2019年4月26日(金)~5月6日(月・祝)、倉敷美観地区にある「有隣荘(ゆうりんそう)」にて、大原美術館による特別展が開催されました。
展覧会名は、「緑御殿的美緑(みどりごてんてきみりょく)―ミレー、セザンヌ、会田誠、ロスコ色々」。
会場である有隣荘は緑色の瓦屋根を持つことから、「緑御殿(みどりごてん)」とも呼ばれています。
「緑御殿的美緑」では、大原美術館の収蔵作品の中から、緑色に着目して選ばれた作品が展示されました。
展示期間中は、ふだんは外観しか見ることのできない有隣荘の中に入り、特等席から美観地区を眺めることができる貴重なチャンス!
特別展を取材しました。
記載されている内容は、2019年4月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
大原家旧別邸 有隣荘のデータ
名前 | 大原家旧別邸 有隣荘 |
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所在地 | 倉敷市中央1-3-18 |
電話番号 | 086-422-0005 |
駐車場 | なし |
開館時間 | 通常は外観のみ見学可能。 「緑御殿的美緑―ミレー、セザンヌ、会田誠、ロスコ色々」 2019年4月26日(金)~5月6日(月・祝) 午前10時~午後4時30分 ※午後4時入場締切 ※会期中無休 |
休館日 | |
入館料(税込) | 【有隣荘入場料】 大人:1,000円 学生:500円 【セット券】 ※有隣荘と大原美術館(本館/分館/工芸・東洋館)に入場できます 大人:1,800円 学生:1,000円 |
支払い方法 |
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予約について | 不可 |
タバコ | 完全禁煙 |
トイレ | |
子育て | |
バリアフリー | |
ホームページ | 平成31年春の有隣荘特別公開 緑御殿的美緑―ミレー、セザンヌ、会田誠、ロスコ色々 | 大原美術館 |
有隣荘とは
有隣荘は、倉敷の経済と文化に大きな影響を与えた「大原家」の旧別宅です。1928年(昭和3年)に建設されました。
ふだんは外観しか見ることができません。しかし、1997年(平成9年)から年に春と秋に1~2週間ずつ、大原美術館主催の特別展示の会場として一般公開されます。
その特徴や見どころは、下記の記事で詳しく紹介していますので、ぜひお読みください。
次のような見どころがありますよ。
- 2階から倉敷美観地区を見渡す眺めが最高
- 和洋折衷の名建築
- 近代日本庭園の先駆者による2つの庭園
横溝正史の金田一耕助シリーズに登場している(?)有隣荘
推理作家・横溝正史(よこみぞ せいし)は、1945年より3年間、現在の倉敷市真備町に疎開していました。探偵・金田一耕助が生まれたのも、真備町なんです。
金田一耕助シリーズのひとつであり、疎開中に連載を始めた小説『夜歩く』では、「みどり御殿」と呼ばれる建物が最初の事件の舞台となります。
「みどり御殿」の説明部分が、有隣荘そっくり!
疎開中の横溝正史が有隣荘を訪れて、舞台のモデルにした可能性が高いと考えられます。
有隣荘の緑の屋根瓦
大原美術館の基盤となる作品を集め、有隣荘の建築にも関わったのが、児島虎次郎(こじま とらじろう)。
有隣荘の緑色の屋根瓦は、虎次郎が 中国で目にした孔子廟(こうしびょう)から着想を得たと伝えられています。
また、有隣荘の設計を手がけた薬師寺主計(やくしじ かずえ)は、フランスにある織物の町リヨンを訪れ、美しい景観に感銘を受けていました。
繊維の町である倉敷にも美しい街並みをもたらしたいと考え、景観の重要な要素である屋根瓦に強い関心を抱いていたそうです。
さらに、大原美術館の創立者であり有隣荘の建築を依頼した大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)は、ある洋館の緑色の屋根瓦を車窓から見て、製法を尋ねるために現地を訪れたといわれています。
あいにく洋館の持ち主からは製法を知ることはできず、瓦の産地として名高い大阪の泉州で、特注で瓦を製作しました。
試行錯誤し完成した、緑色の瓦。美しい緑は、3人の熱い想いが生み出した色なんですね。
参考:大原美術館による資料(2019)
有隣荘で入手できるリーフレットには、瓦をよく見ることができるポイントが示されています。チェックしながら館内を歩いてみてください。
また瓦の一部が展示されているので、瓦の表面を覆っている釉薬(ゆうやく)の美しさを間近で確かめることができます。
「緑御殿的美緑(みどりごてんてきみりょく)―ミレー、セザンヌ、会田誠、ロスコ色々」について
新緑の美しい季節に開催される展示「緑御殿的美緑」は、緑づくし!
- 有隣荘の屋根の緑
- 作品の多様な緑
- 庭の緑
上記の緑が同時に楽しめる展示なのです。
玄関を入ると、緑のお花が出迎えてくれます。
部屋ごとに特徴がありますので、紹介しましょう。
1階洋間 象徴としての緑
1階洋間には、以下の作品が展示されています。
- 堂本尚郎(どうもと ひさお) 「宇宙」
- ジョゼフ・アルバース 「正方形頌(せいほうけいしょう)」
- パブロ・ピカソ 「フルート奏者」
- 押江千衣子(おしえ ちえこ) 「こだま」
虹を見ると、緑色は真ん中。波長としてニュートラルな色です。
ジョゼフ・アルバースは、普遍的であるために「絵が何も具体的なものを表現していない」ことを目指したそう。「正方形頌」は、複数の正方形を規則正しく配置した絵で、作家を代表するシリーズの中の極みといえる作品です。
押江千衣子さんの「こだま」は、倉敷の自然にインスピレーションを受けて描かれたパステル画。木の力強さ、神々しさが感じられました。
1階和室 植物の緑
眼の前に緑豊かな庭が広がる、1階の和室。ここでは、植物の緑を描いた作品が展示されています。
実際の庭の緑と作品の緑を両方楽しめる、目に嬉しい空間です。
- ジャン=フランソワ・ミレー 「グレヴィルの断崖」
- ポール・セザンヌ 「水浴」
- 北城貴子(ほうじょう たかこ) 「Waiting Light -muison-so-」
- 会田誠(あいだ まこと) 「愛ちゃん盆栽(松) お庭にて」
- 会田誠 「愛ちゃん盆栽(松) 」
まず目を引くのは、北城貴子さんの大きな油絵でしょう。
倉敷に滞在し、倉敷の自然にインスピレーションを受けている作品です。半ば抽象化された木が、自然の美しさを物語っています。
ミレーの絵は草の1本1本が柔らかそう。
セザンヌは、森のなかで水浴びする裸婦を描いています。
鑑賞者を次々に「ぎょっ」とさせていたのが、会田誠さんの「愛ちゃん盆栽」です。盆栽に美少女フィギアが組み合わされていて、人のようで木のようで。わたしも含めて、多くの人が「気持ち悪い」と感じるのではないでしょうか。
セザンヌの「水浴」と会田誠さんの「愛ちゃん盆栽」の製作時期は125年離れていて作風は全く異なりますが、どちらも自然と女性をモチーフにしたもの。
どんな見方をしているのか、共通点や違いを探ってみるのも楽しいのではないでしょうか。
2階和室 水の緑
2階は主に、水と関連する緑の作品。
- 鯉江真紀子(こいえ まきこ) 「From the series “W” Mi-2」
- ジャン・フォートリエ 「雨」
- マーク・ロスコ 「無題(緑の上の緑)」
- 福田美蘭(ふくだ みらん) 「有隣荘の色 棧切(さんぎり)」
1階と2階をつなぐような、鯉江真紀子さんによる植物の映った水面の写真で始まります。
ロスコは、遠くから見ると全面が黒に見えるのですが、近づいてみるとさまざまな緑が塗り重ねられていることがわかります。
額装なしで床の間に飾ってあるので、アクリル板に阻(はば)まれることなく、筆使いや繊細な色をじっくり眺めることができました。
福田美蘭さんの作品は、2002年に有隣荘のために作られたもの。屋根瓦の緑色を表現した、「緑御殿的美緑」にぴったりの作品です。
2階は、眺望も特におすすめ!
倉敷美観地区を流れる倉敷川は、柳を反射して少し緑色がかって見えます。
わたしの身長(156センチ)では2階から川の水面は見えませんでしたが、水にまつわる緑の作品と倉敷川周辺の景色も、リンクするところがあります。
おわりに
「緑御殿」と呼ばれる有隣荘で、緑に包まれる特別展。
さまざまな作品が「緑」で結びつき、面白い発見がありました。
セザンヌやミレーといったフランスの近代画家から、福田美蘭さんや会田誠さんのようなユーモア光る現代作家まで、大原美術館のコレクションの豊富さには改めて驚きます。
会場では鑑賞者から「とても良かった」「ずっと見たかった作品を見ることができた」「大原美術館の歴史と志が素晴らしい」といった声が聞こえてきました。
新緑の美しい季節です。有隣荘を出たら、倉敷美観地区にどんな緑色があるか、探したくなりました。
「緑御殿的美緑―ミレー、セザンヌ、会田誠、ロスコ色々」会期は11日間。展示だけでなく美しい建築や庭、窓からの眺めもおすすめです。
ぜひ有隣荘に足を運んでください。