒忠2684-2 |
| 電話番号 | 0866-87-3211 |
| ホームページ | となりの工房 |











































