今年(2023年)の秋は各地で毎週のようにイベントが開催されていますが、建築好きに刺さる講演会の開催予告があり、興味があったので参加してきました。
ふるさと倉敷を愛し、倉敷のまちに愛された建築家 浦辺鎮太郎(うらべ しずたろう)が、どのようにして倉敷のまちづくりにかかわるようになったのか。
講演会でも紹介されていた、代表的な建築の紹介を交えながらレポートします。
記載されている内容は、2023年11月記事掲載時の情報です。現在の情報とは異なる場合がございますので、ご了承ください。
目次
建築家・浦辺鎮太郎のまなざし~市立美術館・図書館・自然史博物館の同時開館までの30年~
「建築家・浦辺鎮太郎のまなざし~市立美術館・図書館・自然史博物館の同時開館までの30年~」は、令和5年度 倉敷市立美術館教養講座 開館40周年記念講演として、2023年11月3日に開催されました。
講師は、株式会社浦辺設計 代表取締役 西村清是(にしむら きよし)さんです。
講演会に足を運びました
講演会場の倉敷市立美術館は、昭和の大建築家である丹下健三(たんげ けんぞう)により倉敷市庁舎として建てられた建物を、浦辺鎮太郎の手により美術館に改修されて今年(2023年)で40周年を迎えました。
本講演会は40周年の記念行事の一環として開催されています。
会場は3階の講堂です。建物の中を見ながら行ってみましょう。
講演の概要
いよいよ講演が始まります。
まず、講師の西村氏による浦辺鎮太郎の紹介から始まりました。
倉敷レイヨン(現:クラレ)営繕部に在籍していた当時、工場建屋や社宅などの建築を多く手がけており、半世紀以上経った今でも現存している建築が多数あります。
その一つが酒津公園の北側にある「クラレくらしき研究センター」。
何の施設かは知らなくとも、見たことあるかもしれません。
講演のサブタイトルにある「市立美術館・図書館・自然史博物館の同時開館までの30年」とは、こちらの「1953年ノート」に端を発する、1983年までの30年間についての紹介です。
このノートは当時、倉敷レイヨン(現:クラレ)社長であった大原總一郎(おおはら そういちろう)の倉敷のまちづくりへの思いを、浦辺鎮太郎が書きつづったもので、そのなかには実現し現存している建築も多々あります。
大原美術館を作った大原孫三郎(おおはら まごさぶろう)がパトロンとして児島虎次郎(こじま とらじろう)を支えたように、大原總一郎もまちづくりのパトロンとして浦辺鎮太郎を支えていましたが、志半ばに病に倒れて亡くなりました。
それから時を経て、大原總一郎が描いたまちづくりの思想をどのように具現化していったかが、本講演のおもだった内容となります。
倉敷市立中央図書館
本講演のメインテーマである、倉敷市立美術館の開館と同時にオープンした図書館です。
隣接する自然史博物館と、倉敷市立美術館の間をつなぐように建てられており、自然史博物館とは正面の意匠を統一するなどして一体感を持たせてあります。
1階から2階への階段部にある照明は、倉敷国際ホテルにて使用されているものと同じで、浦辺建築の特徴がよく現れています。
絵本や児童書が充実しているこども図書室では、開館40周年を祝ってのお誕生日会が催されていました。
こども図書室は、倉敷市立美術館の1階西側にめり込むような形で入っています。
筆者も子どもの頃にはこちらをよく利用しており、この空間にて建築に興味を持ったのかなと今になって思います。
大原美術館 分館
浦辺鎮太郎の代表作の一つです(大原美術館 分館は現在長期休館中)。
講師の西村氏も、こちらの石垣を思わせる外観と倉敷国際ホテルの組み合わせがお気に入りだと話していました。
以前NHK総合のテレビ番組『ブラタモリ』で紹介されたときにも、ここは「美観地区(元倉敷)と新しいまちとの結界である」という話が出ていました。確かに言われてみれば、そのような印象を持ちます。
このデザインに決定するまで、何度も検討を重ねたうえで壁と一体化したこちらのデザインを採用されたとのことです。
波打つ屋根のデザインはとても半世紀以上前のものとは思えないくらいに現代的。
また、周囲の景観とも上手く馴染んでいます。
再び、大原美術館 分館で作品を鑑賞できる日を待ち望んでいます。
倉敷国際ホテル
「倉敷の街にふさわしいホテルを作ろう」大原總一郎の想いに、浦辺鎮太郎が建築家として応えた建築物です。
1953年ノートにも「Pub at HASHIMA」としてホテル建設の構想が書かれており、それを具現化したのがこちらのホテルです。
ロビーに掲げられた、棟方志功(むなかた しこう)『大世界の柵・坤(こん)~人類より神々へ~』は木版画としては世界最大級のもので、開業から現在まで訪れる人々を迎え続けています
木製模型も展示されていました。
こちらは2019年に開催された展覧会にて展示されていたものです
裏手には新渓園と直接つながっている庭があります。
私事ですが、筆者はこちらで披露宴をおこないましたので、とくに思い入れのある建築です。
おわりに
築40年を経て、老朽化も目立ってきていることもあり中央図書館は倉敷市役所 本庁舎の東側へ、自然史博物館はライフパーク倉敷内に近い将来移転することになっています。
その後、現在の中央図書館と自然史博物館の跡地活用はどうなるか、まだ何も決まってはいません。
先人たちの思想が息づく「独自の色を持ったまち 倉敷」の伝統を守り、良き方向に使われていくことを願います。
また浦辺建築について詳しく知りたいかたに向けて、講演会で参考文献として多数抜粋されていた2冊の本を紹介します(いずれも中央図書館に蔵書されています)。
丹下健三と同時代の瀬戸内建築として、浦辺鎮太郎が手がけた倉敷国際ホテル、大原美術館分館が紹介されています。もちろん倉敷市立美術館(旧倉敷市庁舎)についての紹介もあります。
県外(愛媛県西条市)にはなりますが、上記の書籍にも紹介されている「愛媛民芸館」。
倉敷国際ホテルと同時期の浦辺建築で、共通点も多く見受けられます。
西条市に進出したクラレの、地域貢献活動の一環だったのかもしれません。
情報提供者:787B
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建築家・浦辺鎮太郎のまなざし~市立美術館・図書館・自然史博物館の同時開館までの30年~のデータ
名前 | 建築家・浦辺鎮太郎のまなざし~市立美術館・図書館・自然史博物館の同時開館までの30年~ |
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期日 | 2023年11月3日 午後2時〜3時30分 |
場所 | 倉敷市立美術館 3階 講堂 |
参加費用(税込) | 無料 |
2019年に倉敷アイビースクエアにて開催された回顧展の図録。
講師の西村氏による今回の講演会で触れられていた「1953年ノート」についての詳細な説明などについても書かれています。