倉敷美観地区にある国指定重要文化財の「語らい座 大原本邸」。
歴史ある建物と美しい庭がある邸宅ですが、それだけではありません。
「今とこれからを語りあう場」として、教育プログラムにも力を入れています。
語らい座 大原本邸の主催するプログラムのひとつが、「くらしき未来K塾」。
2020年1月26日(日)に開催されたセミナー「第9回 くらしき未来K塾 ~『地域未来』プロデュース仕掛人との本音トーク~」に参加しました。
セミナーのようすをレポートします。
記載されている内容は、2020年2月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
くらしき未来K塾のデータ
名前 | くらしき未来K塾 |
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期日 | 第9回は2020年1月26日(日) 午後1時~午後4時 各回の開催時間を要確認 |
場所 | 岡山県倉敷市中央1丁目2-1 |
参加費用(税込) | 一般:3,000円(税込) KATALYZER会員:2,000円(税込) |
ホームページ | 語らい座 大原本邸|OHARA HOUSE KATALYZER |
くらしき未来K塾とは
「くらしき未来K塾」とは、学校と社会の包括的教育改革と志ある教師の応援を目標に、語らい座 大原本邸で開催している、月1回のセミナーです。
2018年12月に「くらしき未来教師塾」としてはじまり、2019年12月より「くらしき未来K塾」と名前を改めました。
2019年12月以降は、以下のようなテーマが設けられています。
- 地域 ✕ 教育 ✕ 働き方
- 文化 ✕ ものづくり
- 地域 ✕ SDGs ✕ 教育改革
- 変わる働き方 ✕ 地域
第9回 くらしき未来K塾 ~『地域未来』プロデュース仕掛人との本音トーク~の概要
9回目となる、くらしき未来K塾のテーマは「『地域未来』プロデュース仕掛人との本音トーク~」。
開催日時 | 2020年1月26日(日) 午後1時~午後4時 |
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会場 | 語らい座 大原本邸 |
セミナーの流れは以下のとおりでした。
登壇形式 | 題目 | 登壇者 |
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講演 | 地域社会人の仕事 | 辻信行氏 |
セッション | 高梁川流域の未来を語る | 坂ノ上博史氏・佐伯佳和氏・佐々木博氏 |
フロアーセッション | (質疑応答) | 辻信行氏・坂ノ上博史氏・佐々木博氏 |
語らい座 大原本邸館長の山下陽子さんによるあいさつ
語らい座 大原本邸館長の山下陽子(やました ようこ)さんより、次のようなあいさつがありました。
「本日登壇していただく辻さんと坂ノ上さんは、紹介する際に肩書をなんて言えばいいか迷うかたです。
昨今は、そんな肩書に困る人たちが、イノベーションを起こしていると感じています。
今日はそんな倉敷のイノベーションに関わっているおふたりと、坂ノ上さんの招いた特別ゲストのおふたりです」
辻信行さんによる講演 地域社会人の仕事
辻信行(つじ のぶゆき)さんは、倉敷で地域と季節に寄り添い、場づくり・モノづくり・人づくりを行っているかた。
講演では、経歴と活動、そこに込められた思いについてお話がありました。
辻信行さんの経歴
辻さんは大学在学中に、単独で日本一周。
地に足をつけて社会性を持った旅をするため、新聞で連載を持ち、テレビ中継も入れたそうです。
卒業後は、教育に携わるかたわら、倉敷ケーブルテレビの番組『おっちゃんの朝からぶらぶら行ってみよう』を約12年間企画し出演されました。
街の魅力を伝え続け、地元の人からは「街歩きのおっちゃん」としても親しまれています。
倉敷人には馴染みの深い、以下のお店も経営。
地域の仕事 地域社会人が繋ぐまち
「仕事」とはなんでしょうか?
「数字や肩書に仕えていませんか?」と辻さんは問いかけます。
辻さんの考える「仕事」は、以下のこと。
- 目の前の人が笑顔に、幸せに、心豊かになるコトに仕えること
- 地域や時代が豊かになるコトに仕えること
地域を「自分ごと」として誇りに思える地域社会人をつくっていきたい、自分もそうでありたい。
そう願って、街づくりやモノづくり、教育にまつわる活動しています。
地域を「知る・伝える・つなげる」活動としていくつも挙がった事例の中から、2002年にオープンした町家喫茶「三宅商店」について紹介しましょう。
辻さんは、「地域の良いものを知って伝えるだけでは、廃れてしまう」と言います。
「良いものを残すには、繋げて、周りの人を巻き込んで誇りや楽しみに変えていくことで、経済を回していく必要がある。一時的なものではいけない」と、覚悟を持って始められたのが、三宅商店だそうです。
町家喫茶 三宅商店は、倉敷川畔から道一本隔てた「本町通り」にあります。
辻さんは、「本町通りは地域の豊かさを教えてくれる魅力的な通りだ」と感じていました。
しかし当時は「裏通り」と呼ばれ、観光客の10人に1人くらいしか通らない道だったそうです。
戦前から日用雑貨屋・荒物屋であった「三宅商店」が空き家になったところを買取り、誰もが関われる場作りのために、カフェをオープン。
地域の人々に愛されて商いをしていた記憶も含めて繋げていこうと、「三宅商店」という名前を引き継ぎました。
三宅商店では現在、30軒の農家と契約しています。
どんな人がどんな思いでどのように生産しているかをきちんと知ったうえで、一般的には出荷できないフルーツなども契約農家から全量買取。
アイスやジュースにして、季節に寄り添ったメニューを提供しています。
辻さんは、講演を以下のように締めくくりました。
「知りたい・伝えたい・繋げたい、という「自分ごと」の思いがあれば、誰もが地域社会人になれると思います。
地域を誇り、次世代をおせっかいに思いやる心を持つのが、地域社会人。
そんな地域社会人たちのきっかけづくり、それがわたしの一生の仕事です」
トークセッション
トークセッションでは、地域プロジェクトの企画運営を手掛ける坂ノ上博史(さかのうえ ひろし)さんが、「この人の話を聞いてほしい」と思ったゲスト2人を招きました。
2人の経歴やお話を通じて、高梁川流域の未来を考えます。
新見で林業を行う佐伯佳和さん
1人目は、林業に従事する佐伯佳和(さえき よしかず)さん。
愛媛県今治市出身の佐伯さんは、岡山大学に進学し法律を学びました。
幼いころ自然に囲まれて育ち、モノづくりが好きだった佐伯さん。木について調べ、林業に出会います。
学生時代に環境保全型森林ボランティア活動に参加し、卒業後は岡山県新見市で地域おこし協力隊として活動しました。
地域おこし協力隊の活動期間を終えたのちも新見に住み、森を守りながら林業を行う一般社団法人「人杜守(ひとともり)」に就職。
新見の木材と水島コンビナートの鉄を組み合わせたロングテーブルや、木でできたジャングルジム、移動式バーカウンターなどを作ってきました。
2019年10月に会社を退社し、独立。
現在は注文家具の製作や、炭商品の開発販売などをしています。
人から「変わった経歴」と言われることも多いらしいのですが、佐伯さんにとっては自然な流れだったそうです。
坂ノ上博史さんが運営するコワーキングスペース「住吉町の家 分福」にも、佐伯さんの制作したテーブルがあります。
ITエバンジェリストの佐々木博さん
2人目は、ITエバンジェリストの佐々木博(ささき ひろし)さん。
ITエバンジェリストとは、最新のテクノロジーを大衆に分かりやすく解説し、啓発(けいはつ)する人です。
佐々木さんはNHK教育テレビ(現Eテレ)の番組『趣味悠々』において、初心者および中高年向けのパソコン講座の講師役を12年間担当しました。
東京在住で、新しい会社を作るため長野県伊那市に通っています。
佐々木さんは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らによる『計画的偶発性理論』から、「キャリアの8割は偶発的なことによって決定される」という言葉を引用。
自身のキャリアを振り返りながら、偶発的なできごとをキャリアアップに繋げるために大切なことを語りました。
「パソコンの権威でもなんでもない、ただのパソコン好きのお兄ちゃんでしかなかった(本人談)」佐々木さんのもとに、ある日NHKのプロデューサーからテレビ出演のオファーがあったそうです。
「やったことないし怖いけどやってみようか」と飛び込んだことが、人生を変えました。
佐々木さんは、以下のように話しています。
「振り返るとターニングポイントには、自分の想定外のところから『君だったらできるんじゃない?』という人が現れました。
自分に内在する別の引き出しを引き出してくれる人が現れたら、チャンス。
可能性を広げてくれる信頼できる人を多く見つけることが、人生の大事な学びではないでしょうか」
地方こそIoT教育が活きる、と言う佐々木さん。
現在は、地方の子供たちにIoTを教え、地域課題をテクノロジーでどう解決するかを実践する授業もしています。
ITは自由な時間や自身のライフスタイルを作るためのもの。
身近な課題があれば、テクノロジーで何が解決できるか考えて、できることを実践していくことが大事だと考えています。
フロアーセッション
フロアーセッションでは、参加者からの質問に登壇者が答えました。
辻
自分の人生をプラモデルに例えると、きれいな完成したプラモデルをもらうよりも、接着剤でぐちゃぐちゃになってでも自分で作るほうが面白い。
テレビ番組の制作もカフェの運営も、やったことないばかりなんですけど、テレビを見たことはあるし、カフェに行ったことはあるんですよね。
「1番の素人が1番のプロである」と考え、全部「自分ごと」として生活者の目線で動くと、ちゃんと仕事になっていくんです。
佐々木
大人のほうが不理解が進んでいることが、問題だと考えています。
子供は生きていくスキルとして、勝手に学んでいくんですよね。
価値観が違うので、大人の価値観で不安になっているほうが、子供に悪影響かもしれません。
興味を持って、例えば「AIってなんだろう」と学んでみることなどから始めたらいいのではと思います。
坂ノ上
自分の時間の使いかたを自分で決められる状況かどうかが、まず大きいと思います。
1か0かで考えると大変です。家族がHAPPYでいられるかどうかは、とても大切。
なので、家庭を犠牲にしない時間の使いかたをすることを前提として、例えば1年の1%、年に3~4日は地域のことをしようとか。
そんなふうに動いていれば、あるときに「お金払うからやってくれませんか?」という人が登場するかもしれません。
辻
借金王なんですけど(笑)
たとえば水辺のカフェ 三宅商店は、利便性も経済性もない場所なんですよね。ただ水と緑があって、近くを5~10分歩くとふだん閉じている「感性の毛穴」が開くんです。
自分ごととして体感することから、さまざまなことが想像できるようになって、その先に経済も回っていくのだろうと思います。
佐々木
雑な時間って大事だなと思うんです。
時間にとらわれずしゃべれる関係の中で、信頼関係のある人に「お金を払って自分に何かをしてもらうならば、何?」と聞いて本音で語ってもらうと、気づいてない自分が見えるかもしれません。
辻
水辺のカフェ 三宅商店店長の家も、2階まで浸水しました。
翌日被災地を訪れた際に被災された人が口々に言っていたのは、「水で怖い思いをしたけれど、次の日には水を求めている。なにか教えられているのかもしれない」と。
治水と豊かな暮らしについて、改めて考えねばと思いました。
ある土手では止水設備があったけれど、運用が複雑でまったく機能しなかったんです。
今は、住民が自分たちで使える設備を作ろうとしています。
それぞれの地域で、「自分だけじゃなく地域みんなで」という動きは加速していると感じています。
坂ノ上
今でも、豪雨と聞くと身体がこわばりますね。
自分が高校2年生の時に、阪神大震災がありました。
無意識的にでも進路に影響を受けて、今こうして地域の活動をしているのかもしれません。
不幸なことに災害を受けてしまった学生たちが20年後にどういう生活をしているのか、大人は全員責任を負っていると思います。
セミナー終了後は「井戸端会議」
井戸を囲んで話したことはありますか?
くらしき未来K塾のセミナー終了後、本物の井戸を囲んだ「井戸端会議」がありました。
カジュアルな雰囲気の中で、これからの動きなど興味深い話がたくさん聞けました。
おわりに
著者が「倉敷のおしゃれスポットは?」と聞かれたとき、外せないのが三宅商店と林源十郎商店です。
居心地が良くて、人を連れていきたくなる場所。
お店に込められた思いに触れて、ますます好きになりました。
セミナーで学べたことは、教育と地域の未来についてだけではありません。
自身の地域との関わりかた、仕事のしかた、キャリアについて、次世代につなぐべきことなど多角的に考えられました。
また、こんなにも本気で岡山の未来を考えて活動しているかたがたがいること、有意義なセミナーが定期的に開催されていること。
岡山県民としてとても誇らしく感じました。
「くらしき未来K塾」では、今後も教育にまつわるセミナーが開催されます。
ぜひ語らい座 大原本邸のWebサイトで内容をチェックしてください。
くらしき未来K塾のデータ
名前 | くらしき未来K塾 |
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期日 | 第9回は2020年1月26日(日) 午後1時~午後4時 各回の開催時間を要確認 |
場所 | 岡山県倉敷市中央1丁目2-1 |
参加費用(税込) | 一般:3,000円(税込) KATALYZER会員:2,000円(税込) |
ホームページ | 語らい座 大原本邸|OHARA HOUSE KATALYZER |