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「三好たたみ店」の三代目店主 幅岸ひとみにさんインタビュー
三好たたみ店店主である幅岸ひとみ(はばぎし ひとみ)さんは、畳業界では数少ない女性職人です。
幅岸さんの想いや仕事へのこだわりを聞きました。
開業の経緯

三好たたみ店をオープンした当時のことを教えてください
幅岸(敬称略)
もともとは私の父が水島の近くで畳職人として働いていました。その後、独立し1970年(昭和45年)に父がこのお店を始めました。
この場所にお店を構えた当時は、この地域周辺は工場地帯のため県外からも含め、多くのかたが移住してきていた時代です。田んぼばかりだったところに家やアパート、社宅などが次々と建てられていました。
1979年(昭和54年)、私が15歳だったときに父が病気で亡くなり、母が二代目としてお店を継ぎました。当時はメインの職人2名と、日雇いの従業員を2~3名雇っていたそうです。
私は7年ほど銀行に就職していましたが、結婚、妊娠を機に退職。
1989年(平成元年)ごろ、パートで働こうかと考えましたが、それなら機械を扱えるようになったほうが良いと思い、三好たたみ店で作業を手伝うようになりました。
2015年(平成27年)に母が高齢のためお店を閉めたいという話になり、私がお店を継ぐことになりました。
現在、母は私のサポートをしてくれています。
女性二人で作業している

大事にしていることや意識していることはありますか
幅岸
「お客様第一、仕事第一」というのを心がけています。
畳を扱う仕事は想像よりも重労働です。
畳は重いので持ち運んだり、ひっくり返すのも大変なため、男性の職人が多い業界ですが、当店では私と母の女性二人で作業しています。
お客様の目線に立った、きめ細やかなサービスやアドバイスを心がけています。

たとえば、畳を部屋に運ぶとき、大きな家具や仏壇などを移動する場合が多くあります。
企業によってはプラス料金がかかることがあるのですが、ご高齢のお客様も多いため、時間がかかっても家具の移動は無料で対応しています。
畳に関するアドバイスとしては、畳のお困りごとでご相談いただいたお宅を訪問した際、害虫やシロアリなどが原因で畳の下の床板や床材が傷んでいたこともありました。
このような場合は、原因や畳の管理のコツなどをお伝えし、ご希望があれば知り合いの大工さんをご紹介することもあります。
ずっとこのスタンスで続けてきましたが、こうした心がけが功を奏したのか、おかげさまで口コミで広がり、今でもご依頼が途切れることはありません。
畳需要の変化

昔と比べて畳需要の変化を感じますか
幅岸
現在はゴザの張り替えなど畳の修繕が依頼の7割を占め、新品の製造は3割程度です。父の代ではその割合が逆でした。
最近ではへりなし畳のご依頼も増えていますし、従来のい草を使用した緑色の畳だけでなく、カラーバリエーション豊かな畳や和紙を使った畳なども登場しています。
昔よりも種類が増え、最近では畳をおしゃれなインテリアとして取り入れるご家庭も増えています。

印象的だったエピソードはありますか
幅岸
畳のご相談に来られたお客様のお話が印象的でした。
生前、お茶をしていたおばあさまが「畳が硬い」とおっしゃっていたことがどうしても忘れられず、もう少し柔らかい畳に変えたいというご要望を伺いました。
畳の存在は日本人の心に根付いているんだなと思いましたし、家には人の想いがつながっていることを実感しました。
フローリングの床と比べて、畳は赤ちゃんがハイハイしても安全ですし、お年寄りが転んでもケガをしにくく、ケガの程度も軽減されます。
私の息子が家を建てたとき、4畳半の畳部屋を作ったのですが、そこで子どものおむつ変えやお昼寝をしていましたね。

畳文化を残していきたい
今後の目標や展望などがあれば教えてください
幅岸
畳の管理が不十分だとカビが生え、そこにダニが発生します。それが原因で喘息になることもあります。そのため、畳自体が悪いと言われてしまうこともあります。
母がよく言うのですが「畳は生き物」なんです。
畳はきちんと管理すれば長く使えるものです。
防カビや防虫の対策や、畳修繕の際には目に見えないゴザの下の部分も拭き掃除をおこない、ていねいな作業を心がけていきたいと思います。
最近は畳を知らない世代が増えてきて、畳の存在自体が珍しくなってきていると実感しています。畳は日本の伝統的な文化ですので、これからも残していきたいです。
また、お店としては技術の進歩や時代、お客様のニーズに合わせた商品を提供できるよう、試行錯誤しながら努力していきたいと思っています。

読者へメッセージをお願いします
幅岸
長年お使いの畳があれば、ぜひゴザの部分だけでも交換してみてください。見た目がきれいになるだけでなく、衛生面も向上します。
私たちは「心に残ること」を特に意識しているわけではありませんが、目に見えない部分まで手を抜かず、ていねいな仕事を心がけています。
素材や価格についてのご相談だけでも、どうぞお気軽にご連絡ください。
日本の伝統文化を守りながら、新しいことにも挑戦している女性畳職人がいることを、心に留めていただき、畳のご相談の際には三好たたみ店を思い出していただければうれしいです。

おわりに
生活スタイルの変化により、日本の伝統文化である畳が減少している現状に、改めて気づかされた取材でした。もしかすると、数十年後には畳が畳博物館でしか見られない、伝統品のような存在になっているかもしれません。
三好たたみ店では、時代のニーズに合わせて新しい商品を提供するだけでなく、お客様思いでていねいな作業をおこなう店主の人柄こそが、このお店の最大の魅力だと感じました。
畳に関する困りごとや相談があるときは、ぜひ三好たたみ店に連絡してみてください。