倉敷とことこ
令和元年秋の有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 ~ 漂着した古瓶が食器や窓ガラスに

令和元年秋の有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 ~ 漂着した古瓶が食器や窓ガラスに

イベント情報 / 2019.10.21

2019年10月18日(金)~11月4日(月・祝)、倉敷美観地区にある「有隣荘(ゆうりんそう)」にて、大原美術館による特別展が開催されました。

下道基行(したみち もとゆき)さんによる、「漂泊之碑(ひょうはくのひ)」

「下道さんは、今日本で最も注目すべきアーティストのひとり」だと著者は思っています。

展示期間中は、ふだん外観しか見ることのできない有隣荘の中に入り、美観地区を優雅に眺める貴重な機会でもあります。

特別展を取材しました。

有隣荘内は通常、撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただいています。

有隣荘とは

有隣荘

有隣荘は、倉敷の経済と文化に大きな影響を与えた「大原家」の旧別邸です。
1928年(昭和3年)に建設されました。

ふだんは外観しか見ることができません。
しかし、1997年(平成9年)から年に春と秋に1~2週間ずつ、大原美術館主催の特別展示の会場として一般公開されます。

有隣荘の庭

有隣荘の特徴や見どころは、下記の記事で詳しく紹介していますので、ぜひお読みください。

有隣荘 ~ 春秋限定公開の特等席から眺める倉敷美観地区

特に着目してほしいのは、次の3つのポイントです。

  • 2階から倉敷美観地区を見渡す眺めが最高
  • 和洋折衷の名建築
  • 近代日本庭園の先駆者による2つの庭園

「緑御殿(みどりごてん)」と呼ばれる瓦については、下記の記事でも紹介しています。

平成31年春の有隣荘特別公開 緑御殿的美緑 ~ 屋根と作品と庭の緑を堪能する展示

下道基行(したみち もとゆき)さんについて

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑

下道基行さんは、1978年岡山市生まれのアーティストです。

「Asian Art Biennial 2013」(台湾)、「光州ビエンナーレ2018」(韓国)、「MOVING STONES」(フランス)など多数の展覧会へ参加し、愛知・富山などで個展を開催。

2019年3月には、「Tokyo Contemporary Art Award 2019-2021」を受賞しました。

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑

そして、120年以上の歴史を持つ世界最大の国際美術展「ヴェネツィア・ビエンナーレ」において、2019年の日本館代表の中心的なアーティストとなっています。

ヴェネツィア・ビエンナーレは、2年に1度開催される国際展示会で、アートのオリンピックともいわれています。
おそらく世界のアート関係者が最も注目している展示会です。

ヴェネツィア・ビエンナーレの代表作家は、国を代表する気鋭のアーティスト。
オリンピックの旗手のようなものだと筆者は考えています。

そんな下道さんの個展が倉敷で開かれるなんて、たまりません!

展示について、紹介します。

漂泊之碑(ひょうはくのひ)について

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 沖縄ガラス

漂泊之碑プロジェクトは、2014年に沖縄で始まりました。

有隣荘での展示は、以下の3つで構成されています。

  • 沖縄ガラス
  • 津波石
  • 渚三彩(なぎさんさい)

部屋ごとにシリーズが別れていて、空間を楽しめる展示です。

沖縄ガラス

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 沖縄ガラス

沖縄の浜辺には、中国・韓国などからガラス瓶が流れてきます。
それらの瓶を素材とし、琉球ガラスの職人と協力して再生ガラスとして蘇らせるのが、「沖縄ガラス」プロジェクトです。

「境界」を考え続けてきた下道さん。

下道さんにとって、日本という枠組みでは、沖縄は「内側」の場所です。
しかし沖縄に行くと、「内地の人」という「外側」の人として見られたそう。

地理的に見ると、沖縄は境界の地といえます。
浜辺も、陸と海の境界線。

さまざまな場所からやってきて境界に漂着したガラス瓶で作られる、食器の色はどんなものでしょうか。

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 沖縄ガラス

「沖縄ガラス」プロジェクトでは、製造工場の異なるガラスを混ぜるため、膨張率の違いから割れやすくなります。

完全に混ぜ合わせれば割れにくくなるそうですが、下道さんは「完全に混ざるのは気持ち悪い」とおっしゃっていました。

溶け合っているけれど均一ではない、不安定さも含めて作品です。

会場では、漂着した瓶や、「レシピ」と呼ばれる材料の写真も展示されています。

津波石

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 津波石

宮古・八重山諸島には、津波によって流れ着いた「津波石」と呼ばれる石がたくさんあります。
500年程度の周期で津波が起こり、その度にたくさんの岩が流れてくるそうです。

津波石を記録したモノクロ映像作品シリーズのうちの1点が、有隣荘で展示されています。

有隣荘で流れている映像は、渡り鳥のコロニーになっている岩。

ヴェネツィア・ビエンナーレでも、この津波石シリーズが展示されているんです。

「沖縄ガラス」シリーズのガラス瓶と津波石は、「漂着したもの」という点では共通しています。

最近流れ着いたものと、昔流れ着いたもの。
比較することで、より津波石がこの場に着いてからの時の長さを感じました。

渚三彩(なぎさんさい)

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩

有隣荘に合わせて倉敷で制作された新作が、「渚三彩(なぎさんさい)」。
漂着したガラスを砕いて並べて溶かし、板ガラスにした作品です。

倉敷は民芸とガラスが盛んな街

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩

「渚三彩」シリーズは、倉敷芸術科学大学芸術学部ガラスコースの先生がた協力の下で、作られました。

下道さんによると、設備・知識・技法が三位一体とならないと、この板ガラスは作れないそうです。
それらが揃っているのが、倉敷芸術科学大学でした。

倉敷は、民藝にとって重要な街
そして、ガラス工芸が盛んな街です。

民藝と倉敷の関わりについては、以下の記事を参照にしてください。

倉敷民藝館 ~ 暮らしの中で使われる、丈夫で美しい古今東西の民藝品

「こんなにガラスが身近な場所は、日本でも珍しい」と、下道さんはおっしゃっていました。

自分の関心と倉敷の持っている文化が合っていると感じたそうです。

ガラス瓶だった情報の残る、渚三彩

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩

渚三彩は、型にはめて溶かして作られました。

溶かすとき下だった面には、ガラス瓶だったときの情報が残ります。

あえて情報を残し、上だった面のみを磨いて作っているそうです。

瓶の底のギザギザや文字が見えて、面白い!

どこからやってきて、どう使われて、ここにたどり着いたガラスなのでしょう。
想像が膨らみました。

有隣荘の窓が作品に

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩の窓

そして「渚三彩」が、有隣荘の窓ガラスのひとつに!

窓も、内と外を分ける境界のモノです。

「有隣荘の建物・空間の魅力を邪魔しないように」と作られていて、空間に溶け込んでいるように感じました。

日本を代表するアーティストの作品を見よう

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑

変わること、残ること、消えること。
内側と外側。
今まで境界だと思っていたものは、果たして本当に境界なのか。
どう関係を持っていくのか。

作品を通じて問いかけられ、自分自信はどうあろうかと考え直しました。

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩

国内外から動向が注目されている下道さん。

ヴェネツィア・ビエンナーレで展示されているシリーズや、倉敷ならではの新作を、有隣荘で鑑賞しませんか?

展示だけでなく美しい建築や庭、窓からの眺めもおすすめです。

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩の窓

倉敷美観地区の文化施設でさまざまな企画展が開催中

有隣荘の特別展示期間中、倉敷美観地区の文化施設では、さまざまな企画展が開催されています。

大原美術館では、2019年12月27日(金)まで「ARKO2019 黒宮菜菜」。

倉敷考古館では、2019年11月24日(日)まで「河井寛次郎古代と出会う‐出雲の河井寛次郎 吉備の児島虎次郎‐」。

倉敷民藝館では、2019年12月1日(日)「工芸品の春夏秋冬 -夏の名残から年の瀬へ-」。

合わせて足を運んでみてください。

吉野なこ

吉野なこ

写真と旅を愛する、倉敷そだちのデザイナー。
倉敷のときめくものや素敵なところをお届けします!

有隣荘特別公開 下道基行 漂白之碑 渚三彩の窓

この記事が気に入ったら

最新情報をお届けします。