「岡山に行きたい」と東京に住んでいる友人から言われた私。
「どこに行きたい?」と聞くと「楯築遺跡(たてつきいせき)に行きたい、UFOが出ると聞いたから」と言います。しかし、私は楯築遺跡のことを全く知りませんでした。
しかも、調べてみると遺跡は自宅の近所にあるではないですか。早速遺跡に行って驚きました。倉敷の閑静な住宅街に歴史上まれに見る重要な遺跡があるとは……。
不思議な光景は本当にUFOがやってきてもおかしくない景色でした。「この遺跡はいったいなんのために作られたのか?」と興味津々で講演に足を運びました。
記載されている内容は、2024年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
「備中倉敷学」とは

備中倉敷学は「備中・倉敷地方の歴史と文化を学び、文化的向上を資する会」というコンセプトで、毎月第2木曜日に興味深いテーマで講演会が開催しています。

会場は倉敷美観地区にある倉敷公民館です。白壁が印象的なおしゃれな建物なのですぐ分かります。
事前登録不要で誰でも無料参加できます。詳しくは公式ホームページで日程と講演内容を確認してください。
第177回講演の講師は「岡山商科大学特任教授 福本明さん」

第177回備中倉敷学の講師は、岡山商科大学特任教授 福本明(ふくもと あきら)さんです。
福本さんは考古学の専門家で楯築遺跡について本も書いています。講演には多くのかたが参加しており関心の高さを感じました。
人気テレビ番組にも取り上げられたことがある楯築遺跡は、全国的にも有名です。何故有名なのか。理由は大きく2点あるそうです。
- 弥生時代の墓としては日本最大
- 埋葬方法もかなり特異性がある


そしてこの立てられた石。写真の正面に見える岩は高さ3.8m・幅2.9m・厚さ25cmの岩でかなり大きく、二重の輪を描き並べられています。
墓の大きさと葬送方法の特異性から、葬られている人物はかなりの力を持っていると予想されています。
「遺跡は王の荘厳さを示すための舞台装置だったのではないか」
と福本さんは話していました。さらに講演会で聞いたゾクゾクするような楯築遺跡の神秘について紹介します。
不思議なご神体、孤帯文石(こたいもんせき)

楯築遺跡からはさまざまなものが出土しています。そのなかでも孤帯文石(こたいもんせき)はとても不思議な石です。
約90cmの楕円の石には、帯状の美しい文様と顔らしき彫刻があります。
「おそらくこの石は、亡き吉備の王から新しい王へ権力を引き継ぐ祭りの儀式に使われたのでしょう」
と福本さん。きっと荘厳な祭りだったことでしょう。
もう一つ出土した約60cm大の孤帯文石は、火で焼かれた跡もありかつ人為的に割られていたそうです。また割られた勾玉や土器も見つかっています。
現代のお葬式でも茶碗を割ることがありますが、「2度と使わない」という同じ意味があるのかもしれません。
吉備国の王は女性かもしれない

木製の棺に敷かれてあった朱色の水銀。
この水銀は腐敗防止のためともいわれています。驚くべきことは水銀がなんと32kgもあり、かなり質の高いものであること。
外国から手に入れたと推測される貴重な水銀を、大量に手に入れられる。
このことからも王の権力の強さを感じます。また棺からは歯が2本見つかったそうです。専門家によると「40〜50歳の小ぶりな歯」とのこと。
福本さんは「小ぶりな歯ということは、もしかしたら吉備の王といわれる人物は『女性』かもしれない」と話していました。
吉備の王は女王だったかもしれないと思うとワクワクしました。
もしかしたら卑弥呼は吉備出身⁉︎

楯築遺跡で出土した文様を施した特殊器台。
これは吉備地方に限定して使われていた葬送に使われた土器です。この特殊器台は吉備地方のものなのに、同じものがなんと卑弥呼の墓といわれている箸墓古墳(奈良県桜井市)でも見つかったそうです。
このことから吉備と卑弥呼は深いつながり、つまり血縁関係や同盟関係があったのではないかと推測されています。もし卑弥呼と吉備の王に血縁関係があるとすれば、年代的に卑弥呼の祖父・祖母だったかもしれません。
つまり、もしかしたら吉備の王の血筋を引いているとすれば卑弥呼は、吉備出身だったかもしれないのです。
卑弥呼と縁の深い重要人物がいたのか、楯築遺跡の歴史がますます面白くなってきました。
おわりに

楯築遺跡では、王の葬送の儀式が夜に行われたと推測されます。
約1800年前に倉敷の町に赤々と炎が立ち昇り、人々は岩や土器を割り偉大な王を見送る。その想いや光景を想像すると胸が熱くなり、この歴史を引き継いで未来に渡していきたいと思いました。
福本さんは以下のように語っていました。
「遺跡は研究者だけが大事だというだけでは残していけない。遺跡を残すことが皆さんにとってメリットがあると思っていただけるように、遺跡のことを知ってもらいたい」
2026年には遺跡の一部整備も計画されており、全貌が明らかになっていくことでしょう。全国的にますます有名になるかもしれません。
倉敷にお越しの際は少し足を伸ばして、ぜひ楯築遺跡を見に行ってください。吉備国の王と歴史の壮大なパワーを感じることでしょう。
次回2024年4月11日開催の備中倉敷学は「岡山の宗教と宗教人」についてです。備中倉敷学で地域の歴史や文化を学んでみませんか。
情報提供者:東岡 英里子
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