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井上家第十六代当主へのインタビュー

井上家第十六代当主である井上典彦 (いのうえ ふみひこ)さんに、話を聞きました。
建物の歴史的変遷がわかった保存修理工事
井上家住宅は、倉敷美観地区に現存する唯一の古禄派住宅だと聞きました
井上(敬称略)
そのとおりです。
2012年から約10年にわたった保存修理工事を経て、主屋は江戸時代の享保6年(1721年)に建てられた、倉敷美観地区で最古の町屋建築であることがわかりました。
保存修理工事では、十代目当主 三郎右衛門が活躍した天保年間のようすに合わせて復元しました。

大規模な保存修理工事に至った背景を教えてください
井上
井上家は、江戸時代から工事を繰り返しながら民家として使われてきました。
1997年に敷地内にある新宅ができて以降は、そちらが居住スペースとなりましたが、それまでは現在公開している建物で生活が営まれていたのです。居住スペースが新宅に変わってからも、私の父が来客や仕事の場としてここを使い続けていました。
しかし、建物は年を重ねるごとに老朽化します。井上家も雨漏りやシロアリによる損傷、老朽化による破損がありました。
2004年に、主屋を中心とした箇所が国指定重要文化財に指定されたことを受け、国や岡山県・倉敷市にも協力していただいて2012年からの保存修理工事が始まりました。
工事に10年もかかったのは、なぜですか?
井上
当初の計画では、保存修理工事は6年の予定でした。
しかし、実際に工事をはじめてみると、当初の予想を上回る建物の傷みや老朽化による破損がありました。床座(ゆかざ)が抜けてしまっているところもあったんですよ。
また、解体した部材や取り換え用の資材を保管するための小屋を建てる空き地が近所になく、遠方に土地を借りて建てました。そのため、搬入出や運搬にも時間がかかりました。
保存修理工事では、耐震補強もしています。耐震補強にあたり、構造の計算や井上家特注の鉄骨などの製作もしていただきました。
このような作業をしつつ、発見された資料を都度専門のかたに調べて考証していただき、この建物がどのように使われてきたのかを調べました。また、今まで保存してきた資料の整理もしました。
保存修理工事で出てきた資料や、建物の歴史的変遷は展示もしておりますし、館内を案内する際にも皆さんにご紹介しています

「国指定重要文化財」としての役割
国指定重要文化財として、工夫している取り組みはありますか?

井上
文化財保護法には、以下のような記載があります。
文化財の所有者その他の関係者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存するとともに、できるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない。
引用元:文化財保護法第四条第二項
このため、大切に保存するだけでなく公開するなど、文化的活用に努める必要があります。井上家も個人宅から文化財になったので、一般公開することになりました。
来場客にはパンフレットをお渡ししたり、展示パネルや解説板を置いたりするなど、できるだけ案内するよう心掛けています。
私を含めスタッフによる実演や案内もおこなっていますよ。

生活の足跡が随所に垣間見える展示が好評
井上家の長い歴史のなかで、保存修理工事を経て「天保年間」の室内を再現した理由を教えてください
井上
井上家がもっとも繁栄していて、建物の機能も充実していた時代だからです。
でも実は、工事に着手した当時、どの時代に合わせて復元するかは決まっていなかったんですよ。
保存修理工事では、長い歴史のなかで、増築・改築を繰り返してきたことも明らかになりました。
一つひとつの部屋がどのように使われていたのか、そもそもどのような順番で建てられたのかといった点も、解体した部材を調査していただいたんです。
その調査結果を踏まえて、天保年間の井上家を復元することになりました。
一般公開してみて、どのようなお客さんが多いですか?
井上
国内外問わず、古い家が好きなかたが多く訪れます。
お客様の二割程度は、外国人観光客のかたです。事前に相談をいただければ、英語での案内もしております。
お客様用のお風呂やトイレ、引き出しに名前が書かれた作り付けの箪笥(たんす)や台所など、生活が感じられる展示が好評です。箪笥の引き出しの名前には、私の父のものもあります。

また、蔀戸(しとみど)や摺揚戸(すりあげど)、雨戸や戸袋(とぶくろ)に珍しい仕掛けがあり「忍者屋敷みたい!」と喜んでくださるかたが多いです。仕掛けは、実際に動くようすもご覧いただけますよ。
井上家住宅は、倉敷市内在住の小学生および中学生が、文化施設や社会教育施設を無料で利用できる「いきいきパスポート」の対象施設でもあり、校外学習などでの利用も歓迎しています。
台所の窯なども復元したので、いずれは体験学習の場も設けられたら良いなと思っています。

井上家住宅の楽しみかたを教えてください
井上
ボランティアのかたがたが生けてくださる季節に合わせた生け花や、フラワーアレンジメントが、各部屋に飾られているので、ぜひご覧いただきたいです。

庭を眺めながら畳に座ってくつろぐのもおすすめです。
雪見灯篭のある坪庭の横には、鶴の掛け軸が飾ってあるのでここに鶴がいた時代に想いを馳せるのも良いですね。
また、入り口には、保存修理工事の際に使われた技法の継ぎ手や四方差しの模型があります。
実際に手に取って自分で組み立てることができるので、手を動かしながら楽しんでみてはいかがでしょうか。

最後に、読者へ一言お願いします
井上
江戸時代の暮らしに思いを馳せながら、タイムスリップした気分を味わいに、ぜひお越しください。

おわりに
10年にもおよぶ保存修理工事の間、井上さんはなんと同じ敷地内にある新宅で生活を続けていたそうです。
国指定重要文化財の敷地で、工事が続く主屋を前に暮らす……貴重な経験ですね。
長い歴史のある井上家の、国指定重要文化財として、一般公開するミュージアムとしての機能はまだまだ始まったばかり。
倉敷美観地区の昔ながらの風景のひとつとして、これからもこの街で営まれてきた暮らしを伝えていってほしい施設のひとつです。
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国指定重要文化財 井上家住宅のデータ

名前 | 国指定重要文化財 井上家住宅 |
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所在地 | 岡山県倉敷市本町1-36 |
電話番号 | 086-422-0714 |
駐車場 | なし |
開館時間 | 午前10時~午後5時(最終入館午後4時30分) |
休館日 | 月 年末年始 ( 12/28~1/3 ) (祝日の月曜日は開館、翌日休館) |
入館料(税込) | 大人一般 500円(400円) 小中学生 300円(200円) 未就学児 無料 ※( )内は、団体20名以上 |
支払い方法 |
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予約について | 可 英語による案内を希望する場合は、電話での確認が必要 団体への案内も、予約が必要(30分~60分) |
タバコ | 完全禁煙 |
トイレ | 洋式トイレ |
子育て | いきいきパスポート指定施設 |
バリアフリー | 杖カバーをすれば、杖の持ち込み可能 マスクを外しての案内可能 触って楽しめる展示多数あり |
ホームページ | 国指定重要文化財 井上家住宅 |