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迫田岳臣 古代ガラス復元への挑戦 ~ 四半世紀に及ぶガラス工芸家の復元制作の成果と情熱

迫田岳臣 古代ガラス復元への挑戦 ~ 四半世紀に及ぶガラス工芸家の復元制作の成果と情熱

観とこ / 2024.08.25

博物館や美術館を訪れる人なら、一度は復元品を観たことがあるでしょう。
正直、筆者は今まで復元品には気にも留めていませんでした。本物に勝るものはないと信じていたからです。復元品を作る理由や完成までの過程を一切考えたことはありませんでした。

しかし、2024年7月28日(日)に開かれたトークショー「ガラスの宝物、海を渡る―唐招提寺と正倉院そして吉備の国―」に参加して考えが一変。模造品を作る意義や作り手の情熱を知りました。

古代ガラスの復元に挑む迫田岳臣(さこだ たけおみ)さんの個展とトークショーについて紹介します。

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記載されている内容は、2024年8月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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迫田岳臣さんについて

迫田さんは広島県生まれで、現在は倉敷市在住のガラス工芸家です。

倉敷芸術科学大学の芸術学部ガラス領域の主任技術員であり、日本ガラス工芸学会の理事も務めています。長年古代ガラスの復元の研究を続け、個展やグループ展で作品を発表。これまで正倉院宝物や大英博物館所蔵の作品などを復元しました。

迫田岳臣さん
迫田岳臣さん

2024年7月13日(土)から9月23日(月・祝)にかけて高梁市成羽美術館で「迫田岳臣 古代ガラス復元への挑戦」が開かれています。

オリジナルの色や形に近づけるだけでなく、傷や気泡まで本物と見間違えるほどの精巧な模造品を作る迫田さん。
何度も失敗と挑戦を繰り返して挑む、古代ガラス復元の魅力について尋ねると、

「昔の作り手は何を目指したのか、何に魅力を感じたのかを考えながら作ります。人間の本質や今と昔の人の根底にある共通項って何だろうと探しながら復元していますね」

とのこと。
作品そのものだけでなく、作り手へ思いを馳せながら復元に取り組んでいるようです。

個展「迫田岳臣 古代ガラス復元への挑戦」のようす

個展が開かれている高梁市成羽美術館は岡山県高梁市にあります。倉敷市にゆかりのある洋画家、児島虎次郎(こじま とらじろう)の顕彰(功績などを一般に知らせ、表彰すること)を目的として建てられた美術館です。迫田さんの作品は1階にありました。

内観_古代ガラス復元への挑戦

高梁市成羽美術館内は通常、撮影禁止です。今回は特別に撮影許可をいただいています。

会場では復元品約20点をパネル解説と制作動画と共に展示されています。

▼「迫田岳臣 古代ガラス復元への挑戦」のおもな復元品

復元品作成年所蔵
正倉院宝物「緑瑠璃十二曲長坏」2017年作家
唐招提寺 国宝 舎利容器「白瑠璃舎利壺」2004年岡山市立オリエント美術館
注口把手付瓶1999年岡山市立オリエント美術館
出光美術館「ゴールド・サンドイッチ・ガラス碗」2004年作家
正倉院宝物「瑠璃小尺・瑠璃魚形」2023年宮内庁正倉院事務所

迫田さんが復元を手掛けた復元品のオリジナル作品は、どれも貴重で持ち出せません。横に置いて色味や形、薄さを確認できないので再現するためには観察力、記憶力も必要です。

さらに、昔と今は製法が違う点や文献に材料が書かれていても気温や酸素量で色味が変わるなど、完成まで苦労は尽きません。パネル解説や制作動画からは、苦労と努力を乗り越えて作品のできる過程が紹介されていました。

たとえば展示されている緑瑠璃十二曲長坏(みどりるりじゅうにきょくのながつき)の復元品を観ると、ガラスが少しくすみ、現代のガラス製品にはなかなか見られない大きな気泡もあります。2017年に復元したそうですが、数百年前に作られたように感じました。

緑瑠璃十二曲長坏の復元品
緑瑠璃十二曲長坏の復元品

復元品は本物ではありません。しかし、生で観る機会がほぼないオリジナルに限りなく近い形で造られています。迫田さんの作品をとおして、古代に思いを馳せ、多くの謎に包まれた芸術品の魅力に触れられました。

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「ガラスの宝物、海を渡る―唐招提寺と正倉院そして吉備の国―」出演者

古代ガラスの復元に挑戦する、倉敷市在住の迫田岳臣さん。個展「迫田岳臣 古代ガラス復元への挑戦」を記念してトークショー「ガラスの宝物、海を渡る―唐招提寺と正倉院そして吉備の国―」が2024年7月28日におこなわれました。

高梁市成羽美術館に隣接する、たいこまるプラザで開かれた記念トークショーには多くの人が参加。迫田さんの復元した宝物(オリジナル)を有する施設の、復元にも深く携わられたお二方を交え、復元の仕事についてなどの話が飛び交いました。

たいこまるプラザ
たいこまるプラザ

石田太一さん

出演者のひとり、石田太一(いしだ たいち)さんは奈良市にある唐招提寺の奥の院「西方院」の副住職を務めています。

西方院は創建1243~1246年頃で、唐招提寺の伽藍復興に尽力した僧侶たちの墓所・供養塔など石塔が多くあるところです。

トークショーでの肩書は西方院副住職ですが、唐招提寺の執事長も務めています。

画像中央:石田さん
画像中央:石田さん

2004年に国宝白瑠璃舎利壺の復元から現在に至るまで、迫田さんと活動しているそうです。

西川明彦さん

西川明彦(にしかわ あきひこ)さんは、前・宮内庁正倉院事務所長です。正倉院宝物は、ほとんどが奈良時代に大陸から伝来したものや日本で制作された美術工芸品・文書などを所蔵。その数、整理済みのものだけでも約9,000件に上ると言います。

西川さん
西川さん

谷一尚さん

谷一尚(たにいち たかし)さんは、元オリエント美術館の館長で、現林原美術館の館長です。トークショーでは司会者でした。

古代ガラス研究者の第一人者で、迫田さんが古代ガラスの研究を始めるきっかけとなったのが谷一さんだったそうです。

画像左:谷一さん
画像左:谷一さん

迫田さんが古代ガラスの復元に挑戦した経緯

迫田(敬称略)

なぜ作品復元の仕事をするようになったかお話しさせていただきます。
岡山市立オリエント美術館の開館20周年である1999年のことでした。収蔵品を見ながら復元してもいいし、そこで得られたインスピレーションを基に作品を作ってもよしと、そういった展覧会が企画されました。

当時としては画期的な展覧会で、作り手・作家・学芸員や研究者といったひとたちが集まり、一緒に作り上げていった展覧会でした。その時に僕は注口把手付瓶(ちゅうくちとってつきびん)を選択しました。

図録を見て、書いてあったとおりに縦の模様を出すよういろいろと試したんですが、はじめは思いどおりにできませんでした。考えて試すうちに同じような模様が出て、ちゃんとしたものができあがった、初めての復元の作品です。

注口把手付瓶のパネル展示
注口把手付瓶のパネル展示

それから2年経った2001年に、同じくオリエント美術館の企画で三連瓶(さんれんびん)の構造を調べるためにCTスキャンを使って調べたことがあります。科学的な裏打ちも大切だと思いました。

2004年には唐招提寺の白瑠璃舎利壺を復元しました。この件から谷一先生とお仕事を一緒にするようになりました。その際、谷一先生から「ここに気泡を入れてくれ」って言われて、それにちょっと苦労して。

白瑠璃舎利壺の復元品
白瑠璃舎利壺の復元品

同じく2004年に、当時の中近東文化センター(現在は、出光美術館)に白瑠璃舎利壺について詳しく聞くために行きました。

またそこにはゴールド・サンドイッチ・ガラスというお椀の類例があったんですね。初めて見た時に「これは作ってみたいな」と思って、依頼ではなく、自ら「復元をやらせてもらえませんか」とお願いしました。このことがきっかけで、オリジナルの作品も作るようになりました。

2012年には、戴金(きりかね)を研究されている東京藝術大学のかたから一緒に研究させてくださいとお話しをいただきまして。仏像装飾に使われている戴金の原型がどうも、2000年前のガラス(ゴールド・サンドイッチ・ガラス)のなかにあるのではないか、とのことなんです。

会場_古代ガラス復元への挑戦
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復元する意味

西川(敬称略)

正倉院に非常におもしろい資料が残っていて、ガラスの玉を作るレシピが書かれておりまして。鉛を加熱して鉛丹(えんたん)を作ったとここ(資料)に書かれているんですね。

ガラスの主成分の作りかたや何をどれだけ入れると何色が出るかもあります。私どもは「ここにこんな立派な古代ガラスのレシピがあるので、迫田さん(復元を)よろしくお願いします」とレシピを渡すんですね。それから迫田さんの苦闘が始まるんですよね。

鉛丹:鉛と酸素からなる四酸化三鉛を主成分とする赤色の顔料

迫田

原料は書いてありますが、昭和36年(1961年)から38年かに調査された、瑠璃の玉などを調査・分析した数値がありまして。それを基にいろいろと調合したんです。でもちゃんと色が出ないんですよ。

たとえば黄色を作る時にコークスを加えて還元状態にし、色を調整します。延々と繰り返して、黄色の調合は数えたら80種類くらいしました。青が50種類くらいで緑が40ですかね。これほどの数をこなさないと本物に近い色が出ませんでした

画像は唐招提寺所蔵品の色調整のサンプル。正倉院所蔵品の復元でも同じように実験を繰り返したそうです
画像は唐招提寺所蔵品の色調整のサンプル。正倉院所蔵品の復元でも同じように実験を繰り返したそうです

思うような色をどのように判断するかというと、作っては奈良のほうへ運んで実物と比べるんですね。それで指示をもらって、帰っては色調合を繰り返します。だいたい1年続きました。

光り過ぎだとか少し鈍いかなど、できあがりのツヤ感も本物と比べます。顕微鏡で表面の傷も含めて調べるんです。やすりを作って、それで傷を付けて掘ります。どのようにしたら本物に近づけるかを顕微鏡で見ながらいろいろと試します。

西川

今回の個展で迫田さんの作品をご覧になって「本物が見られると思ったのに、模造はちょっとな」って思われるかたがいらっしゃると思うんですよね。本物を持ち回るのは制限がかかります。ですから公開するための身代わりとなるものを、より高い精度で作ってもらうのが復元のひとつの意義なんですよね。

二つ目は、復元によって研究がすごく進みます。我々が見て、写真を撮って、調査しただけでは作れません。より突っ込んだ調査をしていただくことで作れるようになります。

把手付三連瓶の復元品
把手付三連瓶の復元品

三つ目はですね、私がかつて20代後半だった頃は「本物を大切にお守りしているのに、なんで復元品を作らないといけないんだ」と思っていた時期があります。本物を守るのが一番の仕事ですからね。

けれど、阪神淡路大震災や真備町も被災した平成30年7月豪雨などの災害や大戦による空襲もありました。どんなことがあるか分からないですから、身代わりになるものをもうひとつ作って違う場所で保管するのがベストなんですね。

復元にはこのように三つの大きな目的があります。オリジナルにそん色のないようにというのは作り手の思うところなので、命をすり減らすこともあるかもしれないですけど精力的に取り組んでいただきました。

オリジナルの加工に近づけるため時には道具を自作する
オリジナルの加工に近づけるため時には道具を自作する

おわりに

トークショーへの参加と迫田さんの作品鑑賞をとおして、復元品に対する考えがガラリと変わりました。気が遠くなるほどの作業の繰り返しや顕微鏡での細かな調整。少しの妥協は許されず、作品と向き合います。並々ならぬ努力と根気、そして周りのサポートがあったからこそ成し遂げられたと感じました。

復元の三つの目的も考えたことがなかったですが、後世に先人の偉業を伝えるために大切だと知りました。復元することでオリジナルの価値観もより高まるのではないかと思います。

2024年8月28日(水)~9月2日(月)には、天満屋 倉敷店4階の美術画廊で個展「迫田岳臣 ガラス展」が開催予定です。こちらの個展でも迫田さんの作品に魅了されてみてはいかがでしょうか。

高梁市成羽美術館のデータ

内観_古代ガラス復元への挑戦
名前高梁市成羽美術館
所在地高梁市成羽町下原1068-3
電話番号0866-42-4455
駐車場あり
開館時間午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日
祝日または振替休日の場合は開館し、翌日休館
入館料(税込)【一般】
大人・シニア:1,200円
大学・高校・中学生:800円

【入館料免除】
身体障害者手帳、療育手帳または精神障害者保健福祉手帳を所持の方と付添の1人まで(証明を提示い ※障害者手帳アプリ「ミライロID」利用可)
小学生以下(2025年1月13日まで)
高梁市在住の中学生(学校休業日)
岡山県博物館協議会優待券【本人と同伴者1名は無料】

【その他割引】
岡山県郷土文化財団会員証【本人のみ2割引】
せとうち美術館ネットワーク共通割引券【本人のみ2割引】
さん太クラブカード・山陽新聞ID会員証【本人のみ100円引】
エルフルカード【本人のみ100円引】
おかやま愛カード【本人のみ100円引】
リフレッシュ助成券【会員及びその同居家族は割引】

※入館料は展覧会によって異なります
※上記の料金は、迫田岳臣展の場合です
支払い方法
  • 現金
  • クレジットカード
  • Suicaなど交通系ICカード・iD・QUICPay・nanaco・WAON・PayPay・LINE Pay・楽天ペイ・メルペイ・d払い・au PAY・楽天Edy
予約について
団体は事前予約が望ましい
タバコ
トイレ

子育て
館内1階女子トイレにベビーベッド設置
バリアフリー



車いす対応トイレは1階
ホームページ高梁市成羽美術館
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倉敷そだち

倉敷そだち

倉敷市在住。倉敷市でのびのびそだちました。食べることが大好き食いしん坊。家ではじっとしていられず、美味しいものを探しにふらっと出かけています。
「倉敷が好き」「倉敷に行こうかな」と思うひとを増やすことが自分の使命と思っています。

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迫田さん_古代ガラス復元への挑戦

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