玉島に根付く茶の湯文化

玉島の特徴として、茶の湯の文化が古くから根付いており、現在でも盛んです。
玉島と茶の文化について倉敷市役所の藤原憲芳さんと、玉島にある老舗茶・茶道具店「器楽堂老舗(きらくどうろうほ)」の器楽堂ゆう子(きらくどう ゆうこ)さんに話を聞きました。

まず、器楽堂老舗について教えてほしい。
器楽堂(敬称略)
器楽堂老舗はもともと備中松山(現 高梁市中心部)で、古物商をしていたと聞いております。
江戸時代末期に玉島に移り住み、お茶や茶道具の小売店を始めました。店には茶室を設けており、毎週日曜日にはお茶会を催しています。
なぜ、玉島で茶の湯文化が根付いているのか。
器楽堂
玉島が港町・商都として発展したことが、茶の湯の文化に大きく関わっています。
北前船との商取引などにより、玉島には豪商が多く生まれました。
豪商たちのたしなみの一つとして、茶の湯の文化が広まったことが一つの理由です。玉島の商家の多くには、茶室が備えてあったといわれています。
金銭的に豊かになると、文化的なものに力を入れるようになりました。茶の湯は、玉島の成功した商人たちのステータスシンボルだったのです。
また茶道をすると集中し、ほかのことを忘れられます。
オンとオフの気持ちの切り替えにもなったのではないでしょうか。
ほかの理由として、北前船の商人を玉島の商人がもてなすために茶の湯が用いられたともいわれています。
藤原
商人を茶の湯でもてなすのは、現代でいう接待の側面がありました。同時に、商いの大事なツールでもあったと思います。
茶の湯はおもてなしそのものでしたので、相手にお風呂に入ってもらうところから始まっているといわれています。
玉島の商人は、取引相手である北前船の商人を厚くもてなし、北前船の商人は茶の湯を通じて、取引相手の玉島の商人がどのような人物かを見極めていたのかもしれません。
お茶の作法・お茶・菓子・道具・室内の飾り・茶室など、一流であれば取引相手から「この人は信用ができる人物だ」と思われますよね。
北前船との商取引をうまく進めるために、茶の湯は重要な役割を果たしたのではないでしょうか。
玉島が商都として繁栄したのは、茶の湯の文化が商談を支えたからとも考えられます。

器楽堂
たしかに、お茶の作法の扱いかたはすべてに通じるところがあって、人となりが感覚的にわかる面があると思いますね。
なお茶の湯の文化は、北前船によって玉島に伝えられたという説もあります。
どれくらい茶の湯が盛んだったのか。
器楽堂
最盛期には玉島の港町に、およそ400もの茶室があったといわれています。
玉島の町の規模を考えると、この数は非常に大きいです。
現在では茶室の数は減少してしまいました。
しかし今も玉島には、町の規模のわりにお茶・茶道具の店や和菓子店、呉服店が多いです。
これは、玉島が茶の湯が盛んだった時代の名残といえるでしょう。

現在も玉島では茶の湯が盛ん?
器楽堂
今も玉島では、お茶が盛んです。
玉島にお住まいのかたには、お茶を楽しんでいる人は多いですね。
表千家(おもてせんけ)・裏千家(うらせんけ)・藪内流(やぶのうちりゅう)といった茶道の流派があり、茶の湯の伝統を受け継いでいます。
玉島市民交流センターでは、ほぼ毎月お茶会を開催。さきほど話したように、器楽堂老舗では毎週お茶会を開いています。
また円通寺で催される「良寛茶会」は有名で、岡山県四大茶会の一つに数えられているほどです。
近年は海外からもお茶会を目的に玉島を訪れる人もおり、米国や台湾などから来たかたもいますね。

藤原
玉島地区の幼稚園・こども園・保育所のなかには、お茶会時間を設けているところもあり、幼児教育にも採り入れて、地元の文化継承につなげています。
茶の湯文化の根付く玉島らしいと思いますね。
また玉島では「お茶会ガイドブック」が制作されているんです。初めてのかたや慣れていないかたでも安心してお茶会の体験ができます。
玉島の茶の湯文化は、観光の観点から見てもおもしろいです。
玉島は北前船との綿取引などで大いに繁栄したすごいところで、そこで広まった茶の湯文化を体験して、当時の商人たちの息吹を感じてみてください。
器楽堂
お茶会に参加してみたいというかたは、JR新倉敷駅構内にある観光案内所を訪ねてください。
作法や手順などがわからなくても、やさしく説明をします。
商都の発展とともに盛んになった玉島の茶の湯文化に、ぜひとも触れてみてください。
商都として栄えた玉島の町並み

玉島の港は、おもに北前船との取引で栄えた商都。
仕入はニシン粕や干鰯、売上は備中綿が主要なものでした。
ニシン粕や干鰯を綿花栽培の肥料にし、育てた綿や綿製品を売ったことで栄えたのです。
現在、倉敷市はジーンズや制服・ユニフォーム製造など、繊維産業が盛んです。
倉敷市が繊維のまちとなったのには、玉島港町の北前船との綿取引による繁栄が要因の一つになっているといえるでしょう。
「ぜひ玉島を訪れて、商都だったすばらしさを感じてほしいです。そして良かったところを、まわりのかたにお話ししていただけるとうれしいですね。その積み重ねで、玉島の町並みを後世に残していけると思います」と藤原さんは話します。
玉島の歴史ある町並みを散策してみてはいかがでしょうか。