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リニューアル後の変化や商品のおすすめポイントは?学芸員にインタビュー
令和2年(2020年)3月に、リニューアルオープンした倉敷民藝館。
リニューアル前後の具体的な変化や、商品のおすすめポイントなどについて、 倉敷民藝館の学芸員・平松香緒里(ひらまつ かおり)さんに話を聞きました。
訪れやすい倉敷民藝館へ
リニューアルオープンから1年以上経ちましたが、リニューアル前との変化は感じますか?
平松(敬称略)
お客様が、倉敷民藝館に立ち寄りやすくなったんじゃないかと思います。
以前は入口が1か所で、売り場がせまく照明も少し暗いかんじでした。
リニューアルしてからは入り口が2か所になり、足を運ばれるお客様も多くなった印象です。
館内が明るくなりました。
照明の数をかなり増やしたんですよ。
広くするだけではなくて、お客様にゆったりとした時間を楽しんでいただくために工夫をしてみました。
ディスプレイの机、棚、タンスなども展示にかなうものを選んでいます。
実は売り場以外にも、展示室の照明も変えたり、窓の補修をしたりと老朽化による補修を合わせておこないました。
外付けだったお手洗いも倉敷民藝館の建物内に設置でき、利用しやすくなったと思います。
品数が大幅に増えた売り場
売り場がかなり広くなったのが印象的ですが、商品の種類や品数は変化しているのでしょうか。
平松
大きく変わったのは、民藝品の品数です。
売り場拡大に合わせて、それぞれの窯や工房の商品および点数が増えました。
今まで以上に選ぶ楽しさや、使う喜びを感じていただけるとうれしいです。
入荷のたびに売り場に並ぶ商品数が増えるので、私自身も購入意欲が高まっています。
二度と手に入らないような、岡山県内の民藝品も
現在、おすすめしたい民藝品はありますか?
平松
そうですね、どれもおすすめなのですが……。
倉敷のいぐさ商品は、今おすすめしたいですね。
倉敷民藝館で取り扱っている、三宅松三郎商店さんの花むしろです。
日本のいぐさを使っていて、手機で作ったものや芹沢銈介さんがデザインした柄もあります。
しかし残念なことに廃業されてしまい、現在は在庫を残すのみとなりました。
初代館長が倉敷へ来るきっかけにもなった倉敷を代表する民藝品なので、在庫が残っていたらぜひ購入いただきたいです。
岡山県外の民藝品も、多く取りそろえる
「岡山県内の民藝品が一番人気」と聞きましたが、岡山県外のものも多く販売していますよね。どのような基準で仕入れているのですか?
平松
仕入れの基準にしているのは、年に1回開催される「日本民藝館展」入選者の品です。
3年に1回開催している「倉敷民藝館賞」に選ばれた民藝品もございます。
同じ地域で作られた民藝品でも、窯元によって特徴が違うのは楽しいですよね。
たとえば、愛媛県 砥部焼(とべやき)の窯元である中田窯と梅山窯を見比べると、その違いが見えてきます。
中田窯は古風でやわらかい印象ですが、梅山窯はすっきりとした白色です。
ぜひじっくりと、一つひとつの民藝品を見てほしいですね。
沖縄の芭蕉布織物工房(ばしょうふおりものこうぼう) も、倉敷民藝館賞を受賞されています。
「びんしき」や「がま口」の繊維一本一本は、糸芭蕉というバナナの葉のような大きい植物の茎を割いて採っているんです。
採ったあとは手作業で一つひとつ結んでいるので、手間をかけてできあがっています。
作っているのは、平良敏子(たいら としこ)さんが代表をつとめる芭蕉布織物工房。
沖縄県出身の平良さんですが、戦時中は倉敷の繊維工場であるクラボウが軍機の工場になっており、そこに女子挺身隊として派遣されていました。
戦後、倉敷民藝館の初代館長・外村から織物の教えを受けていたそうです。
沖縄に帰ったあとは、戦争で焼け野原になっていた場所に植物を植えるところから織物を始めた、人間国宝にもなっているかたなんですよ。
ちなみに、芭蕉布織物工房は着物をメインに作っている工房なので、「びんしき」や「がま口」・カードケースなどは珍しいんです。
民藝品には、暮らしの知恵が受け継がれている
平松さん自身は、民藝といつ出会われたのですか?
平松
私は大学生のときに知りました。
大学ではデザイン科に通っていて、陶芸をしていたんです。
美術やデザインの歴史では必ず民藝が出てきたので言葉は知っていましたが、大切に受け継がれている仕事が現在もあるとは知りませんでした。
今はその土地に適した素材で、その土地の暮らしに合わせて作られてきたことで、風合いや使いやすさが作品に表れているのが魅力的だと思います。
さらに作られたものが日常生活で使われてきたからこそ、現在まで残っていると思うと感慨深いです。
“選ぶ楽しさ”を感じながら、民藝品を生活の一部に
最後にメッセージをお願いします。
平松
今は機械製品がたくさんあって、何でも安く買えてしまう時代。
一方で民藝品は、自分から出会いに行かないと出会えないようになってきました。
でも、一つひとつていねいな手仕事で作られた民藝品が日常のなかにあると、なんだか気持ちがほっとするんです。
「みなさんの生活に民藝品を取り入れてほしい」という気持ちは、いつも持っています。
初代館長・外村吉之介はこう言いました。
「日用の道具はものいわぬ友達。ものいう友達もものいわぬ友達もよいものを選べば、よい人になれる」
来場者のみなさまへ美しい暮らしの友をお届けできるよう、これからもがんばります。
倉敷民藝館の展示室で民藝の品をよく見ていただいて、売り場でお気に入りの品を見つけ、生活の一部にしていただけるとうれしいです。
おわりに
開放感のある倉敷民藝館の売り場では、ゆっくりと一つひとつの民藝品を楽しむことができます。
手づくりだからこそ、ひとつとして同じものがないのが民藝品の魅力。
筆者はうつわをはじめ、手づくりのものが好きなので、数多くの民藝品を選ぶ過程も楽しみたいと思いました。
「民藝品=うつわ」を連想しがちですが、倉敷民藝館ではアクセサリーやキーホルダー、ハガキなど手軽に買える民藝品も多く、贈り物としても最適です。
生活のなかに取り入れる“お気に入りのひとつ”を選びに、ぜひ倉敷民藝館に足を運んでみてください。