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山成酒造 ~井原の米、水、空気で地域の魅力あふれる酒を醸す

山成酒造 ~井原の米、水、空気で地域の魅力あふれる酒を醸す

買っとこ / 2024.02.27

寒い冬の夜、しんと静まり返った酒蔵ではお酒になる前の醪(もろみ)が、ぷつぷつと泡をたてながら育っています。

夜中に醪のようすを見てまわっているのは、山成酒造(やまなりしゅぞう)杜氏(とうじ)渡邊良夫(わたなべ よしお)さんです。

年明け、お酒造りの最盛期を迎えた山成酒造では、一年分のお酒の仕込みがおこなわれていました。

お酒の神様

山成酒造は酒蔵のそばを流れる小田川の伏流水から引く清らかな水と、大切に作ったお米と、受け継がれた技術で、日本酒を造り続けています。

岡山県井原市芳井町にある、歴史のある山成酒造と杜氏の渡邊良夫さんを紹介します。

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記載されている内容は、2024年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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山成酒造の概要

山成酒造は井原市街から車で10分ほどの芳井町簗瀬(よしいちょうやなせ)にあります。

文化元年(1804年)創業、220年の歴史がある酒蔵です。

母屋

一番寒い季節に一年分のお酒を造る「寒仕込み(かんじこみ)」をおこなっています。

取材日は、お酒造りの最盛期で、醪(もろみ)の仕込み中でした。

醪をしぼった新酒は2月中旬頃から、蔵の前にあるお店で購入できます。

山成酒造の代表的なお酒「蘭の誉(らんのほまれ)」の文字を染め上げた大きな暖簾が目印です。

店舗

「蘭の誉」は論語の「出藍の誉(しゅつらんのほまれ)」から命名されました。

青は藍より出でて藍よりも青し、弟子や部下が自分を超えていくのは、名誉であるという意味です。

山成酒造にゆかりのある偉人たち

山成酒造は、歴史上の有名な偉人たちとの関わりがあります。

阪谷朗廬(さかたに ろうろ)、渋沢栄一(しぶさわ えいいち)、谷崎潤一郎(たにざき じゅんいちろう)です。

阪谷朗廬は日本の漢学者で、井原市に塾や学校を作り人々に学問を教え、塾は「桜渓塾」、学校は「興譲館」といい、のちの興譲館高等学校となります。阪谷朗廬の母と妻の実家が山成酒造です。

「近代日本経済の父」と称される実業家 渋沢栄一は仕事で訪れた岡山で、阪谷朗廬と出会い親交を深めます。
阪谷朗廬の四男と渋沢栄一の次女が結婚し、親戚関係になりました。

作家 谷崎潤一郎は姪が、山成酒造に嫁いでいます。縁があり山成酒造のお酒を愛飲しました。

井原市内で1軒だけの由緒ある酒造場

昔はたくさんあった酒蔵は、現在では井原市内で1軒となった「山成酒造」。

日本酒の酒蔵が減ってしまった原因はいくつかありますが、生活スタイルの変化により日本酒で祝う慶事ごとが減り、日本酒に変わって焼酎が流行ったなどがあげられます。

歴史のある山成酒造では、店舗兼母屋、蔵、東仕込蔵、西仕込蔵など明治時代から使われている建物6軒が国の有形文化財に指定されています。

一本柱で組まれた蔵の梁(はり)は見事です。

酒蔵の立派な梁
酒蔵の立派な梁

お酒造り

山成酒造の酒造りは寒仕込みです。

年が明けてすぐ、一年で一番忙しい仕込みの時季を迎えます。

12月中旬蒸したお米を人の体温と同じ36.7度くらいに保ち、むろで麹(こうじ)の種付けをおこないます。

蒸したお米をむろにいれる
蒸したお米をむろにいれる

麹ができたら水と合わせて造るのが、お酒のおおもとになる酒母(しゅぼ)です。

酒母はだいたい2週間くらいで酵母となり、酒母が育ったタイミングで蒸した米、仕込み水、新たに麹と合わせて醪(もろみ)を造ります。

お米を蒸す釜は創業当時から使われている和釜で、酒米を蒸している蒸気が酒蔵の屋根から、もうもうと立ち上がる光景が国道から見えます。

和釜の蒸気が国道から見える
和釜の蒸気が国道から見える
和釜で酒米を蒸す
和釜で酒米を蒸す

お米が蒸しあがると和釜の蒸気を抜くために、蔵人さんが「いきまーす」と元気よく声をかけ和釜の栓を外します。勢いよく蒸気が吹き出し、あっという間に辺りが真っ白に。

和釜から勢いよく噴き出す蒸気
和釜から勢いよく噴き出す蒸気

蒸気が充満した蔵の中はしばらく何も見えなくなります。

蒸しあがり透き通った小さな粒のお米は、布の上にていねいに広げられ決められた温度になるまで冷まされます。

蒸したての酒米
蒸したての酒米
蒸米をていねいに広げていく
蒸米をていねいに広げていく

冷まされた蒸米は次々とタンクの中に、入れられていきました。

渡邊さんが酒母、麹、仕込み水、蒸米を入れたタンクを櫂(かい)でまぜながら、醪の温度や蒸米の量を確認します。

蒸米をタンクにいれます

醪は20~30日で熟成され、お酒になります。

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泡の種類

お酒が育っていく間に、タンクの泡の形も変わっていきます。

「筋泡」「水泡」「岩泡」「高泡」「落泡」「玉泡」と発酵が進むにつれて変化する泡には名前があり、杜氏は泡のようすでアルコール発酵の状態を把握します。

泡の形状醸の経過発酵のようす
筋泡醪2〜3日目泡が筋になったようす。アルコール度数5%酵母が増えている
水泡醪3〜4日目筋泡以外の場所に湧いている。香り、炭酸ガスも少し発生する
岩泡醪6〜7日目ごつごつとした岩のような塊の泡。アルコール度数があがってきている
高泡醪10日目〜タンクの上面を超えそうな量の泡が発生する。香りがよく炭酸ガスが発生
落泡醪14日目〜泡はしだいに液面に戻っていくが発酵は活発
玉泡醪18日目~表面の泡が細かく膜状に、炭酸ガスも多くお酒の仕上がりまであと少し

山成酒造の商品

店舗に並んだお酒

山成酒造を代表するお酒はつぎのとおり。

商品名  特徴
原酒・蘭の誉 「あけぼの」を70%精白して醸した蔵出し原酒 四段仕込み 濃厚な旨みと、ほのかな甘み
純米酒・蘭の誉 「あけぼの」を70%精白して醸した純米酒 癖のないすっきりとした味わい
大吟醸原酒・朗盧の里 「山田錦」の1等級米を50%精白した大吟醸原酒 上品な香り爽やかな甘み
純米吟醸・桜渓 地元産「雄町」を60%精白した純米吟醸の原酒 雄町特有の酸味と穏やかな香り、柔らかな口当たり

▼その他。

  • 原酒蘭の誉えんぺい(前杜氏山成遠平さんの名前入り)
  • 酒粕
  • 大吟醸ビネガー
  • 奈良漬
  • 明治ごんぼうかりんとう、芳井町産ゆずかりんとう、蘭の誉酒粕かりんとう「菓子工房よいち」
  • 原酒ケーキ「織里音」

「菓子工房よいち」は、渡邊さんが経営するかりんとう屋さんです。

テロワールなお酒「桜渓(おうけい)」

純米吟醸「桜渓」は令和4年(2022年)に誕生した新しいお酒です。

山成酒造は「地元の酒米、水、空気で醸した地域の魅力あふれるテロワールなお酒を醸したい」と願っていました。

テロワールとは、フランス語で「風土の土地の個性」を意味します。

小田川の伏流水、星が美しい澄んだ空気、地元の米農家が栽培を成功させた酒米「雄町」で、醸されました。

「桜渓」は阪谷朗廬の私塾「桜渓塾」から命名されました。

このお酒はワイングラスで香りを楽しみながら、または高濃度な原酒の特性をいかしたオンザロックがおすすめです。

洋食、和食、肉料理とあらゆる料理に、チーズやビターチョコレートなども合います。

山成酒造 杜氏、渡邊良夫さんに山成酒造と、杜氏についてインタビューしました。

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山成酒造杜氏 渡邊良夫さんにインタビュー

渡邊さんが作り上げたお酒

かりんとう屋のご主人の渡邊さんが、どのようにして人々を魅了する日本酒の杜氏になったのかをお聞きしました。

杜氏になったいきさつを教えてください。

渡邊(敬称略)

平成22年(2010年)から山成酒造の隣で、地域の特産品「明治ごんぼう」などを使ったかりんとう屋「菓子工房よいち」を、奥さんと始めました

「菓子工房よいち」の看板は、奥さんの手作り
「菓子工房よいち」の看板は、奥さんの手作り

当時お付き合いをしていた奥さんから、「明治ごんぼうのかりんとう屋さんをしない?」と言われたとき、最初は迷ったんです。

お菓子作りの経験がなかったし、会社に4年ほど勤めていて生活は安定していました。

明治ごんぼうは芳井町明治地区の特産品で、枝のように太く繊維がきめ細かくやわらかで、香りが良い高級ごぼうです。

奥さんのおじいちゃんが、明治ごんぼうの生産者でした。

かりんとう屋さんをされていたかたが高齢で、お店をたたもうとされていました。

「おじいちゃんが作っていた明治ごんぼうの素晴らしさを伝えたい」奥さんの気持ちに動かされたんです。

転勤族だった私は、奥さんとの結婚を機に井原に移り住み、たまたま山成酒造の隣でかりんとう屋を開業しました。

山成酒造の杜氏から声をかけられる

渡邊

平成23年(2011年)のある日、山成酒造の杜氏 山成遠平(やまなり えんぺい)さんから、「午前中だけ働いていた人が辞めるから手伝ってもらえないか」と声をかけられたんです。

酒蔵を手伝いはじめたのですが、普段はビールとか焼酎を飲んでいて、日本酒には馴染みはなかったんですよ。

杜氏になるなんて気持ちも、ありませんでした。

ですがここで初めて飲んだ、「原酒・蘭の誉」の美味しさに感動したんです。

原酒とは醪からしぼったあと水を加えない、そのままのお酒です。

できたてのお酒が美味しくて、山成酒造で働くのが好きになりました

このお酒が飲めなくなるのがとても寂しかった

渡邊

平成29年(2017年)杜氏の遠平さんが体調をくずされたときに、もしかしたらここのお酒が飲めなくなるんじゃないかと、とても寂しい気持ちになったんです。

杜氏の渡邊良夫さん

飲めなくなるくらいだったら、自分で杜氏をやってみたい。日本酒を造ってみたい」そう強く思いました。

かりんとう屋さんのほうは大丈夫だったんですか?

渡邊

お酒造りは年末から3月くらいまではとても忙しいのですが、それ以外の時期は落ち着いています。

酒蔵が忙しいときは、奥さんのお母さんが手伝いに来てくれるのでなんとかやっています。

実際やってみるとうまくいかない

杜氏になるまでの道のりはどうでしたか?

渡邊

それまで10年近く山成酒造でお手伝いをしていたので、仕事の流れは解っているつもりでしたが、実際やってみるとうまくいかないんです。

遠平さんに教わりながら、見習い杜氏として平成30年(2018年)から始めました。

平成30年(2018年)の「蘭の誉」は前年レベルの出来でしたが、大吟醸、純米酒はまだまだ自分が思い描いていた味には、届きませんでした。

満足のいくお酒ができていないまま、令和元年(2019年)には杜氏として、ひとり立ちです。

他の酒蔵に研修に行く

大吟醸をもっと学びたくて他の酒蔵に研修に行きました。

倉敷市にある菊池酒造さんのところに2年間研修に行き、大吟醸の造り方を習いました。

菊池酒造さんは酒造りが山成酒造より少し早く10月スタートなので、11月頃習いに行き1週間研修を受け、山成酒造に戻り12月から始まる山成酒造の酒造りで杜氏を務めました。

菊池酒造さんで習った酒造りの規模を、こちらの蔵に合わせる作業が大変だったんです。

菊池酒造さんの設備では簡単にできていた工程を、うちの設備でどう対応しようかなど課題がありました。

今では、渡邊さんが思い浮かべるお酒ができるようになりましたか?

渡邊

そうですね。遠平さんの指導と菊池酒造さんで学んだ経験で、今は上手くいっています。

杜氏の渡邊良夫さん

育っていく麹や酒母、醪を見守る静かな夜

お酒造りで好きな工程はありますか?

渡邊

昼間は仕込みに追われてどんどん時間が過ぎていきます。

布を広げて蒸米を冷まします

夕方になって蔵人さんたちが帰ったあと、夜に麹や酒母の温度を何度も見にきます。

落ち着いた静かな時間に蔵の中を、見に行くのが好きなんです。

醪は刻々と変化していき、今お酒がどんな状態かっていうのがゆっくり見られる、その時間が好きですね。

お酒のタンクにかけてある梯子

「ジャケ買い」ならぬ「ラベル買い」

日本酒を飲んでみたいと思ったときの、お酒の選び方を教えてください。

渡邊

日本酒はラベルで選んでみるのもいいですよ。

最近は日本酒のラベルがとてもおしゃれなんです。

自分もラベルを見てお酒を買うことが増えたんですが、ラベルとお酒の味が比例しているんです。

かわいいラベルは飲みやすい軽い味、渋いラベルは落ち着いた深い味というように。

「ジャケ買い」ならぬ「ラベル買い」です。

好みのラベルの日本酒を見つけたら、ぜひ試してみてください。

蘭の誉・原酒のラベル

惚れぼれするようなお酒を造りたい

これから挑戦したいことはありますか?

渡邊

自分が最初に飲んで感動した原酒・蘭の誉のように誰かを感動させるような、自分でも惚れぼれするようなお酒が造りたいです。

生まれたばかりのお酒「桜渓」は、井原市美星町の星空がコンセプトなんですが、井原を代表するお酒になってほしいですね。

山成酒造のお酒

おわりに

山成酒造は歴史のある酒蔵で、寒仕込みでお酒を造っています。

清らかな小田川の伏流水を使い、大切に育てたお米と伝統的な技術で仕込みます。

新しいお酒純米吟醸「桜渓」が、山成酒造を代表するお酒として誕生しました。

蒸米をていねいに広げる蔵人の皆さん

年明け、大きな和釜で酒米を蒸し、額に汗をにじませながら杜氏や蔵人の皆さんが仕込みをおこなっています。

星がきれいな寒い夜に、渡邊さんが酒蔵のなかで醪の成長を見守っています。

大切に醸した山成酒造の最初の新酒ができました。

令和6年(2024年)2月9日より、酒蔵の前の店舗で販売が開始されています。

井原の米、水、空気で醸した地域の魅力あふれる日本酒を、ぜひ一度味わってみてください。

蘭の誉 酒樽

山成酒造株式会社のデータ

団体名山成酒造株式会社
業種醸造業
代表者名山成芳直
設立年文化元年(1804年)創業
住所岡山県井原市芳井町簗瀬23
電話番号0866-72-0001
営業時間午前9時から午後6時
休業日不定休
ホームページ山成酒造株式会社
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梅緒

梅緒

岡山県岡山市北区在住。3人の男の子のお母さん。趣味はトレッキング。鳥と野の花とにほんみつばちに夢中です。

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