倉敷猫まもりの会 代表 塩田陽子さんにお話を聞きました
塩田さんが保護猫活動を始めてから今に至るまでを教えてください
塩田(敬称略)
私はもともと、野良犬を助けるボランティアをしていたんです。
株式会社マキシマ電業があるこのあたりは工業地帯で野良犬が住みやすく、問題になっていた時期がありました。
通勤するときに犬が保健所に連れて行かれるのを見るのがつらくて、ボランティアを始めました。
犬の場合、狂犬病予防法に基づき活動することになるので、成犬ではなく子犬のみを保護して里親を募集していたんです。
この地域の野良犬・子犬の数が減ってきていた平成25年頃、共同代表の平賀と知り合いました。
平賀は猫を保護するボランティアをしており、話を聞くと、倉敷市保健所には一年に約600匹の猫が持ち込まれていると。
犬のように法律がないことや、引き取って乳飲み子を世話できる人が少ないことから、子猫たちの多くは保健所にやってきたその日に処分されているという現状を知りました。
当時は近所で野良猫や、去勢・避妊手術をしていない飼い猫が子猫を生んだりすると持ち込むケースも多かったようです。
私自身、猫が好きだったことから胸を打つものがあり、「一緒に活動させてください」と平賀に話したのがこの活動のきっかけです。
最初の年、昼夜問わずミルクをあげ続け、3~4人で年間約20匹の子猫を救うことができ、達成感がありました。
「でもまだ大半は処分されている。人を増やしてみよう」と考え、ミルクボランティアを2人増やしたところ、さらに20匹以上の命を救えたんです。
ひとりでの活動では救える命に限りがあるけれど、仲間を増やせば倉敷のすべての猫を救えるかもしれないと思いました。
助成金を活用し、助けられる猫の数を増やすためにミルクボランティアを育成したいと考え、平成31年度市民企画提案事業に応募したんです。
無事に採択となり、説明会やボランティア育成セミナーを開催し、さらに5人、ミルクボランティアが増えました。そしたら、年間140匹も救うことができました。
同時に、環境の変化や野良猫の去勢・避妊といった他団体のかたの活動のおかげもあり、倉敷市保健所に持ち込まれる猫の総数が減ってきました。
そのこともあって、倉敷市保健所の猫のほとんどを、倉敷猫まもりの会で助けられるようになってきたんです。
今は行政との協働事業として、倉敷市保健所と一緒にお互いにできることを考え、話し合いながら活動を進めています。
現在、倉敷市では猫の殺処分は行なわれておらず、令和2年は倉敷市保健所からレスキューした153匹に加え、市民から87匹を引き取りました。
今は子猫だけではなく、成猫も保護しているのですね。
塩田
倉敷市保健所には、子猫だけでなく交通事故・病気の猫も収容されます。
これまで子猫以外は断らざるを得なかったのですが、支援の輪が広がり寄付をたくさんいただけるようになったことから、交通事故・病気の猫も含め、ほぼ100%助けられるようになってきました。
外で育った子猫や交通事故・病気の猫はもともと弱っていることも多く、引き取り後に懸命にお世話をしても残念ながら譲渡までいかず亡くなるケースもあります。
けれど、ミルクボランティアが増えたことでていねいに育てることができるようになり、その死亡率も下がったんですよ。
時期にもよりますが、市民からの引き取りにも少しずつ対応できるようにもなってきました。
成猫の場合、引き取り後に猫たちは「家猫修業」をします。外で育った猫は人に慣れていないので、まずはボランティアメンバーの自宅で人に慣れてもらう訓練をするんです。
最初は「シャーッ」と警戒していた猫も、じきに触れるほど心を開いてくれて、見た目もきれいになります。
家猫修業中の猫は、今(取材時点)6匹ほど。子猫と違い、成猫は里親希望のかたと巡り合うのに時間がかかることが多いです。
倉敷猫まもりの会の体制について教えてください
塩田
本部として運営にも関わっているメンバーは6人です。SNSの発信や行政とのやりとりなどを行なっています。
ミルクボランティアが14人。平成31年度市民企画提案事業でのミルクボランティア育成以降、活動に関心を寄せて仲間となってくれたメンバーたちです。
団体として活動を継続できるよう、仕組みを整えています。
たとえば、口頭で同じように伝えるのは難しいと感じ、冊子のマニュアルやルールブックを作りました。
また、LINEグループでみんなと情報共有ができる仕組みもあります。
メンバーのひとりが写真と一緒に「この子を預かりました」と入れると、「かわいいですね」、「がんばってくださいね」とほかのメンバーのコメントが自然と入り、支えあえる場になっています。連帯感が生まれました。
命を預かるので、ひとりで抱えるのは大変。困ったことがあれば、みんなで解決していけたらと思っています。
マニュアルやルールについては、 懇親会を兼ねた研修会を半年に1回開催するなどして改善を重ねているんです。
せっかく皆さんと作り上げてきた仕組みなので、次世代につないでいく方法を考えていきます。
今後やっていきたいことはありますか
塩田
一度、保健所で失いかけた命ですから、幸せに長生きしてほしいという思いがあり、倉敷猫まもりの会の譲渡条件は厳しめです。
お見合いの段階でご自宅に伺ったときや、ご家族と話したときにNGとなる場合も多々あります。
脱走防止対策ができないおうちや、室内飼育への理解がないかたなどです。
けれど条件が厳しくても里親が見つかるということがわかりましたし、返却率はゼロ。
信頼を置いてくださり、2匹目もリピートで引き取ってくださるかたも多くいらっしゃるんです。
これまで通り、ミルクボランティア・里親の双方が安心できるよう、猫たちを送り出していきたいです。
体制としては、ミルクボランティアに限らない預かりボランティアも増やしていければと思っています。
成猫の場合、里親が決まるまでの期間が子猫に比べて長く、たくさん預かることができていません。
けれど、ずっと家にいるのが難しく乳飲み子を預かれないかたや、年齢的に譲渡できないけれど猫好きなシニア世代など、成猫の預かりボランティアならではのマッチングもできると思っています。
実際に今、 シニア世代の女性で一人暮らしのかたにボランティアをお願いしていて、成猫6匹が巣立っていきました。
社会と協調しながら活動を進めていくことが大切だと思っています。
たとえば世の中には猫が嫌いな人もいるでしょう。そういったかたには嫌な思いをさせないように、人も猫も誰もが暮らしやすい、共存していけるまちづくりにつなげていきたいです。
おわりに
私は今、友人が保護した猫と暮らしており、毎日癒されています。「猫と暮らしても良い」と大家さんが言ってくれたので引き取ることができました。
以前はペット不可のアパートに暮らしており、猫との出会いがあっても家族に迎えるのを諦めたことがあります。
お話を聞き、以前の私のように住環境や猫アレルギーなどで猫と暮らせない人でも、寄付の協力やSNSでの応援など、協力できることがたくさんあるとわかりました。
猫を家族に迎えたいかたにも、そうでないかたにも、倉敷猫まもりの会の取り組みを知ってほしいです。
幸せな猫へのシンデレラストーリーが、倉敷でたくさん生まれますように!