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地酒屋の代表取締役・楠戸 登美夫さんにインタビュー
酒好きには楽しくてたまらない店、地酒屋。
そんな地酒屋を運営する、株式会社 TRY(トライ)の代表取締役・楠戸 登美夫(くすど とみお)さんに開業の経緯やこだわり、今後の抱負、やってみたいことなどについて話を聞きました。
地酒について勉強するうちに地酒好きに
楠戸 (敬称略)
実は、もともと私は日本酒をあまり飲んでいなかったんですよ(笑)
地酒屋より先に「冨來屋本舗」という店の運営を始めています。
その富來屋本舗は、最初うどん店でした。
しかし倉敷らしさをお客さんに楽しんでもらうため、地元の食材や料理にこだわる店にコンセプトを変え、「きびそば」などをメインにしたんです。
そのときに、アルコール類も地元のものにこだわることにしました。
地元のアルコール類といえば、やっぱり地酒。
でも、さきほど言ったとおり、当時の私は日本酒を飲まないので地酒の知識などありません。
そのため地酒や日本酒について勉強する必要があったんです。
そこで、地元の酒蔵のかたをお呼びし、酒に興味のある仲間たちに声をかけて、地酒・日本酒の勉強会を定期的に開催しました。
楠戸
そうなんです!
勉強していくうちにだんだんと日本酒の奥深さや地酒の魅力に気付き、いつの間にか地酒好きになってしまったんですよ(笑)
私たちと同じように、地酒が好きな人がたくさんいるはず。
そんな思いで地酒の専門店の開業を決めました。
ホテルが近いので、出張のかた・観光のかたに好評
楠戸
最初は、現在の通りの一本南側の通りで営業していました。
最初の店舗では酒の販売はおこなわず、飲食店という形態でした。
地酒専門のスタンディング・バーです。
ちょうどすぐそばにホテルが数軒ありますので、ビジネスや観光でホテルに泊まるかたがチェックインの際に「地酒屋」の看板を見ていてくれていたんですよ。
だから、仕事や観光が終わって、夜に地酒屋に行ってみようと思って来ていただけてたんです。
楠戸
前の店舗では、お客さんの約7割がビジネスや観光などで地元以外から来られたかたでした。
出張などで全国各地によく行くかた、旅行が好きなかたは、やっぱり地元ならではの食材を楽しみにしているんです。
日本酒が好きなかたなら、地酒が一番の楽しみなんですよ。
だから、地酒屋はとても好評でした。
地酒は土地の風土・文化そのもの
楠戸
やはり、その土地その土地の風土や文化によって、地酒もそれに合わせたものになるという点ですね。
岡山県は山の幸・海の幸に恵まれ、食材が豊富です。
そして豊富な食材を使った料理は、味付けが甘めな傾向があります。
だから、岡山の地酒は全体的に甘口のものが多いんです。
料理が甘口なので、甘口の酒のほうが相性がいいから。
また岡山県は、実は隠れた米どころ。
朝日・アケボノなどのおいしい米が取れます。
そして、日本酒づくりに最適な品種といわれる雄町(おまち)は、岡山市の雄町地区生まれ。
さらに日本酒の80%くらいは、水です。
だから水がおいしいかどうかは、日本酒の味を左右する大事な部分。
岡山県は、水も豊富でおいしいんですよ。
岡山には三大河川(高梁川(たかはしがわ)・旭川(あさひがわ)・吉井川(よしいがわ))がありますよね。
これは岡山県民なら、みなさん知っていること。
でも、三大河川の水源がすべて県内にあるのは、全国でも北海道と岡山県くらいなんですよ。
楠戸
北海道は規模が大きく島であるから別格と考えると、岡山県がいかに水に恵まれているかわかると思います。
岡山県には日本酒づくりに重要なおいしい米が取れ、水が豊かで、日本酒といっしょに食べる食材にも恵まれている。
岡山県の地酒は、岡山県の風土と文化そのものだといっていいのではないでしょうか。
ただ、岡山県が米どころだということ、水に恵まれていること、そして酒どころだということは県外だけでなく県内に住んでいる人にもあまり知られていません。
だから、岡山県の地酒の良さを広めていきたいなと思いますね。
地酒のスタンディング・バーから地酒を飲みながら選べる酒販店に
楠戸
お客さんからの声に応えるためです。
いろいろ地酒を飲んでみて、気に入った日本酒があると、家に買って帰って自宅でゆっくりと楽しみたいというかたが多かったんですよ。
そこで、地酒を飲みながら好きなものを選べて、気に入ったものを買って帰るという店をしようと考えつきました。
ただ、酒を販売するには「酒販免許」という免許が必要なんです。
だから酒販免許を取得しましたし、酒販も開始しました。
そんなとき、ちょうど最初の店のすぐ北側に物件が見つかり、広さの面でも酒の販売もできそうだったので、移転を決めました。
そして2019年(令和元年)11月、現在地にリニューアルオープンしたんです。
楠戸
移転後3ヶ月ほどで、新型コロナウイルス感染症の影響が大きくなってしまいました。
だからリニューアルした効果や手応えとかまったくわからず、いきなり今後の運営方法などを新たに考え直さなければいけなくなっている状況です。
まだ地酒屋が移転したことも、酒販を始めたことも知らないお客さんも多いと思います。
こちらから提案・発信していくなど工夫をしていく必要を感じました。
日本酒のコンディションを保つことにこだわる
楠戸
やっぱり一番の売りは、私たち自身が酒好きだということですね(笑)
だから、酒が好きなかたの心理をよく知っています。
酒にどんな肴が合うか、酒をおいしく引き立ててくれる食べ物は何かを考えて、酒にピッタリの肴を出しているんです。
あと、当店に置いている地酒は四合瓶(720ミリリットル入り)がメイン。
これもこだわりです。
楠戸
日本酒を一番良いコンディションで楽しんでもらうためです。
日本酒は、酸素に触れると酸化してコンディションが悪くなっていきます。
だからできるだけ日本酒を酸素に触れさせないようにするのが、日本酒のコンディションを保つコツです。
瓶を空けるまでは、一升瓶も四合瓶もあまり変わりません。
しかし栓を開けたあと、一気に全部飲めないから、何回かに分けて飲んでいきますよね。
そうなると、量の多い一升瓶は飲み終えるまで時間がかかります。
そして瓶が大きいぶん、瓶の中の酸素も多くなり、酸化しやすくなるんですよ。
だから、四合瓶のほうがコンディションを保ちやすいんです。
さらに当店では、テイスティング用に栓を開けた瓶は、ワイン用の「ワインストッパー」という栓を使っています。
栓をしたあと、瓶の中の空気を抜いて酸化をしにくくできるんですよ。
楠戸
そう、とてもデリケートなんですよ。
ほかにも地酒を冷蔵している温度にも気をつけています。
陳列している地酒は、一桁台の温度で保管しているんです。
理由としては、劣化しにくくさせるため。
逆にテイスティング用の地酒は10度前後の冷蔵庫に入れています。
これは、地酒を一番おいしい状態で飲んでもらうためです。
酒づくりをする杜氏(とうじ)は、だいたい10度前後の状態で日本酒の味を見ています。
だから、10度前後が日本酒がおいしい温度なんですよ。
実際にうちに来た県外のお客さんで、保管状態の悪い日本酒を飲み、岡山の酒はおいしくないという誤ったイメージを持っている人もいます。
それはとても残念な話ですよね。
だから、うちでは保管状態やコンディションに気をつけているんです。
岡山の地酒にネガティブな印象を持っていたお客さんが、うちで地酒を飲んで、岡山の地酒のおいしさに驚いたという場面が何度もありましたね。
バーチャルを利用して自宅で地酒を楽しみながら酒蔵見学できたらおもしろい
楠戸
「体験」に力を入れていきたいと思っています。
ただ新型コロナウイルス感染症の影響で、実体験は難しい状況です。
そこで今、考えているのが「バーチャル体験」。
お客さんに当店の地酒や肴をお送りして、酒蔵とZoomのようなシステムを使って通信し、映像を通じた体験をしていただきます。
そして、映像を見たり話をしたりしながら、その酒蔵の地酒を楽しむというものがバーチャル体験なんです。
移転後すぐに新型コロナ禍で大変な状況となりましたが、逆に新しい試みに挑戦してみたいですね。
楠戸
日本の各地には、それぞれ地元に根付いた酒があります。
岡山県は隠れた酒処で、いい酒蔵・地酒がたくさんあるんです。
今は昔と違って日本酒もいろいろな味わいのものが増え、魅力的になりました。
しかし、日本酒のイメージで入口のところで止まっている人が多いのも事実。
私自身がそうでした。
でも止まっていたイメージが払拭されると、日本酒の魅力がわかってきて、今では大の日本酒好きになってます(笑)
同じように、日本酒のイメージによって入口で止まっているかたがたが、当店をきっかけに日本酒の魅力に気付いてもらえればうれしいですね。
そして、岡山県の地酒のおいしさや魅力も知ってもらいたいです。
おわりに
酒好きにとって、旅先の地酒は最大の楽しみといえます。
地酒屋は岡山県の地酒をほぼ網羅しているので、まさにうってつけの店です。
しかも飲むだけではなく、気に入った地酒を実際に買って帰れるので、お土産にも最適。
もちろん、地元のかたにもおすすめ。
自分の住んでいる地域には、どんな地酒があるのか知りたいときは、ぜひ地酒屋へ行ってみてください。
お酒が大好きなスタッフの、お酒の話も楽しいですよ。
地酒屋のデータ
名前 | 地酒屋 |
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住所 | 岡山県 倉敷市阿知3丁目21-32 |
電話番号 | 086-441-7877 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 午後2時30分〜午後8時 |
定休日 | 月、日 |
支払い方法 |
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ホームページ | 地酒屋 |