倉敷アイビースクエア宿泊部長の深井憲(ふかい けん)さんに、宿泊棟改修のポイントや接客時に心がけていることをインタビューしました。
目次
時代のニーズに沿った、安全で快適な宿泊環境の整備
倉敷アイビースクエア宿泊棟は、2018年から2020年の3年間で大規模な改修がおこなわれたそうですね。改修のポイントを教えてください。
深井(敬称略)
前回の改修(1996年~1997年)より20年以上が経過しており、時代も大きく変化いたしました。以前は国内のお客様が大半でしたが、現在は訪日外国人観光客のかたが大幅に増えております。
そうなると、お客様が施設に求めるサービスも当然変わって参りますので、施設の理念やコンセプトは大切にしつつも、時代のニーズに沿った設備への改修が急務と判断しました。
今回の改修のポイントは二つありまして、一つは建物の構造的な安全性の確保、もう一つは客室に求められる現代的機能の実装です。
倉敷アイビースクエアは、紡績工場をベースに、ホテルを中心とした文化的施設に再生された施設です。1974年の創業から50年となり、現代の耐震基準を満たす施設として改修する必要がありました。今回の改修で相当な補強をしておりますので、安心してご利用いただける施設になったと思います。
客室内の設備面では、空調など最新の機能を盛り込みつつ、お客様目線を第一に改修に取り組みました。従来の客室はバス、トイレ、洗面が一体となったユニットバスタイプでしたが、今回の改修ではスタンダードタイプ以上の客室はそれぞれが独立したセパレート式にしております。
また浴室は日本のお客様には馴染みのある洗い場付きを採用しておりますので、快適性は大きく向上していると思います。
客室内のインテリアもアールデコ調のモノからナチュラル調のものに変更しました。室内の家具は、全客室新しいものになりましたね。
先ほど館内を見学した際に、エレベーターを設置するために客室数を減らしたと伺いました。
深井
1974年の創業当時、客室は180室でしたが、2024年現在は145室になっています。
今回の改修では、ファミリールームやスイートルームの追加など、従来にはなかった多様な客室をラインナップし、同時にパブリックスペースにおける設備の充実も重要視しました。
ホテルには多様なお客様がお越しになりますので、客室が減少したとしても、エレベーターの増設など、必要な設備には積極的に投資しました。
「時代の変化」への対応も2020年の改修のポイントなのですね。
深井
創業当初は修学旅行など、団体のお客様が収益の大きなウェイトを占めておりましたが、今は少子化やインターネットやスマートフォンの普及により旅行者の個人化が一層進んでおります。
一方で、ありがたいことに、倉敷美観地区周辺には外国人観光客のかたがたくさん訪れてくださるようになりました。外国からお越しになるお客様は長期滞在されるかたも多いので、持参されるお荷物も大きくなる傾向があります。
そういったお客様にも快適にご滞在いただくためにも、客室やパブリックスペースをゆとりある空間に変化させたことは、今回の改修において重要なポイントでした。
倉敷アイビースクエアは、浦辺鎮太郎さんが改修設計された施設ですね。2020年の改修も、浦辺設計と共同で進められたのですか。
深井
おっしゃるとおりです。
浦辺設計様は、倉敷アイビースクエアだけでなく、倉敷に現存する多くの重要建築に携わっていらっしゃいます。そしてなによりも、浦辺鎮太郎氏が掲げたこの施設の理念を、どこよりも理解されておられる設計会社と思っております。
建物の構造や設備だけでなく、室内のインテリアや家具、たとえばコップ一つを取ってみても浦辺設計様と一緒になって昼夜議論しました。
当然、創業時と今とではスタッフも変わっております。しかし、いつの時代になっても浦辺設計様と共にこの施設の改良を重ねていけることは、我々にとっても大変心強く思っております。
地域の魅力に寄り添った体験型宿泊プランを提案
ホームページの宿泊ページを拝見しました。多彩な宿泊プランがありますね。
深井
改修前は、朝食付きや一泊二食など、オーソドックスな宿泊プランしかありませんでした。そこで、施設の改修と合わせて、倉敷美観地区内にある魅力的な観光コンテンツと連携した、多彩な体験型の宿泊プランを企画いたしました。
特に大原美術館は倉敷観光のメインスポットですよね。足を運ばれるかたも多くいらっしゃるのではないでしょうか。
大原美術館様とタイアップした宿泊プランでは、美術館の入館券だけでなく、プラン限定の特製チケットホルダーや、大原美術館オリジナルマスキングテープがセットになっております。特にチケットホルダーやオリジナルマスキングテープにつきましては非売品のため、この宿泊プランでしか手に入りません。充実した倉敷アートをお楽しみいただけるプランとして、大変人気がございます。
その他にも、倉敷美観地区内で唯一の造り酒屋を営まれている森田酒造様とタイアップしました酒蔵見学付きプランなど、倉敷観光をより一層楽しめる知的探求型のプランを多数ご用意しておりますよ。
このような地域と連携した宿泊プランを作ろうと考えたきっかけはなんだったのでしょうか。
深井
「岡山県」と聞いてどのようなイメージが思い浮かぶでしょうか。桃太郎、きびだんご、マスカット、後楽園……あまり多くはないかもしれません。
最近は岡山出身のアーティストやお笑い芸人などの影響で、以前に比べると多少知名度は上がったかもしれませんが、それでもまだまだイメージの湧きにくい県と思われているかたも多いのではないでしょうか。
しかし海・山・川に囲まれた自然豊かな地域で、気候は温暖。晴れの日が多くて交通アクセスも良い、とても住みやすくて素晴らしいところです。そういった条件が整っているにもかかわらず、岡山県の良さが外に対してあまり伝わっていないのでは、という感覚がずっと昔からありました。
私たちのホテルは創業から50年を迎えました。大変ありがたいことに、国内においては施設としての知名度もそれなりにはございます。
だからこそ、私たちが地域のかたと積極的に関わっていくことで、倉敷の観光コンテンツの魅力がより多くのかたに伝わり、実際に体験してもらうことで、まだ来た事がないかたに広めていただく。
その積み重ねが、少しでも倉敷の魅力が国内外に広まる機会になれればという思いがあります。
紡績工場からホテルに生まれ変わった施設だからこそ得られる宿泊体験を
歴史的景観を守りつつも、館内の快適さは時代に合わせて変化していく。大切なことですね。
深井
私もそう思います。
創業時に掲げた哲学・理念は、どんなに時代が変わろうとも大切にしなければいけないものです。しかし、それは決して思考を停止させるようなものではなくて、大事なものを胸に秘めつつ、変化し続ける時代のニーズに応じて、より良い宿泊体験を追求し続けることはホテルマンとして絶対に必要なことだと思っています。
接客の際に意識していることは、何ですか。
深井
宿泊部門や料飲部門などホテルには様々な部門がありますが、多様なお客さまがお越しになるホテルで勤務していると、いろいろなことが起こります。もちろん良いこともたくさんありますが、残念ながら思いもよらないトラブルが起こることもあります。
そういう苦しいときこそ、「誠実さ」をもってお客さまに向き合うことで、最終的には笑顔でホテルを出発される光景を何度も見てきました。
一般的にホテルスタッフに求められるものとして、「おもてなしの精神をもつこと」や「プロフェッショナルであること」、「細やかな心配り」など、いろいろあると思います。
もちろんそれは必要なことですし、常に心掛けるべきことと思いますが、一番大切なことは、「誠実であること」。誠実さを心の拠り所にする人が、優秀なホテルスタッフへ成長していくのだろうなと感じております。
倉敷アイビースクエアは、今後どのような場所になっていってほしいと思われますか。
深井
ここは、今でこそホテルを中心とした観光複合施設として再生しておりますが、元々は倉敷紡績の発祥の地であり、倉敷の繊維産業や街の発展につながって今日に至るという、この街の歴史とともに歩んできた場所でもあります。
先ほどもお話ししたように、昨今言葉や文化の異なるお客様が増えてきました。数ある観光地のなかから、わざわざ岡山県の倉敷を選んできてくださっている訳ですから、本当にありがたいことです。
当施設は、宿泊施設としての機能だけでなく、この街の歴史と文化を国内外のお客様に伝えていくという伝道者としての役割も担っていると思っております。
お客様に安全で快適な環境を提供し続けることは当然のことです。そのうえで、ご利用いただいたお客様が倉敷での体験をご家族やご友人に語っていただき、また新たなお客様が倉敷の街にお越しになる……そういう循環が続くことで、いつまでもこの街が輝き続けることを願っております。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
深井
倉敷アイビースクエアが創業した1970年代は、古いものは壊して新しく建て替えるスクラップアンドビルドの考え方が主流の世の中だったと思います。旧工場の再開発の方法を検討した際も、全面解体して中高層ホテルを建造する案もあったそうです。
しかし結果的に、旧工場の外観と基本構造をそのまま残しながら生まれ変わらせる保存再生案に踏み切ることとなりました。
この決断は、単に企業の営利目的だけではなく、史蹟(しせき)ともいうべきこの場所を後世に伝える形で蘇らせること、それこそが地域社会への貢献であるとの判断でした。
この理念は今なお、倉敷アイビースクエアの根底に流れ続けており、これからも変わることはありません。
お客様には、「残すべきところ」を大切にしているからこそ追求できる快適さを、この倉敷アイビースクエアで体験していただきたいと思っております。
変化しつつも生き続ける。「倉敷アイビースクエア」へ、ぜひお越しくださいませ。心よりお待ちいたしております。
おわりに
私は、週末にふらりと旅に出ることが好きなので、宿泊施設をよく利用します。
若い頃は食や体験にお金をかけるぶん宿泊費は抑えようと、宿泊施設にはあまりこだわりをもっていませんでした。
そのような私にとって、倉敷アイビースクエアは初めて「いつか、ここに泊まってみたい」と宿泊することを目的とした旅を意識するきっかけとなった施設です。
元紡績工場というバックボーンをもつここでしかできない宿泊体験は、ただ単に近代化産業遺産に泊まれることだけではありません。「残すべきところ」を大切にしているからこそ追求できる快適さが、誰かの「ここに泊まってみたい」という憧れにつながる。倉敷のこれまで、今、これからをつなぐ「伝道者」としての役割のある施設だからこそ体験できるのでしょう。
倉敷に暮らす人にとっても倉敷を観光する人にとっても、宿泊することで新たな倉敷アイビースクエアに、倉敷の街に出会える宿泊施設です。
倉敷アイビースクエアで、歴史を感じながら安全で快適な宿泊体験をしてみてはいかがでしょうか。
倉敷アイビースクエアのデータ
名前 | 倉敷アイビースクエア |
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所在地 | 岡山県倉敷市本町7-2 |
電話番号 | 086-422-0011 |
チェックイン | 午後3時 |
チェックアウト | 午前11時 |
支払い方法 |
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施設情報 | 全室禁煙(別途喫煙スペース有り) |
お風呂 | 大浴場、客室内浴室設置(シャワーブースの場合もあり) |
Wi-Fi | あり |
駐車場 | あり 120台 ※宿泊客は予約不要、1泊1台500円(翌朝12時まで) |
ホームページ | 倉敷アイビースクエア |