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玉島の町並みの特徴・見どころ

玉島の町並みの魅力や見どころについて、倉敷市 日本遺産推進室・藤原憲芳(ふじわら のりよし)主幹に話を聞きました。
羽黒神社を中心に広がる玉島の町並み

まず、玉島の町並みの特徴を教えてほしい。
藤原(敬称略)
玉島の旧港町で古い建造物が多く見られるのは「新町」「仲買町(なかがいちょう)」「矢出町(やいでちょう)」の3町です。
羽黒神社を中心に放射状に所在しています。
玉島の町並みに残る歴史的な建造物は、虫籠窓(むしこまど)や格子(こうし)、海鼠壁(なまこかべ)などを備えた本瓦葺(ほんがわらぶき)の商家・蔵などが特徴です。

これらの特徴は、財をなした人の家屋に見られるもの。
玉島が商業で繁栄し、豪商を多く生み出したことがわかりますよね。
歴史的建造物は、今も現役の住まいとして使用されていたり、企業として営業されていたりします。
ぜひ町を散策し、「西の浪速」と呼ばれた港町の趣を感じてください。
玉島の総鎮守・羽黒神社

藤原さんの玉島のおすすめスポットは?
藤原
私のおすすめは、羽黒神社です。
羽黒神社がある羽黒山は、玉島市街地のほぼ中心にあります。
羽黒神社は江戸時代前期に干拓を開始するにあたり、備中松山藩主の水谷氏が干拓事業の成功と干拓地の安全を願い、出羽国(現 山形県・秋田県)の羽黒山(山形県鶴岡市)の出羽神社(いでは じんじゃ)の分霊を祀りました。

神社の装飾をよく見ると、細かいものやユニークなものが多くあります。
また玉垣には玉島周辺以外にも、遠方の人の名前が見られるのです。
これから北前船との商取引で栄え、豪商が多く生まれたことがわかります。

さらに羽黒神社が鎮座する羽黒山は島だったことから、阿弥陀島と呼ばれていました。
それ以外にも「玉島」と呼ばれていたという説もあります。
つまり羽黒神社のある地は、玉島の地名発祥地の可能性があるのです。
干拓の守り神で、玉島の地名発祥ともいわれる羽黒神社ですから、散策時にぜひお参りしてみてください。
かつて玉島港町の中枢をなした問屋街・新町周辺

新町周辺について知りたい。
藤原
新町は、羽黒神社の西の麓(ふもと)から西へ一直線に延びる道を中心とした町です。
この道は新町通りと呼ばれています。
羽黒神社の境内の西側から見下ろすと、新町通りと新町の町並みが広がります。

玉島らしい景観ですので、ぜひ眺めてみてください。
新町通りを歩くと、幕末から明治初期に女流歌人として活躍した、安原玉樹(やすはら たまき)の生家である穀物問屋「若屋」だった建物があります。

また幕末から明治初期に活躍した漢学者・川田甕江(かわた おうこう)の生家だった綿問屋「大国屋」も見どころです。

回船問屋だった「西国屋」跡は、屋敷とともに立派な蔵も現存しています。
この蔵は、コンサートなどの文化活動の拠点としても活用されているんです。

ほかに綿問屋「西綿屋」跡、回船問屋跡、米屋跡、米屋の別宅「向三宅邸」などもあります。

説明板や看板、石柱などが設置されているので、目印にしてください。

いずれも江戸〜明治時代の風情を今に残しています。
今も現役の企業・商店が多い仲買町周辺

仲買町はどのような町か。
藤原
新町通りを西の端まで進み、そのまま橋を渡ると仲買町に出ます。
仲買町は、仲買人たちが店を構えたのが始まりといわれる町です。
江戸時代中期には、593軒もの商人が仲買町に移ってきたといわれています。

現在も江戸・明治・大正時代の趣(おもむき)が感じられる建物が残っていると同時に、現在も営業している店・企業も多いのが特徴です。
大正時代に多かった「看板建築」や洋館建築も残っています。
たとえば旧「玉島信用組合」の建物。

昭和前期に建てられた、モダンな雰囲気の洋風建築です。
その北にあるのが「玉島味噌醤油合資会社」。

ここは、明治時代に阿賀崎村の役場だったところです。
少し北に進むと、老舗酒蔵「菊池酒造」。

菊池酒造は「燦然(さんぜん)」の銘柄で知られています。お土産にいかがでしょうか。
なお菊池酒造は、幕末に活躍した国学者・歌人の近藤萬丈(こんどう ばんじょう)の生家です。
ほかにも紙問屋「白神紙商店」、回船問屋「井出屋」跡、俳人・種田山頭火(たねだ さんとうか)来訪地、江戸後期の儒学者・横溝カクリの塾跡、備前藩屋敷跡「越後屋」などの見どころがあります。

また仲買町の南の山上にある「円通寺(えんつうじ)」にも、ぜひお参りしてほしいですね。

円通寺は、名僧・良寛(りょうかん)の修行地として知られています。

また円通寺からは玉島が一望でき、見晴らしが抜群です。

登録有形文化財の西爽亭がある矢出町周辺

矢出町はどのような場所?
藤原
矢出町は、羽黒神社の北側から港橋を渡った対岸の町です。
ここは干拓より前から、港があったともいわれています。
新町ができると、しだいに港町の中心は新町に移っていきました。
矢出町の最大の見どころは「西爽亭(さいそうてい)」です。

ここは江戸時代の豪商で、回船問屋の柚木家の邸宅。
柚木家は備中松山藩主に仕え、藩主が玉島周辺を訪れた際に柚木家に宿泊していました。
藩主が宿泊する場所だったのが、西爽亭だったのです。
そのため細やかな部分までこだわった装飾など、豪華な造りが特徴。立派な庭園も備えています。

また幕末の動乱で、備中松山藩士・熊田恰(くまた あたか)は自害と引き換えに、玉島が戦に巻きこまれるのを防ぎました。
熊田が自害した場所が西爽亭で、切腹の際に飛び散った血液の跡が残っているのです。
なお西爽亭は、登録有形文化財になっています。
ぜひ見学してみてください。
矢出町には、人気の飲食店・商店があるのもポイントです。

夫婦焼(今川焼)の老舗や本場のジェラートが楽しめる店、蔵を利用した店舗が特徴のラーメン店、老舗の文具・駄菓子店などがあります。
散策の合間に寄ってみてはいかがでしょうか。