倉敷美観地区の雰囲気を感じるためには、現地に訪れるのがいいですよね。
でも、いろいろな理由で旅行などができないこともあるかと思います。
そんなときは、美観地区が舞台になっている小説を読んでみるのも手です。
美観地区が舞台になっている小説「冥土の土産屋『まほろば堂』倉敷美観地区店へようこそ」(以下:「まほろば堂」)が、2020年9月に刊行されました。
作品に登場するお店「まほろば堂」は、倉敷美観地区にある土産屋という設定です。
ただ、タイトルには「冥土の」と入っています。
一体どういう物語なのでしょうか。
作家の光明寺祭人(こうみょうじ さいと)さんは、倉敷市在住です。
倉敷を舞台にした理由、読んでほしいポイントや、地元倉敷への想いなどを中心にインタビューをしました。
記載されている内容は、2020年10月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
「冥土の土産屋『まほろば堂』倉敷美観地区店へようこそ」の内容
派遣社員として働くOL・望美(のぞみ)は、ふとしたことから倉敷美観地区の土産屋「まほろば堂」と、その店主である蒼月真幌(あおつき まほろ)と出会います。
物語には美観地区をはじめとする倉敷の風景や名物、お土産もたくさん出てきて、倉敷のことを知っていると「おっ!」と思うはずです。
倉敷のことを知らなくても、ていねいな表現のおかげで、情景が浮かんできます。
そのなかで、不思議な土産屋と望美の交流が始まるのです。
歴史情緒あふれる観光地『倉敷美観地区』の片隅に、お金では買えないものを売る店がある。 老舗の土産屋『まほろば堂』。それがぼっちで借金を抱え失業寸前な、崖っぷちОLの望美(のぞみ)が出会った店の名だ。
ぼおんと時を告げる、夜のしじまの古時計。その音が夜七度鳴った後ここに来れば、藍染着流し姿のイケメン店主・蒼月真幌(あおつき・まほろ)が手厚いもてなしとともに、あなたの願いをひとつ叶えてくれる。
けれど、その代償として支払うのは、あなたにとって何よりも大切な――。
冥土の土産屋『まほろば堂』 倉敷美観地区店へようこそ|ことのは文庫 | MICRO MAGAZINE
本作の舞台となるのは、あらすじにも書いているように、老舗の土産屋「まほろば堂」です。
倉敷美観地区にはお土産屋がたくさんあります。
物語のタイトルには「冥土の土産屋」とあり、なんだか「冥土ということばを聞くと怖い…」というイメージを受けるかもしれません。
でも、安心してください。読み終わったあとには、「ホッ」と気持ちが温かくなるような素敵なストーリーです。
「まほろば堂」に登場する倉敷美観地区周辺のスポット
「まほろば堂」の物語に出てくる、倉敷美観地区周辺のスポットをいくつか紹介します。
▼まずは、物語の切り替え表現部分で使われた「商店街」。
望美が倉敷に着いたあと、美観地区へ向けて歩いた商店街です。
天満屋倉敷店前の歩道橋を渡り、倉敷商店街へと足を進める。
きょろきょろと辺りを見回すと、昔ながらの商店や居酒屋が立ち並ぶ。
どことなく昭和の香りが漂う風情だ。
作中:P14より
▼続いては、本作のメイン舞台となる倉敷美観地区。
まほろば堂は、倉敷川沿いにあるという設定です。
美観地区の河川敷沿いを歩く。歴史情緒あふれる町並みだ。晩秋の低い日差しと倉敷川のせせらぎが一際眩しい。
作中:P30より
▼倉敷川畔を歩いていると、光明寺さんがおすすめする観光ポイントである川舟も見られます。
作中にも、主人公の望美が子供のころに家族と一緒に川舟に乗ったエピソードが出てくるので、注目!
▼阿智神社は、望美が倉敷の街を見下ろしながらたたずむシーンで登場します。
▼もしかすると、こんな風景だったのかも?
光明寺祭人さんにインタビュー
今回のインタビューは、倉敷川沿いにある「旧大原家住宅(語らい座大原本邸ブックカフェ)」にて行いました。
この物語は、どういったときに考え付いたのでしょうか。
光明寺
もともと、美観地区の近くにある倉敷の図書館にプライベートでよく来ていました。
その帰りに美観地区をぶらぶら歩いたり、休憩したりすることがあったんです。
そんな時「冥土の土産屋」というワードが頭に思いつき、そこから一気に物語が育っていきました。「まほろば堂」はライト文芸というジャンルに入るんですが、自分で書きたいミステリーやヒューマンドラマ系ものに、ライト文芸で人気のある要素をミックスさせた作品が「まほろば堂」なんです。
光明寺
出身は岡山市で、家の事情で倉敷に越してきました。
違った目で、今では地元になっている倉敷を見ることが、作品にとって良かったんだと思います。
主人公の望美が岡山市在住で、「同じ県だけれど、倉敷や美観地区にあまり来たことがない」という感じが出せたかなと思います。
岡山市から引っ越してきて、自分の感じた新鮮味を読者のかたにも感じてもらえたらいいな、と思います。
一度作品を読んでから再度見ると、より楽しめます。
夜の美観地区を何度か通ったことがありますが、まさに物語の雰囲気とぴったりだと思います。
光明寺
表紙のイラストは、人気イラストレーターのげみさんが、編集者と話し合って描いてくれたものです。
もともとWeb(小説家になろう)に書いていたときには、自分で表紙をつけていたんです。
その時、店長の蒼月真幌(あおつき まほろ)のビジュアルは、倉敷ガラスやデニムをイメージして配色をしました。
今作品の「まほろば堂」は、ビジュアルにこだわって書いた作品なんです。
もともと、まほろば堂は裏通りに店があるというイメージでしたが、読者に風景を思い浮かべてほしかったので倉敷川沿いに場所を変更したんです。
主人公の望美(のぞみ)が観光するシーンも、書籍化の際に編集者の依頼で加筆しているんですよ。
光明寺
観光については書籍化の際に書き加えたんですが、お菓子についての描写は自分がもともと好きなこともあり、Web版のままなんです。
おすすめは「陸乃宝珠」ですね。
ストーリーには良寛てまりも絡んできます。
光明寺
やっぱり美観地区を歩きながら、この景観を見て回り雰囲気を感じてほしいです。
川舟に乗るのもおすすめです。
この作品を読んで、実際に「美観地区に行ってみよう」と思ってもらえたらうれしいですね。
光明寺
小説の手法で、物語の入り口でなにかをくぐる部分を書くことで、切り替えを表現するというものがあります。
物語が「冥土の土産屋」という設定になっているので、商店街をトンネルの入り口にして物語が切り替わるように考えました。
光明寺
シリーズの2までは、Webに上げているんですよ。
展開についても、自分のなかでの構想は決まっています。
イメージはたくさんあって、倉敷の街の歴史とまほろば堂の歴史など、たくさん書いてみたいことがあります。
倉敷をはじめ、岡山県には魅力的なスポットがたくさんあるので、ぜひ作品に登場させてみたいですね。
光明寺
「まほろば堂」のシリーズを書籍化したいです。
自分の根底にある、「ミステリーから生まれるドラマ」を大事にしながら創作をしていきたいですね。
倉敷が好きなので、今後も倉敷を舞台にして執筆をしていきたいなと思っています。
いまは「まほろば堂」のPRをやっているので、落ち着いたらほかの作品も書いていきたいです。
おわりに
地元のかたも、初めて倉敷美観地区を訪れるかたも、「まほろば堂」を読んでから行くとより楽しめることでしょう。
倉敷市民、また岡山県民なら思わずうなずいてしまう、”あるある”も作品に盛り込まれているのでぜひ見つけてみてください。
光明寺さんは筆者が住む福山市出身の作家、島田荘司さんがお好きとのことです。
筆者も島田荘司さんの作品を夢中になって読んだので、福山市が主催する「ばらのまち福山ミステリー文学賞」の話題で盛り上がりました。
ぜひ、美観地区を舞台にした本格ミステリー(本格ミステリー=謎解きやトリックが主体のミステリー)を読みたいし、期待したいですね。
「まほろば堂」を片手に、倉敷美観地区を巡ってみてはいかがでしょうか。