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「COFFEE HOUSE ごじとま」のマスター・髙本明英(たかもと はるひで)さんにインタビュー
喫茶店をはじめたきっかけについて
髙本
大学生時代は京都府の老舗喫茶店「築地」でバイトをし、「イノダコーヒー」に通いながら、映画館に通う毎日でした。
なんとか大学を卒業し、就職はせずに喫茶店でバイトをしながら生活をしていました。
地元の真備町に戻ることになって、知人の紹介で知り合った由美子と結婚することになり、彼女のご両親に挨拶へ行ったんですよ。
すると、ご両親に「あなたはどうやってうちの娘を食わせていくのか?」と聞かれました。
そりゃそうですよね、今でいうフリーターみたいな生活でしたから。
そこで口から出まかせで、「喫茶店をやって食わせます!」と言っちゃったんです(笑)
そこから後に引けなくなって、結婚した1ヶ月後の昭和55年(1980年)5月に「COFFEE HOUSE ごじとま」をオープンしました。
私が27歳のときでしたねぇ。
オープンして約40年。長く喫茶店を続けてこれたのは
長く喫茶店を続けてきた秘訣を教えて下さい。
髙本
貧乏に耐えること、ですかね。
お金儲けをしようと思うなら、喫茶店はまずやらないです。
朝から晩までの立ちっぱなしの長時間労働ですから。
喫茶店をやりたいという人が何人も来たけど、「やめといたほうがいい」って言ってますよ。
なんでここまで続けてこれたか不思議だねぇ。
やっぱり「運」があったことと、今まで健康でこれたから、でしょうね。
髙本
今回の被災(平成30年7月豪雨)にあって、続けていくことの難しさは感じました。
被災してからは、毎朝喪失感がやってきます。
「なんで喫茶店を続けているんだろう」と思うこともあります。
でも、誰かの役にたちたいと思うから続けているんです。
誰かの役にたつことを考えさせられた、映画「生きる」について
髙本
実は、私が18歳の1971年(昭和46年)に、黒澤明監督の「生きる」という映画を観て、「喫茶店をいつかやろう」と思ってたんですよ。
この映画は、役所仕事をして毎日なんとなく過ごしていた主人公が、余命半年のがん宣告を受け、死ぬまでの間に葛藤しながら奮闘する物語。
「何か作ってみたら」という言葉に触発されて、最後に公園を作るという話です。
結局、自分の欲を満たすためだけにお金を使っても物足りなく、他人のために役にたつことで初めて「生きてる」と人は感じることができると思いました。
私も歳を取ってほしいものも減ってきて、何か役にたちたいという想いが湧いてきたから、ただそれだけですかね。
実際に足を運んで、目で見て、脳で感じてほしい
CDとは違うレコードの良さ、こだわりについて教えて下さい。
髙本
CDは、人間の耳には聴こえない音をカットしています。
LPレコードの良さは、人間の耳には聴こえないムダな音が生きているところですね。
人は耳には聴こえない部分から、「情感」や「機微(きび)」、「オシャレな雰囲気」を感じてると思います。
あの壁に飾ってある「絵」も、ただ「タンポポを描いているだけ」と目では認識しますが、描いてない部分にも何かを感じませんか?
文章もそうです。
文字と文字の行間に、人は感じることができると思います。
私の趣味である、映画を観たり音楽を聴いたりすることは、すべて自分を見つめていく作業です。
それがすごく面白いと私は感じてますね。
今の若い人はSNSを通して、いろいろなことを見たり、知ることが簡単にできますよね?
でも、できるだけその場に足を運んで実際に目で見て脳で感じてほしい。
時間もお金も労力もムダだと思うかもしれませんが、実際に足を運んであとから振り返ってみると「めっちゃ楽しい!」と思うはずですよ。
薫りのいい、こだわりのコーヒーについて
髙本
少しでも故意的な動きが出ると、コーヒーは100%ダメなんですよ。
スイッチを入れると自動的に動いてコーヒーを淹れられるよう、日々の努力の積み重ねが大事だと思います。
以前、私の弟子のコーヒーを飲んだとき、10割のうち7割が空白だったんです。
それを埋めていかないといけないね、と話したことがあります。
コーヒー豆の焙煎もすごく難しく、焙煎したコーヒーをうまく淹れることも難しい。
コーヒーの良さを引き出すのは、ものすごく膨大な努力と勉強が必要です。
私もまだまだですよ。
再開の後押しとなった、常連客のかたの声
髙本
実際は「営業再開はできない、難しい」と思っていました。
けど、訪れる常連客のかたたちが「いつ再開するの?」ってみんな聞くの。
だから、周りのかたが有無を言わせず、ですよ(笑)
誰かの役に立てる、感謝の気持ちがこもった一杯を届けたい
髙本
今後ねぇ…。どうしていったらいいと思う?
自分でもわからなくなって悩んでいて、逆に教えてほしい。
だから、ときどきお客さんに聞いてみるの、「どうしていったらいいか」って。
そしたらほとんどの人が、「ここ(真備町)にお店があるだけでいいです」って言ってくれるんです。
だから続けていかないといけないかなぁ。
感謝の心がなくなったら、こんなお店はたたんでますよ。
被災前のように、平凡に生きていたら、どうなっていたんだろうと今は思います。
私は被災したことによって苦労はたくさんあったけど、いろいろなことを考えさせられましたね。
被災前は全くしていなかった、仏壇に毎朝手を合わせることが日課となり、前の日に会った人への感謝を報告するようになりました。
毎日喪失感に襲われますが、感謝の気持ちがあるからお店を続けれられています。
私たちだけではなく、お店へ訪れる人の話を聞くと、みんな悩んでいてそれぞれで大変なんです。
ボランティアのかたのカッコ良さを見て、本当の優しさを経験させていただいたから、ああいうふうになりたい、誰かのお役にたてる一杯を淹れて提供していけたらと思うようになりましたね。
おわりに
お茶目に「えぇ~!」とおどけてみせたり、「へぇ~そうなんだぁ」と目を輝かせながら聞いたりするマスターとのお話は尽きることなく飽きません。
素敵な喫茶店を経営される仲の良いご夫婦は、筆者の憧れの夫婦像でもあります。
日々悩み苦しみながらも、誠実に一日一日を感謝の気持ちを持って過ごしているマスターが淹れるコーヒーを飲みながら、落ち着く店内でゆっくりする。
また、カウンター席でマスター夫妻とのおしゃべりを楽しむのもおすすめです。
実際に足を運んで、くつろぎと癒しの空間を楽しんでみてはいかがでしょうか。
COFFEE HOUSE ごじとまのデータ
名前 | COFFEE HOUSE ごじとま |
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住所 | 岡山県倉敷市真備町箭田748ー4 |
電話番号 | 086-698ー6225 |
駐車場 | あり 15台 |
営業時間 | 土、日、月曜日 正午(午前12時)~午後6時 |
定休日 | 火、水、木、金、祝日 営業日に関しては、お店のFacebookを要確認。 |
支払い方法 |
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予約の可否 | 可 |
座席 | カウンター:5席 テーブル:20席 |
タバコ | 禁煙(指定エリアのみ喫煙可能) |
トイレ | 洋式トイレ |
子育て | |
バリアフリー | |
ホームページ | ごじとま |