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夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」~ 臨場感あふれる無声映画を、後世につないでいきたい

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」~ 臨場感あふれる無声映画を、後世につないでいきたい

知っとこ / 2025.05.12

無声映画を観たことはありますか。

無声映画は、音声や音楽が含まれていない映画を指します。

有名どころでいうとチャップリンの『独裁者』などが、無声映画のひとつです。

私も小学生の頃に『独裁者』を学校の授業で鑑賞しました。最初は音声も音楽もない映像に戸惑いましたが、チャップリンの豊かな表情や動きに引き込まれていったことを覚えています。

しかし、音声がないため鑑賞する人によって映画の解釈が大きく変化します。
時代背景や舞台となる土地の特徴などを知らずに鑑賞すると、解釈にも制限が出てきますよね。

無声映画の上映中に、傍らでその映画を解説する専任者を「活弁士」(かつべんし)と言います。

倉敷市内で唯一「活弁士」として活動している矢吹勝利(やぶき かつとし)さんと矢吹むつみさん夫妻に、活弁の魅力を取材しました。

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記載されている内容は、2025年5月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。

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「活弁士」とは

現在映画館で上映される映画のほとんどは、BGMやセリフがスピーカーから流れてきます。
しかし、今から100年ほど前は映画に音声を付ける技術がなかったため「活動写真」と呼ばれる無声の映画が主流でした。

そのような時代に、「活動写真」が上映される傍らで画面の人物のセリフを喋ったり話の筋を説明したりする役割の人が「活弁士」です。「活弁」は略称で、正しくは「活動写真弁士」と言います。

技術者から声優業まで手広く一人で

活弁士の仕事は、話をするだけではありません。

ときは、大正時代。写真でさえ珍しいなかで写真が映像として動く「活動写真」は、さらに貴重なものでした。
そのため、当初は映写機の構造などといった技術面の説明もしていました。

京都大学での活弁披露のようす(写真提供:矢吹夫妻)
京都大学での活弁披露のようす(写真提供:矢吹夫妻)

活動写真が普及しはじめると、徐々に映画そのものや俳優だけでなく活弁士への注目も高まります。

活弁士によって、活動写真への解釈や表現方法は異なります。
すると劇場では「この活弁士が上映する活動写真を観たい!」と、いわゆる活弁士の追っかけのような存在も生まれました。

現在のアニメも、アニメ作品やキャラクターのファンだけでなく、そのキャラクターを演じる声優のファンが一定数いますよね。きっとそのような存在だったのでしょう。

そして、活弁士は一人での活動がほとんど。
つまり、何役もの登場人物の音声に加えて、ナレーションまですべてを一人で担っていました

楽士と手を組み、音楽を付けた活動写真も実現

無声映画には音声だけでなく「音楽」もありません。

そこで、「音楽」を担当したのが「楽士」(がくし)です。

大正~昭和初期は、活弁士が活動写真のフィルムを持ち歩いて劇場をまわっていたので、ヴァイオリンやラッパのような持ち運べる楽器が主流でした。
明治維新以前から日本にある楽器は、太鼓や琴など、持ち運べるといっても大きなものが多かったので、西洋楽器が使われていたのもまた、当時の日本人にとって物珍しかったことでしょう。

活動写真自体も西洋から入ってきた文化なので、相性が良かったのかもしれません。

映画ごとに楽士が作曲から手掛けた音楽と、活弁士の喋り、そして無声の活動写真が重なってひとつの作品として上映されていました。

トーキ映画の登場とともに無くなってしまった文化をもう一度

一世を風靡(ふうび)した活弁士ですが、音声のある「トーキ映画」の登場とともにその文化は衰退していきます。

昭和初期には8,000人ほどいたという活弁士も、2025年現在はプロとして活動するのは全国で十数人ほど

しかし、生の音楽とライブ感あふれる活弁への根強いファンも多くいます。

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」の活動

夫婦(みょうと)活弁士「むっちゃん・かっちゃん」は、児島在住の矢吹勝利さんと矢吹むつみさん夫妻が組む、活弁コンビです。

左:矢吹勝利(やぶき かつとし)さん、右:矢吹むつみさん
左:矢吹勝利(やぶき かつとし)さん、右:矢吹むつみさん

倉敷市で唯一の活弁士は、全国でも珍しい夫婦での活動

活弁には珍しく、夫婦での活動。
力強い男性の刀剣シーンも、繊細な女性のシーンも演じられるのは、夫婦ならでは。

初めて活弁での無声映画を鑑賞したときの感動が忘れられない二人は、自分たちの暮らす児島の人たちにその感動を伝えたいという思いで18年も活弁士としての活動を続けています。

岡山映画祭のようす(写真提供:矢吹夫妻)
岡山映画祭のようす(写真提供:矢吹夫妻)

2007年に開催された岡山映画祭で、尾上松之助主演の『豪傑地雷也』(ごうけつじらいやものがたり)でデビューした二人は、その後も精力的に活動。
活動写真のフィルムは現存するものが限られているため、同じ作品に会場ごとにアレンジを加えつつ新作にも挑戦しています。

地域の文化を地域のために残す活動

活動写真のフィルムは保存が難しく、現存するフィルムには限りがあります。
そのため、二人の作品は数を多くこなすよりも、同じ作品を会場に合わせてアレンジしながら演じ続けていくこと。

そのような活動を続けていくなかで、浅口市にある金光図書館から現存する無声映画に音声と音楽を付けて上映してほしいと依頼が入るなど、地域の人たちが地域の文化を残すための活動として必要とされるようになってきました。

そのほかにも、倉敷市をはじめとした岡山県内での講演活動や活弁映画の上映会、小学校での活弁ワークショップなど、地域の人たちに生の活弁を披露して伝えていく役割も担っています。

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2025年5月にも、活弁映画の上映があります

直近の活動予定は、2025年5月19日(水)。
むかし下津井回船問屋を会場に、午後6時から第3回下津井映画倶楽部上映会が開催されます。

当日は、『瞼の母』(片岡千恵蔵主演)を上映します。
詳しい内容は、以下の画像を確認してください。

第3回下津井映画俱楽部上映会宣伝チラシ

矢吹夫妻に、活弁をはじめたきっかけや活弁の魅力について話を聞きました。

インタビューを読む

夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」のデータ

活弁の練習をする矢吹夫妻
名前夫婦活弁士「むっちゃん・かっちゃん」
住所岡山県倉敷市児島
電話番号
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高石真梨子

高石真梨子

東北→九州→近畿→関東を経て、2023年12月に倉敷市地域おこし協力隊になりました。

音の世界と音のない世界の狭間に住んでいる、手話と日本語のバイリンガルです。障がいの有無にかかわらず、倉敷を旅して倉敷に住み続けたくなるような情報を発信していきます。

こんにちは、地域おこし協力隊です

県外から倉敷市への移住をより一層進めるため、Webを通じた生活者目線での情報発信や、移住関連イベントへの協力をミッションに活動しています。

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