倉敷といえば文化の町、というイメージが強いと思います。
大原美術館をはじめ、町のいたるところにアートやカルチャーを感じられる美術館や博物館、音楽ホールなどが存在するのは、倉敷の魅力のひとつといえるでしょう。
音楽でいうと、倉敷には「倉敷天領太鼓」と呼ばれる、地域に根付いた太鼓団体があります。
その「倉敷天領太鼓」の代表である⼭部泰嗣(やまべ たいし)さんは、太鼓界で「50年に一度の逸材」と称賛されるほどの太鼓奏者です。
倉敷から全国へ、そして世界へと活動されている⼭部泰嗣さんですが、2024年3月に、地元倉敷で2つの公演をおこなうと聞き、その内容について教えてもらいました。
記載されている内容は、2024年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
⼭部泰嗣さんについて
⼭部泰嗣さんは、倉敷市出身の太鼓奏者です。
「絶対リズム感」と呼ばれる正確なリズムと、スピード感満載のバチ捌きで観客を魅了します。坂本冬美(さかもと ふゆみ)さんや五木ひろし(いつき ひろし)さん、きゃりーぱみゅぱみゅやSPYAIR(スパイエアー)など、音楽ジャンルを問わず著名な歌手と共演するほど、その表現力は幅広いのです。
しかし実際は奏者だけでなく、舞台の演出家としての一面も持っている、音楽界のスペシャリストでもあります。
「物心がつく前から太鼓のバチを握っていた」という山部さんは、幼少期から倉敷天領太鼓という地域団体で演奏の経験を積み、高校卒業後は東京・海外と活躍の幅を広げていきました。
現在は、「倉敷天領太⿎」代表として団体をけん引しており、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」と「青天を衝け」にも、山部さんは出演・太鼓指導として制作に関わりました。
太鼓奏者としての一流の技術はもちろん、自らの舞台の演出・プロデュース、さらには指導者としても活躍する山部さんの存在感は、太鼓界のけん引者のひとりと称されるほど。
山部さんは東京を拠点に現在活動していますが、2024年3月に地元倉敷で2つの公演を開催します。
まさに凱旋(がいせん)ともいえる公演になりそうですね。
「めばえいずる 倉敷特別公演」「日本の太鼓コンサート」とは
2024年3月に開催される「めばえいずる 倉敷特別公演」と「日本の太鼓コンサート」の内容を紹介します。
【3月2日(土)開催】めばえいずる 倉敷特別公演
2024年3月2日(土)に開催される「めばえいずる」は、2023年秋に東京の浅草で公演され、人気を博した舞台です。
今回は第38回倉敷音楽祭のオープニングとして、よりグレードアップした内容で倉敷特別公演をおこないます。
告知画像に「光と音のエンターテインメント」と書かれているとおり、ステージ上には特別なライトが照らされ、山部さん率いる気鋭の和楽器奏者たちの演奏とともに、迫力のある舞台を体感できます。
舞台名にもなっている「めばえいずる」は、七十二候(しちじゅうにこう)という季語の中の、「草木萠動(そうもくめばえいずる)」が由来です。
七十二候とは、春夏秋冬をさらに細分化し、七十二分割した季語のこと。
草木萠動は、長い冬の間を土の下で過ごしていた草木たちが、春の訪れとともに一斉に芽吹く季節を指しています。
「めばえいずる」の世界が、光と音を組み合わせた演出でどのように表現されるのか、期待が膨らみますね。
場所は倉敷市芸文館のホールで開催されます。
開場は午後2時、開演は午後2時30分からです。公演は2部構成となっており、休憩を含めて約120分の演奏を予定しています。
現在、チケットは前売券が販売中で、一般が3,000円、大学生以下はなんとワンコインの500円です。
当日券は+500円かかりますが、前売で完売した場合は当日券は販売されませんので、観たいかたはあらかじめ購入しておくことをおすすめします。
【3月10日(日)開催】日本の太鼓コンサート
2024年3月10日(日)に開催される「日本の太鼓コンサート」は、山部さんが代表を務める倉敷天領太鼓のコンサートです。
倉敷天領太鼓とは、倉敷で結成された太鼓団体で、今年(2024年)で52年目を迎えます。
子どもから大人まで所属しており、地域に根づいて倉敷の太鼓文化を守り続けています。
倉敷天領太鼓にとって「日本の太鼓コンサート」は、倉敷市民の前で成長をお披露目できる、年に一度しかない特別な公演です。
まさに倉敷のかたに向けた公演といっても過言ではないでしょう。
こちらも、第38回倉敷音楽祭にて開催されます。
場所は倉敷市民会館ホールで開催。開場は午後3時、開演は午後4時からです。
こちらも前売券のチケットが販売中で、一般が2,000円、大学生以下は1,000円です。当日券は+500円となります。
⼭部泰嗣さんインタビュー
⼭部泰嗣さんから、今回の2公演について話を聞きました。
「めばえいずる」について
「めばえいずる」というテーマを、山部さんはどんなふうに解釈されましたか?
⼭部(敬称略)
「めばえいずる」の由来となった「草木萠動(そうもくめばえいずる)」という時季は、「地面に雷などの強い力が落ちてきて、その力が土の下の生命に伝わり、それぞれ土の中から違う世界へと飛び出していくような時季だ」という説明を受けました。
ただ正直、自分の中でそれがあまりピンと来なかったんです。
舞台にどうやってリンクしようか悩みましたが、思いついたのはコロナ禍のことでした。
コロナ禍って、みんなが考えもしなかったようなことにどんどん挑戦していった時期でしたよね。
たとえば、パソコンを使えなかったひとが、パソコンを使う仕事を始めたりとか。
みなさんそれぞれ新しい自分と出会えて、「これからもこの自分でいこう!」と決意したはずなのに、いざコロナが明けたら以前の自分に戻ってしまった……っていうことがたくさんあると思うんです。
いろいろモヤモヤすることもあるけど、最後はお客さんに上を向いて帰ってもらいたい。
そういう想いを演出するために、レーザーを効果的に使って表現しようと考えました。
光と音を組み合わせるアイデアはどうやって生まれましたか?
⼭部
以前東京で開催された、プロジェクションマッピングの世界大会を観に行ったのがきっかけです。
そのイベントは屋外でやっていて、会場の入り口の部分にレーザーを照らして、ランウェイみたいなのを作っていたんです。
それを見たときに「いつか舞台で使えないかな」と思って、ずっとストックしていました。
照明の演出自体は、高校生のときから興味があったと思います。当時はあんまり興味あると思っていなかったですけど、今思えば好きだったんでしょうね。舞台って画(え)づくりもすごく重要ですし。
実は今回、レーザーを「こういう感じで使いたい」っていう演出が最初に思い浮かんだんです。
レーザーありきで、そこから曲を当てはめていって……という感じで構成を作っていきましたね。
今回、「めばえいずる」のレーザーをデザインしてくれたのは、日本のレーザーアーティストの第一人者でもあるYAMACHANGというかたなんですが、実は彼はもともと私のお友達だったんです。
「めばえいずる」が始まるずっと前から「いつか一緒に仕事したいね~」という話はしていて、今回の演出にYAMACHANGがぴったりとはまったので声をかけました。ようやく実現できましたね。
倉敷特別公演、前回の浅草公演と違う点があれば教えてください。
山部
前回大変評価が良かった浅草公演を、今回は倉敷用にアレンジしています。
このアレンジは「めばえいずる」をより良くするためのものなので、前回よりもさらにブラッシュアップした舞台をみなさんにお届けできる予定です。
「めばえいずる」には気鋭の和楽器奏者が集まっていますが、どんなチームですか?
山部
長年一緒に舞台を作り上げてきた仲間や、共演の回数を重ねてきた精鋭たちがそろっています。
どの公演も、出演する奏者に合わせて曲をアレンジしていくのですが、今回のメンバーは、曲の表現やアレンジを「こっちがいいんじゃないか」と自ら提案してくれるんです。
これって特別編成チームにしては、わりと珍しいことなんですよ。
あと、本番でいきなり練習のときと違うアレンジをする奏者もいますが、そういうときはアドリブで合わせにいきますね。
奏者は、観客の空気や奏者同士の空気をくみ取ったり、楽器の鳴りの良さ、ホールの調子、いろいろなものを察知してアレンジを変えていったりするんです。
そういったチームワークの良いアドリブも、信頼し合っている仲間たちで演奏するからこそできる技だと思います。
とくに今回は、私の地元の倉敷で公演なので、みんな一所懸命やってくれますよ。
「日本の太鼓コンサート」について
「日本の太鼓コンサート」の内容について教えてください。
山部
「日本の太鼓コンサート」は、純粋に太鼓の演奏が楽しめる、いわば音楽コンサートです。
演出が盛りだくさんの「めばえいずる」とはまた違いますね。
演奏するのは、僕が代表をしている倉敷天領太鼓というアマチュア団体。
みんな仕事をしながら、趣味で太鼓を打ち続けているひとたちなんです。
倉敷天領太鼓の成長をみなさんにお見せできる、年に1回の機会がこの「日本の太鼓コンサート」という公演です。
私たちは結成して52年が経ちますが、「倉敷に育ててもらった」という気持ちがずっとあるので、この演奏は倉敷のかたに届けたいですね。
倉敷天領太鼓は、どんな経緯で結成されたんですか?
山部
倉敷天領太鼓は、小山寛さんというかたが立ち上げました。
倉敷天領太鼓ができる前、小山寛さんが東京へ行ったときに、「倉敷には祭りが少ないし、祭りに音が少ない」と思ったそうです。
これは私の個人的な考察ですが、倉敷は昔から商人の町だったから、農村部と違って神様に天候を祈るお祭りも少なかったんじゃないかなと。
「倉敷にも栄える文化を創りたい」という想いで小山さんは倉敷天領太鼓を立ち上げて、大原美術館の大原家の蔵にあった太鼓をお借りして、阿智神社で鳴らし始めました。
最初は小山寛さんひとりのスタートでしたが、どんどんメンバーも増えていき、今では結成52年目を迎える団体になりました。
もともと倉敷に太鼓の文化はなく、倉敷天領太鼓も歴史としては浅いほうだと思います。
しかし、たかが50年、されど50年。
倉敷天領太鼓は、文化を守り続けながら変化も恐れることなく、今でも成長しています。
50年以上もこの地域で活動させていただいているので、趣味でやっているといえども、やはり倉敷のかたに観てもらい続ける努力はしていきたいですね。
「日本の太鼓コンサート」を観に来られるかたに、なにを伝えたいですか?
山部
倉敷天領太鼓は、この地域に育てていただいた想いがあるので、「今の倉敷天領太鼓はこうだよ!」ということを伝えたいです。
あとは、メンバーの成長も観ていただけたらと。
たとえば、子どもの頃から大人にひっついて天領太鼓で打っていた子が、成人した今でも打ち続けているんです。
10年以上打ち続けたその子の太鼓が、一体どんな音を鳴らすのか。その子の太鼓がどんなものを背負っているのか。
チームを背負っていたり、倉敷を背負っていたり……いろいろな覚悟が感じられるんですよ。
そんな成長も見てもらえたらうれしいですね。
観てくださったかたが、これからも見守りたくなるような倉敷天領太鼓であり続けたいなと思っています。
来年も観に行きたい!と思っていただけるような公演にします。
読者のかたにメッセージをお願いします。
山部
昔から「倉敷は文化の町だ」と周りから言われていたけど、生まれ育った身としては正直あまり実感がありませんでした。
でも倉敷からいったん出て戻ってみると、こんな町のど真ん中にたくさんのホールや美術館があって、音楽や演劇を体験できる環境があるのはすごくいい地域だなと思いました。
私は26、7歳のときに東京へ拠点を移しましたが、それがきっかけで地元の良さを改めて実感できましたね。
アートやカルチャーが根付いている倉敷で育った自分だからこそ、表現できるものってあるんじゃないかなと思います。
今回の「めばえいずる」は、そんな今の自分ができる最上級の舞台をお届けする予定です。観てくださったお客さんが上を向いて帰ってもらえるように、演出にはこだわっています。
「日本の太鼓コンサート」も、倉敷天領太鼓という名前を気にしてもらえるきっかけになればうれしいです。「あぁ、頑張っているんだな」っていうのが伝われば一番ですね。
おわりに
今回、取材で山部さんとお話しした際、山部さんの倉敷への愛がひしひしと感じられました。
地元倉敷のために作り上げられた舞台は、熱い想いとこだわりが詰まっています。
筆者は移住者で、住んでいた地元に対する愛や思い入れがあまりないのですが、山部さんの経歴や倉敷天領太鼓の背景を聞いていると、同じ地元で活躍されているひとがいたら応援したくなるなと思いました。
「めばえいずる」の公演では、レーザーをどのように使うのか少し教えてもらいましたが、その表現方法にびっくりしました。
「お客さんに上を向いてもらいたい」という想いを、レーザーでどのように演出したのか。
ぜひ実際の公演に足を運んで、体験してみてください。
倉敷のイベント情報を探すなら「とことこおでかけマップ」
倉敷で開催されるイベント情報を、マップ上から確認できる「とことこ おでかけマップ」を是非ご利用ください。
第38回倉敷音楽祭「めばえいずる 倉敷特別公演」「日本の太鼓」のデータ
名前 | 第38回倉敷音楽祭「めばえいずる 倉敷特別公演」「日本の太鼓」 |
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期日 | ■めばえいずる 倉敷特別公演 2024年3月2日(土) 開場は午後2時、開演は午後2時30分 ■日本の太鼓 2024年3月10日(日) 開場は午後3時、開演は午後4時 |
場所 | 倉敷芸文館ホール/倉敷市民会館ホール |
参加費用(税込) | ■めばえいずる 倉敷特別公演 一般が3,000円、大学生以下は500円 ■日本の太鼓 一般2,000円、大学生以下は1,000円 ※どちらも当日券の場合は+500円 |
ホームページ | ⼭部泰嗣オフィシャルサイト |