岡山県南部は、かつて「い草(いぐさ)」の一大産地でした。
い草は、畳表(たたみおもて)・ござの原料となる植物です。
倉敷でい草を栽培して染めて織って、全国へ販売・出荷しているのが、今吉俊文(いまよし としふみ)さん。
従来は分業している仕事の垣根を飛び越え、倉敷のい草産業の継承のため奔走しています。
い草の刈り入れと染色、花ござを織る作業をたっぷり取材しました。
今吉さんの立ち上げたブランド「IGUSA LABO(イグサラボ)」と活動を紹介します。
記載されている内容は、2021年12月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
IGUSA LABOのデータ
団体名 | IGUSA LABO |
---|---|
業種 | い草の栽培、い草商品の製造・販売 |
代表者名 | 今吉俊文 |
設立年 | 2018年5月 |
住所 | 岡山県倉敷市西阿知町1007-33 |
電話番号 | 090-9502-4376 |
営業時間 | |
休業日 | |
ホームページ | IGUSA LABO |
IGUSA LABOとは?
IGUSA LABOは、「暮らしにい草」をテーマに掲げたブランドです。
今吉俊文さんが育てたい草で、最終的な商品まで本人が仕上げています。
今吉さんは、いぐさ製品を製造する「倉敷い草 今吉商店」の五代目であり、IGUSA LABOの代表。
「い草にまつわる栽培技術や加工技術が、失われてはいけない」
その思いで、こだわりの商品を作り上げています。
IGUSA LABOの寝ござ
IGUSA LABOのイチオシ商品が「寝ござ」。
「寝ござ」は、敷布団の上に敷きその上に寝る、い草の織物です。
吸湿性が高いため汗をよく吸ってくれて、さわやかな肌触りが特徴。
い草の香りがリラックス効果を高めてくれる、といわれています。
IGUSA LABOの寝ござで使われているい草は、今吉さんが管理している田んぼで、食品規定もクリアできる肥料や農薬を使用して栽培したもの。
縞模様が見えるでしょうか。
この模様も、い草の根本と穂先の自然な色の違いを活用しているのです。
そして、通常のい草加工で施される工程「泥染(どろぞめ)」を行なっていません。
泥染とは、発色を良くするため、い草を泥に浸す作業。
日焼けによる変色をやわらげ、い草の耐久性が増すのです。
しかし泥染をすると、加工の段階で細かな「染土(せんど)」という粘土の粉が舞い散ります。
染土が喉や肺にダメージを与えるため、い草生産者は肺の病気になるかたが多いそうです。
泥染をすると、商品にもわずかに染土が残ります。
今吉さんは「できるだけ身体にいいものを」と考え、IGUSA LABOでは無染土、つまり泥染をしていないい草だけを使用。
「無染土」のい草で作られた寝ござは、い草本来の風合いがそのまま残っており、触ると心地よいんですよ。
また、専用の織機を使用して織りあげているため、優しく体に沿ってくれます。
暑い季節に直接肌に触れるから、安心して使え、い草の良さを最大限感じられるようこだわって作られた寝ござなのです。
IGUSA LABOの商品を買うには
倉敷美観地区にある「い草屋 花莚(かえん)」では、寝ござや花ござから、カフェマットやコースターまで、IGUSA LABOの商品を多数取り扱っています。
花莚を取材したときに、店長の楠戸(くすど)さんは、以下のように語っていました。
「今吉さんの作るい草はいいですねえ。中の海綿体がしっかりしていて。特に寝ござは一級品です。触れてみて初めてわかるんですよ」
一部商品は「IGUSA LABOオンラインショップ」でも取り扱いがありますが、ぜひ「い草屋 花莚」で実物を触ってみてください。
岡山・倉敷とい草・ござの歴史
倉敷のい草の歴史は、今から約1800年前、弥生時代末期にさかのぼります。
「神功(じんぐう)皇后が倉敷市の庄(しょう)地区にあった神社に立ち寄った際、近くに生えていた美しい草で莚(むしろ)を織らせたところ、とても気に入られた」と伝承があり、この草がい草だったといわれているのです。
岡山県や倉敷市とい草・ござの歴史を簡単に紹介しましょう。
時代 | 出来事 |
---|---|
弥生時代 | 神功皇后にござを奉る |
奈良時代 | 備前のい草織物の技術を朝廷に認められる |
江戸時代 | 倉敷の干拓が本格化。塩分を多く含む土地でも育つ、綿花やい草が広く栽培される。 い草を加工した「畳表」が、「畳縁(たたみべり)」と合わせて全国的に高い評価を受ける。 |
明治時代 | 倉敷でい草の染色技術が確立され、花ござが発展。世界に通用する輸出品に |
明治~昭和時代初期 | 岡山県のい草生産量が日本一に |
昭和後期 | 昭和39年をピークに岡山県の生産量が減少 |
「花ござ」とは、染めたい草で模様を織るござのこと。
倉敷で誕生した花ござは、明治時代には海外への重要輸出品目になるまで成長しました。
2021年現在、岡山県のい草生産量はわずかですが、高度な加工技術が今も倉敷の地に伝わっています。
刈り取り・染色・織りの作業を見学
い草は、12月頃に植え付けを行ない、翌年7月に刈り取り、乾燥します。
その後、乾燥させたい草を、染色・加工していくのです。
7月の刈り取り・乾燥と、10月の染色・織りの作業を取材しました。
い草の刈り取り
作業が始まったのは、朝の4時30分。
朝日が顔を覗かせたばかりで、あたりは寝静まっています。
倉敷市の庄地区にある田んぼで、手伝いの人も含めて3人で刈り取りが進みました。
い草が倒れないようにかけていた網を外し、杭を抜きます。
土の状態をチェックし、手作業で刈り取るところと、機械で刈り取るところを見極め。
まずは手で刈り取りを開始しました。
ジャッジャッと小気味良い音を響かせ、手早く刈り取っていきます。
い草の先端が絡まないように刈るには、鎌の動かしかたにコツがいるそう。
刈った束から、一定の長さに満たないものや雑草をふるい落とします。
整えたい草の束を、紐で縛ります。
採れたてのい草は、鮮やかな緑色。
触ってみると、水分をたっぷり含んでいて、艶やかでしっとりしていました。
機械刈は、長さを選別しながら収穫し、束を巻くところまで自動でしてくれます。
束をトラックに積んで、乾燥機のある場所へ移動。
一般的には、乾燥の前に泥染工程が入ります。
IGUSA LABOでは泥染をしないので、収穫したそのままのい草を乾燥機へ。
風が通るよう束をしっかり立てて、敷き詰めました。
じっくり時間をかけて乾燥させます。
一部は天日干しに。
こうして乾燥させたい草は、下の写真のような緑味のベージュ色になり、パリッとします。
朝早くからはじまった、い草の刈り取りと乾燥。
真夏の田んぼで、腰をかがめたり、い草をかついで歩いたり。
今吉さんたちは、何度も汗を拭きながら真剣な表情でい草と向き合っていました。
い草の染色
10月下旬には、倉敷市西阿知(にしあち)町の一角にある工房にて、い草の染色と織りを見せてもらいました。
この日は、淡い青色に染色するとのこと。
染料そのものの色は、えんじと黄緑っぽく見えました。染料だけ見ると、できあがりの色が想像できません。
手元で染料を溶かしたのちに、窯に投入して混ぜます。
乾燥したい草の束を窯に入れ、均一に染まるようい草を動かします。
染色作業は、もくもくと立ち上げる湯気の中。
とても暑そうです。
い草が染まると、天日で乾燥させます。
一般的にい草を染めるときは根本のほうを縛るそうですが、IGUSA LABOでは先端のほうを縛っています。
理由は、縛ったところは何センチも切り落とすことになるので、丈夫な根本をできるだけ残して活用するため。
自分で育て自分で加工するい草だから、一般的なやりかたにとらわれず工夫できるのかもしれません。
染めたてのい草と乾燥したい草ではかなり色が変わるそうです。
下の写真の右側に写っている干したてのい草は、乾燥すると手で持っている花ござの青色になるのだとか。
花ござを織る
続いて、工房の中を見学しました。
工房には、いくつもの織機が並んでいます。
今吉さんが使っている織機は、柄を織るための構造として、木の駒を張り合わせた板を使うタイプと、穴の空いたカードを使うタイプの織機の2種類。
カードを使うタイプの織機で、花ござを織るところを見せてもらいました。
色別にい草の長さを切りそろえ、織機にセットします。
スイッチを入れると、カシャンカシャンとリズミカルな音が響き、少しずつござが織られていきました。
ひとりでい草の栽培から加工まで手掛けるのは、大変なはず。
どのような思いでい草に関わっているのでしょうか。
今吉さんに話を聞きました。
IGUSA LABOのデータ
団体名 | IGUSA LABO |
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業種 | い草の栽培、い草商品の製造・販売 |
代表者名 | 今吉俊文 |
設立年 | 2018年5月 |
住所 | 岡山県倉敷市西阿知町1007-33 |
電話番号 | 090-9502-4376 |
営業時間 | |
休業日 | |
ホームページ | IGUSA LABO |