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倉敷市立美術館 館長と学芸員にインタビュー
倉敷市立美術館 館長の坂田卓司さんと学芸員の杉野文香さんに、倉敷市立美術館を運営するうえでの思いを聞きました。
美術館として・発表の場として・教育の場としての機能を合わせ持つ
倉敷市立美術館はどのようなコンセプトですか?
坂田(敬称略)
一言で表すと「倉敷市に根差した、総合的な生涯学習施設」です。
具体的なコンセプトは3つあると考えています。
美術館としての機能
坂田
1つ目は美術館としての機能です。
郷土ゆかりの作家の業績を調査研究したり、作品の収集をおこなったりしています。
作家の代表作はもちろん、初期から晩年までの作品を幅広く集めているのも特徴です。
またスケッチや撮影帳といった資料も収集し、作家や作品を多角的に見ていけるよう活動しています。
倉敷市の文化を守り、次世代へ伝えるのが倉敷市立美術館の使命です。
市民の発表の場としての機能
坂田
2つ目に、市民の発表の場としての機能があります。
倉敷市には美術愛好家団体が多く、発表の場を持ちたいと考えるかたも多いです。
倉敷市立美術館では1週間単位で展示室を貸し出し、作品を発表できる場を提供しています。
杉野(敬称略)
ここまで頻繁(ひんぱん)に展示室を貸し出している美術館は珍しいはずです。
多くの美術愛好家が発表の場を求めているといえます。
実際に展示室の利用希望は多く、1年前から月ごとに予約できるものの毎回抽選により決定している状況です。
空室になることは基本的にありません。
子どもの教育の場としての機能
坂田
3つ目は、子どもの教育の場としての機能です。
「倉敷っ子美術展」は代表的な例ですね。
倉敷市立美術館は倉敷市教育委員会の所管なので、教育としての機能も求められています。
「倉敷っ子なかよし作品展」という、市内の小中学校の特別支援学級や特別支援学校の児童・生徒が参加する展覧会も毎年開催しているんですよ。
大学との連携も
坂田
また大学との連携もおこなっています。
倉敷芸術科学大学とくらしき作陽大学がおもな連携先です。
倉敷芸術科学大学は、美術を学ぶ学生さんの作品展示はもちろん、博物館実習の場としても使っていただいています。
学芸員が指導にかかわることで、実践的な学びの場になっているようです。
くらしき作陽大学は、音楽を学ぶ学生さんを展覧会の開会式へ招き、ウェルカムコンサートを開催いただいています。
練習はできても、発表する場がなかなかないそう。
「非常にありがたいです」との声をいただいています。
市民からの寄贈品が多い、珍しい美術館
古い家には古い作品が残っている
作品収集の基準を教えてください。
坂田
まずは郷土ゆかりの作家の作品であることです。
この基準ができたのは、開館前に池田さん(池田遙邨)が作品を寄贈されたのが大きくかかわっていると思います。
日本画家として活躍していた頃は京都に住んでいましたが、本籍地は倉敷市玉島だったそうです。
倉敷市を離れても郷土としての思い入れがかなりあったようで、作品を寄贈されたと聞いています。
「池田さんの作品をどう保管し、市民に伝えていくか」の視点が、今の美術館運営につながっているのです。
杉野
今は市民のみなさんからの寄贈品が多いです。
「古いものがあるから見に来てください」とのご連絡が頻繁にあります。
実際に見に行くと「こんなものが残っていたの?」と驚くことが多いんですよ。
坂田
倉敷市は空襲を受けていないから、何十年・何百年前に建てられた家が多くあります。
古い家には、古いものが残っている。
「保管していくなら、倉敷市立美術館はどうだろうか」と思ってくださるようで、よく問い合わせをいただきます。
倉敷市にある美術館ならではの、作品収集法かもしれませんね。
申し出ていただけるのは、大変ありがたいなと思っています。
世界的に有名な作品や、現代アートも
坂田
そのほか、世界的に有名な作品や現代アートの作品を収集することもあります。
草間彌生(くさま やよい)さんの作品をはじめ、多くの作家の作品を収蔵しています。
なかでも工藤哲巳(くどう てつみ)さんの現代彫刻作品は、おもしろいと思いますね。
海外で非常に高い評価を受けていて、何度か貸し出したことがあるほどです。
作品に合わせて保管・修復をおこなう
作品数・作品の種類ともに、本当に幅広く収集しているのだなと感じます。幅広いからこそ、作品の保管が難しいように思うのですが……。
杉野
たしかに作品の保管はむずかしいですが、学芸員の知識が生きる場面でもあります。
作品の特徴に合わせて、湿度管理などは徹底しておこなっていますよ。
例えば日本画であれば水彩画も油絵もありますし、画材については紙や絹などとさまざまです。
一方で、木工芸や陶芸、漆芸などの作品もありますから、倉敷市立美術館の収蔵品は特徴がまったく違います。
収蔵作品のなかには、管理だけでなく修復が必要なものも。
掛け軸や屏風は痛みが出ている作品もあるので、優先順位をつけながら修復・保全に努めています。
各学校の先生のおかげで続いている、倉敷っ子美術展
作品の収集や保管に力を入れている一方で、子どもの教育としての機能も大切にされていますよね。本日開催している「倉敷っ子美術展」は、その一例だと思います。
坂田
私も毎年楽しみにしている事業の1つです。
倉敷っ子美術展は、今回の2022年度開催で37回目。
新型コロナウイルス感染症の影響で1度だけ開催できない年があったものの、1986年度から毎年おこなっています。
杉野
倉敷市内にあるすべての小学校・中学校が参加する、全国的にも珍しい展覧会です。
全員で参加できるのが特徴なので、“入賞作品”などは決めませんし、平等に作品を展示いただいています。
私たち美術館側から学校側へ指定していることも、何もありません。
伝えているのは「コンクールではない」ことのみです。
そのため各学校の個性が出て、楽しい展覧会になっています。
37回も続けられた理由は何だと思いますか?
杉野
先生の努力のたまものだと思います、本当に。
展示作業も各学校の先生に毎年お願いしています。
学校で作った作品を持ってきていただき、飾りつけまで。
学校名を作ったり、展示を工夫したりと子どもたちの作品が引き立つように考えてくださっているのです。
学校の協力がないとできない美術展なので、各学校の先生には本当に感謝しています。
さまざまな楽しみ方・使い方ができる倉敷市立美術館へ、気軽に訪れて
最後にメッセージをお願いします。
坂田
倉敷市立美術館は、生涯学習施設です。
開催している展覧会は難しいものではないですし、鑑賞するだけではなく、ときには自分の作品の発表の場としても使えます。
“美術館”と聞いて感じるハードルの高さは、倉敷市立美術館にはありません。
建物や作品など文化的な価値がある一方で、食事やお茶を気軽に楽しめるカフェも併設しています。
かしこまらずに普段着のまま、仲間や家族同士で集まって、学んだり食事したりできる施設です。
これからも気軽に、たくさんのかたに来ていただけるような場所にしたいと思います。
杉野
倉敷市立美術館では、美術実技講座に参加したり、講堂を借りてピアノの発表会などを開催したりできます。
さまざまな使い方ができますので、気軽に来ていただけたらうれしいです。
そして倉敷市立美術館を訪れたら、合わせて展覧会も楽しんでいただけるといいなと思っています。
幅広い作品を鑑賞すると目に留まるものがあると思いますので、ぜひ作品を直接観て、いろいろなことを感じていただきたいです。
おわりに
取材していて印象的だったのは、倉敷市立美術館の収蔵作品の幅広さと、市民の発表の場の多さでした。
収蔵作品数は、想像以上の約11,000点。
作品の特徴や作られた時代などはすべて異なるので、お気に入りの作品を見つけやすいように思います。
家族や友人と訪れると、興味を持つ作品がそれぞれ違うはず。
その違いを楽しむ機会が開かれているのも、収蔵作品の幅が広い倉敷市立美術館ならではだと感じました。
また驚いたのは、1年を通して市民の発表の場が設けられていること。
開館当初は倉敷市立“展示”美術館という名前だったことからも、市民の期待の高さを感じます。
きっと、自分の作品を倉敷市立美術館に展示することは特別感があるのでしょう。
作品鑑賞の場として、建物として、発表の場として、子どもの教育の場として、カフェ利用としてなど、さまざまな楽しみ方ができる倉敷市立美術館。
興味のあるものが、きっとあるはずです。
倉敷市立美術館のデータ
名前 | 倉敷市立美術館 |
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所在地 | 倉敷市中央2丁目6番1号 |
電話番号 | 086-425-6034 |
駐車場 | なし |
開館時間 | 午前9時~午後5時15分(最終入館:午後4時45分) |
休館日 | 月 ・月曜が祝日の場合は、翌日に休館 ・年末年始は休館 ・そのほか、臨時休館する場合があり |
入館料(税込) | 【個人】 一般:210円 大学・高校生:100円 中学・小学生:50円 【団体】 一般:150円 大学・高校生:70円 中学・小学生:30円 以下はコレクション展を無料で鑑賞できる ・いきいきパスポートまたは生徒手帳を提示した倉敷市内の小・中学生 ・高梁川流域パスポートを提示した小学生(平日を除く) ・先生に引率されて鑑賞する倉敷市内の小・中学校の児童生徒(引率する先生を含む) ・65歳以上のかた ・障がいのあるかたと付き添いのかた1名(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健手帳を提示) ※特別展鑑賞料は別途設定 |
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