就労継続支援B型事業所「ひょん」~「なんでそんなん?」が価値に変わる。利用者も地域もゴチャ混ぜで一緒に輝く古民家

中野厚志さんにインタビュー

株式会社ぬか 代表 中野厚志(なかの あつし)さん
株式会社ぬか 代表 中野厚志(なかの あつし)さん

株式会社ぬか 代表の中野厚志(なかの あつし)さんに話を聞きました。

事業を始めたきっかけを教えてください。

中野(敬称略)

僕は山口県の出身で、大学進学をきっかけに岡山に来ました。
大学では福祉を学び、そのあと福祉の現場で14年半ほど働きました。そこで利用者たちの表現や活動に触れることが多く、その自由で力強い表現に心を打たれたんです。

「もっと良い場所で作品を見てもらいたいな」と思い、仲間と展覧会を開いたこともありました。そのような経験から、2013年に生活介護事業所「ぬか」を始めました。

そのあと「アトリエぬかごっこ」や相談支援事業所「ちぬ」も作り、現在は四つの事業所を運営しています。

展示室

「ぬか」の魅力はどのようなところだと考えていますか。

中野

「ぬか」の良いところは、利用者さん一人ひとりの個性や面白さを、そのまま受け止められるところですね。

福祉の現場は効率や安全が優先されがちですが、ここでは“ゆとり”や“遊び心”を大切にしているので、自然とユニークで創造的な活動が広がっていきます。この雰囲気は僕ひとりで作ったものではなく、共感してくれるスタッフみんなで育ててきたものです。

デザインや表現が好きなスタッフが集まり、さらにSNSを通じて活動に興味を持った人とつながることも、大きな力になっています。効率や成果だけを追っていると見えなくなる“面白さ”や“発見”が、実はこうしたゆとりや余白のなかにこそあるのだと思うのです。

アート活動に力を入れているのはなぜですか。

中野

実は、僕自身はアートにこだわりがあったわけではありません。大事にしているのは、利用者さん一人ひとりの「やりたいこと」や「面白さ」を引き出すことです。

たとえば、ブロックをひたすら積む「ツミマショウヤ」や、新聞をちぎって楽しむ「コイケノオイケ」といったワークショップで、その人ならではの表現を楽しんでもらっています。

出来上がった作品よりも、その過程や物語を大事にしています。利用者さんと一緒に「つくること」を楽しむことで、自然に多様な表現が生まれるんです。

こうした日々の活動とつながりながら、創作が広がっていくのがぬかの特徴です。

面白さの再現
面白さの再現

「なんでそんなんプロジェクト」はどのように始まったのですか?

中野

これは2020年に始めました。
きっかけは、誰でも参加出来る無審査の“アンデパンダン展”。「アンデパンダン」と「なんでそんなん」を組み合わせた言葉遊びから生まれました。

アンデパンダン展
無審査・無賞・自由出品を原則とする美術展。1884年にフランスのパリで初めて開催され、各国にも影響を与えた

福祉の現場では、利用者さんの“くせ”や“こだわり”は見過ごされがちですが、私たちはそれを大切にし、面白さとして捉え直したいと考えました。

エピソードを集めたり、考えかたを広げる勉強会を開いたりして、博覧会形式の展示にも広げています。教育現場でも少しずつ取り入れられ、くせやこだわりを面白がる見方が広がっています。

この福祉事業は、社会貢献とビジネスの両立が難しいと聞きますが、現場ではどのように運営され、スタッフや利用者との関係を大切にしているのでしょうか?

中野

はい、バランスってやっぱり難しいです。国の報酬や補助金をうまく活用しつつ、スタッフも利用者さんも「ここに来るのが楽しい」と思える場づくりを心がけています。

スタッフには「表では決して慌てず落ち着いて仕事をこなし、裏ではしっかり努力する」(ぬかでは“スワンの法則”と呼んでいます)という姿勢を大切にしてもらっています。一方で、個性を尊重し自由に表現出来る雰囲気も欠かせません。利用者さんとはフラットに接し、ニックネームで呼び合ったり、自然な距離感で会話したりするのが日常です。

そうした関わりの積み重ねが、スタッフも利用者さんも楽しめる現場を作り、結果として質の高い支援につながっていくんだと思います。

活動を続けられている理由は何だと考えていますか。

中野

僕は最初から計画やビジョンがあったわけではなく、どちらかというと「あとから考えながら」動いてきました。

でも、現場で出会う人や出来事とのつながりが大きな力になっています。その場で生まれるアイデアや刺激を受け取り、仲間と一緒に形にしていくのが楽しいんです。

想定外のことや思いがけない出来事さえも「面白いな」と感じられるからこそ、続けてこられています。

最後に読者へメッセージをお願いします。

中野

まずは気軽に遊びに来てほしいです。
話を聞いたり、工作や博物館を体験したりするだけでも、僕たちの活動や考え方を感じてもらえると思います。

「ひょん」では、障がいの有無に関係なく、人と人が自然に交わる場を作っていて、ルールや形式にとらわれず、多様な人たちが自由に動き、体験するなかで新しい発見や理解が生まれることを大切にしています。

読んでくださったかたが少しでも「面白そう」「行ってみたい」と思ってくれたら、それだけで僕たちの目指すことに一歩近づける気がするんです。

おわりに

夏の特別企画展

中野さんの考えかたは、非常にシンプルで力強いものでした。
社会や環境との関わりのなかで人それぞれの違いが生まれることを受け止め、特別視するのではなく、多様な人が自然に混ざり合う「ごちゃ混ぜの社会」を作ることが大切だと中野さんは考えています。

取材を通して、筆者自身も人や個性の見方が少し広がったように感じました。興味を持ったかたは、ぜひ「ひょん」での体験を通じて、「ぬかは面白さの宝庫!」を実感してみてください。

「ぬか床」のように、時間をかけて「偶然や出会い」をじっくり発酵させるように、足を運び、自分の目で見て体験してみませんか。きっと新しい発見や出会いが待っています。

株式会社ぬかー就労継続支援B型事業所ひょんのデータ

ひょんの皆さん
名前株式会社ぬかー就労継続支援B型事業所ひょん
住所岡山県倉敷市西阿知町528
電話番号086-697-6609
駐車場あり
営業時間月〜金 / 毎月第1土曜日
午前10時30分〜午後4時
定休日土、日、不定休
毎月第1月曜日
支払い方法
  • 現金
  • クレジットカード
  • Suicaなど交通系ICカード・iD・PayPay・楽天ペイ・d払い
ホームページひょん

倉敷とことこの厳選記事を LINEでお届けします

Ads by Google

キーワード検索

よく読まれてます!

今注目の記事

きんわん
きんわん
中国→ユーゴスラヴィア→日本を経て、2001年から岡山県に在住。2024年10月、高梁川流域ライター塾修了。 長年にわたり異文化交流事業に携わってきました。これからも高梁川流域ライター塾の修了生として、日中文化への理解を深めながら、外国人の視点で倉敷の魅力を発信し、海外からの観光客や移住希望者に向けた情報を届けていきます。

地域を知る

  • 倉敷
  • 玉島
  • 水島
  • 児島
  • 船穂
  • 真備

はれとこからのお知らせ

一般社団法人はれとこは「とことこシリーズ」を中心に、地域の情報発信を担う「市民ライター」育成などの活動をおこなっています。

FMくらしき「倉敷とことこ」

倉敷とことこの厳選記事を LINEでお届けします