倉敷市水島には、公益財団法人 水島地域環境再生財団(通称:みずしま財団)があります。
みずしま財団は2000年3月に設立された、水島地域の環境保全やまちづくりの拠点となっている団体です。
2021年から、水島地域にある施設を題材にした「水島メモリーズ」という冊子の制作を行なっています。
「水島メモリーズ」に対する思いや今後の展望について、制作者であるみずしま財団の林 美帆(はやし みほ)さんにお話を聞きました。
記載されている内容は、2023年1月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
水島メモリーズについて
独立行政法人環境再生保全機構の地球環境基金事業として採択された、「コンビナート地域におけるSDGsの実現を目指した協働の取り組み~大気汚染公害資料館設立に向けて~」というプロジェクトの一環として発行されているのが、水島メモリーズです。
倉敷市内の美術館、博物館などの社会教育施設や水島信用金庫の各店舗で、配布を行なっています。
2023年1月現在配布されているのは、以下の5種類です。
- ニューリンデン編(2021年11月)
- 朝鮮学校編(2022年2月)
- 水島臨海鉄道編(2022年3月)
- 水島こども食堂ミソラ♪編(2022年7月)
- 水島ガス編(2022年11月)
水島メモリーズを制作するにあたって、まずはみずしま地域カフェというイベントを行ないます。
みずしま地域カフェでは、水島地域について知り、おもしろいと感じるポイントを参加者同士で話し合い、それによって見えてきた水島の魅力を水島メモリーズにまとめるのです。
筆者は2021年8月に行なわれたニューリンデン編のみずしま地域カフェに参加したことがありますが、今まで知らなかった喫茶店の一面を知れ、おもしろいと感じる会だったことを覚えています。
水島メモリーズの内容
水島メモリーズは、取り上げる場所やものの過去、現在、未来に触れながら歴史を編んでおり、読み物として楽しめます。
「ニューリンデン編」では、水島の人たちに馴染みのある喫茶店であるニューリンデンができたばかりのころのことが取り上げられていました。
一方「水島臨海鉄道編」では、みずしま地域カフェを通して考えられた水島のこれからの交通のありかたについて、話が展開されています。
ですが、水島メモリーズで取り上げられているのは、明るい歴史だけではありません。
街が発展してきたなかで、同時に人々の生活に大きな影響を与えた公害についても触れられているのです。
また水島メモリーズでは、文章と同じくらいの誌面スペースを用いて写真が掲載されています。
冊子中の写真はみずしま地域カフェで撮影されたものだけでなく、倉敷市歴史資料整備室所蔵のものや、以前に個人が撮影したものも含まれており、水島の過去と現在について視覚的にもわかりやすくまとめられているのです。
林美帆さんへのインタビュー
「水島メモリーズ」はどのようにして作られたのでしょうか。
詳しい話を、制作者の林美帆(はやし みほ)さんから教えてもらいました。
制作のきっかけ
水島メモリーズの制作のきっかけについて教えてください。
林(敬称略)
きっかけは、2019年に川崎医療福祉大学で行なわれた公害資料館連携フォーラムでした。
2019年のフォーラムを通して各地の公害資料館のようすを知ってから、水島でも建物としての資料館を作ろうとする動きが出てきました。
それまでのみずしま財団では、地域全体を博物館とする、フィールドミュージアムという考え方で水島地域の各所を学習の場としてめぐっていたんです。
公害資料館を作るにあたって、大阪で公害資料館の運営を行なっていた私がみずしま財団に来て、資料館づくりに参画することになりました。
公害資料館を作ることと、水島メモリーズの関わりはどのようなものなのですか。
林
公害と一言でいっても、そこには住民、企業、行政など、さまざまな人が関わっていますし、学ぶときには多角的な視点が必要になります。
また公害というのは、地域の人にしてみればあまり触れられたくない話題であることが多いですが、公害資料館を作る以上は地域の人に受け入れてもらえなければならないんです。
地域の人に受け入れられる資料館になるためには、今までに踏み込んでいなかったことをやらなければならなかった。
それは、水島の歴史を編むことでした。
視点が違うことを見えるようにするだけではなく、それぞれの視点を合わせて一つの物語にしていくことが大事だと思っているので、地域の人にも親しみやすい読み物として水島メモリーズを制作しています。
水島メモリーズは、水島の歴史を正しく伝えるだけでなく、複数の視点が関わっていることを知れるものにしたかったんです。
水島メモリーズの制作について
水島メモリーズの構成はどのようになっているのですか。
林
構成はどの巻も同じで、現在、過去、未来の順番で物語を進めていくんです。
現在から始まることで、読み手にとってもパッとわかりやすい構成になっています。
また、誌面の半分は写真になっているのも特徴です。
たしかに写真はたくさん入っていますね。誌面の半分を写真にしているのはどうしてですか。
林
写真を多く入れることで、記憶が解凍されることを狙っています。
写真を見ることで、思い出がよみがえり、さまざまな人と語り合うことができます。
手に取ったときに自分の知っていることを重ねながら読めるんです。
「うちの家はここにあってね」とか、「このことは私も知っているよ」という情報から話が広がっていくし、水島メモリーズを使ってその人なりに他の人へ説明できます。
構成でとくに工夫している点はありますか。
林
文章のなかに、公害についての話題を盛り込むようにしています。
最初から最後まで公害についての話だと読み手にとっても重い話になってしまうし、しんどいと感じてしまうはずです。
だから、まずは地域にある施設や、水島で活躍している人について取り上げて、実は公害や開発も関わっているんだよ、というかたちにすることで、施設も公害も、どちらの話も入ってきやすくなるんじゃないかなと思っています。
たとえば、「水島こども食堂ミソラ♪編」の地域カフェでは、現在水島でこども食堂を運営している井上さんは、過去にお父様が公害で喘息を発症した子どもたちを支援していたことがあったことを語ってくれました。
開発だけ、公害だけではない、トピックどうしの関わりが見えてくるほうが、おもしろい。
でも、制作者の意図を知らなくても、まずは楽しんでもらえればいいと思うので、水島という地域がおもしろいということを伝えられるような内容にするようにしています。
水島メモリーズの将来
水島メモリーズはここから先、どのように展開していくのですか。
林
水島メモリーズの発行に関わっている地球環境基金事業が3年間の事業となっています。
新型コロナウイルス感染症の影響で取材がなかなかできなくて、2021年は3冊の発行になってしまったのですが、2023年までは1年に4冊発行する予定です。
2022年現在、写真の権利などの関係もあって、配布されているものを手に取ることでしか水島メモリーズを見てもらえないのですが、いずれはデジタルデータでの配布も行ないたいなと思っています。
まだまだ取り上げたい場所やものもたくさんありますからね。
水島メモリーズを読んでみよう
林さんの思いと水島の隠れた魅力の詰まった「水島メモリーズ」は、みずしま資料交流館 あさがおギャラリー(岡山県倉敷市水島東栄町11-12)や、倉敷市内の図書館や公民館、美観地区内の社会教育施設、水島信用金庫の各店舗で配布されています。
また、みずしま財団への問い合わせがあれば、バックナンバーと最新巻を、送料自己負担での郵送にも対応しているそうです。
倉敷の街で見かけたら、ぜひ一度手に取り水島地域の魅力、おもしろさに触れてみてください。
そして実際に足を運び、現在の水島の街の雰囲気を知って、まだ発見されていない魅力を見つけてみませんか。