倉敷市児島にある、由加神社本宮(ゆがじんじゃほんぐう)。
県内外問わず多くの人が参拝に訪れている由加神社本宮に、新たなお守りが登場しています。
それが「紙代守」(かみしろまもり)。
岡山県北部で作られている岡山奥備中神代和紙(おかやまおくびっちゅうこうじろわし、以下神代和紙)でできた、触れて楽しむお守りです。
他のお守りとどのような違いがあるのか、紙代守にこめた思いとともに取材しました。
記載されている内容は、2023年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
由加神社本宮のデータ
名称 | 由加神社本宮 |
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別名 | 瑜伽大権現 |
鎮座地 | 岡山県倉敷市児島由加山2852 |
電話番号 | 086-477-3001 |
駐車場 | あり 第1駐車場と第2駐車場がある |
御祭神 | 手置帆負命(たおきほおいのみこと) 彦狭知命(ひこさしりのみこと) 神直日命(かむなおひのみこと) 大直日命(おおなおひのみこと) 本地仏:阿弥陀如来(あみだにょらい) 、薬師如来(やくしにょらい) |
御利益 | 厄除け 災難除け 交通安全 建築・土木安全 家内安全 技芸上達 金運上昇 商売繁盛 縁結び・恋愛成就 子授け・子孫繁栄 合格祈願 ほか |
御朱印(初穂料) | あり(300円) 紙代守の初穂料は600円(税込) |
拝観時間 | 随時 |
受付時間 | 午前9時〜午後4時 |
休観日 | なし |
拝観料 | なし |
拝観料・初穂料の納め方 |
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トイレ | 洋式トイレ |
ホームページ | 厄除け総本山 由加山 由加神社本宮 |
由加神社本宮とは
由加神社本宮は日本三大権現(ごんげん)のひとつとして、また厄除けの総本山として知られる由加山にあります。
二千有余年という長い歴史を持つ、神仏混淆(しんぶつこんこう)の由加神社本宮。
厄除け・家内安全・商売繁盛・縁結びなど、さまざまなご利益があることで有名です。
さらに多くのご利益をいただけるとして、香川県の金刀比羅宮(ことひらぐう)と由加神社本宮の両者をお参りする「ゆがさん・こんぴらさん両参り」の風習も広がりました。
由加の権現様・大神様は「有求必應」(ゆうきゅうひつおう)、“求めが有れば必ず應じて下さる神様”なのだそう。
初詣やお宮参りなど特別なときだけでなく、年間を通して多くの人が参拝しています。
紙代守とは
紙代守とは、その名のとおり紙でできたお守りです。
2022年12月に、由加神社本宮のお守りとして新たに登場しました。
素材は、岡山県新見市神郷で平安の昔から伝わる「神代和紙」。
一枚ずつていねいに、願意を漉きこんでいます。
願意は5種類で、色や文様がそれぞれ異なるのが特徴的。初穂料は600円です。
- 交通安全
- 厄除健康
- 良縁恋愛
- 学業合格
- 仕事成就
作り手のあたたかみが感じられる、神代和紙
和紙で作られたお守り自体、珍しいのではないかと思います。
神代和紙も由加神社本宮のように歴史は長く、平安の昔から技術が継承されてきました。
神代和紙が作られている神郷には、製紙に必要な楮(こうぞ)、麻、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの植物が豊富に自生しています。
なおかつ水質が良く、製紙の条件がそろっていたことから「紙作りが栄えたのでは」と考えられているそう。
明治時代には洋紙での大量印刷が本格化し和紙産業自体が衰退したものの、神代和紙にはたった一人で技術を守っていた職人がいました。
その一人の思いや神代和紙に魅了された人たちが、神代和紙保存会を設立。
神代和紙の技術を、今も大切に継承しています。
コンセプトは「触れて、愛でる」
紙代守が神代和紙で作られたのは理由があります。
それは「触れて、愛でる」のコンセプトに、もっとも合う素材だと考えられたためです。
神代和紙ならではの手作りのあたたかみがあるから、つい手に取って、触りたくなります。
「触れる」だけでなく、「愛でる」ことができるような工夫も。
色合いは淡く、文様は手で書いたような印象をあえて残すように作られています。
また手のなかに収まるサイズであることも、愛でたくなる理由。
シンプルなデザインのなかに、思いやこだわりがたくさん詰まっているお守りです。
紙代守を作ったのは、岡山県内を拠点に活動する「でざいんユニットdolt」のみなさん。
代表のzushi(ずし)さんに、紙代守にこめた思いや制作過程を聞きました。
制作者に聞く、紙代守にこめた思い
紙代守の制作者「でざいんユニットdolt」の代表zushiさんによると、「由加神社本宮様と神代和紙の歴史を傷つけないよう、誠意をもって制作した」とのこと。
どのような思いやこだわりのもと、作られているのでしょうか。
カード型のお守りを作りたい
紙代守を作ることになったきっかけを教えてください。
zushi(敬称略)
由加神社本宮様より「カード型のお守りを作りたい」と話をいただいたのが始まりです。
由加神社本宮様のお守りを作らせていただくのは、実は今回で3回目でした。
1回目は私が学生の頃、授業の一環で由加神社本宮様にお守りを提案し、採用していただきまして。
その後再びご縁をいただき、2022年にもお守りを制作しました。
「美禅守」(びぜんまもり)という、備前焼でできた小さなお守りです。
そして今回の3回目が「紙代守」です。
「カード型のお守り」をどのように実現するか、試行錯誤しながら進めていきました。
神代和紙保存会の人のあたたかさに魅了
紙代守の特徴は、和紙で作られていることだと思います。これはzushiさんのアイデアですか?
zushi
はい、私が考えさせていただきました。
「カード型」という依頼をいただいたとき、カード型である意味をしっかりと見い出したいと思ったんです。
何の素材を使うか考える前に、コンセプトを決めていきました。
それが「触れて、愛でる」です。
そもそもカードは触るもの。かつ、持っているとだんだん愛着が湧きますよね。
「触れて、愛でる」のコンセプトがあれば、一般的なストラップ型のお守りではなく、カード型である意味を見い出せると思いました。
そして「触れて、愛でる」に合う素材が何かと考えて、和紙かなと思ったんです。
和紙のなかでも、神代和紙で作ったのはなぜですか?
zushi
神代和紙保存会のみなさんが、本当に魅力的だったからです。
実際に作っているところを見学させていただいたのですが、何気ない会話やふとした瞬間から、紙漉き(かみすき)が本当に好きであることがにじみ出ているように感じました。
「こんなにあたたかい人がいるのか」と思ったくらい、みなさんの雰囲気や思いが印象的で。
自分たちが作るものに対して、純粋でまっすぐな思いを持っていることに魅了されたんです。
「神代和紙保存会のみなさんとともにお守りを作りたい」と、強く思いました。
サイズ・厚み・色・文様すべてにこだわりを
紙代守を作るうえで、こだわったことを教えてください。
zushi
長い年月をかけて守られてきた伝統を傷つけないこと。
「触れて、愛でる」のコンセプトを忠実に表現すること。
この2点にはこだわりました。
たとえば、紙代守のサイズ。
最終的には、手のなかに収まるサイズを採用していました。
実はこれ、赤ちゃんの拳くらいの大きさをイメージして作っています。
縦型のお札のような形ではなく、赤ちゃんの拳くらいにすれば愛でる対象になれるかな、と。
厚みについても、神代和紙保存会のみなさんと何度もやりとりし、ミリ単位でこだわりました。
日常生活に馴染むことと、お守りとして持っているときに願いを乗せられるような存在感があること。
この両方を実現したくて、こだわって作りました。
願意によって色や文様が違うのも印象的でした。
zushi
歴史を傷つけないよう、誠意をもって考えさせていただきました。
神社の長い歴史やお守りに関する資料を見ていると、「この願意にはこの色と文様」という伝統が見えてきまして。
なので私も歴史に誠意をもちながら、忠実に決めていきました。
交通安全には、昔からお守りに描かれている亀甲文様に、紫色を。
厄除健康には、厄を吸ってくれる印象があるひょうたんの文様に、緑色を。
良縁恋愛には、「縁が広がるように」という願いから、円形の文様に赤色を。
学業合格には、春の訪れを表す梅の文様に、青色を。
仕事成就には、歴史を見ても描かれていることが多かった七宝文様に、黄色を。
神代和紙のあたたかみを生かすよう、やわらかいイメージで色と文様を描いています。
新しいお守りではありますが、あくまでも伝統を守りながら、参拝者の思いを置いていかないように意識していました。
ボロボロになるまで、触って愛でてほしい
完成した紙代守を見たときの感想を教えてください。
zushi
由加神社本宮様と紙代守の情緒的な価値が複雑に重なり合い、唯一無二のお守りができたと感じました。
かっこいいデザインにする案もありましたが、あえて手作り感を残したことで、双方の歴史の長さや人のぬくもりなどが感じられるものになったと思います。
繊細に捉えていた双方が持つ価値を、いい方向に表現できて良かったです。
参拝者にも好評をいただいているようで、とくに女性や若い世代に人気と伺っています。
世代問わず、さまざまなかたにとって「触れて、愛でる」お守りになったらうれしいです。
参拝者に、紙代守をどのように持っていてほしいですか?
zushi
使い方は自由ですが、ストラップ型ではないので財布に入れたり、スマートフォンケースに挟んだりして持ち歩いていただけたら。
でも一番は触れて愛でてほしいので、ボロボロになるくらい触ってほしいです。
革を育てるように、紙代守も育ててほしいというか。
時間の経過とともに触り心地が変化するのも紙代守の魅力なので、ぜひたくさん触って、愛でてもらえるとうれしいなと思います。
おわりに
由加神社本宮のストーリーと、神代和紙のストーリーが重なってできた紙代守。
「触れて、愛でる」のコンセプトから生まれた愛らしさと同時に、歴史の長さも伝わってくるようなお守りだと思いました。
バッグなどにつけるストラップ型とはひと味違う、触れるからこそ湧いてくる愛着を、紙代守では感じられそうです。
時間の経過とともに変化する紙代守に、自分の思いを重ねながら楽しんでみてください。