目次
特命上席研究員の𠮷川あゆみさんインタビュー

児島虎次郎記念館について、公益財団法人大原芸術財団 特命上席研究員の𠮷川あゆみさんに話を聞きました。
児島を称える美術館であるという原点を再確認
児島虎次郎の功績を伝えることは、大原美術館創立時からの願いだとお聞きしました。
𠮷川
そうですね。
ただ、開館当初は現在の本館1階がすべて児島の展示でしたので、一度は実現しているんです。
しかし、美術館は建てて終わりではありません。
足りないものを補いたい、異なる分野の作品も紹介したい、特別展も開催したい。美術館として当然の新しい活動の結果、コレクションが増えていきました。

大原美術館の活動の変遷に合わせて施設が拡張され、児島の作品に限らず、展示場所が変わる作品も出てきました。
こうして児島虎次郎記念館ができ、「作品の終の住処」をきちんと設けられたことで、児島を称える美術館であるという原点を再確認できました。
開館に向けた課題

開館にあたり、苦労したことはなんですか?
𠮷川
まずは、「リノベーションでなんとかしなければいけない」ところです。
壊して新しく作ったほうが、はるかに安くいいものができるかもしれません。ですが、倉敷美観地区で当然それはできません。
倉敷の町並み保存のルールは、基本的に近世の町家建築をベースに考えられていて、近代建築には明確なルールがないんです。

しかし、近世の街並みを残しながら近代の発展につながっているのが、倉敷の街並みの大きな特徴です。それを体現しているひとつが、この建物ですよね。
倉敷川畔伝統的建造物群保存地区や日本遺産の構成文化財でもありますし、建物自体がひとつの文化財としての価値があります。壊したり大幅に改修したりしないのが前提です。
建物は使わなくなったら死にますので、活用してつなげていく。建物を尊重して生かしながら、でも違う目的に転用する課題がありました。

町にとって重要な資源なので、町が生き生きするための施設に、と意識を持って取り組みました。金銭的にも難しく、まさに苦労や工夫が求められる場面でした。
また、限られたスペースを活用することにも苦労しました。隅々まで有効に使わないと、施設として成り立ちません。

建物の担ってきた歴史的な役割をお知らせするのも、児島虎次郎記念館の役割のひとつです。
地域経済の重要な拠点として長年働いてきた建物です。市民が普通に銀行として使っていた景色を、楽しんでいただけます。
大銀行ではなく、倉敷のスケール感に合った、こぢんまりとした美しい建築です。長い間、生活のなかで親しまれてきたこの町の奥深さも、展示作品とともにご紹介できているのではないかと思います。
児島虎次郎の中国・エジプト文化に対する関心

児島虎次郎の中国やエジプト文化への関心は、収集家的な視点だったのでしょうか?アーティスト的な視点だったのでしょうか?
𠮷川
児島は、集めること、見ること、描いて生み出すことが一体となっている人だと思います。さまざまな文化を吸収し、それを作品に表現したいという意図を持った人です。
中国の文化、日本の文化、ヨーロッパの文化。おそらく点で捉えずに、つながったものとして見ていました。コレクションからも、つながりを意識していることがわかります。

中国とエジプトへの関心には、古い文化に対する敬意がありました。
多様な地域を回ってきたので、小さな街でもいろいろな民族衣装があり、絵があり、発掘品があることを見てきて、それらの文化を等しく見られたのだと思います。
大きな視点のなかで、さまざまな文化を「あれもかわいい、これも面白い」といった感覚で捉えていたのではないでしょうか。
児島虎次郎作品の特徴

児島虎次郎の絵画の特徴を教えてください。
𠮷川
まずは、さまざまな文化を織り込んでいることです。
人物の服装に自分が見てきた異なる文化を入れ込んだり、置いた調度品に盛り込まれていたり。
そういう環境のなかで暮らしていて彼にとって自然なことだったのかもしれないし、あえて表現したいと思っていたのかもしれません。
結果的に、多様な文化が見えるのが特徴ではないかと思います。

技法の特徴や、ベルギーに行ってからの変化はありますか?
𠮷川
ベルギーに行って現地の美術品に触れるなかで、光や色の捉えかたがそれまでとは大きく変わっています。
色と、表現しようとする光や形が一体となって描かれるような絵に変わりました。タッチが荒く、色彩のコントラストが強く、全体的に明るい作品になりました。
1920年代にタッチが滑らかになってからも、優れた作品には、描きたい光が良く表れています。

もし生涯を通じて何か言えるスタイルがあるとすれば、「光をどういう風に描き出すか」に一貫してこだわっていたことでしょう。
ベルギーに行く前の作品でも、人の体が逆光を浴びてふわっと浮かび上がる表現を追求しているものがあります。ベルギー時代は特に光が特徴的です。1920年代にタッチが滑らかになってきてからも、良いと感じる作品には、描きたい光がよく出ています。
スタイルが変化しても、光の描き方に心を砕いていた点が、児島の特徴といえるのではないでしょうか。

画家としての児島虎次郎の知名度は、それほど高くないように感じます。
𠮷川
その理由のひとつに、児島作品の多くを大原美術館が持っていることが挙げられるでしょう。
大原美術館が積極的に児島を紹介したり、児島作品の研究が進められたりしない限り、彼の画家としての評価は広がらず、一般のかたが知る機会も限られてしまいます。
しかし、作品を実際にご覧になったかたからの評価はとても高いです。お気に入りの絵を尋ねるアンケートでも上位に入り、興味を引く作家だと思います。
常に作品を展示する場が設けられたので、実際にご覧いただければ、きっと気に入っていただけるのではないかと思います。
児島虎次郎を知ろう

多様な文化を知り尊重し、自身の作品にも落とし込んでいった児島虎次郎。
収集家として、画家として、日本の美術界にたしかな足跡を残し、文化の架け橋となっています。
児島の作品には、あたたかく幸せな気持ちになれる絵が多いと感じます。もっと遠い世界を知りたくなると同時に、日常を愛おしく思わせてくれる、そんな魅力に満ちているのです。
児島虎次郎記念館は、大原美術館の本館や工芸・東洋館と共通の入場券で鑑賞できます。
倉敷の暮らしに根付いた建物のなかで、児島虎次郎の収集品や作品を通じて、受け継がれてきた豊かな文化を感じてみてください。
大原美術館に関する記事
大原美術館 児島虎次郎記念館のデータ

名前 | 大原美術館 児島虎次郎記念館 |
---|---|
所在地 | 岡山県倉敷市本町3−1 |
電話番号 | 086-422-0005 |
駐車場 | なし |
開館時間 | 午前10時~午後4時 ※入館締め切りは15時30分、12月から2月は15時閉館 |
休館日 | 月 臨時休館あり 休館日が祝日、振替休日と重なった場合は開館 7月下旬~8月は無休 |
入館料(税込) | 大原美術館本館/工芸・東洋館/児島虎次郎記念館 共通 一般 2,000円 高校・中学・小学生(18歳未満) 500円 ※入館券は大原美術館本館前の入館券売場にて購入 |
支払い方法 |
|
予約について | 可 個人であれば予約不要 |
タバコ | 完全禁煙 |
トイレ | バリアフリートイレ |
子育て | オムツ替えシート |
バリアフリー | スロープ バリアフリートイレ エレベーター |
ホームページ | 大原美術館公式ホームページ |