将棋の大山康晴(おおやま やすはる)十五世名人といえば、倉敷を代表する有名人の一人です。
昭和の将棋界をけん引し、タイトル通算80期保持という記録は2019年現在、羽生善治(はぶ よしはる)九段についで2位。
当時の棋戦数の少なさを考えると圧倒ぶりはすさまじく、とてつもない大記録です。
大山十五世名人の将棋界にもたらした功績は大きく、倉敷市・倉敷市文化振興財団が主催の一翼を担っている女流将棋のタイトルに「大山名人杯倉敷藤花戦」というものがあります。
全女流棋士と主催者推薦のアマチュア女性棋士による挑戦者決定トーナメント戦が行われ、その勝者が倉敷藤花のタイトル保持者とタイトル戦三番勝負を行います。
将棋のタイトル戦では、とても珍しい公開対局が行われるのも本棋戦の特徴です。
里見香奈(さとみ かな)倉敷藤花に、伊藤沙恵(いとう さえ)女流三段が挑戦した2019年の第27回倉敷藤花戦は、11月23日に行われた第2局が倉敷芸文館で公開対局として行われました。
熱い戦いとなった公開対局の模様を見てきたので、紹介します。
記載されている内容は、2019年12月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
第27期大山名人杯倉敷藤花戦 公開対局のデータ
名前 | 第27期大山名人杯倉敷藤花戦 公開対局 |
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期日 | 11月中旬から下旬の土曜日に開催。詳しくは主催者HPを参照 |
場所 | 岡山県倉敷市中央1丁目18−1 |
参加費用(税込) | 観戦無料の公開対局 |
ホームページ | 大山名人杯倉敷藤花戦(日本将棋連盟) |
倉敷芸文館で公開対局が行われる倉敷藤花戦
里見倉敷藤花とってこの棋戦は、これまでの26期のうち9期タイトルを保持している、とても相性の良い棋戦。
最初の挑戦では失敗し、2度失冠したこともあるのですが、すべて翌年にタイトルを奪取しているため、2008年の初挑戦から12年連続登場しています。
挑戦者の伊藤女流三段は、11月22日までで26勝6敗と絶好調。
世代の近い二人のタイトル戦は、11月10日に鳥取県米子市で第1局が行われ、里見倉敷藤花が先勝しています。
タイトル戦は3番勝負で、先に2勝した方が頂天に立ちます。
里見倉敷藤花は23日か24日に勝てば防衛、伊藤女流三段は23日・24日と勝てばタイトル奪還となります。
公開対局は13時開始でした。
対局自体は午前10時から始まっており、中盤戦の難しいところから始まります。
公開対局に先立ち伊東香織・倉敷市長らが挨拶。
その後、両棋士の意気込み発表などがあり、午前中に指された分の棋譜(きふ)が再現されます。
ここで報道陣の撮影も禁止となりました。
公開対局自体はさまざまな棋戦で行われるのですが、タイトル戦ではほかに竜王戦(主に男子プロ中心で戦う、将棋界最高峰のタイトル戦)で一部が公開されるだけ。
倉敷でタイトル戦の真剣勝負を鑑賞できる空間は、とても貴重です。
ホールは独特の乾いた空気をまといながら、一気に緊張感が高まります。
対局中は撮影も禁止となるため、ときおり観戦者の咳が聞こえるほかは、対局者が一手指すごとに記録係がその手を読み上げる声しか聞こえません。
クラシックのコンサートなどとは違った、勝負の世界ならではの独特に厳粛な空間です。
さて、真剣勝負の場に身を置くのも良いですが、近くの芸文館別館アイシアターでは大盤解説会をしています。
そちらを覗いてみることにしました。
倉敷藤花戦の公開対局では大盤解説も楽しめる
大盤解説は、主に対局場の近くでプロ棋士などによる対局の解説を行う場です。
倉敷藤花戦の場合は、同じ敷地内で徒歩1~2分のところにある、芸文館別館アイシアターで行われました。
いくら公開対局とはいえ、一手一手の解説が対局者に聞こえてしまえば勝負に影響が出ます。
そこで、別会場でファンのために解説を行う場を設けているのです。
解説は、岡山県岡山市出身の菅井竜也(すがい たつや)七段。
タイトルを保持したこともある若手実力派の人気棋士です。
聞き手は、大山十五世名人の孫弟子に当たる武富礼衣(たけどみ れい)女流初段でした。
まさに、倉敷藤花戦にふさわしい大盤解説ペアです。
二人の解説には、目測ですが200人を超える将棋ファンが集まりました。
「この会場だけ、気温が上がっているのではないか」と思えるほどの熱気です。
大盤解説は、局面の解説をするだけではありません。
ある時は、両対局者の一手一手に対し、検討を加え、形勢の判断をしたり勝負の行方を占ったりします。
またある時は、対局者が攻め好きか、受け好きといった将棋の傾向(棋風)を同業者目線で語ってくれるんです。
対局者の趣味嗜好は、日常の一コマなどを紹介してくださることもあります。
今、将棋ファンには「観る将」と呼ばれる、自分では将棋を指さないけれど観戦を楽しむファンが増えています。
公開対局や大盤解説は、プロ棋士のリアルな所作や軽妙な解説を楽しめる、またとない場です。
慣れたファンは、自分の予想した手を大きな声で伝えて菅井七段の解説を促していました。
ファンも目一杯楽しめる場です。
解説を楽しんでいると対局は終盤戦に。
勝負の行方を現場で確認したくなったため、公開対局場に戻ることにしました。
倉敷藤花戦第2局は伊藤女流三段が勝ち。第3局へ
公開対局場は終盤戦独特の、更にピンと張り詰めた空気になっていました。
第1局では負けた挑戦者の伊藤女流三段が、粘る里見倉敷藤花を振り切って勝利。
倉敷藤花戦は3番勝負で、先に2勝した方がタイトルを獲得できます。
第1局で負けた伊藤女流三段は、ここで勝って1勝1敗のタイに戻し、翌日の第3局に勝負はお預けです。
公開対局場には、大盤解説の菅井七段と武富女流初段も参じました。
対局を振り返った後、最後に伊藤女流三段が「今日勝たなければ明日が無かったのでホッとしています」と語ったのが印象的でした。
翌日が決着戦となり気を緩める暇もありませんが、ほんの一瞬でも脱力できる瞬間があったのかもしれませんね。
第3局は非公開。ホールで倉敷藤花戦の大盤解説が行われる
もし第2局で里見倉敷藤花が勝っていれば、その時点でタイトル防衛となり、第3局は行われませんでした。
11月24日。伊藤女流三段の勝利により、第3局が行われることに。
第3局は公開対局ではありません。
第2局の対局場だった、倉敷芸文館のホールで大盤解説が行われました。
解説は、前日と同じく菅井七段と武富女流初段です。
時間の都合で最後まで見続けることはできませんでしたが、様子を知るために会場を訪れました。
この日も中盤戦から解説が始まり、前日よりも広い会場で二人がのびのびとお話しているのが印象的でした。
ホールのファンも前日の公開対局とはうって変わって、リラックスした雰囲気であるのが空気感でわかります。
少し見学して程なく離脱。
後でネット中継を確認したところ、里見倉敷藤花が鋭く切り込んで勝利し、通算10期目の倉敷藤花位を防衛しました。
27期の歴史のタイトル戦で10期獲得ですから、すさまじい強さです。
女流のタイトルは7つありますが、この防衛で五冠王を守りました。
今まさに、女流将棋界を代表する強さです。
貴重な倉敷藤花戦の公開対局を観戦しに倉敷を訪れよう
倉敷藤花戦は、倉敷市が主催の一角として参画していることや、タイトル戦に「倉敷」という地名と「藤」という、倉敷にゆかりのある花の名前が使われていることもあり、このタイトルが地域に根ざしていることが良く分かります。
また、倉敷芸文館には大山十五世名人の記念館もあり、将棋に興味が出た人は、大山十五世名人の偉業や、使った将棋盤を見学できます。
例年、11月のどこかの週末で公開対局が行われています。
秋の倉敷の美観を楽しみながら、伝統的な将棋という頭脳スポーツの厳かなタイトル戦を見学して文化を浴びてみるのはいかがでしょうか?
第27期大山名人杯倉敷藤花戦 公開対局のデータ
名前 | 第27期大山名人杯倉敷藤花戦 公開対局 |
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期日 | 11月中旬から下旬の土曜日に開催。詳しくは主催者HPを参照 |
場所 | 岡山県倉敷市中央1丁目18−1 |
参加費用(税込) | 観戦無料の公開対局 |
ホームページ | 大山名人杯倉敷藤花戦(日本将棋連盟) |